魔女は言う。「復讐したい? なら新兵器の実験台になってくれないかしら?」と……  【鎧殻剣記】

熱燗徳利

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第55話 鬼術

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「なっ……私をですか?」

 アルベクは驚愕する。ヴァルスレン帝国とバシュヌ将国の交渉に、なぜ自分が出てくるのか皆目見当がつかなかった。

「英雄であらせられるアルベク様に、父は是非ともお会いしたいとの事です」

 ジュナは微笑み、そう語る。

「しかし……それが交渉となんの関係が……」
「奴らはアルベク一人だけを使者として派遣するなら、我が国との交渉に応じても良いと言ってきた。まったくふざけた話だ……」

 アリスティアは不愉快そうにワインをあおる。

「なぜ私なのでしょうか……」
「将王である父はバシュヌ将国の独立を宣言したものの、国内にはそれに反対する勢力もおります。そして、父は貴国との戦も望みません。ここのところ、父の心は揺れ始めております。 ……多少ではありますが」

 ジュナは語り始める。

「そんな中で、父は我が国独自の方法で心を決めたいと考えたようです。 ……我が国は戦士の国。強い戦士を有する国ならば、頭を下げるのもやぶさかではないとの考えが昔からあるのです。帝国最強と名高いアルベク様の戦士としての力量を見定めたうえで、貴国に再び服従するかどうかを判断したい、父はそう申しておりました」

(……いったいどういうことだ。俺の戦士としての力量次第で国の関係が変わるのか?)

「なんとも迷惑な話よ。独立を宣言したものの、今になって怖気づいたか。しかも、皇帝の我ではなく、アルベクの力量を見ると言うのも気に喰わんな」
「わが国では、どれ程の戦士を従えているかで君主の力量が分かると言います。なので、君主の前に、まずは君主に仕える戦士を見定めるのです。アルベク様の力量が分かれば、おのずと陛下の力量も明らかとなるでしょう」
「だ、そうだ。アルベク。おまえは我の力量を測る物差しだとジュナは言っておる」

 アルベクは冷や汗をかく。自分にそんな重責のある仕事は務まりそうになかった。

「それならば、陛下のおそばに仕える親衛隊員の方がふさわしいかと…… 私は軍を離れた身ですし」
「いや、一番強い鎧殻装兵はアル兄ぃなんだし、アル兄ぃが最適だよ」

 セートはそう口を出してきた。アルベクは内心『余計なことを……』と思いながらも押し黙る。

「我もこの話にはあまり気乗りせんのよ。アルベクがいかに強いと言っても、たった一人他国に送るのは不安でな。ジュナ、安全はほんとうに保証されるのだな?」
「そこはご心配なく。アルベク様さえ来ていただければ、この硬直した外交関係は前に進むでしょう」

 アリスティアは考え込む。

「すまないジュナ。呼んだばかりで悪いが、しばらく部屋で休んでいてくれ。我はアルベクと内密に話したい」
「承知いたしました」

 そう言ってジュナは席をたち、親衛隊員に連れられて扉の向こうに行った。

「……まったくとんでもない話よ…… あの小娘。従者も連れずにひとりでこの国に来たのだ……」
「一人でバシュヌから? それはどのように?」 

 東方のバシュヌからヴァルスレンへの長い距離を、たった一人の少女が従者も付けずにたどり着けるとは到底信じられない。

「奴は……転移の術が使えるようだ。それでバシュヌからこの地まで一瞬で移動してきたのだ」
「転移の術…… セフィーネが使うような、転移の魔術という事でしょうか? しかし……」
「ああ、奴はシェルド人ではないし、その血も引いていない。ただ、東方には古くから鬼術という特殊な技があってな、死者の魂をエネルギー源として使う技術だとか。少し前までは魔術には到底及ばない、まじない程度の技だったようだが…… 最近は技術が進み、魔術に匹敵するようになってきた」

 鬼術……魔術とは別にそんな技法があったとは…… アルベクにとって初めて聞く話であった。

「バシュヌ将国はサタナキア皇国と敵対しており、ヴァルスレンとは王国時代から協力関係にあった。なにより、鬼術はたいした脅威では無かったから、魔術師と違い弾圧もされずに今まで残ったのだ……」
「バシュヌがヴァルスレンから独立を宣言したのは、その鬼術が発達したからでしょうか?」
「どうであろうな? ただ、我は、奴らが独自の核玉《コア》やそれに近しいものを開発したのではないかと睨んでいる」
「まさか……」

 今まで核玉の技術は大陸においてヴァルスレンが独占してきたし、それが他国とのパワーバランスを決定付けることになった。しかし、他国が核玉を開発できるようになったとしたら……

「帝国工廠のユリファと言う天才少女は、たまに予知夢を見るのだ。その中で、自分たちの知らない鎧殻装兵の姿を見たと…… 我はそれがバシュヌの鎧殻装兵だと考えておる」
「そんなことが……」
「ジュナに鎧殻装兵のことを問いただしても、はぐらかしてばかりだがどうも怪しい。それにセフィーネの失踪も気になる」
「彼女の失踪が何か関係あるのでしょうか……」

 唐突にセフィーネの名前が出て、アルベクは困惑する。

「彼女はユリファと折り合いが悪かったようだ。ユリファの才能に嫉妬していたという話も聞く。それゆえ、帝国工廠を飛び出し、バシュヌに身を寄せ、それで鬼術と魔術を合わせた強力な核玉を作っているのではないか……とな」
「……そんなことは、ありえないことかと」

 セフィーネは色々と問題のある性格だが、嫉妬でそのような暴挙に走る人物だとは思えなかった。それはともに戦ったアルベクには分かる。彼女だってカノア島の魔術師の虐殺には少なからず心を痛めていたはずだ。戦争を誘発するような危険な研究はしないだろう。

「無論、証拠はないし、我もこの話は信じてはおらなんだ。しかし、核玉が開発されているとしたら厄介だ。そなたには、それも確かめてもらいたい」
「やはり、行かねばならないのでしょうか……」
「奴らがそなたを国に招くのも、帝国最強であるそなたの戦闘力を知りたいといったところであろう。そして、仮に核玉を開発していたらの話だが……自分たちの鎧殻装兵がこちらの鎧殻装兵に勝てるのどうかかテストしたい、そんな気がするのだ」

 彼らはアルベクの力量を知りたいと言ったが、それはアルベクの戦闘力を調べ、ヴァルスレンと戦争できるかどうかを判断する一材料にしたいという思惑なのだろう。

「では、やはり私は行かない方がよろしいのでは?」

 アリスティアは首を横に振る。

「いや、このままでは膠着状態だ。我も気乗りしないとは申したが、たしかにそなたを使者として送ることは、その状況を突き崩す突破口となるであろう」
「しかし、私の力量が無いと判断されれば、戦争になる危険もあるのでは? 」

 リーナに勝利した時の鎧殻装の第三形態は、あの戦い以後纏っていない。暴走の危険があるため、アルベクは躊躇っているのだ。

「お前の強さは皆が知っておる。……戦争に関しては、どうだろうな? 奴らとてこのヴァルスレンに真っ向勝負を仕掛ける度胸があるかどうか…… それにこちらも核玉《コア》の増産を急いでいる。戦争になっても負けはせん」

 力強く、アリスティアは断言する。

「だからアルベク、胸をはって行ってくるが良い」
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