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玄冬
げんとう11
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次に目を開いた時も、真っ暗だった。
これ以上寝るわけにもいかず、渋々電気を付け、スマホで時間を確認する。
スマホには二十時五十分と表示されており、かなり眠っていたことが分かった。
通知も確認するが、重要なものは来ていない。
蒼依からも、三宅さんからも連絡は来ていなかった。
まあ、そんなものだ。
起きたら謝罪の連絡が来ているなんて都合のいい展開が起こる訳がない。
夕食を作るのもだるく、牛歩でお菓子を入れている棚に向かうとポテトチップスを手に取り、口に入れた。
濃厚チーズ味とパッケージに書いてあるが、味を感じない。
夕食代わりにしては心もとないが、とりあえず口に入れておくことにする。
明日は講義がある。蒼依も同じ講義を受けるはずだ。
更に、夕方からはバイトもある。三宅さんはシフトに入っていなかったはずだが、なんとなく気が重い。
行きたくないな。
そう思うが、サボった後が面倒くさい。
誰かに講義のノートを見せて貰わないといけなくなる。
他の受講生に見せてもらうことは出来るが、絶対聞かれるだろう。
「松下くんに見せて貰わないの?」と。「え、いつも一緒にいるじゃん」とも言うかもしれない。
ああ、とても面倒だ。
ゲームでもするか。
ポテトチップスを頬張りながら考えるが、気が乗らない。
漫画でも読むか。
そんな気分じゃない。
散歩でも行くか。
意外にも、身体はすんなり動いた。
投げ捨ててしまっていたダウンジャケットを羽織り、外に出た。
寒い。
貼るカイロが生ぬるい発熱をしており、夜の寒さに対峙している今は、あまり効果がない。
決して薄着をしている訳ではないが、暖かいとはお世辞にも言えなかった。
アパートを出て、猿待通りを歩く。
まだ深夜ではないからか、意外と歩いている人がいる。
バイト帰りに通る海月通りは、すれ違う人は一人二人しかいないのだが。
猿待公園の横を歩く。
嫌でもあの日を思い出し、顔を歪める。
冬の夜に、こんな場所に来る奴いないだろ。
いるとしたら、変わり者の暇人だ。
ちらりと公園内を見ると、変わり者の暇人が一人、ベンチに座っていた。
電話しているのだろうか、微かに声が聞こえる。
電話相手と円滑に通話できている訳ではなさそうで、時折声を荒げていた。
その声は、なんとなく聞き覚えがあるような気がした。
他人ならそんなことしないが、その声は俺にアイデアをくれた人の声だ。
俺が近づいていくと、声の主はこちらを向く。電話は耳に当てていない。
お互い顔が分かる距離まで近づき、俺は気づいた。
相手は俺のことなんて覚えていないのではないだろうか。
俺は覚えているが、相手はそうではないかもしれない。どちらかというと、そうではない可能性がかなり高い。
ただ、ここまで近づいておいて去ると、それはそれで怪しい。
幸か不幸か、相手は驚愕した表情を浮かべている。
これは、俺のことを覚えてくれていたと判断しても良いだろうか。
「すみません、怪しい人間ではないんですが」
そう口に出して後悔する。そんなことを言ってしまうと、怪しい人間率が急上昇してしまうじゃないか。
「あ、はい」
「板木、アリシャさんですよね」
「ええ……」
困惑した様子の板木アイシャが、こちらを見つめていた。
これ以上寝るわけにもいかず、渋々電気を付け、スマホで時間を確認する。
スマホには二十時五十分と表示されており、かなり眠っていたことが分かった。
通知も確認するが、重要なものは来ていない。
蒼依からも、三宅さんからも連絡は来ていなかった。
まあ、そんなものだ。
起きたら謝罪の連絡が来ているなんて都合のいい展開が起こる訳がない。
夕食を作るのもだるく、牛歩でお菓子を入れている棚に向かうとポテトチップスを手に取り、口に入れた。
濃厚チーズ味とパッケージに書いてあるが、味を感じない。
夕食代わりにしては心もとないが、とりあえず口に入れておくことにする。
明日は講義がある。蒼依も同じ講義を受けるはずだ。
更に、夕方からはバイトもある。三宅さんはシフトに入っていなかったはずだが、なんとなく気が重い。
行きたくないな。
そう思うが、サボった後が面倒くさい。
誰かに講義のノートを見せて貰わないといけなくなる。
他の受講生に見せてもらうことは出来るが、絶対聞かれるだろう。
「松下くんに見せて貰わないの?」と。「え、いつも一緒にいるじゃん」とも言うかもしれない。
ああ、とても面倒だ。
ゲームでもするか。
ポテトチップスを頬張りながら考えるが、気が乗らない。
漫画でも読むか。
そんな気分じゃない。
散歩でも行くか。
意外にも、身体はすんなり動いた。
投げ捨ててしまっていたダウンジャケットを羽織り、外に出た。
寒い。
貼るカイロが生ぬるい発熱をしており、夜の寒さに対峙している今は、あまり効果がない。
決して薄着をしている訳ではないが、暖かいとはお世辞にも言えなかった。
アパートを出て、猿待通りを歩く。
まだ深夜ではないからか、意外と歩いている人がいる。
バイト帰りに通る海月通りは、すれ違う人は一人二人しかいないのだが。
猿待公園の横を歩く。
嫌でもあの日を思い出し、顔を歪める。
冬の夜に、こんな場所に来る奴いないだろ。
いるとしたら、変わり者の暇人だ。
ちらりと公園内を見ると、変わり者の暇人が一人、ベンチに座っていた。
電話しているのだろうか、微かに声が聞こえる。
電話相手と円滑に通話できている訳ではなさそうで、時折声を荒げていた。
その声は、なんとなく聞き覚えがあるような気がした。
他人ならそんなことしないが、その声は俺にアイデアをくれた人の声だ。
俺が近づいていくと、声の主はこちらを向く。電話は耳に当てていない。
お互い顔が分かる距離まで近づき、俺は気づいた。
相手は俺のことなんて覚えていないのではないだろうか。
俺は覚えているが、相手はそうではないかもしれない。どちらかというと、そうではない可能性がかなり高い。
ただ、ここまで近づいておいて去ると、それはそれで怪しい。
幸か不幸か、相手は驚愕した表情を浮かべている。
これは、俺のことを覚えてくれていたと判断しても良いだろうか。
「すみません、怪しい人間ではないんですが」
そう口に出して後悔する。そんなことを言ってしまうと、怪しい人間率が急上昇してしまうじゃないか。
「あ、はい」
「板木、アリシャさんですよね」
「ええ……」
困惑した様子の板木アイシャが、こちらを見つめていた。
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