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リューシャ編
41話
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「【ブラックレス・ボム】!」
その言葉と同時にルクトの回りに闇の玉が数十個出現する。その様子を確認してミストは指を鳴らす。その音を引き金とするかのように、玉が爆発を始めた。ルクトは玉から一定の距離をとり右手を伸ばす。
「【シャイニング・アロー】」
多くの光の矢がルクトの手から作り出され、まだ爆発していない闇の玉にぶつかり闇と光が打ち消し合って、消える。
″…くっ…打ち消す効果をうまく使いこなすか…妾の魔法が効かぬな…ただ、それは奴も同じことか…″
心の中で悔しさにそうぼやきながらもミストはルクトを見やる。
「…さしずめ、魔法が効かないがそれは僕も同じことだと安心してるとこか?」
「…っ?!」
心の言葉を見透かされ、驚くミスト。
「昔から、その相手の心を読むのが得意なのは変わらないようだな…」
そう笑って返すが、恐らく今のミストの笑顔は若干引きつっているだろう。まさかあの頃はなんとも思っていなかったルクトの特技がここで生かされようともなど思ってもみなかったから、なかなか余裕ぶることも出来ない。
「お前も相変わらず、心の読みやすい表情をしてくれるから助かるな。」
余裕の無さげなミストと違ってかなり余裕そうなルクト。だが、ミストにとってこの戦いには元から余裕すらも何も無い戦い。
「…お前は、この戦い、勝てると思ってるのか?」
「なにがだ?妾とてお主とは伊達の付き合いではない。お主の弱いところも知っているぞ?」
ミストはニヤリと不敵な笑みを浮かべながら己の伸ばした人さし指に闇を纏わせる。
「どうだかな。いくら僕の元直属部隊の1人だとしても隠していることぐらいだって余るほどある。あんまり、調子に乗るなよ?」
「調子に乗ってなどいない。ただ、これは戦いだ。元神の皇子とその元直属部隊の1人のな…あの頃、妾の日々は充実して、輝いていた。なのに何故、皇子の座を降りた。ルクト・サーフィラー。」
ミストの視線が鋭く光る。
「…何故か……残念だけど、僕にはそれをお前に語る権利も義務もない。」
冷たくルクトは言い放った。その言葉には感情の1つ感じられない。
「お主には、皇子にとっては、あの頃が輝いていたなどと感じることもないのだろうな。」
そう、ミストは悲しげに目を細めた。
「…感じるわけがないだろ。昔は昔、今は今だ。過去を振り返り後悔してもその時に戻るわけでもないし、その輝きを取り戻せるわけでもない。思い出すだけむなしいだけだ。」
″…今、僕がミストと戦っていなかったなら、素直に本当の言葉を返せたのかも知れない…だけど、ここは戦場。今もリリエとスカイが先に進んでるから、負けるわけにはいかない。そして気の揺らぎを見せるわけにはいかない…。悪いなミスト…お前には、嘘をつく…″
そんな後悔を心の中でちらつかせ、ルクトはしっかりとミストを見据える。…いくら偶然とはいえ僕も、ミストとあまり戦いたくはない。気の揺らぎ、緩みを見せないですぐに、余裕ぶっこいて終わらせてやろう…。ルクトはそう心の中で決意し、右手を前に伸ばす。
「【ソリュード・ラディンタ】」
ルクトの伸ばす右の手のひらから眩い光が放たれる。ミストはその眩しすぎるほどの光に目を閉じかけるが、どうにか薄目で右手を伸ばした。
「【ブラック・ホール】!」
光と闇が、互いに呑み込み合う。
″…っ…やはり、相性が悪い…他の攻撃手段を使いたいが、闇でなければあの光を打ち消すのはほぼ不可能…″
ミストはそう唇を噛むが、事実ルクトの光の魔法は強く、弱い魔法なら光で消し去れてしまうほど。ずっと闇の吸い込む力と攻撃魔法で戦っていたミストには、他の補助魔法を使うにしても光で消されてしまうのが目に見えていた。
″…やはり、闇の魔法で光を打ち消し続け、諦めるまで耐えるしかないか…?″
対処、いや対策のしようの無いぶつかり合いにミストはひたすら思考をできる限りの範囲で巡らせるが、案など出てこなかった。
「…【ライトアン・ブレーズ】!」
いつの間にかルクトはミストの後ろを捉え、光の刃を放った。
「っ!」
詠唱で攻撃に気づいたミストは反射的に小さめのブラックホールを出現させた。光は闇に飲み込まれることなく、やはり互いに打ち消しあってしまった。
″やっぱり、闇と光は半端な力同士だと打ち消し合うか…″
ルクトは後ろへ飛び退きながらそう心の中で呟く。が、半端な力とはどういうことだろうか。
″まだそれほど全力って訳でも無いようだけどな……そもそも、あいつは僕が昔言った言葉を、ちゃんと覚えてるのか?″
ルクトの中で、昔ミストに言ったという言葉がまるでつい最近言ったかのように鮮明に思い出される。
〝…なあミスト…光と闇って、ただ打ち消し合うだけじゃないこと、知ってるか?〟
その言葉と同時にルクトの回りに闇の玉が数十個出現する。その様子を確認してミストは指を鳴らす。その音を引き金とするかのように、玉が爆発を始めた。ルクトは玉から一定の距離をとり右手を伸ばす。
「【シャイニング・アロー】」
多くの光の矢がルクトの手から作り出され、まだ爆発していない闇の玉にぶつかり闇と光が打ち消し合って、消える。
″…くっ…打ち消す効果をうまく使いこなすか…妾の魔法が効かぬな…ただ、それは奴も同じことか…″
心の中で悔しさにそうぼやきながらもミストはルクトを見やる。
「…さしずめ、魔法が効かないがそれは僕も同じことだと安心してるとこか?」
「…っ?!」
心の言葉を見透かされ、驚くミスト。
「昔から、その相手の心を読むのが得意なのは変わらないようだな…」
そう笑って返すが、恐らく今のミストの笑顔は若干引きつっているだろう。まさかあの頃はなんとも思っていなかったルクトの特技がここで生かされようともなど思ってもみなかったから、なかなか余裕ぶることも出来ない。
「お前も相変わらず、心の読みやすい表情をしてくれるから助かるな。」
余裕の無さげなミストと違ってかなり余裕そうなルクト。だが、ミストにとってこの戦いには元から余裕すらも何も無い戦い。
「…お前は、この戦い、勝てると思ってるのか?」
「なにがだ?妾とてお主とは伊達の付き合いではない。お主の弱いところも知っているぞ?」
ミストはニヤリと不敵な笑みを浮かべながら己の伸ばした人さし指に闇を纏わせる。
「どうだかな。いくら僕の元直属部隊の1人だとしても隠していることぐらいだって余るほどある。あんまり、調子に乗るなよ?」
「調子に乗ってなどいない。ただ、これは戦いだ。元神の皇子とその元直属部隊の1人のな…あの頃、妾の日々は充実して、輝いていた。なのに何故、皇子の座を降りた。ルクト・サーフィラー。」
ミストの視線が鋭く光る。
「…何故か……残念だけど、僕にはそれをお前に語る権利も義務もない。」
冷たくルクトは言い放った。その言葉には感情の1つ感じられない。
「お主には、皇子にとっては、あの頃が輝いていたなどと感じることもないのだろうな。」
そう、ミストは悲しげに目を細めた。
「…感じるわけがないだろ。昔は昔、今は今だ。過去を振り返り後悔してもその時に戻るわけでもないし、その輝きを取り戻せるわけでもない。思い出すだけむなしいだけだ。」
″…今、僕がミストと戦っていなかったなら、素直に本当の言葉を返せたのかも知れない…だけど、ここは戦場。今もリリエとスカイが先に進んでるから、負けるわけにはいかない。そして気の揺らぎを見せるわけにはいかない…。悪いなミスト…お前には、嘘をつく…″
そんな後悔を心の中でちらつかせ、ルクトはしっかりとミストを見据える。…いくら偶然とはいえ僕も、ミストとあまり戦いたくはない。気の揺らぎ、緩みを見せないですぐに、余裕ぶっこいて終わらせてやろう…。ルクトはそう心の中で決意し、右手を前に伸ばす。
「【ソリュード・ラディンタ】」
ルクトの伸ばす右の手のひらから眩い光が放たれる。ミストはその眩しすぎるほどの光に目を閉じかけるが、どうにか薄目で右手を伸ばした。
「【ブラック・ホール】!」
光と闇が、互いに呑み込み合う。
″…っ…やはり、相性が悪い…他の攻撃手段を使いたいが、闇でなければあの光を打ち消すのはほぼ不可能…″
ミストはそう唇を噛むが、事実ルクトの光の魔法は強く、弱い魔法なら光で消し去れてしまうほど。ずっと闇の吸い込む力と攻撃魔法で戦っていたミストには、他の補助魔法を使うにしても光で消されてしまうのが目に見えていた。
″…やはり、闇の魔法で光を打ち消し続け、諦めるまで耐えるしかないか…?″
対処、いや対策のしようの無いぶつかり合いにミストはひたすら思考をできる限りの範囲で巡らせるが、案など出てこなかった。
「…【ライトアン・ブレーズ】!」
いつの間にかルクトはミストの後ろを捉え、光の刃を放った。
「っ!」
詠唱で攻撃に気づいたミストは反射的に小さめのブラックホールを出現させた。光は闇に飲み込まれることなく、やはり互いに打ち消しあってしまった。
″やっぱり、闇と光は半端な力同士だと打ち消し合うか…″
ルクトは後ろへ飛び退きながらそう心の中で呟く。が、半端な力とはどういうことだろうか。
″まだそれほど全力って訳でも無いようだけどな……そもそも、あいつは僕が昔言った言葉を、ちゃんと覚えてるのか?″
ルクトの中で、昔ミストに言ったという言葉がまるでつい最近言ったかのように鮮明に思い出される。
〝…なあミスト…光と闇って、ただ打ち消し合うだけじゃないこと、知ってるか?〟
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