ひらひらのあつまり

獅子倉 八鹿

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カフェでひとり

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 外の熱気などつゆ知らず、カフェの中は涼しい風が吹き、名前も知らないジャズと小さく展開される会話で満ちていた。

 手元にあるレシートに書かれた番号を呼ばれた青年は、カウンターに置かれたトレーを持って窓際の席を目指した。
 カフェオレと温めてもらったアップルパイ、そしてチョコクッキーが乗ったトレーを、慎重にテーブルへ置く。

 目の前の窓からは、快晴と明度の高い街並み、各々暑さに対抗しながら歩く人並みが見える。

 うっすらと青年の姿も反射しており、その姿を見て、自然とため息が出た。

 会計の際、カフェの店員と目が合わなかったことを思い出し、青年はおもむろにポケットからスマホを取り出した。

『目つき 直し方』

 検索欄を押すと表示された、過去の検索ワードをタップする。

 美容整形のホームページと、青年には支払えそうにない金額が並ぶ画面を見ながら、カフェオレを口元に運ぶ。

 目を隠す前髪を避けながら、スクロールを続けるが、目ぼしい情報は見つからなかった。

 見つからないのも当然だ。
 昨晩涙を流しながら調べたワードなのだから。


『私でよければ、よろしくお願いします』

 隣の席に座る黒髪の少女が、見知らぬ男の前で頬を染めながら、頭を下げる。
 昨日の放課後見た光景を、今朝まで何千回も再生し続けている。

 再生して、青年は何度も目を潤ませる。

 筆箱に印刷されたバンドのロゴは、青年の好きなバンドだった。
 授業のグループワークで時間が空いた時、青年は意を決して話しかけた。

「そのバンド、俺も好きだよ」
「あ、そうなんだ。いいよね」
 職員のグループワーク終了の声がかかり、青年の次の言葉は喉から出ることはなかった。

 黒板から目を逸らし、横目で少女を見る。
 おっとりとした目は、机の下に目線を落としていた。

 これから仲良くなれたら。
 あわよくば、付き合うことができたら。

 そんな淡い考えは、昨日の放課後に置いてきてしまった。


 乱雑に目を擦る。
 青年のトレーには、何も残っていなかった。

 窓の向こうも、何も変化なく人がすぎていく。
 青年はトレーを片付けると、人の流れに合流し、流れていった。
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