ツムギ ツナグ

みーな

文字の大きさ
45 / 74
リューシャ編

44話

しおりを挟む
黒闇と極光はぶつかり合い、先と同じように打ち消され合うが、先と違っているところは黒闇と極光の威力がぶつかり合う度に強くなっていること。



「…そろそろ諦めたらどうだ?ミスト。」
「お主こそ、もう折れれば良いのではないか?」



顔は笑っていようとも、目は互いを睨み合う2人は、何度も闇と光をぶつけ合い、互いに打ち消され合う度に威力を上げて再び魔法同士をぶつけ合う。



「本当に勝てると思ってるのか怪しいところだな?ミスト。」
「そっちも、自分が圧勝できるからと調子に乗ってはいまいな?」
「僕の読みに違いはないと思うけどな?」



ルクトは手から光を放ち、ミストはそれを闇で打ち消す。しかし、ミストは今現時点ではそこそこ苦しい状況に陥っていた。やはりルクトと同条件では力の差が少なからずあり、ミストはルクトよりも劣ってしまっているのだ。だが、そんなことで諦めるなんてことは出来ない。ルクトが皇子おうじの座を降り、突然放り出されてしまったような状態で困っていたところをスヴールが拾ってくれたお陰で、自分は今ここに立って戦っていられるのだ。その恩に報いずにのこのこ負けているようではスヴールの部下として示しがつかない。



「妾は、負けるわけにはいかぬのだ…決して…」
「そんなに、スヴールに忠誠を誓ってるのか。さすがだな、ミスト。」
「これくらいの忠誠心は、常識の範疇だと思うがな?」



また、威力の上がった魔法同士をぶつけ合った。ミストは魔力を使うか使わまいかほんの少しだけ迷っていた。ルクトと同条件で戦うと宣言した以上、その宣言に嘘をつくことは出来ない。したくない。それは己のプライドが許さない。ただ、このままでは絶対的に勝てないのは明白だった。プライドか忠誠か。ミストがどちらをとるか。それもまた明白だろう。



「…スヴール様の為、どんな手を使ってでも勝とう。」



ミストはルクトに気づかれないようにそう呟き、意識を魔法を放って打ち消しながら器用に集中させる。魔力を発動させたのはもうルクトも気づいているはずだ。しかしもう遅いだろう。こちらは既に魔力を発動させ、魔法を放ったのだから。



「【ダーク・エンド】!」



勝ったと思った。ルクトの放った光をミストの闇が飲み込んだから。闇は光を押しきってルクトの方へと向かっていった。まさかルクトが事などまるで想定していなかった。



「【シャイニング・アロー】」
「っ?!」



その言葉が下から聞こえた瞬間、ミストはとっさに後ろへ飛び退いた。そのお陰か攻撃は当たらずに済んだが、ミストは青ざめていた。なぜなら、あの一瞬でミストの懐まで動くのはいくら光の属性魔法ぞくせいまほう使いのルクトでも不可能だから。もし、この今の状況が作れるとするならば、それは完璧にこちらがこのタイミングで魔力を発動し、魔法を使うことを予測していなければ出来ない。ミストは魔力発動時に気づかれたかと思ったが、それでも間に合わない。だから自分が魔力を発動するかなり前から予測していたのだと言う結論に辿り着き、驚いていた。



「妾のこの攻撃を予測していたと言うのか…?」
「そりゃあな。お前のことだから、自分のプライドと忠誠心をはかりにかけて迷わず忠誠心をとり、魔力攻撃をしてくるとは思ってたよ。」



ルクトはそう笑うが、普通そこまで予測できるものなのだろうか。自分が魔力を発動させることには気づけたとしても、いつ発動させるかまで予測するなど、そんなことが出来る者がいるのだろうか。いや、この男ルクトなら恐らく出来るだろう。彼は相手の考えていることを表情で読み取ってしまうような奴だ。こちらの動きの初動を少しだけでも見て確認し、動いたに違いない。



「つくづく、そう易々と勝てない相手だと実感するな…だが、負けぬ。妾はスヴール様へ恩を報いなければならぬのだ。」
「忠誠心が健気なことだな。でもな、ミスト。」



ルクトはミストをまっすぐに見つめると、真剣な目で言葉を続ける。



「それだけ忠誠心が強いのは良いことだと思うが、誰でもかれでも、助けてくれただけで強い忠誠心を抱くのは不用心すぎると僕は思う。ちょっとでも、警戒心は抱いた方がいい。使い勝手の良い奴だと思われるぞ。」
「それでも良い。助けて貰ったくせに礼の1つも出来ないなど妾にとっては恥だ。それに妾はスヴール様の部下。忠誠心を抱くのは当然のことだろう」



そんなミストの返事に小さくため息をつきかけるが、どうにかそれを押さえて呟いた。



「まあ、それもそうか…」



ルクトはおもむろに右手を前に伸ばして光を放った。一帯が眩い光に包まれ、ミストはそれを相殺しようと闇を放った。闇と光がぶつかり合って打ち消し合って消える。その瞬間、ミストの目の前にはルクトが迫っていた。



「?!」
「残念だったな、ミスト。【シャイング・ヴィリオレンス】」



また一帯が光に包まれた。光がやんだとき、ミストはその場に倒れていた。しかし意識はあるようで悔しげに呟く。



「…勝てなかった…スヴール様の為に、妾は…」
「あんまり、忠誠心を優先しすぎると自滅しかねないと思うけどな。」
「忠誠心より大切なものは無い。妾は、次こそはお主に勝つ…」
「僕は次会えたときは敵同士じゃないことを祈るよ。…昨日の敵は今日の味方とか言うしな」



ルクトはそう笑ってミストに言うと、ミストがまだ何かを言おうとしていることに気づいていながらその場から立ち去った。



「…リリエ、スカイ…」



今ごろ、リリエとスカイはどうなっているのか、それは分からない。が、相手は少なくともスヴールであることは間違いないだろう。スヴールの魔法の実力は高い。スカイであっても苦戦しているはず。



「加勢に行かないとな…!」



ルクトは急いで駆け出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...