大和―YAMATO― 第四部

良治堂 馬琴

文字の大きさ
15 / 100

第315章『決断』

しおりを挟む
第315章『決断』

「海から行こう。浅田司令、支援を頼みます」

 タカコのその言葉に、室内は水を打った様な静けさに包まれた。
「本気なのか?今日は比較的穏やかとは言え波の高さは一m以上、水温だって十度も無いんだぞ?監視をしてる艦艇から泳いで辿り着くとしても距離は一km近く有る、防水式の潜水服を着ていたとしても多少は水も入る、どれだけ消耗するか――」
「だからですよ。我々がそう判断する様に相手もそう思っています、だから、完全に監視が無くなっているわけではなくとも正面に比べれば幾分と手薄でしょう。加えて言えばこれから夜になる、更には都合の良い事に今にも降り出しそうな曇天、海中から忍び寄れば発見される確率はかなり低くなります。晴れていれば月の明かりで話も違いましたが、天気だけは相手にもどうこう出来るものじゃない、この部分だけは天佑ですね」
 事も無げにさらりと言い退けるタカコ、話を聞いていた小此木が言うのは簡単だが勝算は有るのかと口を開けば、
「正面から突っ込むよりは高いよ。侵入を警戒して全ての照明を点灯させているだろうし、正面の監視はガチガチに固められてるだろう。そんな中で突破しようとすれば人質は直ぐに殺される、十数人いるんだ、一つしくじる毎に一人殺されて死体を正門からこちらへと向けて投げ捨てられる、それだけだ。私でもそうするね」
 何とも冷淡な口調でそう言い捨てた。
 発電所の占拠等大和軍にとって未経験の出来事、恐らくは経験の有るであろうタカコの言う事に従う外無いのはこの場の全員が理解しているものの、海兵隊と陸軍は不慣れな海からの侵入に不安を隠せず、沿岸警備隊は海をよく知っているからこそタカコの言葉に無謀であると思わざるを得ず、何とも言えない重苦しい空気が室内を支配する。
 タカコも陸軍の人間、彼女としても本音は陸上から攻めたいところなのだろう、その上他の人間と比べれば小さく貧弱な身体、潜水服越しとは言えど冷たい海水に身を晒せば消耗は人一倍激しいであろう事は理解しているに違い無い。それでも尚海から行くべきだと言うのであれば、それはもう他には手が残されていないという事の裏返しなのか、話を聞いていた浅田は一度大きく深呼吸をし、黒髪よりも白髪の方が多くなった短髪をガシガシと掻きながら口を開いた。
「……分かった、使用する装備を全てトラックに積み込んでくれ、潜水服はこちらで用意する。準備が整ったら突入する人間全員を佐世保基地へ運ぶ、そこから艦艇に乗り込んでもらい海上経由で火発の沖合に引き返す。不慣れな海だ、お前達は自分の身体を岸壁迄運ぶ事に専念しろ、装備は全て防水布で梱包してうちの腕利きに運ばせる……海の事は我々沿岸警備隊に任せてもらおうか」
「有り難う、御座います。海上の熟練者の協力が有れば、これ程心強い事は有りません」
 淡々とした、しかし熱い力の籠った遣り取り、そこ迄言うのであれば、一蓮托生、その決断に賭けるしか無いかと小此木と横山も顔を見合わせて頷き合い、周囲は彼等の言葉に促されて動き出す。
「先程選抜した二分隊を集めてくれ、侵入迄の流れを説明する!」
「装備はどうするんだ、海からの侵入になったから何か変更は有るのか!?」
「使うのは侵入してからだから基本は変わらん、厚着だけしっかりすれば良い!!」
 慌ただしく動き始めた周囲に合わせてタカコも立ち上がり動き出す。その様子を見守っていた敦賀とドレイクはそんな彼女に向かってゆっくりと歩み寄り、ドレイクはタカコの肩に、敦賀は頭へと掌をそっと置いた。
「ゾクゾクするな、こういうのは久し振りで。思い切り暴れてやろうじゃねぇか、なぁ?」
「俺等がついていける程度にブチかませ……頼むぞ」
 まだ完全には切り替わっていないのかきょとんとした眼差しが二人へと向けられ、そしてその後鋭く且つ力強くも全開の笑顔が向けられる。
「Trust me、任せな」
「とらすとみー?大和語で話せ馬鹿女」
「任せろって事だよ」
「……そうか、俺等も死ぬ気で気張る、頼むぞ」
「ああ」
 そんな遣り取りを交わして歩き出せば、部屋の隅に控えていたタカコの部下達も歩み寄って来る。
「どうだ、準備は」
「はい、もう整ってます」
「いつでも動けますよ」
「そうか……リーサ」
「……アリサです、ボス。何か?」
「お前も来い、人出が足りん。タツさんは人質だし、いてもやる事は無いだろう」
「了解しました、ボス」
 数日前の鳥栖以外では現場に出る事も無く、火傷の化粧をして黒川の秘書官として動いていたマクギャレット、今回も来いと言われたのが少々意外だったのか僅かに双眸を見開き、直ぐに普段の動きの無い表情に戻り首肯する。
 人出が足りない、それはタカコの正直なところだった。実際であればProvidenceの全員を投入しても不安が残る程の大掛かりで厳しい作戦内容、それでもいないものはどうしようも無く、大和人を掻き集めて対応するしか無い。彼等が全く役に立たないとは言わないが、今は一人でも少しでも腕の立つ者が欲しい。本来であれば女を前線に投入してくはないのだが、こればかりはどうしようもないとマクギャレットへも命令せざるを得なかった。
 マクギャレットが性差で配置に差を付けられる事に強い抵抗感を持っている事はタカコにも分かっている。実際彼女の技量は他の部下に比べて遜色が有るわけでもなく、今迄後方に据える事が多かったのはタカコの影武者という彼女にしか無い特性の他、女であるという事も大きく影響していた。こういった本音は誰にも言った事が無いから彼女が真意に気付いているとは思わないし知ったとしたら甚く機嫌を損ねる事になるのは明らかだが、出来れば投入せずに済めば良かったな、そんな風に考えてしまう。
 健康な女にはそれにしか出来ない役目が有る、健康を損ねていたとしても望ましい役目が、頭が固い古いと言われようとこればかりは事実だし間違っているとも思わない。出来る事ならそれに専念させてやりたいのだが、タカコはそんな事を考えつつ、取り敢えずは目の前の任務に意識を集中させるか、そう小さく呟いて動き出した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。 『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。 「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」 「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」 そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。 ◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

神スキル【絶対育成】で追放令嬢を餌付けしたら国ができた

黒崎隼人
ファンタジー
過労死した植物研究者が転生したのは、貧しい開拓村の少年アランだった。彼に与えられたのは、あらゆる植物を意のままに操る神スキル【絶対育成】だった。 そんな彼の元に、ある日、王都から追放されてきた「悪役令嬢」セラフィーナがやってくる。 「私があなたの知識となり、盾となりましょう。その代わり、この村を豊かにする力を貸してください」 前世の知識とチートスキルを持つ少年と、気高く理知的な元公爵令嬢。 二人が手を取り合った時、飢えた辺境の村は、やがて世界が羨む豊かで平和な楽園へと姿を変えていく。 辺境から始まる、農業革命ファンタジー&国家創成譚が、ここに開幕する。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...