魔女は言う。「復讐したい? なら新兵器の実験台になってくれないかしら?」と……  【鎧殻剣記】

熱燗徳利

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第9話  鎧殻警備隊本部

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「疲れた……」

 戦闘を終えたアルベクは、バシュルの亡骸をじっと見つめながら呟いた。
 この手で人を殺めたことは、アルベクの肉体と精神を大きく疲弊させた。やはり殺人への忌諱の感覚を拭うことは出来ない。

 鎧殻装兵となったからには、これからもこんな思いをするのだろうか…… それとも、いつかは慣れて、何も感じなくなるのだろうか?

 アルベクがそんなことを考えていると、後ろからいくつもの足音が近づいてくるのが聞こえた。
 振り向くと、何人もの鎧殻装兵がこちらにやってきていた。

「あら、カイン隊長」

 セフィーネは集団の先頭に立つ、青い鎧殻装兵に声をかける。

「……セフィーネ。すまない、遅くなった」
 
 カインと呼ばれた男は詫びるように言う。そして、深紅の鎧殻装兵であるアルベクに視線を移す。

「なるほど、新型の適合者が見つかったのか……」
「ええ、彼はアルベク。期待以上よ。魔術師をすべて倒してしまったの」
「それは、凄い…… ところでこのあたりで生き残った民間人はいないか? 怪我人は?」
「さっき魔術で探知してみたけど、この辺の人たちはみんな死んでいるわ…… 即死よ」
「そうか……」
 
 それを聞いて、カインは鎧殻装を解除する。すると、黒髪の男性が姿を現す。
 無精髭を生やしていて、年齢は三十代後半ぐらいだろうか?

 アルベクも鎧殻装を解除しようとする。持ち主の意思を受け、装甲は粒子状に戻り胸の核玉《コア》の中に吸い込まれていった。
 
「……なんだ、まだ少年じゃないか」 
 鎧殻装を解除したアルベクの姿を見て、カインは驚いたように言う。しかし、すぐに咳ばらいをし、襟を正す。

「……俺はカイン。鎧殻警備隊の隊長だ」

 そう言って、右手を差し出す。

「アルベク・レーニスです。セリオス大学の学生です」

 差し出された右手を握る。鍛え抜かれた無骨な手だった。アルベクは亡き父の手を思い出していた。

「セリオス大学? セフィーネお前、同じ大学から適合者を選んだのか?
「それは偶然よ。適合者がたまたま同じ大学にいたってだけ。だけど、私と同じく、彼にも学業を続けさせてほしいわ」
「俺としてはそういう半端は好きじゃないが…… お前の言う事は上も無碍にはできんだろう。……しかし、それはそれとして服がいるな。俺ので悪いが着てくれ」

 アルベクが半裸なのを見て、自分の隊服のコートを差し出す。

「すみません……」

 藍色のそのコートを受け取り、羽織る。カインはアルベクより一回り以上体格が良く、コートは大きく感じられた。

「それで、セフィーネはああ言っているが君も鎧殻装兵になったということは、本来なら軍に入らねばならないんだが……この魔女になんて言われて鎧殻装兵になることを容認したんだ?」
「えーと、学業はそのまま続けてくれて構わない。敵が現れたときだけ、力を貸してくれと」

 それを聞いて、カインは渋い顔をしてセフィーネを見る。彼女が自分の我儘を通すのはこれが初めてではなさそうだ。

「……なるほど、そういう契約なわけか…… 何にせよ、このまま警備隊本部に来てくれ……話が色々とある」
「……わかりました」

 カインは部下の鎧殻装兵に死体の片づけなど、諸々の手配済をするように命じてから、アルベクとセフィーネを警備隊本部へと案内した。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 帝都中心部に位置する警備隊本部の建物は、飾り気はなく、いかにもな軍人の基地という趣だった。
 アルベクとセフィーネはカインの隊長室まで通されたが、そこも机と椅子と資料を収納する棚があるだけの質素なものだった。

「掛けててくれ。今、紅茶を持ってくる」
「……お気遣いなく」
「私は上等な紅茶なら飲むわ」
「……」

 アルベクとセフィーネは椅子に座る。こういう軍の室内はアルベクにとってはどうも落ち着かなかった。
 しばらくして、給仕がきて、三人分の紅茶を入れる。

「それでだ、アルベク。まず君が魔術師を倒してくれたことに感謝しなければならない。最近、魔術師による被害が頻発していてね。いよいよ上も隠しきれなくなるだろう」
「俺も、魔術師はつい先日まで絶滅したものと思ってました…… しかし、百年たった今姿を現した理由は何でしょうか?」
「それは奴らがようやく独自の核玉《コア》の開発に成功したからだと思う。その核玉《コア》で肉体を変質させ、既存の鎧殻装兵を超える力を手にしたからだろう」
「まあ、昨日言ったとおり、もともと核玉《コア》は魔術師が開発したものですもの、彼らに作れてもおかしくはないわ」

 たしかに、百年前に開発された核玉《コア》はセフィーネの曾祖母が開発したと言っていた。魔術師の残党はこの百年間息を潜めて、独自の核玉《コア》の開発に力を尽くしていたのだろう。

「魔術師とその子孫たちは、百年もの間、カノア島のカノア王国に潜伏していたらしい。カノア王国はヴァルスレンに媚びへつらう裏で、魔術師たちを匿っていたようだ……」

 カノア王国……百年以上前、ヴァルスレン王国がサタナキア皇国を破ったあと、いち早くヴァルスレンに服従を誓った島国だ。
 しかし、もともとはサタナキアとの関係が深かったカノア王国は、裏で魔術師の隠れ蓑となっていたという訳か……

「では、敵はカノア島に?」
「ああ、このことに我が国が気付いたのはつい半年前だ。当然カノア王国に圧をかけ、魔術師を引き渡すように命じたが、やつらはそれを拒否した。何度脅しをかけても聞く耳持たずだ」

 カインは紅茶を一口飲むと、話を続けた。

「それで我が国は三カ月前、秘密裏に魔術師討伐軍をカノア島に送った。鎧殻装兵を多数動員した精強な部隊さ。……しかし、結果は全滅だった」
「全滅……」
「上層部は衝撃を受けたようだ。鎧殻装兵の部隊がいとも簡単に敗れたことに」
「知りませんでした……」
「情報統制しているからな。ただ、このことだって、もうじき表に出てくるだろうよ。いつまでも隠し通せまい」

 この百年、ヴァルスレンが対外戦争で敗れたことなどなかった。時代の移ろいを感じる。

「カノア島は今鎖国状態で、中がどうなっているかもわからない。もしかしたら、魔術師たちが実権を握っているのかもしれないが…… なんにせよ、敵の規模も戦力も詳細はわからない。だから、対抗するためにも新型の核玉《コア》を使える適合者が大勢必要なんだ……」

 そう言って、カインはアルベクを見つめる。
  
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