青春怪異奇譚

諸星影

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序章(プロローグ)

第四話  『いざ京条寺へ』

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 そうして翌日。
 僕は休日を利用し、高梨さんと学校最寄りの駅前で合流することとなった。

「お待たせ、天寺くん」
「いや、今来たとこだよ」

 駅の前の広場。街の名所の一つである銅像があるその場所で待っていた
 僕の元へ高梨さんがやってくる。

 女子との待ち合わせに慣れていない僕はとりあえずテンプレート通りに
 答えてみせると、彼女はいつも通りの笑顔を浮かべ悪戯っぽく笑って見せる。

「ふふ、天寺くん緊張してる?」
「え、まあそれなりに」

 同級生の、それも男女共にトップクラスの人気者である彼女と放課後に駅で
 待ち合わせというシュチュエーションに緊張しない方が無理がある。
 こんなところを学校の誰かに見られた赤面ものだ。

「心配いらないわ。師匠は少し変な人だけど優しい人だから」
「え、ああ、うん」

「(そっちの緊張のことね)」

 無意識なのか、自身が人気者だという自覚がないように振る舞う彼女に
 戸惑いつつも、駅構内へと並んで歩く。

「それよりも天寺君と学校以外で話するのって何気に初めてだよね」
「そうだね」
「天寺君って徒歩通学だよね。家ってこの辺なの?」
「学校の近所だよ」
「いいわね近くて」
「まあ、近さで学校を選んだわけだし」

 なんてたわいない話をしながらも僕は彼女と一緒に電車に乗り込む。
 そうして二駅離れたところで電車を降りそのまま目的の場所まで向かう。

 そして辿り着いたのは、昨日彼女から聞いた師匠がいるというお寺、京条寺。
 ここ御奈茂市の東に位置する場所にあり、地元では有名なパワースポットと
 言われているところだ。

「お邪魔しまーす」

 お寺に入ると彼女はなれた様子で本殿の近くにある建物に入る。
 そのあまりにもフランクな彼女の態度に僕は不安になり、彼女に訪ねる。

「いいのか? そんな勝手に入って」
「いいのいいの。だってここ私の家でもあるし」
「え!? マジで?」
「えぇ」
「へぇー」

 知らなかった。
 まさかクラスの人気者の実家がお寺だとは、あの滝谷でも知らないだろう。

「(ん、待てよ、ということは今僕はとても貴重な体験を
 しているのではないか?)」

 よくよく考えてみれば、こうして彼女と二人きりで話すこと自体初めてのこと。
 そしてそんなクラスのマドンナである彼女と放課後に待ち合わせして家に
 上げてもらうと言うのは、理由はどうあれ得難い体験であろう。

「(そう考えると少し優越感があるな)」

「どうしたの?」
「いやなんでも」

 彼女の問いに僕はニヤリと口角の上がった自身の緩んだ顔を元に戻し、
 前を歩く彼女の背に視線を移す。

「そういえば家がお寺だから、祓屋なの?」
「別にそう言う訳じゃないよ。それにお寺だからとかって話はこの仕事には
 関係ないよ。ここが特別そうってだけ」
「なるほど」

 僕は廊下を歩く彼女の後ろを追いかけつつ、普段入ることのないお寺の中を
 物珍しく眺める。建物の中は、外側と同じく木造建の綺麗な作りをしており
 思ったより広いという印象を受ける。そして何より部屋が多く、一人で歩くと
 すぐに迷ってしまいそうだなと思った。

 すると、廊下と廊下が交わるT字路のすぐ傍の部屋から襖を開けて出てくる男性と
 目が合った。

「おや」

 男性は僕の姿を発見すると不思議そうに眉を顰める。

「こんにちわ。誰かのお客さんかな」
「あ、えっとお邪魔してます。高梨さんのクラスメイトの天寺宗と言います」
「ほう。藍華くんの、これはまた珍しい」

 と、そのタイミングで数歩分の距離を開けていた高梨さんが、廊下の先から
 踵を返しこちらに戻ってくる。

「あ、師匠、こんなところにいたんですか」
「やあ藍華くん。おかえり」

 そう言うと彼女に師匠と呼ばれた男性は、にこやかに微笑みながら顎をさする。

「いやー、まさか久しぶりに藍華くんが友人を連れてきたと思ったら
 まさか男の子とはね。ビックリだよ」
「そういうんじゃないです。天寺くんはクラスメイトで、怪異がらみの相談者です」

 彼女がそう答えると、男性はわざとらしく残念そうな表情を浮かべる。
 そして彼は続けて冗談ぽく、丸坊主の頭にペチンと手を乗せる。

「なんだ、そうなのかい。すまない早とちりが過ぎたようだ。ごめんね二人とも」
「あ、いえ大丈夫です」

 その仕草や言葉遣いから、高梨さんの云う通り、確かに変な人だなというのは
 理解できた。

「…………。それよりも師匠、今少しお時間よろしいですか?」
「ん、何かな」
「ご相談したいことがあります」
「構わないよ。折角藍華くんが頼ってきてくれたんだ。それにボクも君には
 興味があるんだよね」

 すると男性はその鋭い眼光をこちらに向ける。
 それに対し、僕は一瞬その目力に気圧されるように体をピクリと跳ねさせた。
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