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リューシャ編
9話
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「…助けて…」
口から漏れた心の声が神にほんの微かに聞こえた。
「…ん?今こいつ、なんか言ったか?」
「気のせいじゃないか?とにかく、こいつは捕まえ…」
そこから、神たちの声は突然聞こえなくなってしまう。
″…あれ…?声が、聞こえなくなった…?私は…なにも、されてないし…何が…起こったの…?″
そう、痛みを我慢して起き上がろうかと思ったそのとき。
「…大丈夫?」
「…っ?!」
少し少年ぽさの残る声が聞こえ、固まってしまうリリエ。
″…これはこのまま倒れたふりしてた方がいいのかな…なんか、すっごく恐いんだけど…!″
「…あー、警戒してるのなら安心して良いよ。俺、真面目にルクト兄さんに頼まれたから色々と。」
「っ!ルクトに?!」
その言葉で足の痛みを完全に忘れ、飛び起きるリリエ。近くには声のまんまの、リリエと同い年ぐらいの藍色の髪の少年が立っていた。
「うん。というか、大丈夫?城の見張りにやられかけてたけど」
「あ、うんそれは大丈夫だけど…!」
リリエはふと少年越しに後ろの方を見て、目を見開いた。そこには、全員氷漬けにされた見張りたちがいた。
「見張りが…全員…これ、君が…?」
「そうに決まってるでしょ。俺以外の誰が出来るっていうの?」
そう言うと、少年はリリエを一瞥して一言言った。
「…想像以上に強いね。あんな挟み撃ちされかかってる状態で魔法行使するなんて、なかなか勇気あると思うよ。」
「いや…あれ、とっさにやったものだから成功するかも怪しかったし…それにすぐまたピンチになっちゃったからたいしてすごいことでもないよ。多分。あ、いい忘れてたね、ありがとう。偶然なのか、私のためかは全然わかんないけど。」
その言葉に少年は下を向くと、小さく呟いた。
「〔・・・の・・だよ〕」
「え?今、なにか言った?」
「なにも言ってない。」
リリエの問いかけに少年は素っ気なく返した。
「あ、助けてくれたのは嬉しいんだけど、君も私の迷惑に巻き込むわけには…」
「いや、もう思いっきり巻き込まれてるから、今更止めなくても大丈夫。」
そう、少年が後ろをちらりと向いたそのとき、少年の後方の遠くから神たちが集団で走ってくるのが見えた。
「…!あ、…あの数を相手に…?!」
その言葉で少年は後ろを向き、神たちを目で確認すると言った。
「あー、あんなの相手してたらきりないから、行くよ。」
すると少年は戸惑いなくリリエをお姫様抱っこで持ち上げると、地面である雲を思いきり蹴った。そのとたん、2人の体は空高くまで飛び上がる。
「へ…ちょ、ちょっと…高いってぇぇ!」
「捕まっててよ。下手したら落ちるから。」
少年は空中で少し滞空すると、城がある方とは逆方向へ飛び始める。
「え、ま、待って!城は逆じゃないの?君、逆に行ってる気が…」
「…〔・・…か…〕」
何かを呟いたような呟いていないような、そもそもこちらの話を聞いているのかわからない少年にリリエは声をかける。
「?ちょ、ちょっと君?聞いてる?おーい?」
「聞いてるよ。あの城はフェイク。幻だよ。普通の奴には見分けられないから仕方ないけど。」
少年はそう言うと、言葉を続ける。
「…あとそれと、俺はスカイ・レーシェード。……名前の後に〈くん〉とか余計なものつけないでよ。俺そういうの嫌いだから。」
「え?あ、うん。あ、私はリリエ・レスタナー。よろしくね。スカイ。」
「…うん、よろしく。」
″…なんだか、ちょっと不思議な子だな…スカイって。″
リリエはふとそう感じた。それからしばらくして、未だ見えない城に向かって飛んでいる途中、リリエが呟くようにスカイに言った。
「…スカイ…やっぱり、歩かない…?」
「…なんで?」
「いや、なんか…この体勢、私慣れないし…場所が分かってたら飛ばなくてもいいんじゃないかと…」
そうリリエは自分がスカイに、否、初対面の子にお姫様抱っこされて上空を飛んでいる事実を再認する。が、それにスカイは冷たく言った。
「悪いけど、歩いていったら城は絶対見つけられないし、君怪我してるでしょ。足と腕。それなのに歩かせるわけにはいかない。」
「あ…」
そこで、自分が足と腕を怪我していたことを思い出す。
「私…腕と足のどこか怪我してたんだった…」
「どこかって、自分で分かってないんだ?」
スカイの言葉に軽く頷くリリエ。
「…じゃあ、悪いけど城の前に着いたら怪我みるから、飛んでる途中痛くなったとしても、ちょっと我慢してよ。」
「あ、う、うん」
リリエは若干戸惑いながらも頷く。そしてしばらく飛んで、皇都から出て少しした、大きな空き地の上でスカイは止まった。
「どうしたの?スカイ?」
「…着いたよ。」
そう言いながら、スカイは地面に降り立った。
「あれ?でも城ってここは…」
「待って。怪我してるんだからじっとしてて。」
怪我をしていることも忘れ、空き地の真ん中をスカイが抱く腕から身を乗り出してまで見るリリエを優しく下ろすと、しばらくリリエの足をスカイは見つめていたが、スカイはそっとリリエの右足の膝に触れた。
「…いっ…」
少しだけスカイの触れた膝に痛みが走った。その反応を見て、スカイはすぐ右手をその右膝にかざす。
「…【ヒーリンス・キェリアー】」
その詠唱を唱えると、少し痛みの残っていた膝が痛くなくなり、同時に一緒に治したのか、腕の傷もきれいに消えていた。
「うわ…すごい…全然痛くなくなった。」
「傷はほとんど癒えたから、もう戦っても支障はないと思うけど…」
スカイはそこで言葉を切った。
「?どうしたの?スカイ」
「…戦い方に支障がありすぎてかわいそうに見えてくるね…」
「…は?」
リリエはそこで生まれて初めて目の前の人物を殴りたい衝動に駆られたが、その衝動を初対面の人だからという理由で限界まで押さえ込み、リリエは言った。
「…じゃあ、戦い方教えてよ。そう言うくらいなら!」
「え?戦い方…?」
「そうっ!」
リリエの言葉にスカイはしばし考えて、言った。
「戦い方って言っても…戦闘時に魔法を効果的に使ってるから、そこは良いと思う。じゃあ、なにがダメかっていうと…それは、多分攻撃の避け方。」
「あ…そういえば、私避け方分かんなくて腕怪我したんだった…」
そっとリリエは腕を怪我していたところに触れた。
「でも、避け方なんて自分で見つけるものだから、教えられることなんてない。」
「そっか…」
″うーん…だったら、これから怪我することが増えそうだなぁ…その度にスカイに治してもらうなんてことできないし…″
そういろいろ考えていたその時、リリエの耳にかすかに何らかの音が聞こえてきた。
口から漏れた心の声が神にほんの微かに聞こえた。
「…ん?今こいつ、なんか言ったか?」
「気のせいじゃないか?とにかく、こいつは捕まえ…」
そこから、神たちの声は突然聞こえなくなってしまう。
″…あれ…?声が、聞こえなくなった…?私は…なにも、されてないし…何が…起こったの…?″
そう、痛みを我慢して起き上がろうかと思ったそのとき。
「…大丈夫?」
「…っ?!」
少し少年ぽさの残る声が聞こえ、固まってしまうリリエ。
″…これはこのまま倒れたふりしてた方がいいのかな…なんか、すっごく恐いんだけど…!″
「…あー、警戒してるのなら安心して良いよ。俺、真面目にルクト兄さんに頼まれたから色々と。」
「っ!ルクトに?!」
その言葉で足の痛みを完全に忘れ、飛び起きるリリエ。近くには声のまんまの、リリエと同い年ぐらいの藍色の髪の少年が立っていた。
「うん。というか、大丈夫?城の見張りにやられかけてたけど」
「あ、うんそれは大丈夫だけど…!」
リリエはふと少年越しに後ろの方を見て、目を見開いた。そこには、全員氷漬けにされた見張りたちがいた。
「見張りが…全員…これ、君が…?」
「そうに決まってるでしょ。俺以外の誰が出来るっていうの?」
そう言うと、少年はリリエを一瞥して一言言った。
「…想像以上に強いね。あんな挟み撃ちされかかってる状態で魔法行使するなんて、なかなか勇気あると思うよ。」
「いや…あれ、とっさにやったものだから成功するかも怪しかったし…それにすぐまたピンチになっちゃったからたいしてすごいことでもないよ。多分。あ、いい忘れてたね、ありがとう。偶然なのか、私のためかは全然わかんないけど。」
その言葉に少年は下を向くと、小さく呟いた。
「〔・・・の・・だよ〕」
「え?今、なにか言った?」
「なにも言ってない。」
リリエの問いかけに少年は素っ気なく返した。
「あ、助けてくれたのは嬉しいんだけど、君も私の迷惑に巻き込むわけには…」
「いや、もう思いっきり巻き込まれてるから、今更止めなくても大丈夫。」
そう、少年が後ろをちらりと向いたそのとき、少年の後方の遠くから神たちが集団で走ってくるのが見えた。
「…!あ、…あの数を相手に…?!」
その言葉で少年は後ろを向き、神たちを目で確認すると言った。
「あー、あんなの相手してたらきりないから、行くよ。」
すると少年は戸惑いなくリリエをお姫様抱っこで持ち上げると、地面である雲を思いきり蹴った。そのとたん、2人の体は空高くまで飛び上がる。
「へ…ちょ、ちょっと…高いってぇぇ!」
「捕まっててよ。下手したら落ちるから。」
少年は空中で少し滞空すると、城がある方とは逆方向へ飛び始める。
「え、ま、待って!城は逆じゃないの?君、逆に行ってる気が…」
「…〔・・…か…〕」
何かを呟いたような呟いていないような、そもそもこちらの話を聞いているのかわからない少年にリリエは声をかける。
「?ちょ、ちょっと君?聞いてる?おーい?」
「聞いてるよ。あの城はフェイク。幻だよ。普通の奴には見分けられないから仕方ないけど。」
少年はそう言うと、言葉を続ける。
「…あとそれと、俺はスカイ・レーシェード。……名前の後に〈くん〉とか余計なものつけないでよ。俺そういうの嫌いだから。」
「え?あ、うん。あ、私はリリエ・レスタナー。よろしくね。スカイ。」
「…うん、よろしく。」
″…なんだか、ちょっと不思議な子だな…スカイって。″
リリエはふとそう感じた。それからしばらくして、未だ見えない城に向かって飛んでいる途中、リリエが呟くようにスカイに言った。
「…スカイ…やっぱり、歩かない…?」
「…なんで?」
「いや、なんか…この体勢、私慣れないし…場所が分かってたら飛ばなくてもいいんじゃないかと…」
そうリリエは自分がスカイに、否、初対面の子にお姫様抱っこされて上空を飛んでいる事実を再認する。が、それにスカイは冷たく言った。
「悪いけど、歩いていったら城は絶対見つけられないし、君怪我してるでしょ。足と腕。それなのに歩かせるわけにはいかない。」
「あ…」
そこで、自分が足と腕を怪我していたことを思い出す。
「私…腕と足のどこか怪我してたんだった…」
「どこかって、自分で分かってないんだ?」
スカイの言葉に軽く頷くリリエ。
「…じゃあ、悪いけど城の前に着いたら怪我みるから、飛んでる途中痛くなったとしても、ちょっと我慢してよ。」
「あ、う、うん」
リリエは若干戸惑いながらも頷く。そしてしばらく飛んで、皇都から出て少しした、大きな空き地の上でスカイは止まった。
「どうしたの?スカイ?」
「…着いたよ。」
そう言いながら、スカイは地面に降り立った。
「あれ?でも城ってここは…」
「待って。怪我してるんだからじっとしてて。」
怪我をしていることも忘れ、空き地の真ん中をスカイが抱く腕から身を乗り出してまで見るリリエを優しく下ろすと、しばらくリリエの足をスカイは見つめていたが、スカイはそっとリリエの右足の膝に触れた。
「…いっ…」
少しだけスカイの触れた膝に痛みが走った。その反応を見て、スカイはすぐ右手をその右膝にかざす。
「…【ヒーリンス・キェリアー】」
その詠唱を唱えると、少し痛みの残っていた膝が痛くなくなり、同時に一緒に治したのか、腕の傷もきれいに消えていた。
「うわ…すごい…全然痛くなくなった。」
「傷はほとんど癒えたから、もう戦っても支障はないと思うけど…」
スカイはそこで言葉を切った。
「?どうしたの?スカイ」
「…戦い方に支障がありすぎてかわいそうに見えてくるね…」
「…は?」
リリエはそこで生まれて初めて目の前の人物を殴りたい衝動に駆られたが、その衝動を初対面の人だからという理由で限界まで押さえ込み、リリエは言った。
「…じゃあ、戦い方教えてよ。そう言うくらいなら!」
「え?戦い方…?」
「そうっ!」
リリエの言葉にスカイはしばし考えて、言った。
「戦い方って言っても…戦闘時に魔法を効果的に使ってるから、そこは良いと思う。じゃあ、なにがダメかっていうと…それは、多分攻撃の避け方。」
「あ…そういえば、私避け方分かんなくて腕怪我したんだった…」
そっとリリエは腕を怪我していたところに触れた。
「でも、避け方なんて自分で見つけるものだから、教えられることなんてない。」
「そっか…」
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