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第292章『狙い』
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第292章『狙い』
事前に指定された動線を辿り命令の通りに指揮所へと転進してから暫くしてから前方で起きた爆発、やはり小型の対物砲で狙って来たか、そんな事を思いつつ、陸軍で構成された分隊は瞬時に散開し物陰へと身を潜める。敵も複数を相手にするからか単独ではないらしい、砲撃とは別の方向から小銃による銃撃が始まり、それに応えてこちらからも撃ち返す。自分達から相手が見えないと同時に相手からも自分達の姿は目視では確認出来ないのか、近い所に弾着はするものの被弾はせず、かと言ってこちらからの弾も当たらず、膠着状態か、そう思った時だった。
少し離れた位置の家屋、その屋根に人影が、そう思ってそちらを見てみれば、それは肩に対物砲を担いだ、目出し帽を被った一人の男。身に付けているのは海兵隊の戦闘服、誰だ、そう思って面々が見守る中、男は一切の淀みの無い動きで携行砲を構え、
「走れ!行け!先に進め!!」
と、そう声を張り上げた。それと同時に男の背後に火と煙が現れ砲口が牙を剥き、分隊はそれを受けて物陰から飛び出し動線を指揮所へと向かって全力で走り始める。後を引き受けたあの男は大丈夫なのか、そう思って振り返ってみれば、遥か後方から土煙が上がる。あそこに敵が潜んでいたのか、そう思って屋根の上へと視線を遣れば今度はそこが弾け飛び、寸前でそこから地面へと身を躍らせた男の姿が視界の端にちらりと映った。
始まった、遂に直接の戦闘が始まった、自分達は今、敵との戦いの最前線にいる、敵意と殺意を真っ直ぐに、直接ぶつけられている。もう後戻りは出来ない、退く事を選択すれば、それは部隊の、軍の、延いては大和の敗北を意味する事になる。一人残ったのがワシントン勢の誰なのかは分からないが、その彼の身を案じて立ち止まる事もせず、只管に命令を遂行すべく前進するのが自分達が今為すべき事。
どうか無事で、そう思いながら更に加速する分隊、その彼等が走り去って行った後、地面へと飛び降りた男――、ウォーレンは地に伏した身体をゆっくりと起こし、自分が砲弾を放った方向から上がる土煙へと視線を遣った。
仕留め切れたか、この距離では分からない。これだけ離れていれば相手が身を隠す余裕も有るから恐らくは否だろう。それでも分隊を先に行かせるだけの時間は稼ぐ事が出来た、そもそもがタカコから与えられた命令の内最優先は教導隊の全分隊を指揮所へと到達させる事であり、敵の排除、無力化ではない。至近距離で遭遇する事が有ればその時には躊躇無く無力化に動く事も出来るが、距離が有る今はそれに固執せず与えられた役目を粛々とこなすのみ。
今回はタカコが大人しく指揮所で指揮官然として振る舞っていてくれるから、その分まだ気が楽だ。周囲が制止する間も無くタカコが突っ込んで行き、自分達が大慌てでその後を追うというのが定石で、副官でもあった今は亡き彼女の夫、その彼にタカコと自分達が揃って叱責された日々は懐かしい気がしないでもないが、出来ればもう体験したくないし思い出したくもない。
敵を無力化する事が最優先事項であったのならば、タカコも今の自分と同じ様に演習場へと入り動いていた事だろう。けれど今回はそうではない、精鋭が単独で動き回り敵を各個無力化していくという手法では、手間が掛かる上に投入する兵士の水準も高いものが要求される。それでは大和軍全体の糧にはならない、或る程度の規模の部隊が集団として機能する、その参考に出来る様な展開と配置を、彼女はそう言っていた。実戦だからこそより血肉の通った情報が得られる事は確かなのだが、やらなければならない事注意を払わなければならない事は演習と比べれば段違いに増える、それはタカコも分かっているだろう。それなのにこんな時に迄協力を続けるとは、我が主は存外に律儀な事だ、ワシントン語でそう呟いて空を仰ぐ。
方々で聞こえ始めた銃声、そして砲撃の音、散開して警戒に当たっている他の面々も夫々が戦闘に突入し始めているのだろう。自分の仕事もまだまだ終わりではない、そう考えつつウォーレンもまた次へと向けて動き始める。
『……いや……あのマスターが大人しく下がっているわけが無いな……』
彼の歩みが止まったのは歩き出してから直ぐの事、そして、自らの上官が何故今回に限ってこんなにも大人しく後方へと下がっているのか思い至り、がっくりと肩を落としつつ深い溜息を吐く。
そうだ、本来であれば戦場に於いて最も安全な場所である筈の指揮所、今回はそこに大和軍を餌にして敵を引き付け、纏めて一気に叩くというのがタカコの描いた絵図面なのだと思い出す。演習場内が激戦区なのではない、教導隊全分隊、そして総責任者の黒川や高根やその腹心達が集結する指揮所、彼等を殺す為に敵は自然と跡地に集まって来る、そうなればあそこが本当の最前線であり激戦区になる筈だ。
『……大人しかったのは、そこが一番賑やかで楽しくなると知ってたからか……騒ぎが自分からやって来るなら、そりゃ動く必要も無いわけだ……まったく……あの方は』
いつも騒いでいる人間が物静かなら、そこには絶対に何等かの事情、狙いが有る筈で、言動を改めてくれたのか、一瞬でもそんな事を考えてしまった自分が嫌になる。
『やはりあの物体は信用したら駄目だな……狙いが分かったんだ、さっさと全分隊を指揮所に入らせるか……我々が付いてないと何をするか分からん、これ以上少佐に叱責されるのは勘弁だ』
やはり多少年月が流れたところで環境が変わったところで、その程度の事で変わる様な可愛らしく扱い易い人間ではないのだろう、大和の面々に迷惑を掛ける前に自分達の誰かが戻らなければ。ウォーレンはそう吐き捨て、携行砲の砲身を担ぎ直し、次へと向けて廃墟の街並みへと消えて行った。
事前に指定された動線を辿り命令の通りに指揮所へと転進してから暫くしてから前方で起きた爆発、やはり小型の対物砲で狙って来たか、そんな事を思いつつ、陸軍で構成された分隊は瞬時に散開し物陰へと身を潜める。敵も複数を相手にするからか単独ではないらしい、砲撃とは別の方向から小銃による銃撃が始まり、それに応えてこちらからも撃ち返す。自分達から相手が見えないと同時に相手からも自分達の姿は目視では確認出来ないのか、近い所に弾着はするものの被弾はせず、かと言ってこちらからの弾も当たらず、膠着状態か、そう思った時だった。
少し離れた位置の家屋、その屋根に人影が、そう思ってそちらを見てみれば、それは肩に対物砲を担いだ、目出し帽を被った一人の男。身に付けているのは海兵隊の戦闘服、誰だ、そう思って面々が見守る中、男は一切の淀みの無い動きで携行砲を構え、
「走れ!行け!先に進め!!」
と、そう声を張り上げた。それと同時に男の背後に火と煙が現れ砲口が牙を剥き、分隊はそれを受けて物陰から飛び出し動線を指揮所へと向かって全力で走り始める。後を引き受けたあの男は大丈夫なのか、そう思って振り返ってみれば、遥か後方から土煙が上がる。あそこに敵が潜んでいたのか、そう思って屋根の上へと視線を遣れば今度はそこが弾け飛び、寸前でそこから地面へと身を躍らせた男の姿が視界の端にちらりと映った。
始まった、遂に直接の戦闘が始まった、自分達は今、敵との戦いの最前線にいる、敵意と殺意を真っ直ぐに、直接ぶつけられている。もう後戻りは出来ない、退く事を選択すれば、それは部隊の、軍の、延いては大和の敗北を意味する事になる。一人残ったのがワシントン勢の誰なのかは分からないが、その彼の身を案じて立ち止まる事もせず、只管に命令を遂行すべく前進するのが自分達が今為すべき事。
どうか無事で、そう思いながら更に加速する分隊、その彼等が走り去って行った後、地面へと飛び降りた男――、ウォーレンは地に伏した身体をゆっくりと起こし、自分が砲弾を放った方向から上がる土煙へと視線を遣った。
仕留め切れたか、この距離では分からない。これだけ離れていれば相手が身を隠す余裕も有るから恐らくは否だろう。それでも分隊を先に行かせるだけの時間は稼ぐ事が出来た、そもそもがタカコから与えられた命令の内最優先は教導隊の全分隊を指揮所へと到達させる事であり、敵の排除、無力化ではない。至近距離で遭遇する事が有ればその時には躊躇無く無力化に動く事も出来るが、距離が有る今はそれに固執せず与えられた役目を粛々とこなすのみ。
今回はタカコが大人しく指揮所で指揮官然として振る舞っていてくれるから、その分まだ気が楽だ。周囲が制止する間も無くタカコが突っ込んで行き、自分達が大慌てでその後を追うというのが定石で、副官でもあった今は亡き彼女の夫、その彼にタカコと自分達が揃って叱責された日々は懐かしい気がしないでもないが、出来ればもう体験したくないし思い出したくもない。
敵を無力化する事が最優先事項であったのならば、タカコも今の自分と同じ様に演習場へと入り動いていた事だろう。けれど今回はそうではない、精鋭が単独で動き回り敵を各個無力化していくという手法では、手間が掛かる上に投入する兵士の水準も高いものが要求される。それでは大和軍全体の糧にはならない、或る程度の規模の部隊が集団として機能する、その参考に出来る様な展開と配置を、彼女はそう言っていた。実戦だからこそより血肉の通った情報が得られる事は確かなのだが、やらなければならない事注意を払わなければならない事は演習と比べれば段違いに増える、それはタカコも分かっているだろう。それなのにこんな時に迄協力を続けるとは、我が主は存外に律儀な事だ、ワシントン語でそう呟いて空を仰ぐ。
方々で聞こえ始めた銃声、そして砲撃の音、散開して警戒に当たっている他の面々も夫々が戦闘に突入し始めているのだろう。自分の仕事もまだまだ終わりではない、そう考えつつウォーレンもまた次へと向けて動き始める。
『……いや……あのマスターが大人しく下がっているわけが無いな……』
彼の歩みが止まったのは歩き出してから直ぐの事、そして、自らの上官が何故今回に限ってこんなにも大人しく後方へと下がっているのか思い至り、がっくりと肩を落としつつ深い溜息を吐く。
そうだ、本来であれば戦場に於いて最も安全な場所である筈の指揮所、今回はそこに大和軍を餌にして敵を引き付け、纏めて一気に叩くというのがタカコの描いた絵図面なのだと思い出す。演習場内が激戦区なのではない、教導隊全分隊、そして総責任者の黒川や高根やその腹心達が集結する指揮所、彼等を殺す為に敵は自然と跡地に集まって来る、そうなればあそこが本当の最前線であり激戦区になる筈だ。
『……大人しかったのは、そこが一番賑やかで楽しくなると知ってたからか……騒ぎが自分からやって来るなら、そりゃ動く必要も無いわけだ……まったく……あの方は』
いつも騒いでいる人間が物静かなら、そこには絶対に何等かの事情、狙いが有る筈で、言動を改めてくれたのか、一瞬でもそんな事を考えてしまった自分が嫌になる。
『やはりあの物体は信用したら駄目だな……狙いが分かったんだ、さっさと全分隊を指揮所に入らせるか……我々が付いてないと何をするか分からん、これ以上少佐に叱責されるのは勘弁だ』
やはり多少年月が流れたところで環境が変わったところで、その程度の事で変わる様な可愛らしく扱い易い人間ではないのだろう、大和の面々に迷惑を掛ける前に自分達の誰かが戻らなければ。ウォーレンはそう吐き捨て、携行砲の砲身を担ぎ直し、次へと向けて廃墟の街並みへと消えて行った。
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