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リューシャ編
36話
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「…そういえば、あのさっきの私が倒した相手、スヴールの部下は3人いるって言ってたよね?」
唐突にリリエはそうスカイに訊ねる。
「あぁ、言ってたねそんなこと。」
「ってことはさ、まだ2人いるんだよね…?」
「そういうことになるね。」
「後スヴールもいるでしょ、それともしかしたら王妃様と戦うかも知れないんでしょ?…絶対圧倒的に魔力がお互い足りないと思うんですけど…」
リリエは若干引きつった表情で言うが、スカイは涼しげにとんでもないことを言った。
「足りないっていうか、…王妃様なんて俺たちが全快だったとしても勝てないよ。絶対に。」
「え…!?」
スカイのその言葉にリリエは固まった。
「なんで?」
「なんでって、王妃様だよ。あの神竜大戦を治めたっていう存在に俺たちが勝てるわけないでしょ。」
「それもそうだけど、もし戦うことになんてなったら…」
神竜大戦を治めた王妃と戦う。それだけで体が震えてくる。
「それの件に関しては大丈夫だよ。王妃様は基本温厚で全然怒らないし、魔法はどんなことに関しても使わない主義だから戦うなんてことは絶対にしないから。」
「ほんと?スカイよく知ってるね」
「…俺は、色々小さいときに聞いてたから…」
「へぇ…でも、どうして勝てないってそうも断言できるの?」
「リリエもそこは知ってるでしょ。王妃様は超魔法が使える。その上に、無の属性魔法も扱うんだ。」
「無の…属性魔法?」
「不思議だよね。無、なんて属性じゃない。でも魔法を使った王妃様を見たかつての神竜大戦の戦士たちは口々にこう言ったらしい。…あれは、属性のない属性魔法だ…って。その言葉から無の属性魔法なんて言われてるらしいね。」
「属性のない属性魔法かぁ…」
遠くを見つめるような目でそう呟くリリエにスカイはため息をついて言う。
「はぁ…妙な好奇心で見たい、戦いたいとか言い出さないでよ。」
「言うわけないでしょ?スカイがそれだけ勝てないって言うのに。」
「だったらいいんだけどね。」
「でも、気になるのは、スヴールの部下の存在だね…後2人もいるんでしょ?そのうち1人はミスト…だったよね?」
「リリエ戦えそう?」
「うーん…分からない…どこまで魔力が続くか全然検討もつかないし…相手の使う魔法なんて分かるわけないし…もし元素魔法でも対応出来ない魔法だったらきついよね…」
不安げにそういうリリエにスカイは返す。
「まあ、魔力は一度切れたとしてもしばらく休憩すれば魔法1回打てるくらいは回復するし、元素魔法は4つで1つ。基本的には対応できると思うよ」
″ただ、心配なのはあくまで属性が土の時に魔力が発動したから、他の3つの属性でも魔力で使用できるのかどうなのか…なんだよね…そういう前例、聞いたことないからなんとも言えないけど…″
そんなスカイの心の中での心配も露知らず、リリエは笑顔でスカイに言う。
「そうなの?だったら、魔力は休憩しつつだったら大丈夫かな?」
「うん、今はとりあえず、魔力の残りや魔法のことも気にしなくて大丈夫だと思うよ。」
スカイの言葉にじゃあスカイに頼りっぱなしにならないね!と笑うリリエにスカイは心の中で返した。
″俺からすればもっと頼ってほしいって思うんだけどね…″
もちろんそれは心の呟き。リリエに聞こえるはずなどなく、リリエとスカイは先へと進んで行った。
が、しばらく進んだとき、どこからともなく2人に声が聞こえてきた。
『…まさか、もうこんなところまで来ているとはな?』
「?!」
「今の声…どこから?!」
辺りを見回すスカイとリリエに再び声が聞こえる。
『そんな近くにおるわけなかろう?妾の姿など今のお主たちには見えんし、そもそも敵の近くに身を潜めるような自滅行為などせぬ』
「くっ…!」
リリエは悔しそうに拳を握る。それが見えたのか、声は笑いを含んだ声で言う。
『その悔しそうな顔…妾にとっては最高の表情だ。だが…氷の属性魔法の使い手…だったか?お主は表情が固いのう?』
「…表情?別に俺の場合、感情があんまり表に出ないだけ。それに、表情が固くて何か不都合なことでもあるの?」
リリエとは反対に表情が欠片も動いていないスカイは声にそう返した。
『不都合なことはないが、面白味に欠けると思ってな?』
すると、リリエとスカイの目の前の床から、黒い霧か雲のようなものがもくもくと立ち上ぼり、それがリリエとスカイをすっぽり覆えるほど大きくなったと思うと、黒い霧のようなものは勢いよく弾け飛んだ。
「っ!」
「!」
とっさに腕で目を覆ったスカイとリリエの足元を見る目の視界に、少しだけ、黒いヒールブーツが入った。
「そんなに防御せずとも、まだ攻撃はせぬ。…まだ、の話だがな。」
腕を下ろしたスカイとリリエの前に立っていたのは、紺色の髪をポニーテールした女性だった。
「知っておるとは思うが、妾はスヴール様に遣える部下、ミスト・アルシューだ。牢獄への土産として持っていくが良いぞ?反逆者のお主らを捕らえた者としてな。」
「その台詞を言うのは俺たちが負けてからにしてくれるかな。」
「今からでも間に合うぞ?それが嫌ならば、そうだな……30分。戦闘がそれ以上長引けば、本当にお主らが負けるまで言わないことにしてやっても良いがな。」
「もう言ってるけどね。」
ミストとスカイはそんな会話を交わすと睨み合った。
「私のことも、忘れないでね…?」
1人会話に入れないリリエはそう聞こえないと分かっていながらも呟いた。
唐突にリリエはそうスカイに訊ねる。
「あぁ、言ってたねそんなこと。」
「ってことはさ、まだ2人いるんだよね…?」
「そういうことになるね。」
「後スヴールもいるでしょ、それともしかしたら王妃様と戦うかも知れないんでしょ?…絶対圧倒的に魔力がお互い足りないと思うんですけど…」
リリエは若干引きつった表情で言うが、スカイは涼しげにとんでもないことを言った。
「足りないっていうか、…王妃様なんて俺たちが全快だったとしても勝てないよ。絶対に。」
「え…!?」
スカイのその言葉にリリエは固まった。
「なんで?」
「なんでって、王妃様だよ。あの神竜大戦を治めたっていう存在に俺たちが勝てるわけないでしょ。」
「それもそうだけど、もし戦うことになんてなったら…」
神竜大戦を治めた王妃と戦う。それだけで体が震えてくる。
「それの件に関しては大丈夫だよ。王妃様は基本温厚で全然怒らないし、魔法はどんなことに関しても使わない主義だから戦うなんてことは絶対にしないから。」
「ほんと?スカイよく知ってるね」
「…俺は、色々小さいときに聞いてたから…」
「へぇ…でも、どうして勝てないってそうも断言できるの?」
「リリエもそこは知ってるでしょ。王妃様は超魔法が使える。その上に、無の属性魔法も扱うんだ。」
「無の…属性魔法?」
「不思議だよね。無、なんて属性じゃない。でも魔法を使った王妃様を見たかつての神竜大戦の戦士たちは口々にこう言ったらしい。…あれは、属性のない属性魔法だ…って。その言葉から無の属性魔法なんて言われてるらしいね。」
「属性のない属性魔法かぁ…」
遠くを見つめるような目でそう呟くリリエにスカイはため息をついて言う。
「はぁ…妙な好奇心で見たい、戦いたいとか言い出さないでよ。」
「言うわけないでしょ?スカイがそれだけ勝てないって言うのに。」
「だったらいいんだけどね。」
「でも、気になるのは、スヴールの部下の存在だね…後2人もいるんでしょ?そのうち1人はミスト…だったよね?」
「リリエ戦えそう?」
「うーん…分からない…どこまで魔力が続くか全然検討もつかないし…相手の使う魔法なんて分かるわけないし…もし元素魔法でも対応出来ない魔法だったらきついよね…」
不安げにそういうリリエにスカイは返す。
「まあ、魔力は一度切れたとしてもしばらく休憩すれば魔法1回打てるくらいは回復するし、元素魔法は4つで1つ。基本的には対応できると思うよ」
″ただ、心配なのはあくまで属性が土の時に魔力が発動したから、他の3つの属性でも魔力で使用できるのかどうなのか…なんだよね…そういう前例、聞いたことないからなんとも言えないけど…″
そんなスカイの心の中での心配も露知らず、リリエは笑顔でスカイに言う。
「そうなの?だったら、魔力は休憩しつつだったら大丈夫かな?」
「うん、今はとりあえず、魔力の残りや魔法のことも気にしなくて大丈夫だと思うよ。」
スカイの言葉にじゃあスカイに頼りっぱなしにならないね!と笑うリリエにスカイは心の中で返した。
″俺からすればもっと頼ってほしいって思うんだけどね…″
もちろんそれは心の呟き。リリエに聞こえるはずなどなく、リリエとスカイは先へと進んで行った。
が、しばらく進んだとき、どこからともなく2人に声が聞こえてきた。
『…まさか、もうこんなところまで来ているとはな?』
「?!」
「今の声…どこから?!」
辺りを見回すスカイとリリエに再び声が聞こえる。
『そんな近くにおるわけなかろう?妾の姿など今のお主たちには見えんし、そもそも敵の近くに身を潜めるような自滅行為などせぬ』
「くっ…!」
リリエは悔しそうに拳を握る。それが見えたのか、声は笑いを含んだ声で言う。
『その悔しそうな顔…妾にとっては最高の表情だ。だが…氷の属性魔法の使い手…だったか?お主は表情が固いのう?』
「…表情?別に俺の場合、感情があんまり表に出ないだけ。それに、表情が固くて何か不都合なことでもあるの?」
リリエとは反対に表情が欠片も動いていないスカイは声にそう返した。
『不都合なことはないが、面白味に欠けると思ってな?』
すると、リリエとスカイの目の前の床から、黒い霧か雲のようなものがもくもくと立ち上ぼり、それがリリエとスカイをすっぽり覆えるほど大きくなったと思うと、黒い霧のようなものは勢いよく弾け飛んだ。
「っ!」
「!」
とっさに腕で目を覆ったスカイとリリエの足元を見る目の視界に、少しだけ、黒いヒールブーツが入った。
「そんなに防御せずとも、まだ攻撃はせぬ。…まだ、の話だがな。」
腕を下ろしたスカイとリリエの前に立っていたのは、紺色の髪をポニーテールした女性だった。
「知っておるとは思うが、妾はスヴール様に遣える部下、ミスト・アルシューだ。牢獄への土産として持っていくが良いぞ?反逆者のお主らを捕らえた者としてな。」
「その台詞を言うのは俺たちが負けてからにしてくれるかな。」
「今からでも間に合うぞ?それが嫌ならば、そうだな……30分。戦闘がそれ以上長引けば、本当にお主らが負けるまで言わないことにしてやっても良いがな。」
「もう言ってるけどね。」
ミストとスカイはそんな会話を交わすと睨み合った。
「私のことも、忘れないでね…?」
1人会話に入れないリリエはそう聞こえないと分かっていながらも呟いた。
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