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第302章『見殺し』
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第302章『見殺し』
『……取り敢えず銃下ろせ』
『お前が下ろせ』
『やだ、お前撃ちそうだもん』
『当たり前だ馬鹿、こんな極東の島国で何してんだよ』
『それはこっちの台詞だ』
『……お前の名前が出てたの、まさかとは思ってたんだよ。敵性国に与してる謀反人って言われてるぞ、お前と部下達』
『……お前が任務で来たらしいってのは分かったが、私も任務で来てるぞ、二年半前からだ』
『……取り敢えず、同時で下ろすか』
『……よし』
タカコの目の前に現れたのは嘗て同じ部隊で研鑽し合い共に戦い生き抜いて来た戦友、ジャスティン・ドレイク。彼が退役したという話は少なくとも自分が任務でワシントンを離れる迄は聞いた事が無い。今もワシントン軍人である筈の彼が何故ここに、刹那の間にそんな事を考え、辿り着いた結論は今迄自分がしていた想定よりも更に悪い、最悪に近い可能性。
『……トップは……マクマーン副議長か?』
その言葉にドレイクからの返答は無い、それでもその無言こそが肯定の証か、タカコはそう思いながら大きく溜息を吐いた。
押収された或いは使用された兵器、拘束された人間がワシントン語を解していた事、そして、寄せ集めの非正規兵だけとはとても思えない程の兵員の練度、それ等を一つ知る度、ワシントンの人間が思惑の中心に在る事は理解していた。恐らくは本国内にそれなりの規模の施設を持ち、下野した軍人を取り込み私兵を養成している、そんなそれなりの資金力と影響力を持っている人間が今回の事に関わっているのだろう、そう思っていた。
しかしドレイクの様な現役の正規軍人が出て来たとなれば話は別だ、正規軍人を動かせるのは立場を同じくする正規軍人か、その上に存在する政府のみ。JCSの、否、その議長であるウォルコットの下した命令は『1000日間の経過観察の猶予を置き、与する利が有れば同盟を、無ければ侵攻を、その判断を下す事』だったが、穏健派の彼とは違い副議長のマクマーンは急進派の最たる人物、彼がウォルコットの下した決定に納得する理由等、何処にも欠片も見当たらない。
今回の事が無くとも長年政敵で在り続けたウォルコットとマクマーン、目障りな存在が総責任者となった作戦に投入された人物が対象国に与しているという、先程ドレイクが言った様なそんな『設定』はマクマーンにとって大きな魅力だろう。そして、それを理由に別部隊を動員しウォルコットの作戦を潰す事を画策する程度の事はあっさりとやる人物であろう程度の認識は、JCSとの関わりの深いタカコにも有った。
しかし、彼一人で出来る事ではないのも確かで、任官から四十年近くの年月を正規軍の中でのみ生きて来て、現場すら知らないマクマーンに私兵を養成し運用する能力は無い。それなりの練度を持った兵員達、そして、その彼等と作戦行動を共にしているドレイクという正規軍人、この二つが同じ部隊の中に混在し作戦行動が成立しているという事実は、正規軍と非正規軍事組織、その両方を知る人間の橋渡しと引き続きの関与が必要不可欠であるという事は、誰の、少なくともタカコの目から見ても明らかだった。
そして、自分はそんな人物に心当たりが有る、と、そこ迄考えて歯を軋らせ、舌打ちをして再度口を開く。
『……私はウォルコット議長の命令を受けてこの大和に潜り込んだ。1000日間の観察期間を持ち大和の国力や軍事力や特殊性、それ等を総合的に観察し、同盟を締結すべきなのか侵攻すべきなのか、それを判断しろ、そう言われてる。お前がどんな風に説明を受けているかは知らんが、私には本国に対する叛意は一切無いし命令にも背いた事は無い。それは国旗と軍旗に誓っても良い、絶対だ』
時折響いて来る爆音と銃声、それは段々と間隔が短くなり激しさを増し、戦闘が最終局面に入りつつある事を二人へと知らせている。そんな中ドレイクはタカコの言葉を聞いてもそれに理解を示すわけでもなくかと言って否定する事も無く、唯黙ったまま佇み真っ直ぐな眼差しがタカコを射抜いていた。
――鳥栖演習場、屋外――
前方に見える鳥栖庁舎の廃墟、先程の砲撃を受けて無残な姿を晒しているそれを見て、男は場にはそぐわない穏やかな笑みを浮かべた。砲撃の開始とその直後の侵攻から二時間半程、総員態勢には程遠い状況とは言えどProvidenceが相手ならこちらの兵員は相当数が削られた事だろう、彼女――、タカコと、その彼女が全幅の信頼を寄せ掌握し采配を振るっている部下達の能力は、恐らくは自分が一番よく分かっている。
『……あいつが生きていれば……いや、それでも俺が一番か』
『大佐?どうかしましたか?』
『いや、何でもない、砲撃の準備は?』
『出来てます、後はいつでもご命令を』
吸っていた煙草を地面へと放りそれを踏み躙って消しながら踵を返せば、既に設置を終えられた迫撃砲の砲口が斜め上空へと向けられているのが見て取れて、男はもう一度振り返り、そこにいるであろう人物の顔を思い出しながらまた小さく笑った。
これで彼女が死ぬとは思っていない、この程度で死んでしまう様な駄作を、自分は作った覚えは無い。これでどうにかなるようならば所詮はその程度、綺麗さっぱりこの世から消え去ってしまえば良い。
砲口が向けられた先は旧庁舎、最上階はもう誰もいないだろう、段々と下へと降りながら掃討を続けている彼女達とそれと対峙しているであろう手駒、それ等を狙う為に仰角は随分と穏やかな砲身へと一瞥をくれ、胸ポケットから新しく煙草を取り出して咥えそれに火を点け、煙を吐き出しながら男は目を細める。
『――始めろ、撃て』
タカユキに、タカコの亡夫に瓜二つの面差しと声音。穏やかさを感じさせつつも言い表し様の無い狂気を湛えた存在が非情な命令を口にし、直後、迫撃砲は火を噴いた。
『……取り敢えず銃下ろせ』
『お前が下ろせ』
『やだ、お前撃ちそうだもん』
『当たり前だ馬鹿、こんな極東の島国で何してんだよ』
『それはこっちの台詞だ』
『……お前の名前が出てたの、まさかとは思ってたんだよ。敵性国に与してる謀反人って言われてるぞ、お前と部下達』
『……お前が任務で来たらしいってのは分かったが、私も任務で来てるぞ、二年半前からだ』
『……取り敢えず、同時で下ろすか』
『……よし』
タカコの目の前に現れたのは嘗て同じ部隊で研鑽し合い共に戦い生き抜いて来た戦友、ジャスティン・ドレイク。彼が退役したという話は少なくとも自分が任務でワシントンを離れる迄は聞いた事が無い。今もワシントン軍人である筈の彼が何故ここに、刹那の間にそんな事を考え、辿り着いた結論は今迄自分がしていた想定よりも更に悪い、最悪に近い可能性。
『……トップは……マクマーン副議長か?』
その言葉にドレイクからの返答は無い、それでもその無言こそが肯定の証か、タカコはそう思いながら大きく溜息を吐いた。
押収された或いは使用された兵器、拘束された人間がワシントン語を解していた事、そして、寄せ集めの非正規兵だけとはとても思えない程の兵員の練度、それ等を一つ知る度、ワシントンの人間が思惑の中心に在る事は理解していた。恐らくは本国内にそれなりの規模の施設を持ち、下野した軍人を取り込み私兵を養成している、そんなそれなりの資金力と影響力を持っている人間が今回の事に関わっているのだろう、そう思っていた。
しかしドレイクの様な現役の正規軍人が出て来たとなれば話は別だ、正規軍人を動かせるのは立場を同じくする正規軍人か、その上に存在する政府のみ。JCSの、否、その議長であるウォルコットの下した命令は『1000日間の経過観察の猶予を置き、与する利が有れば同盟を、無ければ侵攻を、その判断を下す事』だったが、穏健派の彼とは違い副議長のマクマーンは急進派の最たる人物、彼がウォルコットの下した決定に納得する理由等、何処にも欠片も見当たらない。
今回の事が無くとも長年政敵で在り続けたウォルコットとマクマーン、目障りな存在が総責任者となった作戦に投入された人物が対象国に与しているという、先程ドレイクが言った様なそんな『設定』はマクマーンにとって大きな魅力だろう。そして、それを理由に別部隊を動員しウォルコットの作戦を潰す事を画策する程度の事はあっさりとやる人物であろう程度の認識は、JCSとの関わりの深いタカコにも有った。
しかし、彼一人で出来る事ではないのも確かで、任官から四十年近くの年月を正規軍の中でのみ生きて来て、現場すら知らないマクマーンに私兵を養成し運用する能力は無い。それなりの練度を持った兵員達、そして、その彼等と作戦行動を共にしているドレイクという正規軍人、この二つが同じ部隊の中に混在し作戦行動が成立しているという事実は、正規軍と非正規軍事組織、その両方を知る人間の橋渡しと引き続きの関与が必要不可欠であるという事は、誰の、少なくともタカコの目から見ても明らかだった。
そして、自分はそんな人物に心当たりが有る、と、そこ迄考えて歯を軋らせ、舌打ちをして再度口を開く。
『……私はウォルコット議長の命令を受けてこの大和に潜り込んだ。1000日間の観察期間を持ち大和の国力や軍事力や特殊性、それ等を総合的に観察し、同盟を締結すべきなのか侵攻すべきなのか、それを判断しろ、そう言われてる。お前がどんな風に説明を受けているかは知らんが、私には本国に対する叛意は一切無いし命令にも背いた事は無い。それは国旗と軍旗に誓っても良い、絶対だ』
時折響いて来る爆音と銃声、それは段々と間隔が短くなり激しさを増し、戦闘が最終局面に入りつつある事を二人へと知らせている。そんな中ドレイクはタカコの言葉を聞いてもそれに理解を示すわけでもなくかと言って否定する事も無く、唯黙ったまま佇み真っ直ぐな眼差しがタカコを射抜いていた。
――鳥栖演習場、屋外――
前方に見える鳥栖庁舎の廃墟、先程の砲撃を受けて無残な姿を晒しているそれを見て、男は場にはそぐわない穏やかな笑みを浮かべた。砲撃の開始とその直後の侵攻から二時間半程、総員態勢には程遠い状況とは言えどProvidenceが相手ならこちらの兵員は相当数が削られた事だろう、彼女――、タカコと、その彼女が全幅の信頼を寄せ掌握し采配を振るっている部下達の能力は、恐らくは自分が一番よく分かっている。
『……あいつが生きていれば……いや、それでも俺が一番か』
『大佐?どうかしましたか?』
『いや、何でもない、砲撃の準備は?』
『出来てます、後はいつでもご命令を』
吸っていた煙草を地面へと放りそれを踏み躙って消しながら踵を返せば、既に設置を終えられた迫撃砲の砲口が斜め上空へと向けられているのが見て取れて、男はもう一度振り返り、そこにいるであろう人物の顔を思い出しながらまた小さく笑った。
これで彼女が死ぬとは思っていない、この程度で死んでしまう様な駄作を、自分は作った覚えは無い。これでどうにかなるようならば所詮はその程度、綺麗さっぱりこの世から消え去ってしまえば良い。
砲口が向けられた先は旧庁舎、最上階はもう誰もいないだろう、段々と下へと降りながら掃討を続けている彼女達とそれと対峙しているであろう手駒、それ等を狙う為に仰角は随分と穏やかな砲身へと一瞥をくれ、胸ポケットから新しく煙草を取り出して咥えそれに火を点け、煙を吐き出しながら男は目を細める。
『――始めろ、撃て』
タカユキに、タカコの亡夫に瓜二つの面差しと声音。穏やかさを感じさせつつも言い表し様の無い狂気を湛えた存在が非情な命令を口にし、直後、迫撃砲は火を噴いた。
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