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第307章『初めての相手』
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第307章『初めての相手』
ジャスティン・ドレイク、三十八歳になるワシントン人は、昨日から始まった尋問の中でと或る事に気が付きつつあった。
それは、尋問の時に必ずタカコと一緒に入室して来る、大和海兵隊の最先任上級曹長の振る舞いについて。常に太刀を手にし全身から殺気を滲ませ、何か有れば直ぐに自分の無力化に動く腹積もりなのであろう事がひしひしと伝わって来る。それは大和軍人という彼の立場を考えれば当然の事なのだが、それよりもドレイクの意識を引いたのは、タカコに対する敦賀の接し方だった。
意識してなのか無意識なのか、通訳役のカタギリも一緒に入室するというのに、タカコの真横に寄り添う様にして敦賀がつき、本来であれば敦賀のいる場所にいてタカコを警護する筈のカタギリは、ぴったりとくっついた二人の後ろから入って来る。タカコに対しても警戒を解いてはいないのかと思いはしたものの、それであれば尋問官へと登用する事もカタギリに対しては全くの無警戒である事も説明がつかない。
と、そこで思い出したのは鳥栖演習場内でタカコを拘束し敦賀と対峙した時の事。あの時彼女は敦賀を指して、『お目付け役兼飲み友達、他にも少々』と言っていた。あの『少々』とは何なのか、昨日タカコとの会話の中で出た、今の彼女と身体の関係が有る大和の男の存在、それを併せて考えてみると、どうやら答えらしきものに行き着いた様だ、と、ドレイクはそんな事を考えつつ小さく笑い、目の前で昨日に引き続き昔話を口にするタカコへと視線を戻した。
背丈体格こそタカユキとそっくりだが、顔の造りは似ても似つかないし、接触からこちら彼から受ける気難しそうな印象もタカユキとは全く違う。女心に対しての機微が有りそうな人間にも思えないが、一体あの人物の何処に惹かれて関係を持つに至ったのか、頭に浮かんだその思いをそのまま目の前のタカコへと投げ掛けてみる。
『なぁ、聞いても良いか?』
『は?何だよ?』
『お前の今の相手、そこにいるSgtMajMarCorだろ?』
単刀直入なドレイクの言葉に、啜っていた湯呑の中身を盛大に撒き散らしたのはタカコ。ドレイクはタカコのその様子と、彼女の背後でいきなり噴き出したカタギリの様子に、やはり自分の勘は正しかったなと愉快そうに肩を揺らせて笑い出した。
『なっ、おまっ、ちょ』
『やっぱりなー。しかし、お前はこういう系の話題は本当に分かり易いな』
『なっ……そんなんじゃねぇし!!』
『図星指されるとそうやって真っ赤になってムキになって否定するのも変わってねぇよなぁ。お前、マジでポーカーフェイス下手過ぎ』
『だから!違うし!!』
こんなところは昔から変わっていない。一度任務で戦場に出れば『蒼褪めた馬に乗る者』と呼ばれ畏怖と恐怖の対象にすらなったというのに、普段の彼女はよく笑いちょこまかと動き回り、次々と悪戯を仕掛けては部隊の仲間や上官達を阿鼻叫喚の地獄絵図へと叩き落としていた。そして、いつの頃からかタカユキが一人の男として彼女の傍にいる様になり、自分達はそれを揶揄って、照れていっぱいいっぱいになった彼女が真っ赤になり爆発する、その繰り返しだった。
そして今、彼女の支えであり庇護者でもあったタカユキがこの世にはいないと分かり、独り遺された彼女の心を心配はしたものの、タカユキとは形は違えど、そして仮初めとは言えど心と身体の安息の場所が有るらしい、その事に思い至り、ドレイクは小さく、そして穏やかに笑う。
「……ケイン、ちょっと席外すぞ、仕切り直して来る……疲れた」
「はい、了解です……しょうがないですよ、ドレイク大尉相手じゃ」
「笑うな!」
形勢の不利を悟ったのか立ち上がり扉へと向けて歩き出すタカコ、まだ赤いままの顔を見てカタギリが笑い、その彼の頭に拳を落として扉の向こうへと消えて行った背中を見送りながら、ドレイクは再度敦賀へと視線を向けた。
さて、と、そう思いながら敦賀の顔をまじまじと見てみれば、会話の全てをカタギリが伝えているわけでは無いから今の流れも理解出来ていない様子だが、それでも自分とタカコがそれなりに親しく和やかな時間を過ごしている事をこの男は快くは思っていないらしい。それは立場としても当然そうなのだろうが、それ以上に自分以外の男が彼女と親しくしているのが気に食わないといった心持ちが垂れ流しになっている様子を見て、タカコはともかくとして目の前のこの男は彼女に対して心底惚れてしまっている様子だな、と、胸中で呟いた。
『お前のもんじゃねぇっての、あいつは。ったくよ……気持ち悪い位にタカコにベタ惚れだったタカユキだってもう少し余裕ってもんが有ったぜ。独占欲丸出しで、童貞かよお前』
童貞、その言葉にカタギリが再び噴き出し、何かがツボに嵌まったのか今度は俯いて肩を震わせ始め、どうやら悪口を言われている様子だと勘付いた敦賀がカタギリへと向けて心底機嫌が悪そうに口を開く。
「おい、ケインよ、今奴は何て言ったんだ」
「っ……いや、聞かない方が良いぞ」
ひくひくと肩を震わせ時折堪え切れずに小さく噴き出すカタギリ、その様子を見て益々険を深くする敦賀。ドレイクはその様子を眺めつつ愉快そうに肩を揺らせて笑い、別にどうしても隠しておかなければならない事でもないからこの機会にこちらからばらしてしまおうか、そう思いながら真っ直ぐに敦賀へと視線を向け、ゆっくりと、しかしはっきりと口を開いた。
「お前、タカコに惚れてるだろ。良い事教えてやろうか。あいつの初めての男、俺だから。いやぁ、悪いな?そんな殺気立っちゃう程に惚れ抜いてる、最愛の女の初めて頂いちゃってさぁ。あ、因みに俺の初めての相手もあいつな、初めて同士ってやつ?」
ジャスティン・ドレイク、三十八歳になるワシントン人は、昨日から始まった尋問の中でと或る事に気が付きつつあった。
それは、尋問の時に必ずタカコと一緒に入室して来る、大和海兵隊の最先任上級曹長の振る舞いについて。常に太刀を手にし全身から殺気を滲ませ、何か有れば直ぐに自分の無力化に動く腹積もりなのであろう事がひしひしと伝わって来る。それは大和軍人という彼の立場を考えれば当然の事なのだが、それよりもドレイクの意識を引いたのは、タカコに対する敦賀の接し方だった。
意識してなのか無意識なのか、通訳役のカタギリも一緒に入室するというのに、タカコの真横に寄り添う様にして敦賀がつき、本来であれば敦賀のいる場所にいてタカコを警護する筈のカタギリは、ぴったりとくっついた二人の後ろから入って来る。タカコに対しても警戒を解いてはいないのかと思いはしたものの、それであれば尋問官へと登用する事もカタギリに対しては全くの無警戒である事も説明がつかない。
と、そこで思い出したのは鳥栖演習場内でタカコを拘束し敦賀と対峙した時の事。あの時彼女は敦賀を指して、『お目付け役兼飲み友達、他にも少々』と言っていた。あの『少々』とは何なのか、昨日タカコとの会話の中で出た、今の彼女と身体の関係が有る大和の男の存在、それを併せて考えてみると、どうやら答えらしきものに行き着いた様だ、と、ドレイクはそんな事を考えつつ小さく笑い、目の前で昨日に引き続き昔話を口にするタカコへと視線を戻した。
背丈体格こそタカユキとそっくりだが、顔の造りは似ても似つかないし、接触からこちら彼から受ける気難しそうな印象もタカユキとは全く違う。女心に対しての機微が有りそうな人間にも思えないが、一体あの人物の何処に惹かれて関係を持つに至ったのか、頭に浮かんだその思いをそのまま目の前のタカコへと投げ掛けてみる。
『なぁ、聞いても良いか?』
『は?何だよ?』
『お前の今の相手、そこにいるSgtMajMarCorだろ?』
単刀直入なドレイクの言葉に、啜っていた湯呑の中身を盛大に撒き散らしたのはタカコ。ドレイクはタカコのその様子と、彼女の背後でいきなり噴き出したカタギリの様子に、やはり自分の勘は正しかったなと愉快そうに肩を揺らせて笑い出した。
『なっ、おまっ、ちょ』
『やっぱりなー。しかし、お前はこういう系の話題は本当に分かり易いな』
『なっ……そんなんじゃねぇし!!』
『図星指されるとそうやって真っ赤になってムキになって否定するのも変わってねぇよなぁ。お前、マジでポーカーフェイス下手過ぎ』
『だから!違うし!!』
こんなところは昔から変わっていない。一度任務で戦場に出れば『蒼褪めた馬に乗る者』と呼ばれ畏怖と恐怖の対象にすらなったというのに、普段の彼女はよく笑いちょこまかと動き回り、次々と悪戯を仕掛けては部隊の仲間や上官達を阿鼻叫喚の地獄絵図へと叩き落としていた。そして、いつの頃からかタカユキが一人の男として彼女の傍にいる様になり、自分達はそれを揶揄って、照れていっぱいいっぱいになった彼女が真っ赤になり爆発する、その繰り返しだった。
そして今、彼女の支えであり庇護者でもあったタカユキがこの世にはいないと分かり、独り遺された彼女の心を心配はしたものの、タカユキとは形は違えど、そして仮初めとは言えど心と身体の安息の場所が有るらしい、その事に思い至り、ドレイクは小さく、そして穏やかに笑う。
「……ケイン、ちょっと席外すぞ、仕切り直して来る……疲れた」
「はい、了解です……しょうがないですよ、ドレイク大尉相手じゃ」
「笑うな!」
形勢の不利を悟ったのか立ち上がり扉へと向けて歩き出すタカコ、まだ赤いままの顔を見てカタギリが笑い、その彼の頭に拳を落として扉の向こうへと消えて行った背中を見送りながら、ドレイクは再度敦賀へと視線を向けた。
さて、と、そう思いながら敦賀の顔をまじまじと見てみれば、会話の全てをカタギリが伝えているわけでは無いから今の流れも理解出来ていない様子だが、それでも自分とタカコがそれなりに親しく和やかな時間を過ごしている事をこの男は快くは思っていないらしい。それは立場としても当然そうなのだろうが、それ以上に自分以外の男が彼女と親しくしているのが気に食わないといった心持ちが垂れ流しになっている様子を見て、タカコはともかくとして目の前のこの男は彼女に対して心底惚れてしまっている様子だな、と、胸中で呟いた。
『お前のもんじゃねぇっての、あいつは。ったくよ……気持ち悪い位にタカコにベタ惚れだったタカユキだってもう少し余裕ってもんが有ったぜ。独占欲丸出しで、童貞かよお前』
童貞、その言葉にカタギリが再び噴き出し、何かがツボに嵌まったのか今度は俯いて肩を震わせ始め、どうやら悪口を言われている様子だと勘付いた敦賀がカタギリへと向けて心底機嫌が悪そうに口を開く。
「おい、ケインよ、今奴は何て言ったんだ」
「っ……いや、聞かない方が良いぞ」
ひくひくと肩を震わせ時折堪え切れずに小さく噴き出すカタギリ、その様子を見て益々険を深くする敦賀。ドレイクはその様子を眺めつつ愉快そうに肩を揺らせて笑い、別にどうしても隠しておかなければならない事でもないからこの機会にこちらからばらしてしまおうか、そう思いながら真っ直ぐに敦賀へと視線を向け、ゆっくりと、しかしはっきりと口を開いた。
「お前、タカコに惚れてるだろ。良い事教えてやろうか。あいつの初めての男、俺だから。いやぁ、悪いな?そんな殺気立っちゃう程に惚れ抜いてる、最愛の女の初めて頂いちゃってさぁ。あ、因みに俺の初めての相手もあいつな、初めて同士ってやつ?」
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