ツムギ ツナグ

みーな

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リューシャ編

8話

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「…どこをどういけば、城に着くんだろう…」


神の住まう雲の上にリレーニに連れてきてもらったは良いものの、城へ行く道が全くもって分からず、かといってそこいらを歩いている神たちに聞くわけにもいかず、リリエは絶賛迷子中だった。


「うーん、どこにいても城は見えてるのに…」


今リリエは細めの路地を神たちの目につかないように歩いているのだが、とりあえず少し上を見ながらキョロキョロすれば、城は見える。だが、城はどう歩いても近づいている気がしない。


「町…じゃなくて、皇都おうとに入るまでは近づいてきてたはずなのに…皇都おうとに入ってからは全然近づいてこない…どうしよう…本当にどうしよう…」


そう本気で困ってしまったそのとき、風が優しくリリエの髪を揺らした。


「…風…こんな雲の上でも風って吹くんだね…って、風?…そうだ風だっ!」


そう言ってリリエは右手を広げて前に突きだし、目を閉じて意識を集中させると、リリエは詠唱を呟くように唱えた。


「【ウィンド・レード】」


すると、開いた右手に風が集まり、四方八方にふわりと広がっていった。


「…これで1度帰ってきた風たちが、まとまって向かっていった方向に城があるはず…!」


リリエの放った風は、術者が目指しているところをあらゆる道から模索し、1番早くその目指す場所に着くルートを導いてくれる風なのだ。そしてリリエは放った風を待っていると、突然リリエの全方向から風が吹いてきて、リリエの左斜め前の道に全て流れていった。


「オッケー。そっちが1番早いんだね!」


リリエは風の導くままに駆け出した。






「リリエが白亜はくあの城へ向かった?!」


誰かから聞いたわけでもなく、ルクトは叫んだ。


「なんで…リリエがあそこに向かう意味なんて全くないはず…!まさか、に気づいた?!いや、気づくわけない。あり得ない…じゃあ、なんで…」


ルクトはしばらくの間頭をフル回転させるが、結論は結局導き出せず、拳を握りしめた。


「くそっ…考えても答えなんてそうそう出ないし…仕方ない…僕の代わりに…」


ルクトは左手を前に出し、その人差し指をしっかり伸ばすと呟いた。


「【コレールド・ラディント】」


すると、人差し指の先に淡い光が灯り、そこから少年ぽい声が聞こえる。


『…どうしたの?滅多に連絡すらよこさないルクト兄さん。』
「今はそんなことどうでもいい!リリエが…!」
『そんなことくらい知ってるよ。でも、俺はよほどのことがない限りなにもしない。リリエがルクト兄さんのこと呼んだら出るかもだけど。』
「なんで僕の名前なんだ」
『なんか、色々とムカつくから。』
その言葉に苦笑いするルクト。
「それはいつもだろ。」
『ていうか、なんで今連絡してくんの?今は俺、忙しいんだよ』
「僕の方が充分忙しいと思うけど。それに自分で忙しいって、忙しくないやつの定番の言い訳じゃないか?」
『ほんとに俺は忙しいんだ。じゃあね、ルクト兄さん。』


そう言って、少年ぽい声の主は聞こえなくなり、指先の淡い光も消えてしまった。


「はあ…気まぐれなやつだな…僕の調子が狂うだろ…慌ててたはずなのにもう落ち着いてるし…」


ルクトは苦笑いしながら言うと、家の窓に近づく。


「けど、多分リリエは任せて大丈夫だな」


そして、窓から空高くに浮かぶ雲を見上げた。






「…や、やっとついたー…」


城へ向かったリリエは風を追って、ようやく城の目の前までたどり着いたところだった。


「でもやっぱり、城の前には神がいっぱいいる…リレーニ様の言う通りだ…どうしよう…このままじゃ入れないけど…」


城の入口の前にあり得ないくらいの神たち(その数、50は優に越えている)が立っているのを見て、近くの建物の影に入り少しだけリリエは考えて。


「でも、他に入るところなんてないだろうし…城に入ったら戦闘はしないといけないから…仕方ない。正面突破しようか!」


仕方ないとは言いながらも意外に乗り気のリリエは、右手を高く上へと掲げた。そして詠唱を呟く。


「【エクレセンデッド・ストーム】」


その言葉で風が勢いよく上へ流れた。少しして立っている神たちの上からリリエの放った風が吹きつけ、数人の神たちが倒れた。が、すぐに何事もなかったかのように立ち上がった。


「…あれで、ちょっと倒れただけ…」


まさか神が、数人が少し風にあおられたように倒れるだけで、また立ち上がれるほどのタフな種族とは思っておらず、リリエは唖然とした。


「…でも、攻撃1回しちゃったからにはもう気付かれてるし、行かないと…それに、リューシャを連れ戻すんだから…!」


そう言って、リリエは影から飛び出した。突然風が吹いたのは何者かの仕業だと分かっていた神たちは、リリエを見つけると即座に一斉攻撃を仕掛けてくる。


「…っ!やばい…っ!」


リリエは一斉攻撃を横に走ってかわす。


「…っ…」


″あぶ…攻撃のかわしかた…本に書いてなかったからわかんないぃぃぃぃ!″


心の中で叫びながらどうにか反対側の建物の影に飛び込む。が、その前に腕に攻撃が当たってしまう。


「うっ!…いった…ギリギリ影には入れたけど…」
「おい!あの影に隠れたぞ!挟み込め!」


その声を聞いて、建物の丁度真ん中ぐらいに隠れるリリエは少し痛む右腕を軽く押さえて焦っていた。


″やばい、本気でやばい……どうしよう…ここで挟み込まれなんてすれば……!そうだ!こんなときこその魔法!まだ練習中だったしなんかちょっと不安だけど…この際仕方ない!″


そんな間にも隠れる建物の両端に神たちが集まる足音が聞こえる。リリエは腕の痛みをあまり気にしないようにしながら、両手を神たちが集まっていると思われる建物の両端にそれぞれ伸ばすと意識を集中させ、タイミングを伺う。


「……かかれ!」


その声が聞こえたとたん、リリエは呟いた。


「【フェルアス・フレイム】」


神たちが影に入るのと、リリエがを放ったのは同時だった。


「な…?!」


神たちは風の攻撃で少しリリエの魔法をなめていたのだろう。予想外の攻撃に避ける暇なく、見事に攻撃を受けた。


「ぐはあっ!」
「…当たった…?」


炎を直に受け、少し倒れた神たちを見て、意を決して駆け出す。


″よし、今のうちに…城の中へ…!″


そして、倒れる神たちを避け建物の影から出ようとしたそのとき、リリエの足が誰かに


「えっ……きゃっ!」


見事に地面にこけてしまったリリエの耳に声が聞こえる。


「…魔法を使うからどんな奴かと思えば…人の女、しかも子供じゃないか…ガッカリしたな。」


それは言い方からしてあからさまに神だ。恐らく、攻撃を受けて倒れたのは前方の神たちだけで、後ろの方にいた神たちはかすり傷すら受けていなかったのだ。


「…っ!」


リリエは声の方を向こうとしたが、こけたときに足を怪我してしまったのか、痛みで動けない。


「というかそもそもなんで人がこんな雲の上にこれるんだ?この戦闘の不馴れ感からすると、飛行系魔法なんて絶対使えない感じだけどな」


その言葉に近くの神が鼻で笑って言う。


「フンッ、どこかそこいらにいた竜をそそのかして、連れてきてもらったんだろ?ただ、今はこいつをどうするか、だよなぁ…」


顔が直接見えなくとも、嫌な笑みを浮かべていることだけはハッキリとわかる。


″どうしよう…まさか、もうこんなところで捕まっちゃうなんて…″


「ボコボコにして、下に投げるか?」
「いやいや、普通に皇女おうじょ様と皇子おうじ様につきだしたほうが早いだろ」


そう笑う声でリリエは余計に焦り始める。


″今にでも走って逃げたいけど…足がなんか痛くって動けない…どうしよう…どうしよう…!…助けて…誰か…″


そんな助けてくれるものなどいないとわかっていながら、心の中で呟いた。


″誰か…お願い…″


「助けて…」


そう、心の声が言葉になって漏れた。
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