ルロビア魔界傭兵カンパニー

いみじき

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3.バンシーの森

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 今回はバンシー森の掃霊依頼が舞い込んだ。

「げー、バンシーかよぉ」

 とサツキが嫌がるのも無理はなく、バンシーは死んだ魔界樹の森に住み着き、人の嫌な記憶をフラッシュバックさせる特性を持つ。その生態は明らかになっていない……そもそも生きているのかすら定かではない。

「ジークエンド、大丈夫か?」

 オーバントは精神的に不安定な一面を持つ。バンシーなどは苦手な部類だろう。案の定、青い顔をして気分が悪そうだった。

「構わないぞ、休むか?」

「コトリが行くというのに、俺が留守番というわけにはいかないだろう? これも務めだ」

 弱々しく微笑んではいるが、かえって足手まといになるような。

 今回の掃霊は東へ三日いった場所になる。定期的に掃霊しなければならないバンシーだが、前回の掃霊は五年前……かなり溜まっている頃合いだろう。

「ジークエンド、本当に大丈夫か?」

「大丈夫……大丈夫………」

 大丈夫ではなさそうだ。やはり置いてくるべきだったろうか。

 魔戒樹は死ぬと魔界苔と共に固化して鉱石樹となる。薄い青や紫の鉱石樹の森は妖精か精霊の世界のようであり、非常に幻想的なのだが……

「バンシーが来るぞ」

 竜馬車に相乗りするシャハクが魔動銃を構えた。彼は非常に勇ましく馬車の上から魔晶石のエネルギー弾を撃ち、ひらりひらりとかわす白いバンシーたちを追い立てていく。

「そら、一箇所にまとめた。あとは頼む」

「イヤだけど、やるしかないっしょ!」

 サツキが飛び出ていく。コトリとジークエンドもそれに続いた。

 バンシーが飛び交うたびにラボの、あの忌まわしい過去の記憶がコトリの脳裏にちらつく。薬品の匂い、注射針、おさえつける白衣の袖。

 だが、それらからジークエンドが救ってくれた確かな記憶がある。コトリは振り払うようにバンシーに羽を撃ち込み続けた。

「……あれ?」

 いつの間にか、皆からはぐれてしまったようだ。気がつくとぽつんと鉱石樹の間に立って、バンシーすらいない。

 戻らないと、と一歩踏み出しかけて膝がガクガクしていることに気づく。

(うそ!)

 卵が出る。腹を押さえて蹲った。確かに過度の緊張があると、卵が出やすい傾向はあった。しかし、シザードに捕まった時も平気だったのに、今頃……! そういえば発情期中の掃霊は初めてだったかもしれない。

「……コトリ? どこへいったんだ、コトリ」

 こんな時に限ってサツキではなくジークエンドが来る。

「コトリ!」

 うずくまるコトリに駆け寄り、ジークエンドは膝をついた。

「どうした? 具合が悪いか!」

「う、う……生まれる」

「卵が出そうなのか!!」

 それも、今回はイキんでも出そうにない。生まれそうで生めない状態で脂汗が滲んでくる。

「もしかして、詰まっているのか?」

「うん……」

「なにか潤滑剤になるものは!」

「な、い……」

 携帯しておくべきだった。油断した。言い訳にはならないが。

「コトリ、脱がすぞ」

「え」

 嫌よと言う間もなく、ジークエンドはぺろりとコトリの下履きを剥がした。むきだしになった尻に慌てたが、すぐに痛みが襲って硬直する。

 その隙に、ジークエンドは尻の割れ目へ舌を這わせた。確かに今この状況下では最適解かもしれないが、よくもそこを躊躇なく舐められるものだと一瞬感心してしまう。ジークエンドはこういう男なのだ。

「やっ……じーく、う、うう」

 たっぷりと唾液を絡ませ、ジークの舌が排出口を蠢きまわる。舐め、差し入れ、出し入れされて、腰がびくびくとしなった。こんな感覚は初めてだ。お腹のなかがきゅんきゅんと切ないほどに疼く。

 おまけに、なぜか前が反応しはじめた。産卵時にこんなことは初めてだ。よりによってジークの前で。泣きたい気分になったが、なぜかジークはそっとそれに手を添えた。そうしたほうがいいと思ったからだろう。ジークエンドはそういう男なのだ!

「あっ、や……ふぅ、ふぅう」

 痛い。苦しい。気持ちいい。おなかが切ない。どうにかなってしまいそうだった。

 ジークエンドの唾液の力を借りて、卵がなんとか、なんとか下ってくる。

「あぅうう……」

「生めそうか?」

「う、う、出る、う」

 それはどちらの「出る」だったか。

 コトリは射精しながら恩人に尻を舐められ卵を生むという屈辱を味わう羽目になった。



***



「コトリちゃーん、そろそろ出てきてゴハン食べなさーい」

 ドンドンと扉が叩かれる。コトリはますます毛布に埋もれた。

 あれから三日。もう死んでしまいたい。恥ずかしいなどというものではない。本当に死にたい……

「コトリー、気持ちはわかるけどさあ、もう大人なんだからそういうストライキやめなよお」

 そう。あの現場、後を追ってきたサツキにも見られていた。死にたい。

「俺、見てないからーあ。気をきかせて立ち去ったんですうー。ちょっと最初のほうは見ちゃったけど」

「……もう、俺のことは放っておいてくれ」

「ウチのエース様が使い物にならないんだよ! コトリに嫌われたーってさ。それこそ死んじゃいそうだよ、いいのそれで」

 それは問題だ。コトリは死んでも構わないが、それで恩人が死んでしまうのは忍びない。

 誰もが眠った時刻……といってもラズウェルあたりは不寝番をしているだろうが、こそっと起き出して暗い廊下を手探りで進み、ジークエンドの部屋を目指す。

「ジーク……ジークエンド。寝たか?」

 控えめにノックしながら声をかけると、すぐに扉が開いた。シャツに短パンという姿のジークエンド。常にブラックコートがトレードマークの彼の、見たことのない崩れた姿だった。艷やかな髪もぼさぼさだ。

「コトリ……出てきてくれたのか!」

「しーっ、みんな寝てる! ……入れて」

 部屋の中へ入れてもらい、ベッドの隅に腰掛ける。

「コ……コトリ。あのだな」

「もういい。忘れてくれ」

「お前を傷つけたこと………」

「傷ついたとかじゃない。コトリは恥ずかしかっただけ」

「怒っていないか」

「怒ってない!」

「……はぁ」

 ジークエンドはへなへなとベッドに腰を下ろした。いつもの色男が台無しだ。

「コトリ。お前は覚えていないかもしれないが、お前が雛だったとき、助けにきた俺を見て殺さないでと言ったんだ」

「……覚えてない」

 だが、その状況は容易に察しがつく。どういう経緯でジークエンドがあのラボに来たかは知らない。だが、殺しに酔って血を浴び、笑う彼を幼い自分がどう思ったか。

「俺は、あの時の、コトリの顔がトラウマで……バンシー森ではいつも怯えたお前の顔を思い出す」

「コトリのことを思い出してたのか」

「気がついたんだ……自分がどんなに醜悪で、ひどい生き物か。助けにきたつもりが、助けに来た子にあんな顔をされて……殺さないでと。だから」

「気にすること、ない!」

 コトリはジークエンドにしがみついた。

「昔のコトリは、ジークエンドのこと知らなかった! オーバントのことも。だから怖かっただけだ。今は、戦ってるときのジークエンド好きだもん」

「好き……戦っているときの、オーバントの本能に呑まれた俺がか」

「そう。色っぽくて、かっこよくて、ジークエンドの戦ってるとこ、好きだぞ」

 発情するくらいにはとても。

 ジークエンドは信じられないような顔をした後、弱々しく微笑んだ。

「そうか、好きか。そんなふうに言ってもらえたのは初めてだ。コトリは凄いな、二度も俺を変えた」

 きゅうと抱き寄せられ、胸が高鳴った。

「ジークエンドと話してると、ときどき胸やお腹がきゅうってなる」

「なんだそれは。病気か?」

「医者に相談したことある。ふつうのことで、なんでもないって。でもきゅうってなるんだ。嫌な感じじゃないけど」

「それなら、俺もあるかもしれない。コトリと話していると、可愛くて、胸がぎゅっと絞られるように思う」

 そうか。ジークエンドもそうなるのか。ならば、普通のことだ。あまり気に病まないでいいだろう。

「昔みたいに一緒に寝ていいか?」

「はは……コトリは大きくなったからなあ。重なって寝るか」

 そうして、その晩はジークエンドの腕の中で眠った。懐かしい感じがする。昔はいつもこうしてジークエンドにひっついて寝ていたかもしれない。

 その日の夢は幸せだった。
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