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五十嵐青年が目を覚ました時、プレハブの中は蛍光灯ではなく、柔らかな陽の光が差し込んでいた。
ふかふかとした柔らかいものの上で寝転がっている。肌触りから、革のソファに寝ていることがわかった。
ゆっくりと身体を起こすと、五十嵐青年にかけてあったブランケットが滑り落ちる。摩擦を起こすものを身につけていないことに、ブランケットが床に落ちたことで気がついた。
己の裸を見て、五十嵐青年は眉間にシワを寄せた。
同時に、裸で眠っていた理由を思い出す。
俺、なんてことしたんだろう。
あの日初めて会った人に、恥ずかしい姿を見せて。
男相手に、興奮したなんて。
相手はあの女ではないのに。
乱雑にブランケットを掴むと、身体に巻きつけ、辺りを見渡した。
五十嵐青年が着用していた服はすぐに見つかった。スチール机の上に、畳んで置いてある。
それらも奪い取るように掴んだとき、1枚の紙が宙を舞う。
早く衣服で身体を隠したかった五十嵐青年だが、身体に対する嫌悪より、紙への興味がわずかに上回った。
『昨日はすみませんでした。僕は山羊に餌をあげてから学校に向かうので、また同じ時間に来てください』
二色刷りのチラシを再利用したメモには、そう書いてあった。
時間が分かっても、何日に来ればいいんだ?
置き手紙の送り主を想像しながら
五十嵐青年は置き手紙を机に戻す。
次に会った時、それを指摘したらどんな顔をするんだろう。
慌てふためく山本を想像しながら、ブランケットを取り、ジャージに腕を通す。
不思議と、口角は上がっていた。
このプレハブに来た時と同じ姿になったところで、五十嵐青年は自分の鞄を開けて、スマホを取り出した。
デジタル時計は、10時26分と表示されている。どうやら1日経ってしまったようだ。
時計の下に表示される通知を見ると、SNSの通知が何件か来ていた。
それらは好きなアーティストのライブに関する通知やネットショップの入荷通知ばかりで、家族や知人からの名前は映らない。
小さくため息をつき、画面を消す。
山本が使ったであろうペンを見つけ、置き手紙の返事を書く。
『何日に伺えばいいか、この電話番号に電話してください』
余白に電話番号を書くと、五十嵐青年は外に出た。
電車に揺られながら、五十嵐青年は昨日の出来事を反芻する。もちろん辛い部分は抽出しない。五十嵐青年にとって都合のよい部分のみを抜き出した、 偏りのある出来事だ。
その中で、ある言葉が引っかかった。
「山羊は草食だけど、人間になった僕はどうなのか分かりませんよ?」
甘美な行為の前に囁かれた言葉。
あの眼に思考を止められ、あの時は不思議に思わなかった。
なんであんな時に山羊の話を?
五十嵐青年は、人もまばらな電車で小さく唸ったが、当然答えは出てこなかった。
自宅に着くと、五十嵐青年は深いため息をつき、シャワーを浴びた。
頭を拭いて、ルームウェアに着替え、スマホを手に取る。
ロック画面を表示すると、着信履歴が入っていた。
マナーモードにしていたからか、気づかなかった。
いつもなら何もしないが、今回は電話を掛けてくる可能性のある人物がいる。
登録していない番号表示を確認し、すぐさまかけ直した。
コール音が鳴り、電話主と繋がる。
「もしもし」
聞こえるのは車やバス、信号の音だけで、電話主は喋らない。
五十嵐青年は顔をしかめ、通話終了ボタンを押そうとした。
「ねぇ、はーくん出たよ」
五十嵐青年がスマホを耳から離した矢先、女の声が聞こえた。
少し電話口から離れているのが分かる。
電話の主は誰かと一緒なのだろう。
「死んでなかったねー」
小馬鹿にした言葉と、複数人の耳障りな笑い声が聞こえる。
「あ、ごめん電話切ってなかった」
不快な通話は、相手の方から切られた。
はーくん。
五十嵐青年――五十嵐晴汰(いがらしはるた)――のことをそのあだ名で呼ぶ人物は多くない。
十中八九アヤカの知り合いだ。
ふかふかとした柔らかいものの上で寝転がっている。肌触りから、革のソファに寝ていることがわかった。
ゆっくりと身体を起こすと、五十嵐青年にかけてあったブランケットが滑り落ちる。摩擦を起こすものを身につけていないことに、ブランケットが床に落ちたことで気がついた。
己の裸を見て、五十嵐青年は眉間にシワを寄せた。
同時に、裸で眠っていた理由を思い出す。
俺、なんてことしたんだろう。
あの日初めて会った人に、恥ずかしい姿を見せて。
男相手に、興奮したなんて。
相手はあの女ではないのに。
乱雑にブランケットを掴むと、身体に巻きつけ、辺りを見渡した。
五十嵐青年が着用していた服はすぐに見つかった。スチール机の上に、畳んで置いてある。
それらも奪い取るように掴んだとき、1枚の紙が宙を舞う。
早く衣服で身体を隠したかった五十嵐青年だが、身体に対する嫌悪より、紙への興味がわずかに上回った。
『昨日はすみませんでした。僕は山羊に餌をあげてから学校に向かうので、また同じ時間に来てください』
二色刷りのチラシを再利用したメモには、そう書いてあった。
時間が分かっても、何日に来ればいいんだ?
置き手紙の送り主を想像しながら
五十嵐青年は置き手紙を机に戻す。
次に会った時、それを指摘したらどんな顔をするんだろう。
慌てふためく山本を想像しながら、ブランケットを取り、ジャージに腕を通す。
不思議と、口角は上がっていた。
このプレハブに来た時と同じ姿になったところで、五十嵐青年は自分の鞄を開けて、スマホを取り出した。
デジタル時計は、10時26分と表示されている。どうやら1日経ってしまったようだ。
時計の下に表示される通知を見ると、SNSの通知が何件か来ていた。
それらは好きなアーティストのライブに関する通知やネットショップの入荷通知ばかりで、家族や知人からの名前は映らない。
小さくため息をつき、画面を消す。
山本が使ったであろうペンを見つけ、置き手紙の返事を書く。
『何日に伺えばいいか、この電話番号に電話してください』
余白に電話番号を書くと、五十嵐青年は外に出た。
電車に揺られながら、五十嵐青年は昨日の出来事を反芻する。もちろん辛い部分は抽出しない。五十嵐青年にとって都合のよい部分のみを抜き出した、 偏りのある出来事だ。
その中で、ある言葉が引っかかった。
「山羊は草食だけど、人間になった僕はどうなのか分かりませんよ?」
甘美な行為の前に囁かれた言葉。
あの眼に思考を止められ、あの時は不思議に思わなかった。
なんであんな時に山羊の話を?
五十嵐青年は、人もまばらな電車で小さく唸ったが、当然答えは出てこなかった。
自宅に着くと、五十嵐青年は深いため息をつき、シャワーを浴びた。
頭を拭いて、ルームウェアに着替え、スマホを手に取る。
ロック画面を表示すると、着信履歴が入っていた。
マナーモードにしていたからか、気づかなかった。
いつもなら何もしないが、今回は電話を掛けてくる可能性のある人物がいる。
登録していない番号表示を確認し、すぐさまかけ直した。
コール音が鳴り、電話主と繋がる。
「もしもし」
聞こえるのは車やバス、信号の音だけで、電話主は喋らない。
五十嵐青年は顔をしかめ、通話終了ボタンを押そうとした。
「ねぇ、はーくん出たよ」
五十嵐青年がスマホを耳から離した矢先、女の声が聞こえた。
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電話の主は誰かと一緒なのだろう。
「死んでなかったねー」
小馬鹿にした言葉と、複数人の耳障りな笑い声が聞こえる。
「あ、ごめん電話切ってなかった」
不快な通話は、相手の方から切られた。
はーくん。
五十嵐青年――五十嵐晴汰(いがらしはるた)――のことをそのあだ名で呼ぶ人物は多くない。
十中八九アヤカの知り合いだ。
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