ひらひらのあつまり

獅子倉 八鹿

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カレーの匂い、夕暮れに差して

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 坂道とは、毒である。
 挑む者の体力をじわりじわりと削っていくのだ。
 老若男女、運動部文化部なんて関係ない。

 自転車なんて押しながら歩いた日には、体力をたくさん奪っていく。
 自転車だけで何倍にもなるのに、リュックを背負い、自転車に鞄を括り付けている。括り付けた鞄にはロッカーに置いていた国語辞典や参考書がぎっしり詰まっているのだから、削られる体力は相当なものだ。

 正直、登りたくない。
 なぜ私の父親は、こんな山奥に家を建てたのだろう。
 平らな場所でいいと思う。
 幼い私をベランダに連れていき、この家は街が見下ろせていいだろう、と嬉しそうに言っていた父が憎らしい。

 得体の知れない虫は部屋に入って来るし、携帯の電波は入らないし、雪が降ったら街に降りれなくなる。
 夜になると猪が徘徊し、翌朝には庭に穴が掘られていたりする。
 小学校の頃、おせんべいの缶に手紙やおもちゃを入れて埋めたタイムカプセルを、3日後に掘り出された時の気持ちを私は忘れていない。

 1歩1歩、ひび割れの入ったアスファルトを歩いていく。
 アスファルトの両端は森。街灯がポツポツと準備されているが暗い道だ。
 初夏の今だけは、木々が作る木陰は救いだが。

 汗が垂れる。
 首に巻いた猫のキャラクターが、垂れた汗を吸い取っていく。
 吸い取りきれない汗を雑に拭い、ゆっくりと自転車を押しながら進む。

 明日は試合。
 キャプテンとして、最後の試合だ。
「先輩、私頑張ります」
 次期キャプテンが、泣きながら言ってくれた言葉。
「絶対、キャプテンを全国大会に連れていきます」
 入部当初は基礎練で疲れていたあの子は、今は他の部員の倍、基礎練をこなしている。
「私、キャプテンみたいに才能ないんで」
 自虐しなくていいのに。

 明日の相手は強いんだから。

 やっと坂の頂上が近づいてきた。
 頂上から脇道に逸れ、砂利道を少し歩いたところが私の家だ。

 家に近づくにつれて、美味しそうな香りが鼻をくすぐる。
 カレーの香りだ。

 そういや、試合前日はいつもカレーだった。
 大ぶりのコロッケが、辛口のカレーに乗って食卓に並ぶのだ。
「試合、勝たなきゃね!」
 笑顔で机まで持ってくる母に、コロッケじゃ験担ぎにならないよとは言えなかった。

 カレーの匂いに、疲れきった足は早くなる。

 カレーの香りは、カラリとした夏空に消えていった。 
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