54 / 74
リューシャ編
53話
しおりを挟む
白亜の城。その名に全くの偽りなく外観も内装もほぼ全てが真っ白。床や壁、天井でさえも純白の輝きを放つ城の中、とある部屋の奥に白を主に基調として美しく装飾のなされた玉座があり、そこに王妃ことセレナが座っていた。
セレナの前にはリリエとルーナが立っており、スカイは部屋の入り口近くの壁にもたれかかって会話の様子を見つめている。が、スカイにはリリエがかなり緊張していることを背中越しでも理解していた。
「リリエ。今回は、ルーナが迷惑をかけたわね。ごめんなさい。」
セレナは、少しでもリリエの緊張を和らげようとしているのだろう。優しく、本当に申し訳なさそうにそう言った。
「い…いえ、連れ戻しに行くなんて自分で勝手に決めたことですし、リューシャ…ルーナが一緒に帰ってくれる確証もないのにただ突っ走っていただけです…。こちらこそ、それだけのことで城に乗り込んでしまって…すみません…」
リリエもそう頭を下げるが、緊張で体が強張っているせいなのか、どこか動きがぎこちない。
「リリエ、そんなに緊張しなくても良いんだよ…?」
ルーナが心配そうにリリエに言うが、そう言ったところで緊張がほぐれるわけでもないだろう。
「わ、分かってるよ…!で、でもやっぱり、緊張…して…」
王妃が目の前にいるせいか、私語を控えなければと考えてしまい、ルーナに言う言葉が少しずつ小さくなっていく。
「人の皇子と皇女にはそれほど緊張してなかったよね?」
「だって、皇子様と皇女様はよくお話することも多かったから慣れてるだけで…、王妃様は格が違うというか…」
事実を言っているのだが、緊張で言葉が小さくなっているせいでどこか言い訳のようにも聞こえる。
「格、だなんて気にしなくても良いのよ?私なんて、この世界の象徴みたいな存在であるだけだし」
「…緊張も、してますけど、それだけ…じゃないかもしれないです」
セレナの言葉に、リリエはそう呟くように言葉をこぼした。
「自分自身のことなんですけど…私、出来もしないことを無理にしようとする癖のようなものがあるんです。でもそのせいで、昔、取り返しのつかないことになったんです…。」
俯いて言うリリエの目が、悲しみを含んで潤んだ。
「だから、もうそんな無茶は止めようって思ってたんです。なのに、無我夢中になってまた突っ走っちゃって…自分で起こしてしまったことだから、周りを巻き込まないように、頼りすぎないように、努力してたんですけど…やっぱり私は弱くて、スカイや他の皆に頼ってばかりで、…あ、だから、ただ申し訳ないなって思ってるだけで、王妃様への辿々しい言動の理由になってないですけど…」
困ったように笑うリリエをルーナは心配げに見つめ、セレナは優しく言葉をかける。
「リリエ、あなたの言うように、頼りすぎることは己の成長を妨げてしまって、悪影響を及ぼすわ。でも、逆に頼りすぎないことも、時として己に悪影響を及ぼしてしまう。自分一人で抱え込みすぎることもいけない。私も、昔悩んでいたことがあったの。」
「…!セレナ様…」
「大丈夫よ、ルーナ。」
どこか驚きながらルーナはセレナに何かを言おうとするが、それをセレナは制止し、言葉を続ける。
「…私は、その悩みは自分で解決しなければならないと思っていたわ。そう、今のあなたみたいに。でも、ルーナや皆が私の悩みに案を出してくれて。とても嬉しかった。だから、あなたももう少し、誰かを頼っていいの。ほら、三人寄ればなんとやら、と言うでしょう?」
笑うセレナに、リリエはその悩みが何だったのか、その悩みは解決したのか、問いかけたかった。しかし問いかけられなかった。それを聞いてはいけないような気がした。
「リリエ?」
「あ、何でもないです!王妃様、ありがとうございます」
セレナに、リリエは丁寧にお辞儀をした。セレナはそんなリリエに微笑むと、ふと何かを考えるかのように斜め上を見上げ、呟いた。
「そういえばリリエ。あなたの魔法は、スカイから{元素}だと聞いたわ。それは本当かしら?」
「え、えれめんと…ですか?」
リリエはその言葉に思わず首を傾げる。
「あー…セレナ様。まだリリエにはそこまで話はしてないんです。」
頭の上にハテナを浮かべるリリエに、スカイがフォローを後ろから加えた。
「あら、そうなのね。ならば、そこから説明をしないといけないわね…。」
「えっと…魔法、のことですか?」
自分が一番関係しているはずの会話に入るに入れず、なのに勝手に話がポンポンと進んでいっていることに困惑しながらも、どうにか会話に入れたリリエはそう問いかけた。
「ええ、そうよ。リリエは、属性魔法と物質魔法の違いは知っている?」
「属性魔法と物質魔法の違い、ですか…分からないです…」
「じゃあ、そこからの話になるわね。少し、お話をしましょうか。私としても、リリエには少しでも緊張をほぐしてもらいたいから」
セレナはそう言ってリリエに優しく微笑んだ。その微笑みに、リリエは少し申し訳なさげに笑みを返した。
セレナの前にはリリエとルーナが立っており、スカイは部屋の入り口近くの壁にもたれかかって会話の様子を見つめている。が、スカイにはリリエがかなり緊張していることを背中越しでも理解していた。
「リリエ。今回は、ルーナが迷惑をかけたわね。ごめんなさい。」
セレナは、少しでもリリエの緊張を和らげようとしているのだろう。優しく、本当に申し訳なさそうにそう言った。
「い…いえ、連れ戻しに行くなんて自分で勝手に決めたことですし、リューシャ…ルーナが一緒に帰ってくれる確証もないのにただ突っ走っていただけです…。こちらこそ、それだけのことで城に乗り込んでしまって…すみません…」
リリエもそう頭を下げるが、緊張で体が強張っているせいなのか、どこか動きがぎこちない。
「リリエ、そんなに緊張しなくても良いんだよ…?」
ルーナが心配そうにリリエに言うが、そう言ったところで緊張がほぐれるわけでもないだろう。
「わ、分かってるよ…!で、でもやっぱり、緊張…して…」
王妃が目の前にいるせいか、私語を控えなければと考えてしまい、ルーナに言う言葉が少しずつ小さくなっていく。
「人の皇子と皇女にはそれほど緊張してなかったよね?」
「だって、皇子様と皇女様はよくお話することも多かったから慣れてるだけで…、王妃様は格が違うというか…」
事実を言っているのだが、緊張で言葉が小さくなっているせいでどこか言い訳のようにも聞こえる。
「格、だなんて気にしなくても良いのよ?私なんて、この世界の象徴みたいな存在であるだけだし」
「…緊張も、してますけど、それだけ…じゃないかもしれないです」
セレナの言葉に、リリエはそう呟くように言葉をこぼした。
「自分自身のことなんですけど…私、出来もしないことを無理にしようとする癖のようなものがあるんです。でもそのせいで、昔、取り返しのつかないことになったんです…。」
俯いて言うリリエの目が、悲しみを含んで潤んだ。
「だから、もうそんな無茶は止めようって思ってたんです。なのに、無我夢中になってまた突っ走っちゃって…自分で起こしてしまったことだから、周りを巻き込まないように、頼りすぎないように、努力してたんですけど…やっぱり私は弱くて、スカイや他の皆に頼ってばかりで、…あ、だから、ただ申し訳ないなって思ってるだけで、王妃様への辿々しい言動の理由になってないですけど…」
困ったように笑うリリエをルーナは心配げに見つめ、セレナは優しく言葉をかける。
「リリエ、あなたの言うように、頼りすぎることは己の成長を妨げてしまって、悪影響を及ぼすわ。でも、逆に頼りすぎないことも、時として己に悪影響を及ぼしてしまう。自分一人で抱え込みすぎることもいけない。私も、昔悩んでいたことがあったの。」
「…!セレナ様…」
「大丈夫よ、ルーナ。」
どこか驚きながらルーナはセレナに何かを言おうとするが、それをセレナは制止し、言葉を続ける。
「…私は、その悩みは自分で解決しなければならないと思っていたわ。そう、今のあなたみたいに。でも、ルーナや皆が私の悩みに案を出してくれて。とても嬉しかった。だから、あなたももう少し、誰かを頼っていいの。ほら、三人寄ればなんとやら、と言うでしょう?」
笑うセレナに、リリエはその悩みが何だったのか、その悩みは解決したのか、問いかけたかった。しかし問いかけられなかった。それを聞いてはいけないような気がした。
「リリエ?」
「あ、何でもないです!王妃様、ありがとうございます」
セレナに、リリエは丁寧にお辞儀をした。セレナはそんなリリエに微笑むと、ふと何かを考えるかのように斜め上を見上げ、呟いた。
「そういえばリリエ。あなたの魔法は、スカイから{元素}だと聞いたわ。それは本当かしら?」
「え、えれめんと…ですか?」
リリエはその言葉に思わず首を傾げる。
「あー…セレナ様。まだリリエにはそこまで話はしてないんです。」
頭の上にハテナを浮かべるリリエに、スカイがフォローを後ろから加えた。
「あら、そうなのね。ならば、そこから説明をしないといけないわね…。」
「えっと…魔法、のことですか?」
自分が一番関係しているはずの会話に入るに入れず、なのに勝手に話がポンポンと進んでいっていることに困惑しながらも、どうにか会話に入れたリリエはそう問いかけた。
「ええ、そうよ。リリエは、属性魔法と物質魔法の違いは知っている?」
「属性魔法と物質魔法の違い、ですか…分からないです…」
「じゃあ、そこからの話になるわね。少し、お話をしましょうか。私としても、リリエには少しでも緊張をほぐしてもらいたいから」
セレナはそう言ってリリエに優しく微笑んだ。その微笑みに、リリエは少し申し訳なさげに笑みを返した。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う
yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる