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山本から作業について簡単に説明を受け、世話が始まった。
何も知らない五十嵐青年に、山本は作業の説明を行う。
頻繁に話が脱線するため、その都度五十嵐青年は話を戻す。
面倒な作業ではあったが、お陰で五十嵐青年は山本についての情報を多少知ることができた。
山本は、IT関係の専門学校に通う2年生らしい。
登校前後に山羊の世話をしていると言う。今日は創立記念日のため、午前中からここに来ることができたそうだ。
「よく高校生に間違われるんです。そんなに童顔かな?」
照れながら笑う顔には幼さが残っていた。
「正直、同い年には見えないです」
「もうお酒だって飲めるのにー」
そういうところが同い年には見えないんだけどな。
頬を膨らませる山本を見て、五十嵐青年は愛想笑いを浮かべていた。
今日は山羊の世話はせず、小屋などの設備を清掃するだけで終わるらしい。
日陰に荷物を置くと、作業を開始する。
まず、小屋の中の清掃だ。竹箒で、小屋の中を掃いていく。
掃き掃除ができるよう、山羊は山本と一緒に小屋の外に出た。
言われた通り小屋の床を掃いていると、山本の柔らかい声が聞こえた。
指示かと思い耳をそばたてるが、うまく聞こえない。
五十嵐青年は箒を持つ手を止め、入口付近に近づく。
「めいちゃーん。めいちゃんはー、今日もかわいいねー? うりうりー」
山羊を撫でながら、山本が顔を綻ばせながら猫なで声を出していただけだった。
「ほれほれ、よしよししちゃうからね。よーしよしよしよし」
それは、羞恥心の有無を疑うような光景だった。
仲が良い相手なら茶化してやろうかと考えていただろう。しかし山本は今日初めて出会った人物、それどころか五十嵐青年にとは負い目がある相手だ。口が裂けても、そんなことは言えない。
五十嵐青年は見て見ぬふりをして元の場所に戻り、清掃を再開した。
その後もなお、猫なで声は続く。最初は聞こえる度に入口に近づいていた五十嵐青年も、答えが分かりきっていることが分かり、段々と近づかないようになった。
「サンじいちゃんがいないし、五十嵐さんと仲良くなれたらいいねえ」
そのため、猫なで声の合間に山本が小声で呟いた言葉は、柔らかな日差しの中に消えていった。
餌台や水の清掃も行き詰まることなく進み、五十嵐青年達は昼食を取る事になった。
山本に言われるまま、山羊小屋の影に設置されたプレハブの中に入る。
何の変哲もない、山羊小屋より少し小さなプレハブだが、あの事件の夜は存在に全く気が付かなかった。
中に、ほとんど物は置かれていない。空気は多少淀んでいたが、気になる程ではない。
職員室に置いてあるようなスチールの机に、数冊の本とコーヒーの空き缶。無機質なパイプ椅子は、少し引き出してある。
ガラスで出来た分厚い灰皿には、数本吸殻が入っている。黒い形のラジカセは、窓に向かってアンテナを伸ばしたまま、うっすらと埃が積もっていた。
誰がここで過ごしていたのか、想像するのは容易だった。
プレハブの主人の孫は、気兼ねすることなく、スチール机の前に座る。
「どうぞ、あのソファへ」
五十嵐青年は、壁際に置いてある茶色の革のソファを指さされた。
「失礼します――わっ」
見た目以上に、ソファは柔らかさと深さを備えていた。五十嵐青年の座る速度は遅くなく、体勢を崩し、間抜けな声が漏れてしまう。
それを見た山本は吹き出した。五十嵐青年は顔を赤くしながら体勢を戻し、山本から目を逸らす。
「こ、これ、意外と柔らかいですね」
平常を装いながらそう言うが、声が上ずっている上、どもってしまう。
「僕も柔らかいですって言わなかったから、すみません」
五十嵐青年の失態は、山本の笑いのツボにはまってしまったようだった。山本の笑いが止まるまで、五十嵐青年はばつが悪い顔のまま過ごす羽目になってしまった。
何も知らない五十嵐青年に、山本は作業の説明を行う。
頻繁に話が脱線するため、その都度五十嵐青年は話を戻す。
面倒な作業ではあったが、お陰で五十嵐青年は山本についての情報を多少知ることができた。
山本は、IT関係の専門学校に通う2年生らしい。
登校前後に山羊の世話をしていると言う。今日は創立記念日のため、午前中からここに来ることができたそうだ。
「よく高校生に間違われるんです。そんなに童顔かな?」
照れながら笑う顔には幼さが残っていた。
「正直、同い年には見えないです」
「もうお酒だって飲めるのにー」
そういうところが同い年には見えないんだけどな。
頬を膨らませる山本を見て、五十嵐青年は愛想笑いを浮かべていた。
今日は山羊の世話はせず、小屋などの設備を清掃するだけで終わるらしい。
日陰に荷物を置くと、作業を開始する。
まず、小屋の中の清掃だ。竹箒で、小屋の中を掃いていく。
掃き掃除ができるよう、山羊は山本と一緒に小屋の外に出た。
言われた通り小屋の床を掃いていると、山本の柔らかい声が聞こえた。
指示かと思い耳をそばたてるが、うまく聞こえない。
五十嵐青年は箒を持つ手を止め、入口付近に近づく。
「めいちゃーん。めいちゃんはー、今日もかわいいねー? うりうりー」
山羊を撫でながら、山本が顔を綻ばせながら猫なで声を出していただけだった。
「ほれほれ、よしよししちゃうからね。よーしよしよしよし」
それは、羞恥心の有無を疑うような光景だった。
仲が良い相手なら茶化してやろうかと考えていただろう。しかし山本は今日初めて出会った人物、それどころか五十嵐青年にとは負い目がある相手だ。口が裂けても、そんなことは言えない。
五十嵐青年は見て見ぬふりをして元の場所に戻り、清掃を再開した。
その後もなお、猫なで声は続く。最初は聞こえる度に入口に近づいていた五十嵐青年も、答えが分かりきっていることが分かり、段々と近づかないようになった。
「サンじいちゃんがいないし、五十嵐さんと仲良くなれたらいいねえ」
そのため、猫なで声の合間に山本が小声で呟いた言葉は、柔らかな日差しの中に消えていった。
餌台や水の清掃も行き詰まることなく進み、五十嵐青年達は昼食を取る事になった。
山本に言われるまま、山羊小屋の影に設置されたプレハブの中に入る。
何の変哲もない、山羊小屋より少し小さなプレハブだが、あの事件の夜は存在に全く気が付かなかった。
中に、ほとんど物は置かれていない。空気は多少淀んでいたが、気になる程ではない。
職員室に置いてあるようなスチールの机に、数冊の本とコーヒーの空き缶。無機質なパイプ椅子は、少し引き出してある。
ガラスで出来た分厚い灰皿には、数本吸殻が入っている。黒い形のラジカセは、窓に向かってアンテナを伸ばしたまま、うっすらと埃が積もっていた。
誰がここで過ごしていたのか、想像するのは容易だった。
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「どうぞ、あのソファへ」
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「失礼します――わっ」
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「こ、これ、意外と柔らかいですね」
平常を装いながらそう言うが、声が上ずっている上、どもってしまう。
「僕も柔らかいですって言わなかったから、すみません」
五十嵐青年の失態は、山本の笑いのツボにはまってしまったようだった。山本の笑いが止まるまで、五十嵐青年はばつが悪い顔のまま過ごす羽目になってしまった。
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