大和―YAMATO― 第四部

良治堂 馬琴

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第309章『計算』

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第309章『計算』

『今日も楽しい尋問の時間だ、オラ、さっさと知ってる事を吐きやがれこのド糞が』
『タカコよ……お前、本当に口が悪いな。まだ怒ってるのか」
『当たり前だ!』
 尋問三日目の朝、昨日の怒りを未だ全身に纏ったタカコが入室して来て、ドレイクはそれを見てやれやれといった様子で肩を竦めて笑いながら口を開く。その彼女に寄り添い同じ様に怒りを滲ませていた敦賀に向かっては
「よう穴兄弟、気分の良い朝だな!」
 と、これまたにこやかに大和語で言い放ち、それを聞いて瞬時に殺気立ったタカコと敦賀の二人をカタギリが全力で宥め、三人は夫々の定位置へと腰を下ろした。
 その様子を初日二日目に引き続き隣室で見ていたのは高根と黒川と他の面々、隣にいた黒川を見れば何とも不機嫌そうな横顔に溜息を吐き、高根は前へと視線を戻す。
 ドレイクが大和語を解する事は把握したものの、だからと言ってそれで自分達が尋問を直接行えるわけでも交渉がやり易くなるわけでも無く、結局は今日もタカコを尋問官として入室させ、自分達はこうして見守る事しか出来ない事に流石に苛立ちを隠せない。
 タカコに遅れたものの激昂して殴り掛かろうとした敦賀、その彼に怯む様子も見せず、寧ろ余裕綽々の様子で不敵な笑みを浮かべていたドレイク、仕舞いには
「俺を殴ったら大変だぞぉ?何せワシントン軍の正規軍人だからなぁ?された事ぜーんぶ言いつけちゃうから、今後例え同盟締結に至ったとしても色々と面倒な事になるぞぉ?」
 等と敦賀に対して挑発迄始め、考え得る限り最悪の人材を捕虜にする羽目になった様だと眩暈すら感じてしまう。あの様子では自白させ投降させる事は恐らくは不可能だ、彼は彼自身の意志と忠誠心で任務に就いており、それを崩させる為には彼自身がそれを選択する必要が有る、力に屈するという事は無いだろう。そして、そうなったとしても自分達大和軍と直接的な協力関係を築く事は無い、見知った友人であり同胞でもあるタカコとなら協力する、それが最大限だろう。
 自分の捕虜としての価値をよく理解しているであろうドレイク、安売りはしまい、タカコからの働きかけで考えを変えてくれる事に望みを託すしか無いが、そのタカコも尋問の開始からこちら彼の言動に調子を崩されている様子で、何とも胃が痛くなる日が続くな、と、高根はそんな事を思いつつ小さく歯を軋らせた。
 当のドレイクにとって、高根達のそんな思惑は分かり切っている事であり、この状況をどう動かすべきか、拘束されてからこちら、ずっとその事について考えている。拘束された人間は自分以外にもいるが、正規軍人では自分が初の筈。正規軍人の捕虜ともなれば相手側の期待が大きくなるのは経験上分かっているから、自分を安売りして安易な保身に走る必要は無い。
 対大和としてはその姿勢で間違ってはいないのだが、マクマーンが半ば軍を私物化しているらしいという事、そして、その相手が『奴』だという事、タカコから聞かされたその二点が大き過ぎると言っても過言ではない懸念だった。
 マクマーンに対して何等恩義は感じていないし、彼個人に対して忠誠を誓っているわけではない、忠誠を誓ったのは国旗と、そして軍旗。任務の遂行に身命を捧げると誓ったのはその二つにだけ。マクマーンの企みは二つの旗を否定するもの、その彼の指揮下で任務に当たり続ければ、帰国した時に与えられるものは賞賛でも勲章でもなく、謀反人の汚名と良くて不名誉除隊、悪くて死刑台への片道切符だろう。
 そんな事は御免被るが、それでも大和と協調する気は更々無い、しかしその姿勢を崩さなければ拘束された現状が変わる事も無いだろう。タカコを揶揄って調子を崩して遊んではいるものの、彼女もそんな程度で誤魔化せる相手ではない、拘束も監視も今のところ全く隙は無く、或る種の膠着状態に陥ってしまっているのは大和側だけではなくドレイク自身もだった。
 大和とは無理でも、タカコとならば、そんな風に考えつつ、目の前に腰を下ろしたタカコをドレイクはじっと見詰めている。彼女に叛意は無い、それは確かなのだろうが確証に欠けるのだ。或る日突然姿を消し、再会した時にはタカユキと共に逸れ者を集めて民間企業を興したと言っていた彼女、そう言われ続けていた人物が実はJCS直属の特殊部隊の司令官の座に在り、それが今はこの最果ての地で他国軍と共同歩調をとっている。少なくとも任務に関しては嘘も誤魔化しも無い、誠実で実直な人柄だという事は長い付き合いの中でよく分かっているものの、それでも揃い過ぎてしまっている怪しい状況を考えれば、そう易々と決断出来るものでもなかった。
 タカコの方もそれは理解しているだろう、だからこそ直接的に突っ込んだ話はせず、尋問の開始からこちら昔話に終始している。その会話の中でお互いの妥協点を見出そうと腐心しているのが伝わるだけに、ドレイクもどうしたものかと思案してばかりとなっている。
 JCSの権力争いに興味は無いが、それは自分が巻き込まれていなければの話、マクマーン陣営の一部として関わってしまっているらしい今、そうとばかりも言っていられない。穏健派でありながらも議長の座に在り各方面に絶大な影響力を持つウォルコット、ウォルコットを追い落とし自分が議長の座に就こうと虎視眈々と機会を窺い続けている、急進派の急先鋒であるマクマーン。手堅く着実に出世街道を上り詰めたウォルコットには目立った疵も無ければ隙も無い、タカコ達の部隊を作戦に投入した事も、彼の慎重さを考えればきっちりと承認をとっての事だろう、そこを突かれる事は無いに違い無い。
 片やマクマーンは、と考えれば、ワシントン軍上層部にとっては最大の禁忌となった『奴』の接触を受け、剰えその勢力と同調している事を考えれば、今回投入されたこの作戦が上層部の承認をとったとは考え難い、恐らくは、タカコの言った通りに目論見の為に方法は分からないが軍を私物化し、独断で兵員を動かしているのだろう。それが露見すれば行く末は分かり切っている、ドレイク自身保身の為にそれを黙っている程国旗と軍旗に誓った忠誠は軽くはないし、自分が言わなかったとしてもこの類の話は何処かに生じた小さな綻びから必ず露見する。
 事の露見を防ぐ方法は一つだけ、投入した兵員全員を物言わぬ肉塊にする事だけ、そこ迄思い至ったドレイクは肩を竦めて溜息を吐き、そうなれば採るべき道は一つだけかと小さく呟いた。
『……俺も長生きしたいんでな……先の見えてるマクマーンを見切っても良い。但し、大和と仲良くする気は無い、大和の命令に従う気は無い。お前になら協力する、お前の指揮であれば従ってやっても良いが……どうだ』
『間に入る私としては仲良くして欲しいんだがな……分かった、それを約束するのであれば安全は保証しよう、何とか話をつける』
『交渉成立……だな』
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