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身を縮こまらせ泣く五十嵐青年の頭に、山本の手が伸びる。
頭頂部に触れた手は、五十嵐青年の髪を優しく掻き分けていく。
手の温もりは涙を止めるどころか、涙が流れるのを手助けしていた。
山本の撫で方にぎこちなさが感じられないのはきっと、撫でられ慣れているし、撫で慣れていたからなのだろう。
優しく撫でていた手の動きは、徐々に変化していく。
優しく撫でながらも、徐々に整髪剤で整えられた髪を弄ぶようになる。
セットした髪を弄ばれるのは好きではない五十嵐青年だが、反抗する気力は残っていない。
急に撫でる手が離れ、五十嵐青年の目線の端で山本が動く。
丸めた背中を起こし、横に目をやると、山本はベンチをまたぎ、五十嵐青年の背後に回っていた。
山本の動きを追い、五十嵐青年が足を動かそうとした瞬間、背中に大きな温もりが当たった。
その温もりは触れるだけでは止まらず、五十嵐青年の肩や胸元に温もりを伸ばしていく。
泣いていない状況なら、恥ずかしさに慌てふためいていただろう。
羞恥心を声にし、腕を払いのけていたかもしれない。
泣きじゃくりすぎた五十嵐青年は、言葉にならない声を漏らすだけで、山本の腕を払いのける力も気力も出てこない。
「落ち着きますか。落ち着くなら、もう泣かないで」
背後から優しく声をかけられる。
落ち着くけど、恥ずかしいです。
そう伝えたいが、鼻をすすりながら伝えるには文字数が多く、喉で言葉が詰まってしまう。
周りに人はいないだろうか。
少しだけ首を横に動かし、周囲の状況を確認する。
確認できる範囲に他の人間はいない。
背後を向くこともできず、目線は前を流れる川を泳ぐ。
「五十嵐さん、一緒にいたいです。一緒に笑いたいです」
不意に右耳から声が伝わり、身体が小さく跳ねてしまう。
「もっと五十嵐さんを知りたい。仲良くなりたい。悲しい気持ちをなくしたい」
温かさに溶かされながら、サディスティックな刺激に反応してしまう。
「ねえ」
山本の声、吐息、手、体温。
思考回路が鈍くなる。
山本を構成しているものの大半が優しさではないかと五十嵐青年は考えてしまう。
全てではなく大半と考えるのは、あの日の眼光を覚えているからだ。
アヤカにも、耳元で囁かれたことはある。
その時も今と変わらない反応をしたが、その時とは明らかに違う。
きっと、アヤカとの関係は主従関係だったのだろう。
今、五十嵐青年に与えられようとしているのは、主従関係ではない。
確信を持って言えないけれど、これはきっと、恋とか愛とか、それに類似する類いのものなのだろう。
「もしかして分かりにくいですか? 僕と友達になってくださいっていうお願いなんですけど。あ、家族でもいいです」
自分の伝え方が悪いと考えたのか、山本は慌てた様子で付け加えた。
五十嵐青年の胸を温かいものが包み込み、優しく撫でる。
それは五十嵐青年を悪戯にくすぐり、やんちゃにぶつかりながら、包みこむことを忘れない。
答えは決まった。
意識していようがしてなかろうが、性別がなんだろうが、この気持ち良さに心も身体も委ねられるなら構わない。
いきなり家族になるのは現実的に難しいが、友達なら。
友達で、この温かさを与えてくれるのなら。
山羊なのか人間なのかもわからなくなってきたが、些細なことだ。
「はい」
拒否なんてする訳がない。
濁点が付きそうな声を絞り出した直後、五十嵐青年はより強い力で抱き締められた。
カエルが潰されたような声が出てしまうが、山本は構わず抱き締め続ける。
「嬉しい」
右耳から声が離れると、右耳の下部に一瞬だけ柔らかいものが触れる。
五十嵐青年の口から、小さく声が漏れた。
「これからよろしくね」
俺を抱き締めてるこの人の目は、あの日のように輝いているのかな。
虚ろな目のまま、五十嵐青年は温かさに溺れていった。
頭頂部に触れた手は、五十嵐青年の髪を優しく掻き分けていく。
手の温もりは涙を止めるどころか、涙が流れるのを手助けしていた。
山本の撫で方にぎこちなさが感じられないのはきっと、撫でられ慣れているし、撫で慣れていたからなのだろう。
優しく撫でていた手の動きは、徐々に変化していく。
優しく撫でながらも、徐々に整髪剤で整えられた髪を弄ぶようになる。
セットした髪を弄ばれるのは好きではない五十嵐青年だが、反抗する気力は残っていない。
急に撫でる手が離れ、五十嵐青年の目線の端で山本が動く。
丸めた背中を起こし、横に目をやると、山本はベンチをまたぎ、五十嵐青年の背後に回っていた。
山本の動きを追い、五十嵐青年が足を動かそうとした瞬間、背中に大きな温もりが当たった。
その温もりは触れるだけでは止まらず、五十嵐青年の肩や胸元に温もりを伸ばしていく。
泣いていない状況なら、恥ずかしさに慌てふためいていただろう。
羞恥心を声にし、腕を払いのけていたかもしれない。
泣きじゃくりすぎた五十嵐青年は、言葉にならない声を漏らすだけで、山本の腕を払いのける力も気力も出てこない。
「落ち着きますか。落ち着くなら、もう泣かないで」
背後から優しく声をかけられる。
落ち着くけど、恥ずかしいです。
そう伝えたいが、鼻をすすりながら伝えるには文字数が多く、喉で言葉が詰まってしまう。
周りに人はいないだろうか。
少しだけ首を横に動かし、周囲の状況を確認する。
確認できる範囲に他の人間はいない。
背後を向くこともできず、目線は前を流れる川を泳ぐ。
「五十嵐さん、一緒にいたいです。一緒に笑いたいです」
不意に右耳から声が伝わり、身体が小さく跳ねてしまう。
「もっと五十嵐さんを知りたい。仲良くなりたい。悲しい気持ちをなくしたい」
温かさに溶かされながら、サディスティックな刺激に反応してしまう。
「ねえ」
山本の声、吐息、手、体温。
思考回路が鈍くなる。
山本を構成しているものの大半が優しさではないかと五十嵐青年は考えてしまう。
全てではなく大半と考えるのは、あの日の眼光を覚えているからだ。
アヤカにも、耳元で囁かれたことはある。
その時も今と変わらない反応をしたが、その時とは明らかに違う。
きっと、アヤカとの関係は主従関係だったのだろう。
今、五十嵐青年に与えられようとしているのは、主従関係ではない。
確信を持って言えないけれど、これはきっと、恋とか愛とか、それに類似する類いのものなのだろう。
「もしかして分かりにくいですか? 僕と友達になってくださいっていうお願いなんですけど。あ、家族でもいいです」
自分の伝え方が悪いと考えたのか、山本は慌てた様子で付け加えた。
五十嵐青年の胸を温かいものが包み込み、優しく撫でる。
それは五十嵐青年を悪戯にくすぐり、やんちゃにぶつかりながら、包みこむことを忘れない。
答えは決まった。
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「はい」
拒否なんてする訳がない。
濁点が付きそうな声を絞り出した直後、五十嵐青年はより強い力で抱き締められた。
カエルが潰されたような声が出てしまうが、山本は構わず抱き締め続ける。
「嬉しい」
右耳から声が離れると、右耳の下部に一瞬だけ柔らかいものが触れる。
五十嵐青年の口から、小さく声が漏れた。
「これからよろしくね」
俺を抱き締めてるこの人の目は、あの日のように輝いているのかな。
虚ろな目のまま、五十嵐青年は温かさに溺れていった。
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