風俗嬢だって恋がしたい！！

今までの日常

話せない思い

「ミサー！！悪いけど午前中に3人風呂いける！？」
出勤早々に気分を下げる仕事を要求され、頭の中で描いていたプランは音を立てて崩れ落ちた。

「大丈夫です！！何とかします！！
    午後なんかありましたっけ？？」

心の中で舌打ちしながらも笑顔で対応するのはこの物語を紡いで行く主人公
谷原魅咲緒－タニハラミサオ－20才
福祉科の高校を卒業し、特別養護老人ホームに就職して2年半

ごく「普通」の日常を過ごしていた女の子だ

「急に委員会やるって言われちゃって13時半から行かなきゃ行けないのよ。
午後のお風呂は出来ないし、残りの1人は明日私が行くから午後のことはお願いね」

それなら仕方ない
日中は早番の仕事が一番といっても過言ではない仕事の役割だ

利用者(ホームに入居している方)からは目が離せないのに他に行う仕事が山ほどある
助け合って行かなければ誰も定時で帰れず、イレギュラーが起きれば残業はほぼ確定だろう

仕事の早い先輩達ですらリカバリーは難しいのだから

「わかりました。お風呂の準備行ってきます！」

行動一つ一つも言葉に出し伝えなければ些細なことでイレギュラーが起きる
積もり積もって最悪な事態を招くことも

最悪な事態とはつまり「死」だ


高齢者は顔を3秒水につけるだけで溺死する

そのくらいデリケートであり
守らなくてはいけないターゲットであり
憎たらしい存在だ


頭でわかっていても心の中は荒んでいく一方で

病気だから仕方がない
大切に扱わなければいけない「存在」

言葉で表すことは簡単だけれど
この仕事は心をコントロールすることがとても難しい仕事だった


怪我をしないように
不便がないように
痒くならないように
楽な余生を過ごせるように


わかってる


わかってるんだよ

頑張ってる


けど


でも


こんな考え方嫌だけど


守ってあげてるのに…

なんで人殺し扱いされなきゃいけないの

なんで馬鹿にされなきゃいけないの

なんで私が責められなきゃいけないの？


そんな感情がつもりつもって
プライベートではお酒に逃げるようになって
お酒に逃げると母親に叱られて
けれど仕事の話は誰にもできなくて

私の性格に問題があるのもわかる

明るくて、真面目で
正義感が強いのに自己中心的で
友達の前ではどんなに辛くてもポジティブで相談役

だからこそ余計に本音を話せなくなって


ごめん




ごめんね





悪いことだってわかってるの

でも

逃げる場所がどこにも無いの



誰にも会いたく無い

殺したいなんて考えたく無い

こんな想い持っていたく無い




気が付いたら私は全てを投げ出して
皆の前から姿を消していた。