ツムギ ツナグ

みーな

文字の大きさ
34 / 74
リューシャ編

33話

しおりを挟む
スカイの呟いた詠唱、その言葉1つで床から氷柱が幾つも出現する。が、床に氷は張られていない。


「なんで…今まで氷柱とかは、張られた氷から…」
「あんた、自分で言ったよね?魔法は使い方次第でも勝ち負けが決まるって。」
「言いましたよ。それがどうかしたんですか」


スカイは苛立ったようにため息をついた。


「…分かんないかな。床ギリギリで空気を一気に凍らせて今こうしてるんだけど。」
「なるほど…細やかな説明ありがとうございます」
不敵な笑みを浮かべる青年に、スカイは心の中で呟く。


″…ほんとはあんたに説明したいんじゃないんだけど。″


そしてスカイは、チラリとリリエを見た。


″…!私の、為の説明だったってこと…?でも、意味が理解できてないよ…どうすれば…″


リリエは、困ったように、辺りを見回した。


「はぁっ!」


恐ろしいとも思えるほどのスピードで青年から蹴りが放たれる。スカイは青年の攻撃で疲れているわけではないと言い張ったが、それは嘘の部分が多かった。


″…リリエに、視線はさっき送ったけど、あれだってほとんどリリエへの他力本願だし…リリエにいい案が浮かばなかったら、俺はそろそろ…詰むね…″


スカイは内心焦りを感じていた。リリエに頼ってしまったため、リリエが詰んでしまえば己も詰んでしまうピンチに陥り、そのピンチの打開策すらも浮かばないこの状況に。


「スカイさん、疲れていないなんて、嘘ですよね?もう、詰みなんじゃないですか?この出現させた氷柱だって、大した効果は無いみたいですし、ただの魔力の無駄遣いとしか感じられません。…詰みだとスカイさんも薄々感じているんじゃないですか?」


攻撃を放ちながら青年は問いかけてくる。


「別に、大して詰みだとは思わないけど。」


スカイは攻撃をかわし、受け流しながらそう言葉を返す。


「強がらないでください。スカイさん。絶対にあなたは疲れてます。それに魔力もずっと発動しているし、疲れるのは当然のことです。…早く諦めてください。でないと、僕はあなたを戦えなくなるぐらいまで攻撃しないといけませんから。」


青年の言葉に、スカイは目に鋭さを宿す。


「そうすることが目的なんでしょ。脅しのつもりかなんなのかは知らないけど、俺だってあんたを戦えなくなるまで攻撃するつもりだけど。…それに疲れてないっていってるんだけどね。」
「そうですね。でも、そこまで諦めないで戦うことに意味はあるのですか?勝敗の見えた戦いを続けても結果は変わらない。今だって、スカイさんは疲れているけど、僕は疲れていない。これだけでももうどちらが勝つかなんて明白です。なのに諦めないんですか?」
「そんなの、当たり前でしょ。諦めるわけにはいかない。」
「どうして、勝敗の見えた戦いでさえも諦めようとしないんです?下手をすれば致命傷を受けてしまうことだってあり得ないことではないはずです。」


スカイは少し黙ると、口を開く。


「…俺は、諦めたらそれこそ負けだって思ってる。だから、諦めない。どれほどピンチでも、チャンスが来るかもしれないから。」


スカイの言葉に青年は一瞬ばかり目を見開くと、口元に笑みを浮かべていった。


「往生際が悪いタイプなんですね」
「諦めが悪いって言ってくれた方がまだましかな」


青年の蹴りをスカイは手で受け止めるかと思うと、青年の足ごと凍らせる。


「?!…やっぱり、往生際が悪いタイプですよっ!」
「…!…ぐっ!」


青年は凍らされた足を戻さずにスカイの方へ押し込み、それを予想していなかったスカイは、青年の蹴りによって部屋の壁へと吹き飛ばされた。


「スカイっ!」


その一部を見ていたリリエの叫び声が響く。


「…大丈夫。…まあそこそこは痛いけど。」


スカイは壁に飛ばされたながらも立ち上がった。


″怪我を治す暇は無さそう…か…″


そう結論を出すと、スカイは青年に向かって駆けていき、蹴りを放った。それを見るリリエは、思考を巡らせていた。


″…早く、何らかの案を出さないと……あの人の言っているように、きっとスカイは疲れてるけどあの人はまだ疲れてない…このままじゃあ、負けちゃう…″


リリエはスカイと青年のぶつかり合いを見つめながら、必死に考える。だが、いい案など浮かぶに浮かばない。


″どうしよう…負けるわけにはいかない。でも私が今戦えない以上、スカイにこれ以上戦わせるわけにもいかない…でもどうすればいいの?私が出来ることなんて、ある…?″


そう考えている間にもスカイはやはり疲労のせいなのか青年の攻撃を受け、かわしきれずにダメージを受けてしまっていく。スカイは、青年から距離をとった場所で、床に手と膝をついた。


「…くっ…」
「スカイさん、だんだん、攻撃をかわしきれなくなってますよ。本当に、ここからチャンスなんてやって来るんですかね?」


青年は、スカイを小馬鹿にしたような笑みを向ける。


「………」


下を向いて、何も言わないスカイに、青年は言葉を続ける。


「けど、もうチャンスなんて来ませんよ。残念ながら。…だって、これで終わりにしますから…!」


青年は床を強く蹴り飛ばし、離れたところにいるスカイへ駆けていく。


「諦めなくても、負ける戦いは負けるんです。早く諦めた方が、得なんですよ。」


そしてスカイに回し蹴りを放とうとしたその時。


「ダメ…っ!」


その少し小さな声と共にスカイの前に人影が割って入った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...