大和―YAMATO― 第四部

良治堂 馬琴

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第370章『表裏一体』

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第370章『表裏一体』

 爆煙の立ち上る博多の空、その下、博多の街には普段の活気に満ちた様子は無く、方々から火の手が上がり空気に充満するのは火薬と煙と物が焼けて焦げた匂い、そして、人々の叫びと呻きと、生臭く鉄臭い死臭。
「増援頼め!!陸軍だけじゃ手に負えんぞこりゃ!!」
「海兵隊も出てますよ、手一杯です!!」
「陸軍!手伝いに来たぞ、何をやれば良いか教えてくれ!!」
「助かる!取り敢えず負傷者の搬送を!優先順位で色分けしてある、赤札を最優先で搬送してくれ、その後は黄色、次に緑の順番だ!!」
「黒札は!?」
「手遅れだ!今はまだ生きててももうどうにもならん、置いておけ!!」
「……分かった!!」
 火発占拠事件を受け、それ以降の博多の軍事施設の警備は厳重の一語に尽きる程に厳しくなった。今迄は民間人も割合と気軽に中に入る事が出来たがそれも無くなり、夫々の基地や駐屯地の創立記念式典とそれに伴う敷地の開放は今年度は中止となり、夏の納涼祭も同じ様に中止が決定された。
 火発が狙われたのなら次は本丸である基地が、その想定で警備計画が進められていた中、それを嘲笑うかの様に、犠牲になったのは無辜の民間人達。何の前触れも無く博多の街の一角が吹き飛び、最初の爆発で五十余名が命を落とした。その後も立て続けに爆弾はその獰猛な牙を剥き、その度に少なくない数の民間人が犠牲となっている。爆破の規模も設置場所も前回の爆破からの間も共通性は全く無く、次の見当を付けて阻止に向けて動く事も出来ずに対応は後手後手に回り続けている。
 そして今日もまた陸軍と警察の警備の間隙を突き、爆弾が一つ大きく爆ぜた。今迄よりも一際大きな爆発、死傷者の数も確実に最大最悪になるだろう。それでもだからと言って諦める事も放棄する事もせずに目の前の事態へと立ち向かう陸軍や海兵隊の兵士達、その中には少し前に佐世保から帰還した海兵隊上級曹長、藤田の姿も有った。
 もし起爆前の爆弾を発見出来ればその時には解除作業に掛かるつもりで道具は一式持ち出して来てはいるものの、発見どころか設置場所の見当を付ける事も出来ず、道具は今のところ邪魔臭い腰の重しにしかなっていない。それでも爆破の状態や現場の様子から類推する爆弾の規模や種類を一つ一つ見る度、藤田の胸にどす黒い嫌な感覚が少しずつ少しずつ積もっていく。
「ヒデさん!?どうしたんすか!?」
「いや……先任か司令は――」
「いるわけ無いでしょう!?司令は基地の指揮所で総指揮執ってるし先任もその下で動いてますよ!!何言ってるんですか!?」
「……ああ、そうだよな……次に行くぞ!!」
 段々と確信に変わっていく胸中の嫌な感覚、早く、一刻も早く高根や小此木や敦賀に知らせた方が良い。現場には出ていない彼等は、爆弾との関わりが自分よりも薄い彼等はきっと気付いていない、現時点で気付いているのは、恐らくは自分だけだ。そう思いはするものの流石に目の前の惨状を放置してでも知らせに行く事も出来ず、藤田は
「……クソが!!外れててくれよ!!」
 と、そう吐き捨て、戦場さながらの様相を呈する博多の街並みを次へと向けて走り出した。

「……俺の聞き違いか?もう一度言ってくれ」
 時刻は深夜、場所は海兵隊総司令執務室。執務机の前には藤田が強張った面持ちで立ち、その彼を椅子に座った高根が鋭い目付きと空気を纏い真っ直ぐに見据え口を開く。二人の周囲には副司令の小此木、陸軍総監の黒川、陸軍博多駐屯地司令の横山、統幕副長である敦賀の父、そして敦賀の姿が有り、彼等もまた一様に異様に鋭い空気を纏って藤田の次の言葉を待っていた。
「……はい、今回の連続爆破事件、犯人はタカコかも知れません」
 つい今し方と同じ事を繰り返す藤田の言葉、途端に周囲の全員の纏う空気が更に張り詰め、怒りの感情を隠そうともせずに藤田へと鋭さを増した視線を向ける。その怒りは藤田へと向けたものなのかそれとも話題の俎上に上がった人物であるタカコへ向けてのものなのか、それは誰にも、当人達ですら分からない。しかし『タカコが爆破事件の犯人の可能性が有る』という事実そのものが聞き捨てならないものであり、それを口にした藤田の真意が何処に有るのか、そう思った理由は何なのか、先ずはそれを確かめようと高根は
「理由は?タカコがどれだけ大和に対して貢献してくれていたのか、お前も知らないわけじゃないだろう。そんなお前があいつが犯人だと思った理由、それを聞かせてくれ」
 と、努めて静かに藤田へと問い掛ける。
「……自分は、タカコから直接爆発物処理やその他の罠の設置について手解きを受けました。ですから、多少なりとも彼女の癖は分かっているつもりですし、それ以前に最初に彼女に言われた事は理解し実践しているつもりです」
「言われた事?」
「はい、『設置と排除は表裏一体、排除する立場になる時、一番重要なのは仕掛ける側の意識になりきる事だ、それが発見や解除への一番の近道だ』と。何処にどんなものをどういう風に仕掛ければ一番効率的なのか、少ない手数で多く殺せるのか、仕掛ける側はそれを考え場所や設置方法や爆弾の種類を選定します。それを突き詰めて考え意識を重ね合わせて行けば、自然と見付けられるようになると、あいつは、タカコは俺に繰り返し叩き込みました」
「……それで?」
「今回も現場に立ちそれを実践していました、残念ながら現在迄起爆前の発見には至っていませんが、それでも相手の思惑や癖、人物像の輪郭が薄らとではありますが見えて来た気がします。相手は爆破に関して非常に有能です、何処に何をどう設置してどの時点で起爆すれば最大の被害を与えられるのか分かっています。その上、我々大和軍がどう動くかも見切っている様に思います……まるで、我々の近で長期間我々を観察し、手の内を知っているかの様に」
「……それが可能な最有力候補があいつ、と、お前はそう判断するんだな?」
「そうです」
「あいつがどれだけ自分を犠牲にし危険に晒し貢献してくれていたか、それを知っていて尚、あいつが犯人である可能性が高いと、そう、言うんだな?」
「……はい、そうです。彼女の人柄も貢献の度合いも、司令達程ではないにしろ自分もよく分かっているつもりです。しかし、その事と今回の事については全くの別件です、少なくとも自分はそう考えます」
 立場を考えての控え目な藤田の言葉、それでもそれが告げる内容は確固たる強さに満ち、眼差しもそれと同じ色に満ちている。迷いは無いな、と、高根はそれを見てそう思いながら深く息を吸い込んだ。
 考えていなかったわけではない、大和側の一歩先を行き裏を掻き続ける一連の爆破事件の犯人、その高い技量と数歩先を行き続ける動き、それを目にする度にあの面影がちらついた。事件が起き始めたのはタカコ達が佐世保からも姿を消して少し経ってからの事、時期的にも綺麗に合致する。
 本国が侵攻の判断を下せば自分達はそれに従う、露払いの尖兵となるのだと彼女は言っていた、あの言葉の通りに動き出した、そういう事なのかも知れない。
 それでも信じたくはないのだ、彼女と共に在り戦って来た二年九ヶ月、それを否定したくないという想いもまた、高根の、そして恐らくは副長以外の全員に共通するものだろう。
「……とにかく、情報の収集を、断定にはまだ早い、分かったな?」
 そう告げるのがやっとの高根、他の面々は何とも言えない面持ちのまま、その様子を見詰めていた。
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