ひらひらのあつまり

獅子倉 八鹿

文字の大きさ
17 / 25

初めて彼女の部屋に行ったんだ。

しおりを挟む
「汚いけど許して」
 語尾を伸ばし気味にしながら、彼女はそのドアを開けた。

 彼女が開けたのは何の変哲もない、そこら辺にあるアパートのドアなのだが、俺には天国への扉に見えるし、なんなら心のドアも開かれていて、『お誘い』してもいいよと歓迎されているように思う。

「お邪魔します」
 玄関に足を踏み入れると、香水のような香りが鼻をくすぐる。
 整理整頓された玄関を通り抜け、リビングに入った。

 白とピンクを基調とした部屋に、壁際に大きな机が置いてあり、その机の上にゲーミングPCとキーボード、モニターが2つ置いてある。

 全て白を基調にしたデザインで、この部屋の雰囲気を壊していない。
 ゲーミングヘッドホンが壁に掛けてあったり、机の上に小さな引き出しが置いてあったりと片付いており、散らかっている印象は全く受けない。

「そこのソファに座ってて」
 彼女は入ってすぐ右側にあるパステルピンクのソファを指さした。
 言われた通り合皮のソファに身体を沈ませると、そそくさと彼女は部屋を出ていった。

 改めて、部屋を見渡す。
 PCが置いてある机。机の近くにあるゲーミングチェアもピンク色だ。
 アクリルスタンドやフィギュアが置いてある本棚。

 仕切りの役目をしているのか、壁とは離れたところに本棚がもう1つ置いてある。
 仕切りになっている本棚と壁の間に突っ張り棒が付けてあり、白いカーテンがかけられていた。
 この部屋にないものを考えると、あそこにベッドがあるのだろうか。

「ルイボスティーでーす」
 仕切られた空間に何があるのか考えていると、両手にペットボトルを持って彼女が戻ってきた。

「ごめんね。ルイボスティー好きじゃないかもだけど」
「いや、大丈夫。ありがとう」
 正直、ルイボスティーなんて飲んだことはないが、拒否するのも良くないだろう。
 渡されたペットボトルを受け取り、赤みがかった液体を流し込む。
 意外と美味しい。

「で、お願いされたPCはあれでいいんだよね」
 俺は、机の上にあるPCを指さす。
 彼女は俺の横に座りながら頷いた。

「いきなり起動しなくなっちゃって。これじゃ課題もできないし。相澤君、パソコンのお店でバイトしてたって聞いたから、直して貰えないかなって」
 こうやって頼って貰えるなら、時給の安いあの店にいても良かったと思える。
「俺は販売だけで、修理できないけど。見るだけ見てみるね」

 俺は立ち上がり、PCに近づく。
 電源ボタンを押すと、正常にログイン画面がモニターに映り、起動する。

「普通に起動するね」
「えー? なんで?」
 照れ笑いしながら、彼女がソファから立ち上がり、近づいてきた。
「ありがとう」
 自然な動きで手を握られる。
 これ、絶対脈アリだ。

「お礼、させてくれないかな」
 おっと?
「いやお礼なんて。大丈夫だよ」
 もちろん口だけだ。
 お礼ください。あわよくば俺と継続的にそういう関係になりませんか。

「いいからいいから」
 手を引かれ、先程気になっていた布の向こうへと誘導される。

「え」
 布の向こうには、白とパステルピンクに塗られた椅子があった。

 両腕と両足を拘束できるデザイン以外は、とても可愛らしい椅子だ。

 更に言うと、何も身に纏わず四肢を拘束され、目隠しをされている女性がいなければより良いのではと思う。

「可愛いでしょ。好きにしていいよ」
 彼女はそれが普通のことのように提案してくる。
「いや、使うって、いやいやいや」
 混乱しそうになるが、これは異常だ。
 きょとんとしてこちらを見返しているが、おかしいことだ。

「そ、そんな、俺SM趣味ないし」
 後ずさりしながら、首を振る。
「あの子も喜ぶよ。経験ないし。相澤君のこと好きだって言ってたし」

 足が止まった。

 つまり、この拘束された女性は俺の周りにいる人物だということになる。
「誰だよ」
「分からない?」
「分かるわけないだろ」
「わあ、可哀想」
 頭のネジが外れた彼女はクスクスと笑う。
「それもそっか。相澤君をコソコソと追っかけてたストーカーさんだもんね」

 頭が真っ白になりそうだ。
 俺と、俺のストーカーらしき人物、そのストーカーを丸裸で拘束している人物。

 気を失えたら楽になれそうだが、悲しいことに気を失えそうにない。

 誰か、どう振る舞えば良いか正解を教えてくれないか。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

春に狂(くる)う

転生新語
恋愛
 先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。  小説家になろう、カクヨムに投稿しています。  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761

処理中です...