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『龍興君の受難』
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『龍興君の受難』
黒川龍興、年齢、四十五歳、職業は大和陸軍西部方面旅団総監、階級は少将――、結婚歴有り、現在は妻と死別し、独身。
至極有能な軍人であり、将来的には統合幕僚幹部に名前を連ねる事は確実であり、統合幕僚長も夢ではないと目されている――、そんな黒川の私生活には現在非公式ながらも一人の女性の影が有り、極近しい人間であれば、彼がその彼女を名実共に我が物にしようとあれこれと策を巡らし奮闘している事を知っている。
しかし、現時点でそれが結実する気配は無く、その代わりに黒川の長年の親友であり幼馴染、高根が結婚し披露宴が催された、そんな頃合いの話。
「いやぁ……あの屑が遂に結婚か……感慨深いねぇ……小此木さんもこれで少しは楽になるなぁ?」
「だと良いんですけどねぇ……」
「しかし、外にはなかなか言える事じゃないですけど、色々有ってどこもかしこも重苦しい空気だからこそこういうのは嬉しいねぇ、本当にめでたい」
「沿警隊の方もやっぱり色々有りますか」
「そりゃ、地上の皆さんに比べたら外部から言われる事は少ないけど、身内を亡くしてる人間もいるしね」
「しかし……あの高根さんが結婚する上に奥さんは妊娠中とか……順序は激しく間違ってますけど、まぁ、この際どうでも良いですよねそこは」
「おめでたが二倍って事で良いんじゃないですか」
早春の快晴、大安吉日。これ以上は無いという程の結婚式日和、博多の料亭の中庭には、海兵隊、陸軍、沿岸警備隊の制服を纏った人間が集結し思い思いに歓談している。その中にはタカコや敦賀や小此木や横山、沿岸警備隊の浅田、そして、黒川の姿が在った。
今日は高根の入籍とその後の披露宴、朝から役所へと赴き入籍の手続きを終えた『高根夫妻』は現在お披露目衣装へと着替え中。招待客達はその間中庭へと出て、用意された茶菓子を摘まみつつ桜湯を飲み、座敷へと呼ばれるのを待っている。高官達が集まって笑いながら話す横で、タカコは敦賀にくっついて
「で?こういう時はどうすれば良いの?」
「それは――」
と、初めて出席する大和の結婚披露宴の作法の勉強中、誰に恥を掻かせる様な事も無い様にと熱心だ。そうかと思えば少し離れた場所では、凛の兄島津とその妻の敦子が高根の両親と兄と兄嫁と向き合い、米搗きバッタの様に互いに頭を下げ合っており、ここ最近の世相の重苦しさとは無縁の、少々騒がしくも暖かで明るい空気に満ち溢れていた。
「よう、タッちゃん、元気か」
「ようケンちゃん、久し振り。俺はまぁ、ぼちぼちよ」
島津夫妻とのお辞儀合戦から抜け出して来たのは高根の兄健一郎、一つ年上の彼とは自分が生まれてから故郷糸島を離れる迄は実家が隣同士という事も有り兄弟の様に育った仲で、今でも数年に一度の割合で慶弔事で帰郷する時には顔を合わせ、誘い合って酒を酌み交わす程度の付き合いが続いている。
「今日はおめでとうさん」
「ああ、親父もお袋も喜んでてなぁ。俺と嫁はあの愚弟がまさか結婚とは思わなくてな、最初に話聞いた時には何の冗談かと思ったよ。それがあんな若くて可愛い嫁さんだろ、人生何がどうなるか分からんな」
「まったくだな」
糸島にいた時分から奔放で聞かん坊だった高根、女性に対しての扱いも情の無いもので、彼を知る人間は揃って『こいつは一生結婚は無いな』と思っていた。それは肉親であろうと幼馴染であろうと同じ事で、弟であり幼馴染に突然に、そして遅まきながら訪れた春について一頻り話し笑い合う。
「そういやよ、真吾が帰って来た時にさ、お袋が大喜びで嫁さんを近所に連れまわして紹介してたんだけど、隣のお寺さんも連れて行ったわけよ、当然」
隣のお寺さん――、それはつまり黒川の生家であり、父は既に鬼籍に入っているが、母と現在の住職である弟夫妻が住んでいる。そこに息子の幼馴染の結婚相手が紹介されたとなれば――と、黒川が嫌な予感をその面持ちに浮かべると、高根の兄は肩を竦め気の毒そうな面持ちをしながら、黒川の肩をぽん、と叩いた。
「覚悟しといた方が良いぞ、おばさん、えっらい羨ましがってたみたいだからな」
久し振りの、そして親友の慶事という事も有り少々飲み過ぎた、足元が若干ふわふわとしているのを感じつつ、黒川が自宅の前で送りの車を降りる。郵便受けに入っていた物を手に取り家の中へと入り、机の上に置いたままになっていたコップを手に取り水を注ぎ、それを一気に飲み干した。
腐れ縁の悪友であり幼馴染、それと同時に大切な親友でもある高根、その結婚については心から喜んでいるし祝福もしている。
そして、それと同時に改めて考えたのは、タカコとの将来について。
千日目がやって来れば彼女はこの大和を離れ国へと、ワシントンへと帰るのだと、そう言い続けているしそれに嘘は無いのだろう。彼女の立場と役目を考えれば、それが当然だ。目の前の事態への対処、そし海兵隊との柵も有りここ暫くは攻めの勢いを緩めてはいたが、彼女との将来を真剣に考えているのであればそろそろ本腰を入れるべきなのかも知れない。さて、それならそれでどうしたものか――、そんな事を考えつつ郵便受けから取り出して来た郵便物を手に取れば、その一番上に有った封書の差出人を見た瞬間、黒川の酔いは一気に覚め、そして、機嫌は急降下する事になった。
「お早う御座います、昨日の高根総司令の披露宴は如何でし……総監、どうかなさいましたか?」
翌朝の陸軍太宰府駐屯地、その一角に有る西方旅団総監部棟の総監執務室。部屋の主が出勤して来た事を察知した秘書官、アリサ・マクギャレットが朝の茶を淹れて執務室へと入った時、当の黒川は不機嫌さを全身から垂れ流しにして乱暴に椅子へと身体を沈め込んだところだった。
普段の黒川は柔和な笑みを絶やさず物腰も柔らかで、近しい者であればそれが対外的な策の一つだと知ってはいるものの、『穏やかな男性』という対外的な評価は不動のものだ。それがこんなにも内心の不機嫌さを露にしているとは珍しい事も有るものだと思いつつマクギャレットが執務机に茶を置けば、
「ああ……すまないね、みっともないところを見せて。お袋がちょっとね」
と、苦笑いを浮かべてそう言い茶を啜った。
「お母様、ですか」
「ああ……悪い、思い出させないでくれ」
「そうですか……失礼しました。控室におりますので、何か有れば呼んで下さい」
「有り難う」
そんな短い遣り取りを終えて一礼し執務室を出て行くマクギャレット、その背中を見つつ、昨日目を通した手紙の内容を思い出し、その事で更に機嫌は悪化し、大きく舌打ちをした。
健一郎が言っていた『覚悟』、嫌な予感はしていたがまさにその日に目にする事になるとは、と不愉快さは更に大きくなる。これ以上考えていても精神的健康を害するだけだと黒川が意識を切り替えようとした時、机上の電話がけたたましく鳴り始めた。
「はい、黒川です」
『総監、外線が入っていますのでお繋ぎします』
「ああ、誰からだい?」
電話の相手はマクギャレット、通常、黒川宛の通話は先ずは駐屯地全体の交換台へと入り、それがマクギャレットの執務室でもある秘書官控室へと転送される。そこで彼女が受け更に黒川へと転送する順序となっており、直通で掛けて来る相手は殆どいない。今回もその手順通りに転送さて来た通話、その相手が誰なのかと尋ねれば、彼女にしては珍しく躊躇した後、明確な、それでいて理解不能な言葉を吐き出した。
『お母様です』
「……はい?」
『お母様です、お繋ぎします』
プツッという接続が切り替わる音、それに続いて聞こえて来たのは、まさに今自分を不愉快にさせている張本人の声。
『龍興?あんた、手紙読んだの?』
「おふく……いきなり何なんだよ!」
『何なんだよって何なの親にそんな口のきき方して!昨日お隣の真吾ちゃんの結婚式だったでしょ、あんたも出たんでしょ?真吾ちゃんがお隣に挨拶に帰って来た時に君江さんがお嫁さん連れて来て紹介してくれたけど、まぁあんな可愛い子と真吾ちゃんが結婚なんてねぇ!あの真吾ちゃんですらお嫁さん捕まえて結婚したのに、あんたは何やってんの!再婚もしないでフラフラフラフラ、羨ましいやら恥ずかしいやら!あんたねぇ、弟が寺を継いだからって、長男なんだからしっかりしなさいよ!早く再婚して孫の顔を――』
「うるせぇ!!そんなしょうもねぇ用件で職場に掛けて来るな!!」
ガチャン!!
怒鳴り付けて受話器を叩き付ければ、怒鳴り声は当然隣へも聞こえていたのだろう、小さく扉が叩かれ、
「失礼します……お繋ぎしない方が良かったですか」
と、マクギャレットが姿を現しいつもの抑揚の無い声音で問い掛けて来る。
「あー……いや、君は別に悪くないから……みっともないところ見せて悪かったね」
「いえ……それは構いませんが……お母様に『息子の恋人なのか』と聞かれました」
「……ごめん……本当にごめん……」
現在は庫裡の役目も離れ、弟夫婦の子供を可愛がっている母、しかしそちらも上はもう高校生で、年寄りべったりの年代でもなくなっているから、暇を持て余す事も多いのだろう。そこに息子の幼馴染が遅まきながら結婚したと聞き、未だに再婚の気配の無い長男坊にあれこれと口出しをしたくなったに違い無い。
手紙ならまだ良い、自宅への電話も何とか我慢しよう。しかし、職場への電話だけは止めてくれと机上へと突っ伏せば、
「……お察しします」
と、マクギャレットから労わりの言葉を掛けられた。
「……なぁ、今日一緒に飯行かないか、奢るから」
「それは構いませんが……大変ですね、色々と」
「うん……愚痴聞いて」
早い時間に家に帰れば母の電話が掛かって来る可能性が有る、今日は出来るだけ遅くに帰ろうとマクギャレットを食事に誘い、了承を得られ事で何とか気を取り直しつつ、黒川は仕事へと取り掛かる事にした。
「龍興よぉ……おばさんから電話来て、お前がいつ迄経っても再婚しねぇって愚痴聞かされたんだけど……新婚家庭にあんな電話させんなよ……お前がちゃんと管理してくれや」
と、高根から文句の電話を受けたのは翌日の事。
黒川龍興、年齢、四十五歳、職業は大和陸軍西部方面旅団総監、階級は少将――、結婚歴有り、現在は妻と死別し、独身。
至極有能な軍人であり、将来的には統合幕僚幹部に名前を連ねる事は確実であり、統合幕僚長も夢ではないと目されている――、そんな黒川の私生活には現在非公式ながらも一人の女性の影が有り、極近しい人間であれば、彼がその彼女を名実共に我が物にしようとあれこれと策を巡らし奮闘している事を知っている。
しかし、現時点でそれが結実する気配は無く、その代わりに黒川の長年の親友であり幼馴染、高根が結婚し披露宴が催された、そんな頃合いの話。
「いやぁ……あの屑が遂に結婚か……感慨深いねぇ……小此木さんもこれで少しは楽になるなぁ?」
「だと良いんですけどねぇ……」
「しかし、外にはなかなか言える事じゃないですけど、色々有ってどこもかしこも重苦しい空気だからこそこういうのは嬉しいねぇ、本当にめでたい」
「沿警隊の方もやっぱり色々有りますか」
「そりゃ、地上の皆さんに比べたら外部から言われる事は少ないけど、身内を亡くしてる人間もいるしね」
「しかし……あの高根さんが結婚する上に奥さんは妊娠中とか……順序は激しく間違ってますけど、まぁ、この際どうでも良いですよねそこは」
「おめでたが二倍って事で良いんじゃないですか」
早春の快晴、大安吉日。これ以上は無いという程の結婚式日和、博多の料亭の中庭には、海兵隊、陸軍、沿岸警備隊の制服を纏った人間が集結し思い思いに歓談している。その中にはタカコや敦賀や小此木や横山、沿岸警備隊の浅田、そして、黒川の姿が在った。
今日は高根の入籍とその後の披露宴、朝から役所へと赴き入籍の手続きを終えた『高根夫妻』は現在お披露目衣装へと着替え中。招待客達はその間中庭へと出て、用意された茶菓子を摘まみつつ桜湯を飲み、座敷へと呼ばれるのを待っている。高官達が集まって笑いながら話す横で、タカコは敦賀にくっついて
「で?こういう時はどうすれば良いの?」
「それは――」
と、初めて出席する大和の結婚披露宴の作法の勉強中、誰に恥を掻かせる様な事も無い様にと熱心だ。そうかと思えば少し離れた場所では、凛の兄島津とその妻の敦子が高根の両親と兄と兄嫁と向き合い、米搗きバッタの様に互いに頭を下げ合っており、ここ最近の世相の重苦しさとは無縁の、少々騒がしくも暖かで明るい空気に満ち溢れていた。
「よう、タッちゃん、元気か」
「ようケンちゃん、久し振り。俺はまぁ、ぼちぼちよ」
島津夫妻とのお辞儀合戦から抜け出して来たのは高根の兄健一郎、一つ年上の彼とは自分が生まれてから故郷糸島を離れる迄は実家が隣同士という事も有り兄弟の様に育った仲で、今でも数年に一度の割合で慶弔事で帰郷する時には顔を合わせ、誘い合って酒を酌み交わす程度の付き合いが続いている。
「今日はおめでとうさん」
「ああ、親父もお袋も喜んでてなぁ。俺と嫁はあの愚弟がまさか結婚とは思わなくてな、最初に話聞いた時には何の冗談かと思ったよ。それがあんな若くて可愛い嫁さんだろ、人生何がどうなるか分からんな」
「まったくだな」
糸島にいた時分から奔放で聞かん坊だった高根、女性に対しての扱いも情の無いもので、彼を知る人間は揃って『こいつは一生結婚は無いな』と思っていた。それは肉親であろうと幼馴染であろうと同じ事で、弟であり幼馴染に突然に、そして遅まきながら訪れた春について一頻り話し笑い合う。
「そういやよ、真吾が帰って来た時にさ、お袋が大喜びで嫁さんを近所に連れまわして紹介してたんだけど、隣のお寺さんも連れて行ったわけよ、当然」
隣のお寺さん――、それはつまり黒川の生家であり、父は既に鬼籍に入っているが、母と現在の住職である弟夫妻が住んでいる。そこに息子の幼馴染の結婚相手が紹介されたとなれば――と、黒川が嫌な予感をその面持ちに浮かべると、高根の兄は肩を竦め気の毒そうな面持ちをしながら、黒川の肩をぽん、と叩いた。
「覚悟しといた方が良いぞ、おばさん、えっらい羨ましがってたみたいだからな」
久し振りの、そして親友の慶事という事も有り少々飲み過ぎた、足元が若干ふわふわとしているのを感じつつ、黒川が自宅の前で送りの車を降りる。郵便受けに入っていた物を手に取り家の中へと入り、机の上に置いたままになっていたコップを手に取り水を注ぎ、それを一気に飲み干した。
腐れ縁の悪友であり幼馴染、それと同時に大切な親友でもある高根、その結婚については心から喜んでいるし祝福もしている。
そして、それと同時に改めて考えたのは、タカコとの将来について。
千日目がやって来れば彼女はこの大和を離れ国へと、ワシントンへと帰るのだと、そう言い続けているしそれに嘘は無いのだろう。彼女の立場と役目を考えれば、それが当然だ。目の前の事態への対処、そし海兵隊との柵も有りここ暫くは攻めの勢いを緩めてはいたが、彼女との将来を真剣に考えているのであればそろそろ本腰を入れるべきなのかも知れない。さて、それならそれでどうしたものか――、そんな事を考えつつ郵便受けから取り出して来た郵便物を手に取れば、その一番上に有った封書の差出人を見た瞬間、黒川の酔いは一気に覚め、そして、機嫌は急降下する事になった。
「お早う御座います、昨日の高根総司令の披露宴は如何でし……総監、どうかなさいましたか?」
翌朝の陸軍太宰府駐屯地、その一角に有る西方旅団総監部棟の総監執務室。部屋の主が出勤して来た事を察知した秘書官、アリサ・マクギャレットが朝の茶を淹れて執務室へと入った時、当の黒川は不機嫌さを全身から垂れ流しにして乱暴に椅子へと身体を沈め込んだところだった。
普段の黒川は柔和な笑みを絶やさず物腰も柔らかで、近しい者であればそれが対外的な策の一つだと知ってはいるものの、『穏やかな男性』という対外的な評価は不動のものだ。それがこんなにも内心の不機嫌さを露にしているとは珍しい事も有るものだと思いつつマクギャレットが執務机に茶を置けば、
「ああ……すまないね、みっともないところを見せて。お袋がちょっとね」
と、苦笑いを浮かべてそう言い茶を啜った。
「お母様、ですか」
「ああ……悪い、思い出させないでくれ」
「そうですか……失礼しました。控室におりますので、何か有れば呼んで下さい」
「有り難う」
そんな短い遣り取りを終えて一礼し執務室を出て行くマクギャレット、その背中を見つつ、昨日目を通した手紙の内容を思い出し、その事で更に機嫌は悪化し、大きく舌打ちをした。
健一郎が言っていた『覚悟』、嫌な予感はしていたがまさにその日に目にする事になるとは、と不愉快さは更に大きくなる。これ以上考えていても精神的健康を害するだけだと黒川が意識を切り替えようとした時、机上の電話がけたたましく鳴り始めた。
「はい、黒川です」
『総監、外線が入っていますのでお繋ぎします』
「ああ、誰からだい?」
電話の相手はマクギャレット、通常、黒川宛の通話は先ずは駐屯地全体の交換台へと入り、それがマクギャレットの執務室でもある秘書官控室へと転送される。そこで彼女が受け更に黒川へと転送する順序となっており、直通で掛けて来る相手は殆どいない。今回もその手順通りに転送さて来た通話、その相手が誰なのかと尋ねれば、彼女にしては珍しく躊躇した後、明確な、それでいて理解不能な言葉を吐き出した。
『お母様です』
「……はい?」
『お母様です、お繋ぎします』
プツッという接続が切り替わる音、それに続いて聞こえて来たのは、まさに今自分を不愉快にさせている張本人の声。
『龍興?あんた、手紙読んだの?』
「おふく……いきなり何なんだよ!」
『何なんだよって何なの親にそんな口のきき方して!昨日お隣の真吾ちゃんの結婚式だったでしょ、あんたも出たんでしょ?真吾ちゃんがお隣に挨拶に帰って来た時に君江さんがお嫁さん連れて来て紹介してくれたけど、まぁあんな可愛い子と真吾ちゃんが結婚なんてねぇ!あの真吾ちゃんですらお嫁さん捕まえて結婚したのに、あんたは何やってんの!再婚もしないでフラフラフラフラ、羨ましいやら恥ずかしいやら!あんたねぇ、弟が寺を継いだからって、長男なんだからしっかりしなさいよ!早く再婚して孫の顔を――』
「うるせぇ!!そんなしょうもねぇ用件で職場に掛けて来るな!!」
ガチャン!!
怒鳴り付けて受話器を叩き付ければ、怒鳴り声は当然隣へも聞こえていたのだろう、小さく扉が叩かれ、
「失礼します……お繋ぎしない方が良かったですか」
と、マクギャレットが姿を現しいつもの抑揚の無い声音で問い掛けて来る。
「あー……いや、君は別に悪くないから……みっともないところ見せて悪かったね」
「いえ……それは構いませんが……お母様に『息子の恋人なのか』と聞かれました」
「……ごめん……本当にごめん……」
現在は庫裡の役目も離れ、弟夫婦の子供を可愛がっている母、しかしそちらも上はもう高校生で、年寄りべったりの年代でもなくなっているから、暇を持て余す事も多いのだろう。そこに息子の幼馴染が遅まきながら結婚したと聞き、未だに再婚の気配の無い長男坊にあれこれと口出しをしたくなったに違い無い。
手紙ならまだ良い、自宅への電話も何とか我慢しよう。しかし、職場への電話だけは止めてくれと机上へと突っ伏せば、
「……お察しします」
と、マクギャレットから労わりの言葉を掛けられた。
「……なぁ、今日一緒に飯行かないか、奢るから」
「それは構いませんが……大変ですね、色々と」
「うん……愚痴聞いて」
早い時間に家に帰れば母の電話が掛かって来る可能性が有る、今日は出来るだけ遅くに帰ろうとマクギャレットを食事に誘い、了承を得られ事で何とか気を取り直しつつ、黒川は仕事へと取り掛かる事にした。
「龍興よぉ……おばさんから電話来て、お前がいつ迄経っても再婚しねぇって愚痴聞かされたんだけど……新婚家庭にあんな電話させんなよ……お前がちゃんと管理してくれや」
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