大和―YAMATO― 第四部

良治堂 馬琴

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第331章『本隊』

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第331章『本隊』

「下がれ!下がれ下がれ!」
 粉塵と硝煙の匂いの立ち込める制御棟の廊下、その要所要所に陣取り迎撃の態勢をとっていた大和の面々が、自分達の後を追って来た敵や内部で待ち構えていた敵と交戦しつつ、制御棟の奥へと向けてじりじりと後退を開始した。制御棟内へと入った直後に二手に分かれ、ドレイクとカタギリへとついて行った陸軍で構成された分隊は無事なのか、島津はその事に思いを馳せながら声を張り上げて後退を命令する。
「了解です!」
 遠くから聞こえて来たのは薮内の声、それを聞いて島津は小さく頷き、今度は真横にいた毛利へと声を掛けた。
「おい、設置、忘れるなよ。全て手筈通りに」
「了解です」
 そう言葉を返す毛利の手には弁当箱型の対人地雷、足元には先を進んだタカコ達が殺して行った敵の死体。
「……仏さんにこんな事するのは気が進まないんだがな……状況が状況だ、お前等の自業自得だと割り切らせてもらうぞ」
 冷たい眼差しで死体を見下ろしながらそう吐き捨て、壁際に崩れ落ちた様に形を整えるとその身体の下に地雷を置き、信管へと結び付けた極細の鉄線を反対側の壁際迄引っ張り、そこに転がっていた大きめの瓦礫へと結び付ける。床から鉄線迄は二十cm程、これだけ薄暗く視界も悪い上に混乱状態では恐らく気付かないだろう、否、気付かないでくれ、島津は心中でそう祈りつつ、
「後退開始!」
 と、廊下の向こうの仲間達へと向けて声を張り上げ、踵を返し制御棟の奥へと向かって動き出した。
 先程から断続的に背後で響いていた銃声と爆発音と震動、廊下を進み角を曲がる度に、分岐へと差し掛かればその分岐の先に死体が幾つも転がっている。随分と派手にやったものだ、しかも相当手際良く進んでいるのだろう、音も気配も自分達がまだ留まっていた時からぐんぐんと遠ざかり、後退を開始した今となっては自分達が立てる音以外はもう何も聞こえない。代わりに聞こえ始めたのは自分達が侵入して来た入口の方角からの爆発音とそれに混じる絶叫、目論見通りに鉄線に足を引っ掛けてくれた様だと思いつつちらりと背後を振り返り再び視線を前へと戻す。
「外や他の棟にいる敵は無視し、制御棟への侵入を最優先する。当然我々の後を追って来るから、それは地雷を設置して排除する。排除しきれない者も当然出て来るが、地雷が設置されている事が分かればそちらの警戒に意識をとられるから、当然進行速度は遅くなる、それで多少なりとも時間が稼げるだろう。先ずは私と敦賀、そしてジャスとケインが先行して可能な限りの敵の排除に当たる、お前達は要所要所に陣取って時間を稼いで欲しい、頼むぞ」
 博多の海兵隊基地の会議室でのタカコの言葉、その事を口にするのにどれだけの決断が必要だったのか、島津は今更ながらに実感していた。まだまだ技量が充分とは言えない自分達、血路を開く役目はワシントン勢が引き受けざるを得ず、そうなれば踏み止まり侵入を阻み内部の敵と遭遇したらそれを排除するのは大和勢しかいない。自分達が突破されれば包囲され全滅の憂き目を見る事になる、ワシントン勢も大和勢もその全てを危険に晒す事になる大きな賭け、全員の命を乗せた卓上に賽子を放ったタカコの胆力に思いを馳せれば、ぶるり、と身体が大きく震えた。
 自分にはそんな決断はまだとても出来ないだろう、もし自分が彼女の立場であったのなら、きっと大和勢をそこ迄信用しきる事は出来ない。自分達の技量が高いが故に大和の稚拙さ技量の低さが目につき、自分達だけで突入する事すら考えるかも知れない。
 自分より三つ歳上なだけのタカコ、気が強く少々がさつではあるものの、見た目は自分達男と比べれば明らかに細く非力で頼り無い。けれど、彼女の内面はそんなものとは無関係に強く、高根ですら霞む程の豪胆さを持っているのだと改めて思い知る。
 そんな彼女が自分達に投げて寄越したこの役目、任された以上はそれを全うしなければ大和の男として、そして軍人としての面目は丸潰れだ。そんな事を思えばまたぶるりと大きく震える身体、それと共に湧いて来た高揚感を感じつつふと手元へと視線を落とせば、小銃を持つ手が小さく震えているのに気が付いた。恐怖は感じない、重圧に押しつぶされそうなのでもない。武者震い、結局は自分もまた血の気の多い海兵の一人で、そして、戦う事に喜びと生きる意味を見出してしまう人種だったか、これでは高根の事を呆れられないなと思いつつ僅かに苦笑する。
「二人が開いた道を逸れるな、何が仕掛けてあるか分からんぞ」
「了解です!」
 直ぐ後ろを歩く毛利もまた同じ様な事を考えているのだろう、立ち止まり振り返ってみれば目出し帽から覗く双眸は大きく見開かれ、冷たい興奮と歓びの色がそこへと滲む。
「お前もか、毛利よ」
「は、何がですか?」
「……いや、海兵ってのは揃いも揃って血の気の多い人間ばかりだと思ってな」
「あ、分かります?」
「当然だ」
「鳥栖で単騎で特攻カマした司令の事を馬鹿だ阿呆だと思ってましたけど、これじゃ人の事言えませんね、俺等も」
「全くだな……もう切り替えろ、戦死なんて冗談じゃないからな」
「了解です、嫁と子供の顔見る為にも、生きて帰りましょう」
「当然だ」
 そんな短い遣り取りの後、二人は笑みを消して視線を前へと向け薄暗く荒れた廊下を再び歩き始める。
 タカコ達が何処迄進んだのかは分からない、それでも彼女と敦賀が開いた血路を辿って行けば、その行き着く先は中央制御室、そこには自分達が救出するべき人質達が解放の時を待っている。
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