恋文文庫

tm太郎

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遠く届かぬ恋

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僕には好きな人がいる、由香という素敵な女性だ。近くを通ると優しい香りがするし、顔がとても整っている。そして、何よりも優しい。
僕の日課の朝の散歩の時に通勤中で急いでいる彼女は毎朝優しい声で挨拶してくれるし、夜遅くに、僕が家のベランダでのんびりとしていると、俺の方を見ると優しいの笑みで手を振ってくれたりする。夜遅くまで仕事を頑張っていて、疲れているはずなのに。俺はそんな彼女が大好きだ。
しかし、最近ではそんな彼女がたまにとても悲しそうな顔をする。僕と話している時はとても笑顔なのに、ふとした瞬間になんだかとっても辛そうな顔をする。しかし僕はその理由を聞くことが出来ない。
僕にできることをできる限りしようとして、この前プレゼントをしてみたが、とても困った顔をされてしまった。
どうしたものかと悩んでいると、見回りに来た自警団で友達の虎ちゃんが声をかけてきた。
「珍しい、楽観的なお前がそんなしかめっ面をしてるなんて、どうした、奥歯に挟まった魚が取れないのか?」
真剣な顔でそんなことを聞いてくるので思わず少し吹き出してしまった。昔からこいつは親切で、友達思いだが、なんだか少し不思議ちゃんな所がある。
僕はこいつの事を信頼してるので、少し相談してみることにした。
「あのね、ちょっと好きな人が悩んでそうでね、僕になにかできることは無いかな、と思ったんだけどこの前プレゼントを渡そうとしたら、困った顔をされちゃって、、、なんかいい案ない?」
虎ちゃんは、ちょっと考える素振りをしてから、
「うーん、そういうのはあんまり俺はわかんないからなぁ~まぁでも悩みを聞いてやればいいんじゃないか?人ってのは悩みを聞いてもらえるだけでスッキリするもんだからよ、おっと、見回りをしないとな、助けようとするのは良いがお前も悩みすぎんじゃないぞ?悩みむってのは頭を使うからな、じゃあまた」
そう言い残すと虎ちゃんは、軽やかな足取りで見回りへと戻って行った。
確かにそうだ、悩みを聞いてあげよう。僕にできることは少ないけどそのくらいだったら僕にもできる。
僕は、その日のうちに実行に移した。夜、疲れた顔をして帰ってくる彼女に声をかけた、いつもとは違いベランダではなく玄関前にいた事に驚いている彼女に僕は尋ねてみた。
そうすると彼女は、
「聞いてくれるの?優しいね、実はね、会社で重要なプロジェクトを任されていたんだけどね、大きな失敗をしちゃったんだ」
そうなのか、と僕は相槌をうつ
「それでね、先輩にも同僚にも沢山迷惑をかけちゃってね、沢山励ましてもらっちゃったんだ」
僕は励まして貰ったならなぜ落ち込んでいるのか分からなかった。
「でもね、私がやっちゃったのは会社の今後にも関わることでね、とっても迷惑をかけちゃったんだ、だからね、会社を辞めようと思ってるの」
しょうがないよ、辞める必要なんかないよ、と言ってあげたいが出来ない、なぜなら、
「ごめんね、こんな話をして、猫の君には関係ないのにね」
そうだ、僕は猫だ、だから何も出来ない、何も助けになれないんだ。
「聞いてくれてありがとう!君のおかげでスッキリしたよ!ありがとね、おやすみ」
あぁ、優しい声だ、少しでも役に立てたのかな?他の家の飼い猫の僕は君とずっと一緒にいてあげることも出来ないし、かといって僕に何か出来る訳でもないし、僕の恋は届かないけど、これからも君を少しでも支えていきたい。

僕は日課の朝の散歩をしている、しかし、いつもの優しい声やいい匂いはしない、彼女は仕事が変わって、この時間には会えなくなってしまった。しかし、夜はいつもと変わらない笑顔で、ベランダにいる僕に手を振ってくれる。僕はこの子が好きだ。
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