ツムギ ツナグ

みーな

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混沌の泉編

68話

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「え、ルクト兄さん気づいてたの?」
「当たり前だろ?から一人称が変わったことくらいルーナもセレナ様も僕も皆気づいてた。」
    本人は余程気付かれていないと思っていたのか、珍しくポーカーフェイスが少しばかり崩れ、目を見開いていた。
    スカイはルクトやルーナ、セレナも認めるほどの洞察力と分析力の高さを持つ。本人はその事に気付いているのかは不明だが、そんな訳で相手の表情を一瞥しただけで読み取ることはスカイにとっては難しくない。
    そんなスカイの目すら誤魔化せられるとは演技者の能力が自分にはあるのでは無いかと思う自画自賛はそこそこにしておいて再びスカイを見つめれば、ふぅとスカイは息を吐く。その表情はまたポーカーフェイスで隠され読む事が出来ない。
「まさか気付かれてるとは思わなかったけど。皆一人称が変わってもあんまりにも自然に話してくれるから気付いてないと思ってた。」
    それはお前を気遣って指摘しないようにしてたんだけどな、と言いたいところを抑える。スカイには無理をして欲しくない。それ故に、少しでも感情が読み取れる方がこちらとしても助かるのだ。当然、本人は感情を読み取られるのをあまり好かないようだが。
「…お前の性格からして、大丈夫の一点張りだろうが一応助言しといてやる」
    その言葉に、何?と言いたげにスカイはこちらに視線を向ける。それと同時にスカイの額に手を伸ばした。
「…いった!?……何?俺何かルクト兄さんにデコピンされるような事したっけ?」
    ルクトの不意打ちのデコピンに額を押さえるスカイに真剣な表情でルクトは言う。
「してるよ。お前は何でもかんでも我慢して無理し過ぎる癖があるからな、見てるこっちが心配になるんだよ。あまりにも弱気な部分が見えないから、逆に周りを心配させてるんだ。そのことをよーく覚えとけ、分かったか?」
    スカイはそんなルクトの言葉に暫し沈黙すると大人しく頷いた。それに安心して微笑むと花園の真ん中で戯れるリリエとリューシャに目をやった。
「…懐かしいな、お前も昔はあんな風にここに幼なじみを呼んでは戯れてた」
    遠くを見るような目で景色を見つめる。
「覚えてるよ。俺がその時のこと、忘れるわけないでしょ。俺は、ルクト兄さんに拾われてからずっとあの二人と三人で居たんだからさ。」
    ふぅとため息じみた息を吐いて、スカイも目の前の花園に目をやる。
「……あの頃。帰れるなら帰りたい?」
「……別に。…また、三人で仲良く話が出来たら、僕としても幸せだろうなとは思うけど。」
「それ帰りたいって言ってるのと同じだぞ」
    はは、と笑うとスカイがうるさいな、と不満げな目を向ける。
「お前って、ほんと素直じゃないよな?たまには素直になれって」
    笑ってスカイの頭をくしゃっと撫でる。普段なら頭を撫でようとすれば避けるか手を払われるかするのだが、今回はそれを陰湿な目でルクトを睨みつつも甘受するスカイに笑みをこぼす。
    やっぱりまだ子供なんだよな、と思いつつスカイが素直さを欠くようになったことには自身も少なからず関係していることに悲しみと罪悪感を覚える。

──ごめんな、スカイ……。

    面と向かって言えば、は?の一言で一蹴されてしまう謝罪を心の中で呟く。
    きっとあの時、僕が何かもっといい策を考え付いていたなら。後悔しても遅いのは分かっているし、何も変わらないのは当然分かっている。でもそれを分かっていながらも避けることが出来ないのが心というものだろう。
「ルクト!スカイ!見てこれっ!案外上手に出来たでしょ!?」
    ここから距離があるにも関わらず声を張り上げ、可愛らしい花冠を掲げこちらに笑顔を向けるリリエ。
「スカイ、呼ばれてるぞ?」
「ルクト兄さんもね、これだけ離れてるのに俺たちに話しかけてたらリリエ明日喋れなくなりそう」
    そう言ってリリエの方へ向かうべく花園をかき分ける。確かにそうだ、と苦笑しつつルクトもスカイの後を追い花園をかき分けていく。
    無邪気にリリエは飛び回るリューシャと戯れ遊ぶ。悩みなんて無縁そうな、確かに殆ど無縁な彼女が自身の深淵に隠されたある事に気付くのは、もう少しだけ後のことである。



    淡い電光の光が机とその両側に佇む棚を照らす。その机に軽く積まれた書類。
「…虹の巫女、及び虹の巫覡ふげき、通称虹。一つの世界にたった一人しか存在せず、願いを捧げる事によって願いを叶える力を持つ……。」
    読み込み過ぎた故に暗記してしまったその書類の一番上の二文を呟く。
「…覚えていろ王妃セレナ。いずれか必ず、貴様と貴様が大切に想うもの全てを破壊する。貴様が守ろうとする虹やその他の取り巻き共を残らず殲滅し尽くし、貴様の絶望する顔をしかとこの目に焼き付けよう…!」
   藤の髪の間から覗く目には激しい憎悪。まさに怒りの炎が燃えている、という表現を使っても誇張ではない程のそれは今の彼女の行動原理となっている。
「スヴールを使った方法は失敗した…。だが元から奴など期待していない。大切なのはこれからだ。既に手筈は全て整っている。後は機を伺い待つのみ…。楽しみよのう…」
    淡い光が女性の妖艶な笑みを浮かび上がらせる。それは妖しさと美しさを併せ持ち、それにアクセントを加えるように憎悪に燃える目は笑みの深みを増していた。
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