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リューシャ編
45話
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スヴールが、手を伸ばす先には霧があり、天井を覆っていた。すると霧の奥が一瞬光り、霧から1人の人物が降りてくる。
「…っ……?!」
降りてきた人物は綺麗な藍色の髪を持っていた。しかしリリエを見つめる髪と似たような群青色の瞳はあり得ないほどに冷たく、感情の欠片すらも見いだせない。リリエはその人物を見て、思考が停止した。
「…す…スカイ…?」
ただ、本人の名を呼ぶ言葉しか出ない。
なんで。どうして。嘘だ。マイナスの感情がリリエの中で激しく渦巻く。スカイから、本人の口から本当の言葉を聞きたい。だが、どんな質問からすれば良いのか分からない。それに答えを聞きたくない。何て返ってくるかはほとんど検討がついているから。
「………………っ……」
言葉が出せない。いや、出したくない。スカイの言葉を今は聞けない。聞きたくない。今まではなんとも思わなかった、むしろ頼もしささえ感じていたスカイの無感情な目は、少し立場が変わっただけで恐ろしく感じるものへと変化した。
「……………いや……だ…」
嫌だ。信じたくない。この期に及んで頭が現実を理解しようとするのを拒む。スカイが、敵だった。それも、スヴールの部下だったなんてこと、信じられない。じゃあどうして。どうして自分を助けたのか。助けてもらったとき、スカイはたしかに言った。〝ルクト兄さんに頼まれた〟…と。あれも嘘だったのか。自分に見せた笑顔も、かけてくれた優しい言葉も、励ましの言葉だって全部全部、嘘だったのか。
「…………信じたく……ない……」
「…俺は。」
その時、ようやくスカイが口を開いた。
「俺は、スヴールに遣えてなんかない。」
「!」
その言葉で、リリエの心のざわめきが止む。
「でも、リリエを捕まえること。その条件が一致してたから俺は、とりあえずここにいる。」
その言葉で、リリエの心は再びマイナスの感情に溢れる。
やっぱり、偽りだったんだ、全部。私を、捕まえるためだけに助けたんだね……。しかし、半分、自暴自棄になっているせいか、あまりマイナスの感情は出てこなかった。
「………そうだね。相手を信じすぎた私がバカだったんだ。だったら、もう、誰の手も借りません。自分1人でここを越えてみせます。」
リリエは突如そう宣言し、まだ扱い慣れぬ魔力を高める。もう、どうにでもなってしまえ。自分の目的は、リューシャを連れ戻すこと、ただそれだけなのだから。
「【レイディング・アームス】!」
スカイとスヴールの方へ地面を強く波打たせた。
「!」
スカイは波打つ地面を攻撃を受ける前に凍らせ、スヴールはそんなスカイに補助のつもりか辺りに霧を放つ。スカイは動かない。いやむしろ攻撃をする気が無いのか、動こうとしない。そして霧が濃くなってきたせいでスヴールの姿はもう見えず、リリエの視界にはようやく少し先に立つスカイの姿すらも霞んで見えた。
「…リリエ。俺は…」
何かをスカイがリリエに言おうとするが、リリエは聞く耳を持たずに叫んだ。
「【レンドオブ・ローズ】!」
地面を動かし、薔薇の花を作り上げ、攻撃する。が、スカイはひらりとそれをかわしてしまう。
「リリエ、聞いて。俺はあいつらの仲間じゃない。」
スカイはリリエの近くにくるとそう囁く。
「…仲間じゃないにしても、手は貸している。そうでしょ?だから今、戦っている。」
「俺は戦うなんて言ってないけど」
「捕まえるって、戦うことも含まれているでしょ?」
スカイが攻撃をしてくることがないためリリエとスカイは向かい合って言葉を交わし、リリエは言葉を続ける。
「それに、なんで今そう弁解しようとするの?もう、敵でしょ?私とあなたは。」
「俺は、敵になったつもりはないよ。」
「…嘘だよね。」
今のスカイの言葉は、リリエの耳には嘘としか聞こえない。心の中では信じたいと思っている。まだ、完全にスカイが敵になったと言う事実をきちんと受け入れられていないから、信じたい。でも信じられない。
「嘘はついてない。俺はリリエの敵になるつもりでここにいるんじゃない。」
「…私は、あなたをもう敵だって思ってる。敵の言葉を信じる者なんて、いる?」
リリエのその言葉に、スカイは違うと言う意味合いでか首を横に振る。敵になったつもりはない。敵になるつもりじゃない。その言葉を信じたいが、スカイは言ったではないか。リリエを捕まえるという条件が一致したと。ならばスカイは敵だ。でも本人は違うと言っている。どちらなのか分からない。
「敵じゃない。俺は…」
スカイが言葉を続けようとしたが、突然何かに気付くように後ろの濃霧を振り返り、そのままリリエの腕を左手で引っ張って自分の方へと引き寄せた。
「…っ!」
リリエが止めてとスカイから距離をとる暇もなく、スカイは右手を自分が向く方の霧を一部凍らせた。
「…邪魔、しないでくれるかな。」
スカイがそう言うと霧の奥から声が響く。
『スカイ様が早くその者を捕らえないからですよ。それほど苦戦しているのかとさすがに私でもしびれを切らしましてね。援護のつもりで攻撃をさせてもらいました。』
「援護のつもりで、なんてよく言えるね。確実に今のは俺を狙ってたと思うけど。」
『それは…』
言葉を続けようとするスヴールに、スカイは語気を強めて言った。
「あんたの霧は俺の魔法と相性が最悪だ。俺がその気になったらこの邪魔臭い霧は、全部凍らせることだって不可能じゃない。」
スカイはリリエを引き寄せ守るように押さえる左手に少しばかり力が入る。
「ま…待って。本当の事を言って。本当は…どっちの味方なの?」
リリエは突然のことについていけていなかったが、やはり心の中の信じたいという気持ちが強く、意を決してスカイに問いかけた。どちらの味方なのか…と。スカイはリリエの方を見て、優しい目で言った。
「…敵を欺くにはまず味方から…って、よく言うよね?」
「…!」
その優しい目と言葉で、ああ、スカイの言ってたことは本当だったんだと、何故かただそれだけの不純な理由で直感的にそう感じた。自暴自棄になっていた気持ちは、いつの間にかすでに落ち着いていた。スカイはそのまま前を向き直るが、リリエに呟いた。
「あと、俺言ったよね?すぐにスヴールと戦うことになるって。」
「あ…」
その言葉を今はっきりと思い出す。そしてスカイは右手を前に伸ばして、詠唱を唱えた。
「【グラシアル・エラ】」
たったその一言で辺りを覆っていた霧がすべて凍りつく。それはリリエの心の靄すらも凍りつかせるように美しく輝き、散らばっていく。スカイがスヴールの霧を凍らせ払ったと同時に、リリエのモヤモヤは消え去り、視界も気持ちもより一層綺麗になったような気がした。そして、スカイとリリエが立つ少し先には、スヴールが立っていた。
「…っ……?!」
降りてきた人物は綺麗な藍色の髪を持っていた。しかしリリエを見つめる髪と似たような群青色の瞳はあり得ないほどに冷たく、感情の欠片すらも見いだせない。リリエはその人物を見て、思考が停止した。
「…す…スカイ…?」
ただ、本人の名を呼ぶ言葉しか出ない。
なんで。どうして。嘘だ。マイナスの感情がリリエの中で激しく渦巻く。スカイから、本人の口から本当の言葉を聞きたい。だが、どんな質問からすれば良いのか分からない。それに答えを聞きたくない。何て返ってくるかはほとんど検討がついているから。
「………………っ……」
言葉が出せない。いや、出したくない。スカイの言葉を今は聞けない。聞きたくない。今まではなんとも思わなかった、むしろ頼もしささえ感じていたスカイの無感情な目は、少し立場が変わっただけで恐ろしく感じるものへと変化した。
「……………いや……だ…」
嫌だ。信じたくない。この期に及んで頭が現実を理解しようとするのを拒む。スカイが、敵だった。それも、スヴールの部下だったなんてこと、信じられない。じゃあどうして。どうして自分を助けたのか。助けてもらったとき、スカイはたしかに言った。〝ルクト兄さんに頼まれた〟…と。あれも嘘だったのか。自分に見せた笑顔も、かけてくれた優しい言葉も、励ましの言葉だって全部全部、嘘だったのか。
「…………信じたく……ない……」
「…俺は。」
その時、ようやくスカイが口を開いた。
「俺は、スヴールに遣えてなんかない。」
「!」
その言葉で、リリエの心のざわめきが止む。
「でも、リリエを捕まえること。その条件が一致してたから俺は、とりあえずここにいる。」
その言葉で、リリエの心は再びマイナスの感情に溢れる。
やっぱり、偽りだったんだ、全部。私を、捕まえるためだけに助けたんだね……。しかし、半分、自暴自棄になっているせいか、あまりマイナスの感情は出てこなかった。
「………そうだね。相手を信じすぎた私がバカだったんだ。だったら、もう、誰の手も借りません。自分1人でここを越えてみせます。」
リリエは突如そう宣言し、まだ扱い慣れぬ魔力を高める。もう、どうにでもなってしまえ。自分の目的は、リューシャを連れ戻すこと、ただそれだけなのだから。
「【レイディング・アームス】!」
スカイとスヴールの方へ地面を強く波打たせた。
「!」
スカイは波打つ地面を攻撃を受ける前に凍らせ、スヴールはそんなスカイに補助のつもりか辺りに霧を放つ。スカイは動かない。いやむしろ攻撃をする気が無いのか、動こうとしない。そして霧が濃くなってきたせいでスヴールの姿はもう見えず、リリエの視界にはようやく少し先に立つスカイの姿すらも霞んで見えた。
「…リリエ。俺は…」
何かをスカイがリリエに言おうとするが、リリエは聞く耳を持たずに叫んだ。
「【レンドオブ・ローズ】!」
地面を動かし、薔薇の花を作り上げ、攻撃する。が、スカイはひらりとそれをかわしてしまう。
「リリエ、聞いて。俺はあいつらの仲間じゃない。」
スカイはリリエの近くにくるとそう囁く。
「…仲間じゃないにしても、手は貸している。そうでしょ?だから今、戦っている。」
「俺は戦うなんて言ってないけど」
「捕まえるって、戦うことも含まれているでしょ?」
スカイが攻撃をしてくることがないためリリエとスカイは向かい合って言葉を交わし、リリエは言葉を続ける。
「それに、なんで今そう弁解しようとするの?もう、敵でしょ?私とあなたは。」
「俺は、敵になったつもりはないよ。」
「…嘘だよね。」
今のスカイの言葉は、リリエの耳には嘘としか聞こえない。心の中では信じたいと思っている。まだ、完全にスカイが敵になったと言う事実をきちんと受け入れられていないから、信じたい。でも信じられない。
「嘘はついてない。俺はリリエの敵になるつもりでここにいるんじゃない。」
「…私は、あなたをもう敵だって思ってる。敵の言葉を信じる者なんて、いる?」
リリエのその言葉に、スカイは違うと言う意味合いでか首を横に振る。敵になったつもりはない。敵になるつもりじゃない。その言葉を信じたいが、スカイは言ったではないか。リリエを捕まえるという条件が一致したと。ならばスカイは敵だ。でも本人は違うと言っている。どちらなのか分からない。
「敵じゃない。俺は…」
スカイが言葉を続けようとしたが、突然何かに気付くように後ろの濃霧を振り返り、そのままリリエの腕を左手で引っ張って自分の方へと引き寄せた。
「…っ!」
リリエが止めてとスカイから距離をとる暇もなく、スカイは右手を自分が向く方の霧を一部凍らせた。
「…邪魔、しないでくれるかな。」
スカイがそう言うと霧の奥から声が響く。
『スカイ様が早くその者を捕らえないからですよ。それほど苦戦しているのかとさすがに私でもしびれを切らしましてね。援護のつもりで攻撃をさせてもらいました。』
「援護のつもりで、なんてよく言えるね。確実に今のは俺を狙ってたと思うけど。」
『それは…』
言葉を続けようとするスヴールに、スカイは語気を強めて言った。
「あんたの霧は俺の魔法と相性が最悪だ。俺がその気になったらこの邪魔臭い霧は、全部凍らせることだって不可能じゃない。」
スカイはリリエを引き寄せ守るように押さえる左手に少しばかり力が入る。
「ま…待って。本当の事を言って。本当は…どっちの味方なの?」
リリエは突然のことについていけていなかったが、やはり心の中の信じたいという気持ちが強く、意を決してスカイに問いかけた。どちらの味方なのか…と。スカイはリリエの方を見て、優しい目で言った。
「…敵を欺くにはまず味方から…って、よく言うよね?」
「…!」
その優しい目と言葉で、ああ、スカイの言ってたことは本当だったんだと、何故かただそれだけの不純な理由で直感的にそう感じた。自暴自棄になっていた気持ちは、いつの間にかすでに落ち着いていた。スカイはそのまま前を向き直るが、リリエに呟いた。
「あと、俺言ったよね?すぐにスヴールと戦うことになるって。」
「あ…」
その言葉を今はっきりと思い出す。そしてスカイは右手を前に伸ばして、詠唱を唱えた。
「【グラシアル・エラ】」
たったその一言で辺りを覆っていた霧がすべて凍りつく。それはリリエの心の靄すらも凍りつかせるように美しく輝き、散らばっていく。スカイがスヴールの霧を凍らせ払ったと同時に、リリエのモヤモヤは消え去り、視界も気持ちもより一層綺麗になったような気がした。そして、スカイとリリエが立つ少し先には、スヴールが立っていた。
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