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第332章『居場所』
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第332章『居場所』
ワシントンの常識であれば、何等かの不穏分子に侵入された時の事を想定して『すっきりと分かり易く』とは真逆の設計をする筈の発電所、その制御棟。それなのに大和のその建造物の内部は通路が水道の配管の様に走り、回廊状態の一番外壁側の通路から内部へと向けて規則的に分岐が続いている。挙句には線対称に配置された階段、図面で見た時にはまさか何かの冗談かと思ったが平和ボケも極まりないな、カタギリはドレイクに続いて走りながらそんな事を思いつつ、階段室へと辿り着くと入口を挟んで二手に分かれ、その中へと向けて針金を引き抜いた手榴弾を放り込む。
数秒後に響き渡る爆発音と震動、手榴弾一つだけを放り込んだものとはとても思えないそれに
『流石に相手も馬鹿じゃないですね』
『だな』
ドレイクと入口を挟んで顔を見合わせてそんな遣り取りをし、今度はドレイクが手榴弾を取り出し針金を引き抜くと、カタギリよりも勢いを付けて階段室内の上部へと向けて放り投げた。数秒後に再び二人を襲う大きな爆発音と震動、これで二階の階段室入口迄破壊は出来ただろうかと思いながら中へと入り瓦礫だらけの階段を踊場迄駆け上れば、踊り場迄と同じ様に綺麗に破壊し尽された上へと続く階段と、濛々と立ち込める粉塵の向こうにうっすらと二階の通路から入って来る明かりが見える。
二階の通路へと出る前に今度は二人で左右に向けて手榴弾を一つずつ、立て続けに三度も振動に身体を叩かれつつ廊下へと出れば、思いの外静かな空気に二人は一旦立ち止まって装備を整え直す。
『始末に出てる部隊と指揮所の連絡は円滑に言ってる様だな』
『ですね、迎撃を出して戦力を分散させて消耗するよりも中央を固めた方が良いと判断したんでしょう』
『だな……さて、それならそれで少し余裕が出て来るな』
『ま、突入迄は』
『で?何でお前そんなに落ち込んでるんだよ?』
弾薬の補給や残った手榴弾や爆弾の数を数えながらのドレイクの言葉。カタギリはその言葉の意味が最初は分からず、僅かに眉根を寄せてドレイクを見れば、手元へと視線を落として拳銃を触っていた彼がそれを腰に戻しつつ顔を上げ、カタギリを見下ろしつつ口を開いた。
『一緒の部隊にいた事も有るしお前ともそれなりの長さの付き合いだ。だから言うがな、突入してからはあのツルガってのにタカコのバディ役を譲る事にはなったがよ、それは別にお前が用済みになったわけじゃねぇぞ?』
『……いきなり核心突きますね、あんた……』
『違うか?』
ドレイクのその言葉に、カタギリは直ぐには答えられなかった。
こんな風に戦場に出る時、彼女に一番近いのは、誰よりも相棒としての信頼を置かれているのは自分だという自負が有った。似通った体格、高い技量、彼女が能力全開で動く事を支え、力を貸し、共に生き抜いて来た事を幸せだと思い誇りに思い、これからもそうなのだと疑いもしていなかった。
けれどより緻密な連携が要求される内部での行動の時になって指名されたのは敦賀、出会ってから三年も経っていない様なあんな男に自分の役目を掻っ攫われた事実はカタギリの心にそれなりの衝撃を与え、顔にも態度にも出していないつもりだったのにと俯き加減になりつつ小さく舌を打てば、それを見たドレイクが小さく笑って再度口を開く。
『……俺さ、お前の気持ち、ワシントンにいた時から何と無くは分かってたから、まぁ落ち込む気持ちは分かるよ。お前とあいつが出会った時にはあいつの横にはもうずっと昔からタカユキがいて、あいつ等凄く仲も良かったし、まぁ、お前も気持ちの折り合いも付いてたんだと思う。でもこの国に来てタカユキが死んであいつは独りになって、あいつの横が空いて、それでお前の心理状態にも変化が出るのは、まぁ、当然だわな。で、そんなところに唐突に図体でかくて目付きの悪いのがぽっと出て来てタカユキがいた場所に収まったら、そりゃ、面白くねぇよな。それに――』
『虐めっ子なのは変わってないですね……人の心の傷をザクザク遠慮無しに抉ってくれて……』
ドレイクからずばずばと突き付けられる、誰にも言った事の無かった自分の気持ち。もう勘弁してれ、カタギリはそう苦笑いしつつ彼の言葉を遮り、自分の両の掌へと視線を落としながら言葉を続けた。
『……あの人とどうこうなりたいとか、そんな事は思ってませんよ。ボスは、女としては俺の手には余ります、振り回された挙句に遠くに弾き飛ばされるのがオチですよ。ただ、だから、その代わりにあの人の部下として手駒として、肩を並べて戦う戦友として、一番近いところにいたかったんです……それが、俺の役目であり居場所だと、思いたかったんです』
初めて他人に吐露する自分の気持ち、身分を偽っていた間もそれが露見してからも、タカコが大和に来てからは彼女の隣には常に敦賀の姿が在った。そこはタカユキの居場所だ、その彼がいなくなったのならば次に近いのは自分の筈で、彼女の傍に在り共に戦い護るのは自分の役目なのに、敦賀に対して抱いていた蟠り、嫉妬、そんなものを思い出しながらゆっくりと目を閉じる。
『ボスはもう、多分『答え』を出したんだと思います。だから、あのいけ好かない木偶の坊が本当に大丈夫なのかそれを確かめようとして、それで連れて行った。それも、分かってますよ』
『だったら、そんな顔するなって。今でもあいつと能力的に一番近いのはお前だ、自信持て。多分、中央制御室への突入の時に指名されるのはお前だよ。人質とは言え味方もいる中に突入して銃撃なんてのがツルガにはまだ無理なのはあいつが一番良く分かってる、誰よりも経験の豊富なあいつがな。だから、その前に多分お前とツルガが交代になる、ツルガは俺と一緒に他の部屋の総点検に回される筈だ。それに、ツルガの親父さんも人質の中にいるんだろ?だったら余計にあいつはツルガを使わないよ、自分や部隊や人質の為にも、ツルガの為にもな。あいつのバディを務められるのはまだまだお前が一番上手い、そう落ち込むなって』
慰めとも何とも言い難いドレイクの言葉、カタギリはそれを聞きながら、一度大きく息を吐き顔を上げ装備を抱え直す。
『ボスが答えを出してそれを行動に移したとして、その時には酒に付き合って下さいよ、大尉の奢りで』
『えー、俺が出すのかよ。って、そういや俺そもそも大和の金持ってねぇぞ』
『じゃあ、貸しておくんで本国に戻ったら返して下さい。そろそろ行きましょう、ボス達ももう二階に上がってるでしょうし遅れるわけにいきませんからね』
『だな、行くか』
何とも情け無い状況ではあるものの、それでも肚の内を吐き出して随分楽になった。タカコは自分が全てを捧げても良いと思っている程の頼もしく人望の有る上官ではあるが、当事者であるだけにこの件ばかりはその働きも期待出来なかっただろう。吐き出させてくれたドレイクに胸の内でカタギリは礼を言い、廊下の先へと向かってゆっくりと歩き出した。
ワシントンの常識であれば、何等かの不穏分子に侵入された時の事を想定して『すっきりと分かり易く』とは真逆の設計をする筈の発電所、その制御棟。それなのに大和のその建造物の内部は通路が水道の配管の様に走り、回廊状態の一番外壁側の通路から内部へと向けて規則的に分岐が続いている。挙句には線対称に配置された階段、図面で見た時にはまさか何かの冗談かと思ったが平和ボケも極まりないな、カタギリはドレイクに続いて走りながらそんな事を思いつつ、階段室へと辿り着くと入口を挟んで二手に分かれ、その中へと向けて針金を引き抜いた手榴弾を放り込む。
数秒後に響き渡る爆発音と震動、手榴弾一つだけを放り込んだものとはとても思えないそれに
『流石に相手も馬鹿じゃないですね』
『だな』
ドレイクと入口を挟んで顔を見合わせてそんな遣り取りをし、今度はドレイクが手榴弾を取り出し針金を引き抜くと、カタギリよりも勢いを付けて階段室内の上部へと向けて放り投げた。数秒後に再び二人を襲う大きな爆発音と震動、これで二階の階段室入口迄破壊は出来ただろうかと思いながら中へと入り瓦礫だらけの階段を踊場迄駆け上れば、踊り場迄と同じ様に綺麗に破壊し尽された上へと続く階段と、濛々と立ち込める粉塵の向こうにうっすらと二階の通路から入って来る明かりが見える。
二階の通路へと出る前に今度は二人で左右に向けて手榴弾を一つずつ、立て続けに三度も振動に身体を叩かれつつ廊下へと出れば、思いの外静かな空気に二人は一旦立ち止まって装備を整え直す。
『始末に出てる部隊と指揮所の連絡は円滑に言ってる様だな』
『ですね、迎撃を出して戦力を分散させて消耗するよりも中央を固めた方が良いと判断したんでしょう』
『だな……さて、それならそれで少し余裕が出て来るな』
『ま、突入迄は』
『で?何でお前そんなに落ち込んでるんだよ?』
弾薬の補給や残った手榴弾や爆弾の数を数えながらのドレイクの言葉。カタギリはその言葉の意味が最初は分からず、僅かに眉根を寄せてドレイクを見れば、手元へと視線を落として拳銃を触っていた彼がそれを腰に戻しつつ顔を上げ、カタギリを見下ろしつつ口を開いた。
『一緒の部隊にいた事も有るしお前ともそれなりの長さの付き合いだ。だから言うがな、突入してからはあのツルガってのにタカコのバディ役を譲る事にはなったがよ、それは別にお前が用済みになったわけじゃねぇぞ?』
『……いきなり核心突きますね、あんた……』
『違うか?』
ドレイクのその言葉に、カタギリは直ぐには答えられなかった。
こんな風に戦場に出る時、彼女に一番近いのは、誰よりも相棒としての信頼を置かれているのは自分だという自負が有った。似通った体格、高い技量、彼女が能力全開で動く事を支え、力を貸し、共に生き抜いて来た事を幸せだと思い誇りに思い、これからもそうなのだと疑いもしていなかった。
けれどより緻密な連携が要求される内部での行動の時になって指名されたのは敦賀、出会ってから三年も経っていない様なあんな男に自分の役目を掻っ攫われた事実はカタギリの心にそれなりの衝撃を与え、顔にも態度にも出していないつもりだったのにと俯き加減になりつつ小さく舌を打てば、それを見たドレイクが小さく笑って再度口を開く。
『……俺さ、お前の気持ち、ワシントンにいた時から何と無くは分かってたから、まぁ落ち込む気持ちは分かるよ。お前とあいつが出会った時にはあいつの横にはもうずっと昔からタカユキがいて、あいつ等凄く仲も良かったし、まぁ、お前も気持ちの折り合いも付いてたんだと思う。でもこの国に来てタカユキが死んであいつは独りになって、あいつの横が空いて、それでお前の心理状態にも変化が出るのは、まぁ、当然だわな。で、そんなところに唐突に図体でかくて目付きの悪いのがぽっと出て来てタカユキがいた場所に収まったら、そりゃ、面白くねぇよな。それに――』
『虐めっ子なのは変わってないですね……人の心の傷をザクザク遠慮無しに抉ってくれて……』
ドレイクからずばずばと突き付けられる、誰にも言った事の無かった自分の気持ち。もう勘弁してれ、カタギリはそう苦笑いしつつ彼の言葉を遮り、自分の両の掌へと視線を落としながら言葉を続けた。
『……あの人とどうこうなりたいとか、そんな事は思ってませんよ。ボスは、女としては俺の手には余ります、振り回された挙句に遠くに弾き飛ばされるのがオチですよ。ただ、だから、その代わりにあの人の部下として手駒として、肩を並べて戦う戦友として、一番近いところにいたかったんです……それが、俺の役目であり居場所だと、思いたかったんです』
初めて他人に吐露する自分の気持ち、身分を偽っていた間もそれが露見してからも、タカコが大和に来てからは彼女の隣には常に敦賀の姿が在った。そこはタカユキの居場所だ、その彼がいなくなったのならば次に近いのは自分の筈で、彼女の傍に在り共に戦い護るのは自分の役目なのに、敦賀に対して抱いていた蟠り、嫉妬、そんなものを思い出しながらゆっくりと目を閉じる。
『ボスはもう、多分『答え』を出したんだと思います。だから、あのいけ好かない木偶の坊が本当に大丈夫なのかそれを確かめようとして、それで連れて行った。それも、分かってますよ』
『だったら、そんな顔するなって。今でもあいつと能力的に一番近いのはお前だ、自信持て。多分、中央制御室への突入の時に指名されるのはお前だよ。人質とは言え味方もいる中に突入して銃撃なんてのがツルガにはまだ無理なのはあいつが一番良く分かってる、誰よりも経験の豊富なあいつがな。だから、その前に多分お前とツルガが交代になる、ツルガは俺と一緒に他の部屋の総点検に回される筈だ。それに、ツルガの親父さんも人質の中にいるんだろ?だったら余計にあいつはツルガを使わないよ、自分や部隊や人質の為にも、ツルガの為にもな。あいつのバディを務められるのはまだまだお前が一番上手い、そう落ち込むなって』
慰めとも何とも言い難いドレイクの言葉、カタギリはそれを聞きながら、一度大きく息を吐き顔を上げ装備を抱え直す。
『ボスが答えを出してそれを行動に移したとして、その時には酒に付き合って下さいよ、大尉の奢りで』
『えー、俺が出すのかよ。って、そういや俺そもそも大和の金持ってねぇぞ』
『じゃあ、貸しておくんで本国に戻ったら返して下さい。そろそろ行きましょう、ボス達ももう二階に上がってるでしょうし遅れるわけにいきませんからね』
『だな、行くか』
何とも情け無い状況ではあるものの、それでも肚の内を吐き出して随分楽になった。タカコは自分が全てを捧げても良いと思っている程の頼もしく人望の有る上官ではあるが、当事者であるだけにこの件ばかりはその働きも期待出来なかっただろう。吐き出させてくれたドレイクに胸の内でカタギリは礼を言い、廊下の先へと向かってゆっくりと歩き出した。
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