魔女は言う。「復讐したい? なら新兵器の実験台になってくれないかしら?」と……  【鎧殻剣記】

熱燗徳利

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第46話 暴走

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――アルベクの心臓にリーナの剣が突き刺さる刹那、胸の中が発熱し、リーナの動きが止まる。彼女だけではない、目に見えるすべての現象の時間が停止しているようだった。
 アルベクの意識ははっきりしているが、右胸を貫かれた痛みはない。ただ、身体が微塵も動かない状態だった。

(これは初めて鎧殻装兵になったときのあの感覚か……)

 あと一瞬で止《とど》めを刺されるというときに、すべての時間が停止するというのは、以前にも経験があった。

 すべての物が動かないと思ったが、唯一動くものがあるの。それは、胸の中に埋め込まれた核玉《コア》だ。ドクン、ドクンと鼓動し、しかも、その鼓動が徐々に強くなっている。
 
『生命の危機を確認。強制的に第三形態に移行します』 

 その声は体の内側から直接脳内に聞こえてくるようだった。

(第三形態…… まだそんな力があるのか……)

 次の瞬間、核玉《コア》の鼓動がより強くなる。それは鼓膜を打ち破らんとするぐらいの騒音となる。

(ああ、うるさい)

 アルベクがそう思った時だった。核玉《コア》から大量の深紅の光が出て、身体を包む。そして、時間が停止したような感覚から解放されたのと同時に彼の身体はその場から消える。
 
 次にアルベクが気がつくと、リーナから少し離れた場所に立っていた。右胸に出来た傷を綺麗に完治している。しかし、身体中が火のように熱かった。そして、何か底知れぬエネルギーが放出されつつあるのを感じた。
 そして、時間が停止した感覚からも解放される。

「転移魔術?」

 アルベクがこの場から消えたことを認識したリーナは不思議そうに言う。身体の傷も修復されているのが不可解だった。

「いや、その核玉《コア》の力だね。帝国の魔女の核玉《コア》、本当に謎が多いよ」

「……リーナ、逃げろ!」 

 生身でありながら、自分の身体に変化が起こっているのを感じて、アルベクはそう告げる。

「逃げる? それは君の方だよ。まあ、逃がしはしないけど」

 そう言って、リーナがアルベクに近づいた時だった。もの凄い量の深紅の光がアルベクの胸から放出され、あまりの眩しさに、リーナも後ずさる。

「これは?」

 その光は、深紅の粒子となってアルベクの身体に纏わりつく。そして、深紅の鎧殻装となるが、それは通常形態とも、覚醒形態とも違っていた。
 いつもよりさらに濃い深紅の鎧殻装が身体を覆い、二対の深紅の角はより長く太くなっていた。肩には鋭角の装甲が顕現し、胴や、四肢を覆う鎧殻装はさらに厚みを増し、防御力を高めている。
 
 その後、胸から電流が流れるが、それは白銀ではなく、漆黒の電流であり、身体に黒い稲妻の文様を刻み込む。
 手に握られた長剣は刀身が赤く、そこにも黒い稲妻の文様が入っていた。また、刃の部分も黒かった。
 これこそが、鎧殻装兵アルベクの第三形態であった。

「なに、その姿……」
 
 リーナはアルベクの変貌に驚愕する。しかし、アルベクの方は苦しそうに藻掻いていた。

(意識が闇に飲まれる……)

 生命の危機を受け、過剰に強化されたこの形態は、装着者の意思など関係なく、勝手に動き出そうとしていた。

 しばらくして、アルベクの意識は完全に闇に消える。

「ウゥゥゥゥゥゥゥ!」
「アルベク?」

 獣のような唸り声がアルベクから聞こえ、リーナは眉をしかめる。彼の変化を不可解に感じながらも、冷静に長剣を構えた。
 
 すると、アルベクはすさまじい速度で迫ってきた。初太刀をなんとか防御するも、腕がしびれるのを感じる。

(パワーが桁違いに上がっている……)

 そのまま、アルベクは剣を叩きつける。技術はアルベクの精緻な剣とは比べるべきもない稚拙なものだが、そのパワーとスピードは厄介だった。

 リーナは防戦一方となる。

「止まりなよ!」

 剣戦から黒い電流を発っし、アルベクに直撃させる。ただし、その鎧殻装はまったくの無傷で、動きも止まらない。

 そのまま剣をやたらめったら振り回す。初心者のような太刀筋だが、それゆえに軌道が読みにくく、捌き斬るのが大変でもあった。

「くっ!」

 鍔迫り合いの状態から、力で、吹き飛ばされる。技術も何もあったもんじゃない、単純な『力』にリーナは押されていた。

 リーナは限界まで核玉《コア》の出力を引き上げるが、それでもアルベクの猛攻の前に翻弄される。

(しかたない……いったん距離をとる)

 すでに皇帝アリュードとの戦いでついた傷は癒えている。転移魔術を使って、この場は凌ぐことにした。

 彼女はそう思い転移魔術を使う。行先は、ライサー達のいる場所であった。
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