ひらひらのあつまり

獅子倉 八鹿

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気まぐれりょこう

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 この度僕は、旅に出ることにした。

 確かに最近、僕はついてなかったと思う。
 彼女との別れ。友達との仲違い。借金を背負う。そんなイベントは起きてないけども。
 たまにやってたネットゲームがサービス終了したり、好きな漫画がアニメ化するけど、ヒロイン役の声優がイメージと違う(つまり、解釈不一致というやつだ)とか、その程度のささいなことだ。

 旅に出てみっかな。

 そんな、近所の公園へ散歩するような気持ちで、本日決定を下した。

 母に旅に出ることを伝えると、二つ返事で承諾してくれた。
 僕ももう子供ではないから勝手に出ても良かったけど、明日は予約していたゲームが届くし、大学に連絡がいったり、警察沙汰になるのは困る。
「裕貴くんが決めたなら、お母さんは止めれないわ」
 猫なで声が気持ち悪い。
 僕の気持ちを知ってか知らずか、母はそそくさと引き出しから通帳とカードを取り出す。
 僕にそれらを握らせると、笑顔を見せた。
「このお金で足りなかったら、また入れとくからね」
「わかった」
 自分でも思う。めちゃくちゃ冷めた声が出たなと。

 通帳類を、荷造りしたリュックに詰めて、家を出た。

 別に行きたいところはなかった。
 特に理由がなく旅に出るんだから、ある訳がない。
 なんとなく、あのアニメの舞台になった街に行こうかなとか考えながら、とりあえず駅に向かう。

 見慣れた駅から、スマホアプリを見ながら慣れない乗り継ぎをして、知らない街に向かう。

 平日の昼間の、あのアニメの舞台は、人がたくさん活動していた。
 少し汗ばむ気温に苦しむサラリーマン。最近有名建築士によって設計されたカフェからは、甘いシェークを持ったOLが溢れるように出てくる。
 ヒロインがバイトしていた雑貨屋のモデルになった店を見つけたが、たいして可愛くもないおばさんがレジで頬杖をついていた。主人公が通う高校のモデルになった高校から出てきた学生は、涼し気な顔で僕の横を通り過ぎた。
 それぞれ、自分の作業を進めていく様子を見て、思わずため息を漏らす。

 なんだこれ。全然おもんないな。

 特に行く場所もないので、最終話の感動シーンで使われた公園に向かう。
 コンビニのATMで、母から貰ったカードから金を引き出す。ついでに昼食と、食べる気のない小さな菓子を3つ買って、最近注目しているゲームキャラのグッズを入手した。

 あれは、僕が今シーズンで1番好だったアニメだ。派手などんでん返しや今流行りの異世界も出てこない王道恋愛アニメだが、制作陣や声優が豪華だった。

 最終話で、母に裏切られ1人公園で泣くヒロイン。
 通り雨に打たれながらもヒロインを探し出し、傘の代わりに自分が着ていたジャージをヒロインの頭上に広げる主人公。
『なに泣いてんだよ。これじゃ涙か雨かわかんねえな』
『汗臭い』
 泣きながら強がるヒロイン。
『青春の香りだアホタレ』
 ヒロインはジャージを避けると、涙を拭いて笑って言うのだ。
『こんなジャージ、私ぐらいしか洗ってくれないわよ』

 思い出しただけで、僕の目からも涙。
 主人公のセリフがダサいとSNSに投稿した節穴共を諭したのは偉業だろ。

 僕がDVDで何度も泣いた感動的な場所に立つのだ。感動が込み上げてくると思ったが、怒りしか込み上げてこない。
 その聖地は、ギャーギャーうるさい子供で賑わっていた。
 物思いにふけることもできない。感動シーンぶち壊しなんだが?
 僕の気持ちなぞ知らない子供達は、僕の聖地を砂埃まみろにしていった。

 緊急避難だ。
 とりあえず僕はネカフェに向かい、PCを起動させる。
 『一人旅 おすすめ』で検索し、目的地を探す。その記事に貼ってあった記事に飛ぶことを繰り返して、気がつくと次のシーズンに放送されるアニメ情報を検索していた。

 腹が鳴り、時間を確認する。画面の隅に現れる時計は20時を指していた。
 今日はネカフェに泊まることにした。

 2日目。
 ネカフェを出発し、近くのコンビニで腹を満たす。
 今日は博物館に行く。プラネタリウムがなんだと紹介してあったが行く理由はそこではない。
 建物だ。

 建築士になりたい。
 小さい頃からの夢だった。親父が建築士だった。
 母に連れられ、親父が設計した店に行った。何軒行ったかなんて覚えていない。
 名前も知らない人が親父の建物をやれキレイだ、やれかっこいいだなどと褒め称えるのが快感だった。
 僕もガキだったから、無邪気に「将来は親父みたいな建物つくる」とか言っていたのを覚えている。
 そう、その時の照れた顔も。嫌でも覚えている。

 その照れた顔を、自分の弟子だとかいう女の前で晒してたもんな。

 そんな顔を向けないで貰いたい。しょせん師弟関係だろ。
 浮かれて、僕達を捨てて、裏切られて、姿を消した。
 バカだ。だが、そのバカをそそのかした女も大概だ。
 今まではそんな奴の作品を見たくもなかったが、近くにあるからついでだ。鼻で笑わせてもらう。

 到着後、親父の技術を我が物とし、それに己の感性を加えた作品が僕の前に現れた。
 僕も建築士としての勉強はそれなりにしてる。学科内で成績は高い方だ。
 発想を現実に出現できるよう変換する。難しさは分かってる。
 建築に関する知識を、美術的観念を、全てをぶつけて、形にしたものが、目の前のそれだった。

 チートだろこんなの。勝てる訳ないわ。

 旅を続ける気力も湧かず、家に戻った。

 家に戻った時には、日が沈みかけていた。
 玄関を開くが、人の気配はない。荷物をおろし、全ての部屋を見て回るが、母はいなかった。母の私物も少ない。よく持っていた鞄も、財布も見当たらない。

 どうやら僕は捨てられたらしい。

 あーあ。どいつもこいつも、クソみたいな奴ばっかだな。人生クソゲーだわ。

 数週間ぶりにリビングに踏み込む。
 リビングに未練タラタラのまま飾ってあるトロフィーや賞状。建築雑誌。それらを見たくなかったから、あまり入ることはなかった。
 未練どもを、飾ってあったアルミラックごと倒した。お隣さんからクレームが来そうだと思いはしたが、ちょっと前に文句言われた時に、軽く論破してやったからクレーム入れることもないだろ。
 いくら倒しても、雑誌を踏み潰しても、気が晴れない。

 サンドバッグが逃げたからなぁ。

 親父が逃げた時、僕に泣きつきながら、「ずっといなくならないでね」とか「お父さんなんかより、あの女より、裕貴くんの方が素敵な建物が作れるわ」なんて言ってたのに。
 嘘ばっか。

 母とバカが写った写真を踏み潰した時、近くに見慣れないファイルがあった。蓋付きで不透明になっているが、結構分厚い。
 手に取り、中を開くと、病院や薬局からの領収書が入っていた。
 内科や整形外科だけでなく、精神科の領収書も少なくない。
 食事を取っていたであろうテーブルに近づき、薬が置いてあるトレーを覗き込む。
 素人でも知っているような有名な精神薬が、何種類か置いてあった。

『殴られても痛くなんかないわ。裕貴くんの心の方が痛いものね』

 ホント、嘘ばっかだ。
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