腹黒令嬢シンデレラ

篠山猫(ささやまねこ)

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若人よ、今こそ舞え(前編)

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偶然にも再会したエラとキャピュレット家のアンドレ侯爵子息。
アンドレの提案により舞踏会の参加、そしてオルレアン公へ直接会うという目的にようやく目途がつくのであった。

1週間後の待ち合わせはリバース領(元キャルロット領)の町が指定された。
キャピュレットから荷馬車を送り、エラを隠し乗せてキャピュレットの屋敷まで運ぶというものである。
こうして早くも1週間の時が過ぎたのであった。

農村地帯で商人に変装したエラの姿は髪をアップして纏めた所に布で覆い隠し、下はダボついたパンツに上はラフなシャツを着ていた。

「お迎えに上がりました。」

キャピュレットからやってきた老齢で髭を生やした商人はエラにこう耳内するのであった。
エラはその荷馬車に乗り込むと老人は勢いよく馬に鞭を叩き、荷馬車はそのままキャピュレットの屋敷へ向かった。

キャピュレットの屋敷に到着すると、白髪の髪を綺麗に纏めた年配の女性がキャピュレット家の服装で出迎えた。

「リズ!」

こう呼ぶとエラは思わずリズを抱きしめるのであった。

「お嬢様、よくおいでになられました。
 支度は出来てございます、早くお着換えになって。」

久々の再開もつかの間、エラは急いでドレスに着替えるのだった。
美しい爽やかな色のドレスを纏い、姿勢を正したエラ。
今は亡きエラの母、アンヌの若き時の姿そっくりであった。

その姿を見たリズはうっすらと涙を流し、自然とこの様な言葉を出したのだった。

「もう何処に行ってもお恥ずかしゅうございません。
 立派でございます。」

エラはリズに貴婦人の挨拶をするとキャピュレット家とは異なった馬車に乗り込んだのであった。
胸元にはキャルロット家の紋章が入ったブローチをつけている。
このブローチはエラが予め母、アンヌの形見として所持していたものであった。
但し、エラはブローチを別の目的に使う事も考えていた。

それはアルフレッドから託されたオルレアン公への手紙が本物であるという証拠を示すため、敢えてブローチを落とすというものであった。
最も、オルレアン公を信じる事が出来ない場合もありうる。
その時は手紙もブローチも必要としないと考えていたのであった。

馬車がオルレアン公の屋敷に到着し、エラが馬車から降りようとすると出迎える者が貴族式の挨拶で返すのであった。
エラも同様に貴族式の挨拶を交わし、招待状を差し出す。

招待状を確認する者が招待状を受け取って確認する。
「アンヌ・ド・メルバン侯爵夫人でございますね。」

「えぇ。」

ここでもエラは貴族式に沿って微笑んで会釈をする。
所が招待状を確認する者が首を傾げる。
どうやら本物のアンヌを知っている様であった。

「アンヌ侯爵夫人、今日は実にお若くてお美しい。」
このように持ち上げるとエラは内心、動揺して悪態をつくのであった。

「(アンドレのバカっ!!)」

表向き、何食わぬ顔をしたエラは扇子をゆっくり広げ、貴夫人が微笑する仕草を交えて余裕の表情を見せた。
「美容に邁進していますのよ。フフフっ。」

「左様でございますか・・・
 その素晴らしい美容術、是非ともどこかでお聞きかせ頂きたい。」

エラは扇子を口元に充てて意味深な笑みを浮かべてごまかし、仕草のニュアンスで屋敷に案内する様に即したのだった。
オルレアン公の屋敷に入ると少し気が抜けたものの、ハメられた感のあるアンドレ侯爵子息に対するある種の怒りは収まらなかった。
しかし、ここで何故か今は亡きアルフレッドの顔と進言を思い出したのであった。

「お嬢様、アンドレ様は一途で素直でございましょう。
 しかしながらお気をつけ下さい。直球で邁進されると周りが見えないお方です。」

このアルフレッドの言葉には、手入れの行き届いた紳士服に白髪交じりで眼鏡を掛けなおしてにこやかに話す姿も含まれていたのだった。

アルフレッドの言葉、そして1週間前に口説かれたアンドレの言葉を回想したエラはがっくりした表情でこう会心したのだった。
「(私がバカだった・・・)」

序盤からこの様な形で始まったエラには、まだ始まりもしていない舞踏会が既に終焉で疲れ切ったかの様に感じるのであった。
拍手喝采で始まった舞踏会、檀上には初めて見るオルレアン公の姿であった。
切れ長の目に凛々しい顔立ちで金髪の髪をなびかせていた、これがオルレアン公のご子息であるレオ王子の姿である。
隣には50代頃に見えるオルレアン公の王と妃が腰深く座っていた。
顔つきは歴代の貴族の中でも人望や重責を背負っている様に見える風貌、格の高さを直ぐに感じえるものであった。

脇には立食するための様々な料理が並び、オルレアン公が鎮座する付近には髪を後ろに束ねてリボンで結んだ演奏者が10名程並ぶ。

注釈解説:
17世紀までの舞踏会は一般的にバロックダンスを指すものであり、バロックダンスには更に16種類の踊り作法が存在する。
(※この内、現代で広く知られているものはガヴォット、メヌエットの2種類程度と思われる。
 楽曲(マルティーニ、ゴセック、バッハ)が違えば同じガヴォットでも楽曲に沿った踊りになります。)

宴が始まると茶髪で顔が整った若人、キャピュレット家のアンドレ侯爵子息が待ち換えたかの様にエラの傍へ寄ってくる。
正面に向いたエラの立ち位置から少し斜めに立ったアンドレは跪き、手を差し出した。

「踊って頂けますか?」

断ってしまえば他の者から誘いが来ても次の演目まで踊る事は出来ない。
エラは少し困惑はしたものの、手を差し伸べて貴婦人の挨拶で返したのだった。
演目が始まると周囲を圧巻させ、息を飲む程にアンドレとエラは素晴らしい踊りを見せた。
6歳頃から9年近く、手合わせしていた2人にとっては当然の成り行きであった。

この踊りによってアンドレとエラは宴の主役と化してしまうのであった。
この状況を見ていたレオ王子はエラに興味を示した。

そしてレオ王子はアンドレを目立たない場所に誘導し、傍に寄って耳元でいきなり悪態をつくのであった。

「君は目立ち過ぎだ。
 先ほどのご婦人は何と申すか。」

「はて、王子らしからぬお言葉ですな。」

アンドレ侯爵子息は空を仰いだかの様にとぼけ始める。
エラの本性がバレそうな事も憂慮していたのだった。
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