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第348章『休日』
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第348章『休日』
心地良い疲れと温もりの中に漂う意識。昨日はタカコの腕を引いて宿に入り、そのまま彼女を寝台に押し倒し、それから――、ああ、そうだ、最後は意識を飛ばしてぐったりとしてしまった彼女の寝顔を見ながら自分も眠りに落ちた気がする。段々と現実へと浮上しつつある意識でそんな事を考える敦賀、腕の中の温もりが動いた気がしてゆっくりと目を開けてみれば、そこには先に目を覚ましたのかじっとこちらを見詰めるタカコの姿が在った。
「……起きてたのか」
「うん、お前の寝顔を見てた」
「……見なくて良い」
何とも気恥ずかしい心持ちになってタカコの頭を抱き抱え胸板に押し付ければ、胸元から響いて来たのは彼女の笑う声。何を笑っているのかと問い掛ければ、
「っ……いや、お前、昨日、いきなり『中で出しても良いか』って聞くんだもん……今迄散々中出ししておいて今更かよって思ってさ。いや、何をどう考えてくれてああ言ったのかってのは分かるけど、気を遣い過ぎ」
今迄タカコを抱いて断りも無く中へと吐き出して来たのは、偏に自分の身勝手な願望の為。立場の有る彼女がその事に対して何も言わず拒否もしなかったのは、妊娠してややこしくなる事が無いと分かっているからという事に、一年以上も気が付かなかった自分の鈍さには眩暈すら感じたし、それ以上に子供とそれを宿し育てる機能を失った彼女に対して酷い侮辱行為を続けていた、と、あの告白を聞きながら考えた。漸く想いが通じ合った、自分の想いを受け入れてくれた後の行為とは言え、今迄通りに何も言わずに中に吐き出す事は敦賀にはどうしても出来ず、タカコに許しを請う事しか出来なかった。
敦賀のそんな葛藤はタカコにも充分に伝わっているのか、背中に腕が回されて抱き付かれ、
「……有り難う、私の気持ち、考えてくれて」
そんな言葉が胸板を通じて伝わって来る。その優しさと温かさ、それは今の敦賀にとっては何とも言えず嬉しく、そして愛しいもので、タカコの身体を抱き締めて髪へと口付けを落とし、ゆっくりと体勢を変えて覆い被さった後は見上げる彼女の唇へと深い口付けを落とす。
「……腹、減ったな。外に出て飯食うか」
「ん。その後は?基地に戻る?」
「いや、今日も営外に泊まる。戻るのは明日の朝だ。飯食った後は……適当にぶらぶらするか、買い物とか」
「……本気で休むんだ……」
「当たり前だ、何の為に着替えて来たと思ってんだ」
「はいはい……取り敢えずひとっ風呂浴びて来るわ、もうあちこちベッタベタだし」
敦賀の言葉に呆れた様な声音で言葉を返したタカコが起き上がり、風呂場へと消えて行く。敦賀はその背中を見送りながらゆっくりと身体を起こし、寝台の脇に脱ぎ捨てた自分の上着を拾い上げてそのポケットから煙草を取り出し、それを咥えて火を点けた後は、吐き出した煙で薄く霞む天井をぼんやりと眺めていた。
突然通じ、そして受け入れられた想い、今でも未だ信じられないと思う気持ちは残るものの、今迄に感じた事の無い高揚感、そして幸福感が自分の中に満ちているのをはっきりと感じる事が出来る。もしかしたら駄目なのかも知れないと思っていた、間に合わないのかも知れないと思っていた。それが突然に通じ戸惑う気持ちは有るものの、漸く腕の中に収める事が出来たタカコを手放す気は毛頭無い、全ての問題が片付いたわけではないが、そちらは残された時間の中でしっかり向き合い話し合わなければな、と、そんな事を考えている内にタカコが風呂から出て来る。濡れた髪を適当に拭いて床に落ちた服や下着へと手を伸ばす様子を見て目を細め、
「風邪ひくぞ。来い、拭いてやるから」
そう言って彼女へと向かい手を伸ばした。
タカコの髪を乾かしてやった後は敦賀が風呂を遣い、二人揃って宿を出る。時刻はそろそろ正午になろうかという頃合いで、適当な定食屋に入って食事をした後は店を出て、特に何をするでもなく日中の中洲の街をぶらぶらとうろついた。
「服でも買うか」
「あー、そういやそろそろ今着てるのもくたびれて来てるしなぁ、新しいの一枚位欲しいかな、後下着も。敦賀もだいぶくってりしてるな、それ」
「俺は別に服は良いんだが、髭剃りの替え刃の新しいのが欲しい」
「酒保に売ってるじゃん」
「肌に合わねぇんだアレ、剃刀負けして赤くなる」
「あら、意外と繊細」
そんな事を話しながら歩く中洲の街並み、今いるのは飲み屋や屋台の多い区画と連れ込み宿の多い区画の丁度境界の辺り、普段出歩く時分なら街に繰り出した軍人達やその彼等と共に歩く女達で賑わっているが、陽の光の降り注ぐ今はその賑わいも無く、食材や酒を配達する車が行き交い店員達が営業開始前に荷物を運んだり店先や道の掃除をしたり、その程度だ。そんな中を並んでゆったりと歩く二人の手はいつの間にか繋がれ、絡んだ指は離れる事も無い。
「夕飯は久し振りに胡麻鯖が食べたい」
「……つい今さっき昼飯食ったばっかりだぞ」
「そうだけど、別に良いじゃん、何が食べたいか言ったって」
「……いや、そうじゃなくてな……腹減ってねぇ時に何が食いたいとかそもそも考えねぇだろう」
「え?そう?」
三大欲の中では食い気が断トツのタカコ、こんなところは全く変わっていないなと敦賀が溜息を吐きつつも目を細めれば、それを見上げたタカコがふわりと笑う。
「……とにかく、この辺りうろついてても何も無ぇしな、服屋だの雑貨屋だの見に行くか」
「うん、そうしよ」
そんな事を言いながらゆっくりと進む方向を変える敦賀、タカコもそれに続き、そんな時にも手はしっかりと繋いだまま、二人は中洲の街並みへと消えて行った。
心地良い疲れと温もりの中に漂う意識。昨日はタカコの腕を引いて宿に入り、そのまま彼女を寝台に押し倒し、それから――、ああ、そうだ、最後は意識を飛ばしてぐったりとしてしまった彼女の寝顔を見ながら自分も眠りに落ちた気がする。段々と現実へと浮上しつつある意識でそんな事を考える敦賀、腕の中の温もりが動いた気がしてゆっくりと目を開けてみれば、そこには先に目を覚ましたのかじっとこちらを見詰めるタカコの姿が在った。
「……起きてたのか」
「うん、お前の寝顔を見てた」
「……見なくて良い」
何とも気恥ずかしい心持ちになってタカコの頭を抱き抱え胸板に押し付ければ、胸元から響いて来たのは彼女の笑う声。何を笑っているのかと問い掛ければ、
「っ……いや、お前、昨日、いきなり『中で出しても良いか』って聞くんだもん……今迄散々中出ししておいて今更かよって思ってさ。いや、何をどう考えてくれてああ言ったのかってのは分かるけど、気を遣い過ぎ」
今迄タカコを抱いて断りも無く中へと吐き出して来たのは、偏に自分の身勝手な願望の為。立場の有る彼女がその事に対して何も言わず拒否もしなかったのは、妊娠してややこしくなる事が無いと分かっているからという事に、一年以上も気が付かなかった自分の鈍さには眩暈すら感じたし、それ以上に子供とそれを宿し育てる機能を失った彼女に対して酷い侮辱行為を続けていた、と、あの告白を聞きながら考えた。漸く想いが通じ合った、自分の想いを受け入れてくれた後の行為とは言え、今迄通りに何も言わずに中に吐き出す事は敦賀にはどうしても出来ず、タカコに許しを請う事しか出来なかった。
敦賀のそんな葛藤はタカコにも充分に伝わっているのか、背中に腕が回されて抱き付かれ、
「……有り難う、私の気持ち、考えてくれて」
そんな言葉が胸板を通じて伝わって来る。その優しさと温かさ、それは今の敦賀にとっては何とも言えず嬉しく、そして愛しいもので、タカコの身体を抱き締めて髪へと口付けを落とし、ゆっくりと体勢を変えて覆い被さった後は見上げる彼女の唇へと深い口付けを落とす。
「……腹、減ったな。外に出て飯食うか」
「ん。その後は?基地に戻る?」
「いや、今日も営外に泊まる。戻るのは明日の朝だ。飯食った後は……適当にぶらぶらするか、買い物とか」
「……本気で休むんだ……」
「当たり前だ、何の為に着替えて来たと思ってんだ」
「はいはい……取り敢えずひとっ風呂浴びて来るわ、もうあちこちベッタベタだし」
敦賀の言葉に呆れた様な声音で言葉を返したタカコが起き上がり、風呂場へと消えて行く。敦賀はその背中を見送りながらゆっくりと身体を起こし、寝台の脇に脱ぎ捨てた自分の上着を拾い上げてそのポケットから煙草を取り出し、それを咥えて火を点けた後は、吐き出した煙で薄く霞む天井をぼんやりと眺めていた。
突然通じ、そして受け入れられた想い、今でも未だ信じられないと思う気持ちは残るものの、今迄に感じた事の無い高揚感、そして幸福感が自分の中に満ちているのをはっきりと感じる事が出来る。もしかしたら駄目なのかも知れないと思っていた、間に合わないのかも知れないと思っていた。それが突然に通じ戸惑う気持ちは有るものの、漸く腕の中に収める事が出来たタカコを手放す気は毛頭無い、全ての問題が片付いたわけではないが、そちらは残された時間の中でしっかり向き合い話し合わなければな、と、そんな事を考えている内にタカコが風呂から出て来る。濡れた髪を適当に拭いて床に落ちた服や下着へと手を伸ばす様子を見て目を細め、
「風邪ひくぞ。来い、拭いてやるから」
そう言って彼女へと向かい手を伸ばした。
タカコの髪を乾かしてやった後は敦賀が風呂を遣い、二人揃って宿を出る。時刻はそろそろ正午になろうかという頃合いで、適当な定食屋に入って食事をした後は店を出て、特に何をするでもなく日中の中洲の街をぶらぶらとうろついた。
「服でも買うか」
「あー、そういやそろそろ今着てるのもくたびれて来てるしなぁ、新しいの一枚位欲しいかな、後下着も。敦賀もだいぶくってりしてるな、それ」
「俺は別に服は良いんだが、髭剃りの替え刃の新しいのが欲しい」
「酒保に売ってるじゃん」
「肌に合わねぇんだアレ、剃刀負けして赤くなる」
「あら、意外と繊細」
そんな事を話しながら歩く中洲の街並み、今いるのは飲み屋や屋台の多い区画と連れ込み宿の多い区画の丁度境界の辺り、普段出歩く時分なら街に繰り出した軍人達やその彼等と共に歩く女達で賑わっているが、陽の光の降り注ぐ今はその賑わいも無く、食材や酒を配達する車が行き交い店員達が営業開始前に荷物を運んだり店先や道の掃除をしたり、その程度だ。そんな中を並んでゆったりと歩く二人の手はいつの間にか繋がれ、絡んだ指は離れる事も無い。
「夕飯は久し振りに胡麻鯖が食べたい」
「……つい今さっき昼飯食ったばっかりだぞ」
「そうだけど、別に良いじゃん、何が食べたいか言ったって」
「……いや、そうじゃなくてな……腹減ってねぇ時に何が食いたいとかそもそも考えねぇだろう」
「え?そう?」
三大欲の中では食い気が断トツのタカコ、こんなところは全く変わっていないなと敦賀が溜息を吐きつつも目を細めれば、それを見上げたタカコがふわりと笑う。
「……とにかく、この辺りうろついてても何も無ぇしな、服屋だの雑貨屋だの見に行くか」
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