魔女は言う。「復讐したい? なら新兵器の実験台になってくれないかしら?」と……  【鎧殻剣記】

熱燗徳利

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第54話 将国の姫

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「冥王の核玉《コア》…… しかし、あれは危険なものだとセフィーネは申しておりましたが」

 カノア島でリーナの亡骸から冥王の核玉は回収されたものの、その膨大な魔力はリーナでなければ扱いきれないと、帝国工廠で厳重に保管されていたはずだ。
 それに個人的な話で言えば、冥王の核玉を使った鎧殻装兵の姿はリーナとの戦いのこと思いい起させるので、アルベクとしては辛いものがある。

「危険性を抑えた新型を使っておる。危険と言えば竜玉を使った核玉の方がよっぽど危険だ。ゆえに、あちらはもう使用を禁止した。すでに身体に入れている者は例外だがな……」

 そう言って皇帝アリスティアは悪戯っぽく笑った。つまり、自分は例外という訳だ……

「しかし、セフィーネはどこに行ったのであろうな? アルベク、そなたは彼女の居場所に心当たりはないか?」
「私も四方八方探し回りましたが手掛かりがなく……」
「そうか……残念だ。ただ、今の帝国工廠には他にも有能な魔女がいる。ユリファという十七歳の若い魔女なのだが、彼女は天才だ。冥府の核玉を解析して、新型の核玉を作ったのも彼女だ」

 セフィーネも若くして天才的な魔術師だったが、それに並ぶ存在が現れたという事か……

「それで、本題の件なんだが、食事をとりながら話そう。時間はあるのだろう?」
「は、はい。喜んで」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 晩餐会に呼ばれるのは、これで二度目だった。前回の時と同じく、見たこともない豪華な料理の数々が巨大なテーブルを覆いつくしていた。

 皇帝アリスティアは一番奥の席に座り、その両脇には、親衛隊員であるセートとヒュークの二人が立っている。

 アルベクはアリスティアから向かって右側の席に座らされたが、巨大なテーブルに二人しか着席者がいないのはどこか寂しかった。
 
「セート、お前はアルベクの友なのだろう、一緒に食事をとっても構わんぞ。ヒュークお前も同だ」
「お心遣い感謝しますけど、今は仕事中ですので」
「我々にお気遣いなく……」
「……堅い奴らだ。我に護衛など必要ないというに」

 セートとヒュークは皇帝の申し出を断った。アルベクも二人には悪い気がしたが、せっかくなので食事を頂くことにした。

「まあいい。それでだ、アルベク。今日そなたを呼んだのはな、昨今の我が国を取り巻く状況が芳しくないからよ」

 皇帝はワインに口をつけた後、言葉を続ける。

「バシュヌ将国の独立宣言は予想外であった…… 内政も文化も好きにさせていれば満足するかと思っていたら、それでも足りんらしい。よほど我に跪《ひざまず》くのが嫌と見える……」

 ヴァルスレンに服属している国の君主は、三年に一度、ロージア宮殿に赴き、玉座の前で跪かねばならない。また、内政、宗教、文化を許されていても、名目上はどこまでも格下の属国である。バシュヌ将国はそれが不満だったのだろう。

「我らは何度もバシュヌに使者を送ったが悉《ことごと》く追い返された。まるで我らの話など聞く耳持たずだという態度、腹立たしい」

 アリスティアは不愉快そうな顔をする。

「しかし、つい昨日だ…… 奴らは一人の少女を使者として送ってきた」
「少女?」
「ああそうだ…… 入れ……」

 そう言うと、重厚な扉が開き、親衛隊員に連れられて黒髪の少女が姿を現す。歳は一七、八歳程で、艶やかな髪には簪《かんざし》をつけており、東方のゆったりとした衣服に身を包んでいた。その衣服の色鮮やかで華やかなことに、アルベクは目を見張る。

 しかし、それ以上に彼女の美貌にも驚かされた。かつてセフィーネに初めて会ったとき、美しい人形のようだと思ったが、彼女もまた欠点のないほど整った顔立ちである。ただし、セフィーネと彼女とでは顔の雰囲気はだいぶ違った。どちらかといえばお淑やかな印象だが、その黒い瞳には強い意志を感じられる。

「彼女が、バシュヌから来た使者のジュナだ…… こっちに来るがいい」

 アリスティアにそう言われると、彼女は優雅な動作で一礼する。そして、ゆっくりとアルベクの席まで来ると、立ったまま再び一礼する。アルベクも慌てて、席から立ちあがる。

「初めまして、アルベク・レーニス様。私はバシュヌ将国より使者としてまいりましたルアム・ジュナと申します。カノア島の魔術師からヴァルスレン帝国を救った英雄にお会いできて、光栄の極みでございます」

 彼女は丁寧な口調で、挨拶をかわす。
 バシュヌでは姓が名の前に来ると聞く。彼女の姓であるルアムというのはバシュヌ将国の君主の一族、将王家の人間であることを示している。
 
 授業で習った話によれば、バシュヌの地にはもともと政治を司る王と軍事を司る将軍の一族がいたという。王は軍事力を持てず、将軍は政治には関われないという風習があった。しかし、バシュヌのルアム将軍家はいつしか王家を滅ぼし、軍事だけでなく政治をも独占するために、「将王」という称号を新たに作ったのだとか……

「バシュヌ将国の将王家のお方とは…… 私のような平民に格別の言葉、勿体なきことでございます」

 アルベクは緊張しながら一礼をした。それを見ていたアリスティアはつまらなさそうな表情をする。

「下らん挨拶は終わったか? なれば席につけジュナ」

 その言葉を受け、ジュナはアルベクの正面の席まで回り込み、椅子に腰かける。

「アルベク、お前の言うように、このジュナは現将王の娘だ。我の度重なる要請を受けて、将王家の人間がわざわざ使者として来てくれたという訳だが、彼女の持ってきた親書にはなんて書いてあったと思う?」
「……私には皆目見当もつきません」
「まあ、そうだろうな。ふざけた文面であったぞ」
 
 アリスティアはため息をつく。

「その書状にはな、アルベク。お前をバシュヌ将国に招待したいと書いてあったのだ」
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