大和―YAMATO― 第四部

良治堂 馬琴

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第308章『暴露』

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第308章『暴露』

 突然に通訳の言葉を止めたタカコの部下達、ジュリアーニは笑い出しウォーレンとマクギャレットはやれやれといった面持ちで溜息を吐き、キムは苦笑い。周囲が理由を尋ねても
「いや、ボスの個人的な事なので……聞かないであげて下さい」
 そう言って後は言葉を濁し、一体何なんだとタカコを見てみれば、こちらは茶を噴いた後は真っ赤になってドレイクを怒鳴りつけている。やがて頭を掻きながら立ちあがり尋問室を出たタカコがこちらへと入って来て、昔馴染み相手では尋問も勝手が違うのか、そう思いながら立ち上がった高根がタカコへと声を掛けた。
「どうも梃子摺ってるみてぇだな、大丈夫か」
「あー……梃子摺ってるってか、今はまだ昔話しかしてねぇけどな……ジェフ、お前の専門だろうが、代われ」
「冗談でしょう、あれを尋問しろとか、寝言は寝てから言って下さい」
 話を振られたウォーレンが眉根を寄せてそう吐き捨てる。
「何だ、そんなに厄介な相手なのか」
「マスターと同程度の水準の訓練を受けてる叩き上げの正規軍人ですよ、口を割らせるなんてとてもとても。尋問の技術も体得していますしね。出来なくはないでしょうが、そんな面倒は俺は御免です」
 タカコとの関係上も本人の資質的にも、随分と厄介な人物を捕虜にする羽目になった様だ、その事だけは何とか把握した高根達は顔を見合わせて溜息を吐き、黒川が淹れたばかりの茶を手にしてタカコへと歩み寄り、労わる様にして肩へとそっと触れて湯呑を手渡した。
「今回、外周の警戒に当たっていた陸軍から死者が出てる、何としても相手に繋がる情報が欲しい。大変だとは思うが、頼むぞ」
「任せて下さいと大見得切りたいところですがね……なかなか手強い相手ですよ……ですが、出来る限りはやってみます」
 襲撃が今回だけで済む筈が無い、次にはもっと激しい戦闘が展開される事になるだろうが、それがいつ何処になるのかは全く分からない状況。そんな中、唯一の手掛かりとなるドレイクから出来るだけ早く情報を引き出さなければ、それはこの場の全員に共通した思いだった。
 さて、仕切り直した後は話をどう進めるか、タカコはそんな事を考えつつ、黒川から手渡された湯呑の中身を啜りながら椅子へと腰を下ろす。痛めつけるやり方はあの男には通用しない、心に入り込みこちらへと引き入れる方法も無理だろう。彼自身がマクマーンとその協力者である『奴』に対して見切りをつけてくれれば、大和との協調は無理でも自分達Providenceとの協調という形で同じ結果を出せる可能性は有るが、それを決めるのはドレイク自身の意志が無ければどうしようもない。砂時計の砂は刻々と落ち続け、残された時間はもう僅かしか残されていないというのにこの体たらくか、タカコは小さく呟いて舌打ちをする。

「お前、タカコに惚れてるだろ。良い事教えてやろうか。あいつの初めての男、俺だから。いやぁ、悪いな?そんな殺気立っちゃう程に惚れ抜いてる、最愛の女の初めて頂いちゃってさぁ。あ、因みに俺の初めての相手もあいつな、初めて同士ってやつ?」

 そんな時に隣室の音声を拾っていた集音器から流れて来たのはドレイクの言葉、今迄一切大和語を口にしなかったのにやはり理解していたのか、そう思った面々の意識に次の瞬間上ったのは、彼の話したその内容だった。
 敦賀がタカコに惚れている、それはこの場の大和人全員が知っている事であり、ドレイクがそれに勘付く勘の良さを持っていた、それも驚くには値しない。しかしそれに続いたのは、タカコとドレイクは以前肉体関係を持っていた上にお互いが初体験の相手だったというもので、よく見知った人間の少々生々しい話題に室内は猛烈に気まずい空気に包まれ、全員がタカコへと視線を集中させる。
 突然のドレイクの暴露に湯呑を手にしたまま固まるタカコ、その彼女を取り囲んだ大和の面々はタカコと、硝子板の向こうで敦賀を見てニヤニヤと笑っているドレイクを交互に見て、中には二人の行為を脳裏に浮かべてそれを振り払う様にぶんぶんと頭を振る者すら在った。
 そんな中、最初に動いたのはタカコ、湯呑を床に叩き付けそれが割れる音が室内に響き渡る中、腰に差していた拳銃を抜いて勢い良く立ち上がる。
「おい!止めろ!!」
 その様子に気付いた高根が声を上げ、それに反応したタカコの周囲の人間が一斉に飛び掛かり彼女の身体を抑え込むが、タカコはそんな事は全く意に介さないかの様に怒声を張り上げた。
「殺す!あの糞野郎絶対に殺す!!大和人が殺したら国際問題だが私が殺しても単なる殺人だ!!ぜってぇ殺す!!」
「馬鹿!!落ち着け!!おいタカコ!!」
 突然の事に言動を取り繕う事も忘れて声を荒げる黒川、タカコの直ぐ脇にいたという事で彼女を拘束しようと身体を押さえ付け拘束を試みるものの、大の男数人を弾き飛ばす程の勢いのタカコはそんな事には委細構わず、視線の先のドレイクを凄まじい目つきで睨み付け、ワシントン語で彼に向かって何やら罵り続け銃口をそちらへと向けようと暴れ続けている。
 そんな何とも緊迫した空気の中、硝子板の向こうでは敦賀も動き出し、そちらはカタギリが後ろから羽交い絞めにして何やら言葉を掛けていて、黒川は腕の中のタカコと硝子板の向こうの状況、それを交互に見ながら、何とも面倒な事をしてくれる、と、胸中でそう吐き捨てて盛大に舌を打った。
 性的な話題で突っ込まれる事にはからっきし弱いタカコ、大勢の人間のいる前で初体験について触れられる等、憤死の勢いで恥ずかしがり怒るのは目に見えている。ドレイクのあの落ち着きぶりや少し前に見せていたタカコへの態度を見るにつけ、彼もその事は理解しているだろうに一体何の嫌がらせなのかと再度タカコを見下ろしてみれば、こちらは感情が昂り過ぎたのか顔を真っ赤にし涙目になっていて、これが彼女の可愛らしいところでもあるのだが、と、何とも場違いな事を考えつつ彼女の身体に回した腕に力を込めた。
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