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6.ココの実
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今回の依頼で、社員一同、社長からねぎらいの言葉とボーナスを貰った。それとは別にサントネースはコトリを呼び出して、
「無事でよかった……」
ぎゅっと抱きしめた。
「大げさな」
「大げさなものか。本当はお前が傭兵をやるのだってパパは反対なんだ。それなのにこんな大きな戦……」
またデモデモダッテが始まりそうだったので、コトリはあえて表情を正した。
「それで、社長。今回の件でかなり携帯食を消費したと思うが、作り足せばいいか?」
「……そうしてくれ。そうだな、ジークエンドにも教えてやってくれないか?」
「ジークエンドにか」
保存食の類を作るのは昔からコトリの仕事だった。子供の頃からみんなと一緒に作ってるからやり慣れている。一方、ジークはずっとうちのエースで、保存食制作なんて裏方仕事をしたことがない。
「今回、かなりの激務だったんだろう? 保存食制作には数日かかる。だから……」
「ああ、休暇代わりに」
そういうことなら……数日もジークと二人きりで調理場にこもるのかと思うと胸が躍る。
「ジーク、社長から命令だ。保存食を一緒に作れって」
「保存食?」
トレーニングルームで一汗かいたばかりのジークが目を丸くしてる。その汗をふいたタオルがほしい……
「作ったことがない。俺でも大丈夫だろうか」
「大丈夫だ。コトリが知ってる。ジークエンドはコトリのバディだから、一緒に作るんだぞ」
「そうか。楽しそうだなあ。そんな仕事を任されるのは初めてだ」
ジークエンドは強いから、いつでも最前線に飛ばされる。それ以外の仕事をさせてもらえないのだから、本当に戦うことしかしたことがないのだと、改めて実感した。
「使うのは干し肉、干し野菜、干し果物。それから香辛料。これらを少量の食獣植物の油と混ぜて型に入れて固めるだけ。簡単だろ」
「それなら俺にもできそうだ。これらをすりつぶすのか」
「そう。干し肉とかを潰すのは力仕事でけっこう大変だから任せていいか?」
「お安い御用だ」
オーバントはゲルを使うだけでなく、格闘もけっこう得意だ。トレーニングも欠かさず行っている。コトリは……未だに貧弱な身体だが。鍛えてるはずなのに。羽の力に頼りがちなバーレルセルが肉体的に貧弱な種族である可能性はなくもない。
「うー、ココの実は匂いを嗅いでるといつも頭がフワフワしてくる」
「そうか? よくわからんが」
「滋養強壮剤にも使われたりするんだって。元気が出るから携帯食にはうってつけだけど……うー」
いつもより大量に必要だからとゴリゴリすりつぶすが、どんどんふわふわしてきて、自分が何を考えて言ってるのか分からなくなってくる。
「そういえばボクネンジンってなんだ?」
「俺のような者のことだな。人の心の機微に疎くて鈍いとよく言われる」
なぜかしょげたようにジークエンドは俯く。ジークエンドはけっこう、落ち込みやすい。
「シグルドって、あいつ、なに?」
「よく懐いてくる後輩だ。懐かれすぎて困る。十数年経ってもまだ慕われていると思わなかった」
「それから、襲うってなに?」
「ぶっ……!?」
「シャークが、寝てるジークエンドを襲うなよって。襲うって、キスすること?」
「コトリになんということを」
「男が男を襲うって、キスをして、性器に触れること?」
「コトリ!? さっきから言動がおかしいぞ、どうした」
なんだかふわふわして覚束ない。
それにヘンな気分だ。ジークエンドにキスしたい。襲うってこういうことなのだろうか。
驚いてるジークの首に腕を回して、んーっと唇に唇を合わせた。
「襲うって、こういうのか?」
「な、な……」
「どうしたらいい。コトリ、ジークエンドを襲いたい。シグルドには襲われたことあるのか?」
「ここここ、こと、ことり………?」
「なあ」
腰を抜かしたジークの膝に跨り、自分のお尻をジークエンドの太ももに擦り付ける。
「シグルドとジークがくっついてるの見るの、すごくいやだ」
「こ、」
「発情するとここがすごく切なくなる」
下腹を見せてくるりと撫でて見せる。
「どうしたらいい? わからない……ジークエンドに舐められた時、すごく気持ちよかった」
「ことり、あまりオーバントを煽るものでは」
「ジーク……欲しい」
「………!」
ココの実の匂いが充満してる。ジークエンドもあてられたのだろう。それともオーバントの本能なのかもしれない。
黒い唇をちろりと舐めて笑みづくり、ジークはコトリを押し倒した。
「あっ……」
首筋をかぷりと噛まれて短く喘ぐ。じーくの歯だぁ……とよくわからない悦びを得てへらへらと笑う。
ゲルが、あっという間にコトリの服を器用に溶かしてしまった。ジークの舌がちろちろと乳首を舐める。ちりちりするヘンな感じ。たぶん、気持ちがいい。
小さなゲルが排出口の中に入って出入りしてる。ちょっと冷たい、でも気持ちよくてきゅうきゅう締め付けてしまう。片方の乳首にもゲルを出されてちゅうちゅう吸われた。
「あ、ん……あっああ」
ゲルが性器にも這った。おしっこの口に細い細いゲルが入ってきて、じんじんする痛気持ちよさに身を捩らせた。
そうしてる間もジークエンドは肌を舐めたり撫でたり、キスをしてくれた。口をあわせるだけではなく、舌を入れて、絡めて……キスってこんな仕方があるんだ、と緩んだ頭で感心した。生々しくて、気持ちいい。これ、すき。ジークエンドの味がする。
ジークエンドがコトリの足を持って大きく開かせた。その間に腰を入れて、何かが排出口に当てられる。
「うっん……うんん!!」
痛い!
大きくて太いものがにゅぐにゅぐ、入ってくる。すごく痛い。よく見るとジークエンドの性器だった。ゲルではない。ゲルのぬめりと一緒にずるずると性器を呑み込んでいく。
それが、奥まで届いたらとんでもない快感に変わり、コトリはすすり泣いた。ずっと欲しかった感覚だ……発情期のたびに、ジークエンドのことでおなかが疼くたびに。
「ジークエン……ジークッ!」
ナカをぐちゃぐちゃにかき回されながら出し入れされるともう、どうにかなってしまいそうで、本当に気持ちよくて訳がわからなくて……
「――――いかようにも処分いただきたく」
目がさめた。
コトリは社長室のソファに寝ていて、なぜか裸に毛布。
社長とジークが向かい合って難しい顔をしてる。
自分はどうしたのだったか。確か、ジークエンドと一緒に保存食を作っていたはずだが。
「パパ、どうしたのか。どうして俺は裸なんだ?」
「コトリ……覚えていないのか?」
「うん。ココの実を潰していたら頭がふわふわしはじめて……」
「コトリ」
ソファの側に膝をついて、サントネースが眉を寄せる。
「ココの実は幻覚作用があって、一度に沢山を扱ってはいけないんだ」
「そうなのか? でも大量に携帯食料が必要だから……」
「だから数日に分けて何度も作らなければならない。最初に全部やろうとしたんだな?」
「うん……あんなにたくさんやったの初めてだから知らなかった」
もう何年もやってる作業なのに。いい気になってジークエンドに教えてあげるつもりで、なんてことしたのだろう。
「俺はそれで倒れたのか? ジークエンドは大丈夫だったのか」
「ああ、まあ……」
ジークは気まずそうに目を背ける。どうしたのだろう。
「まさか、服を脱いで踊り狂うか何かしたのか!」
「そうじゃない、コトリ。そうじゃないが……ああ、もう。コトリが忘れているなら今回のことは無かったことだ!」
「社長、しかし!」
ジークエンドが叫ぶ。
「私はコトリを……」
「もともと、コトリの過失だ。それともコトリに本当のことを言うのかね」
「それは……」
「解散だ、解散。コトリ、風呂に入って寝なさい」
何が何やら……コトリは相当にまずいことをしてしまったらしい。そもそも脱いだにしても服をどこへやったのか。びりびりに破いてしまった? 自分で?
狐につままれた気分で、毛布を身体に巻いたまま社長室を後にした。
***
それからというもの、ジークエンドはコトリの顔をまともに見てくれなくなった。仕事中も視線はそらし、目が合った試しがない。
「コトリはそんなに酷いことをしたのか。ジークエンドは怒ってる?」
「怒っていない。そうじゃない。お前の顔を見ると罪悪感で押し潰されそうで……」
後で知ることになるが、このときジークエンドは辞表も出し、それを社長に破られるとバディ解消も申し出たらしい。とにかくひどい鬱状態で、見ていられない状態になってきた。そういえばオーバントは精神的に不安定な種族……
そこで、サツキとラズウェルに頼んで悩みを聞き出してもらうことにした。以下はコトリの知らない会話である。
「で、どーしたのさ。コトリには言わないし、ここだけの話にしてあげるからー」
「うう……うう」
「難儀じゃのー、戦闘中はあんなけ勇ましいちゅうに」
「俺は駄目な男だ……」
酒を呑み、鼻をすすりながらジークエンドはカウンターに突っ伏した。
「コトリを……っ、命を賭けて守ると決めた子に手を出してしまうなんて」
「なんだ。おめでとうじゃん」
「なにがめでたい! コトリは大人になって、可愛い女性とつがいになり、その希少な血を残さねばならないだろうが!」
「ああ、そのへん考えてないと思うよ、あのトリアタマちゃんは」
「コトリが覚えていないのだけが救いだが」
「覚えてないの!? 残念だなー、コトリ」
「言うなよ。言えば殺す」
酔ってはいるものの、かなり本気のオーバントの目で睨まれ、二人は口を噤んだ。親切心で話を聞いてやっているというのに、なんだこの待遇は。
「あのさあ。コトリだっていつまでも雛じゃないわけ。もう身体的には大人なのよ。発情期だってきてるだろうし」
「コトリはいつまでも俺の可愛い雛だー!!」
「で、コトリが覚えてもねえのに手篭めにしちまったことを気に病んで最近へこんでいたのか」
「罪悪感が……罪悪感が」
「まあ分からねえでもねえよ」
「わかっちゃうの、ラズウェル」
残り少ない絶叫ベリー酒をグラスにちょんちょんと注ぎ、ラズウェルは「だってよお」と言う。
「俺も、コトリがそりゃあ小さい雛のころから見て、成長を見守ってるからよ。俺たちは長命だしなあ。どうしたってあの小さい雛のコトリが頭にちらつくよ。コトリを抱けって言われてもむr」
「貴様コトリを抱くとか言わなかったか」
「お前ちょっと黙っててね、ジークエンド」
サツキに酒を注がれ、ジークエンドは大人しくごきゅごきゅ呑み始める。
「まあ、だからよ、コトリに手ぇ出すなんざ無理って話だ」
「そもそも、なんでそんなことになったのさ?」
「ココの実の幻覚作用とやらが……」
「あーね。あれ合法ドラッグとかに使われるやつじゃん。それで興奮したコトリに襲われちゃった? まさかジークエンドが下?」
「コトリを……犯してしまった………っ」
「やっぱコトリに上は無理か。それに、卵生むから子宮あるってことだしね」
「あれは孵化しねえらしいけどの……っと、あんまりこの話は外じゃできねえわな」
コトリがバーレルセルであることは社内だけの秘密だ。社内でも社長の信用に足る者しか知らない。
「まあ、なんにせよコトリから迫ってきたんでしょ。それで、なんとも思わないわけ?」
「なんとも、とは」
「どうしてコトリがあんたに迫ったかってこと。好きだからでしょ」
「大好きな俺に酷い目に遭わされた可哀想なコトリ……もう生きていく自信がない」
「どんだけ朴念仁で後ろ向きなんだよこいつ。めんどくさ」
とはいえ、エース様には立ち直って貰わねばならないのだ。サツキはジークエンドに指をつきつけた。
「いいか、ジークエンド! コトリはもう大人、自分で誤ってココの実を調合して自己責任。あんたに迫ったのも自己責任。なんにもあんたが自分を責める理由はないの!」
「だが……」
「ほーらジークエンド、だんだんあなたは気にならなくなーる、気にならなくなーる」
「………」
サツキのゆらゆら揺れる指をじっと見つめ、黙り込んだジークエンド。その後、ゴトっと頭から机に落ちた。
「うお。ジークエンドが潰れるのは珍しいの」
「催眠が効いたんだかどうか……適当にやったんだけどね。この前みたいに競りにかけられても面倒だし、連れ帰るよ。マスターごちそうさま」
翌日から、ジークエンドは普段どおりに戻ってくれたことで、コトリは二人に感謝した。
「しかし、何事もなかったことになってるわけで」
「歯がゆい奴らよの」
二人が結ばれるのは、おそらくまだ遠い。
「無事でよかった……」
ぎゅっと抱きしめた。
「大げさな」
「大げさなものか。本当はお前が傭兵をやるのだってパパは反対なんだ。それなのにこんな大きな戦……」
またデモデモダッテが始まりそうだったので、コトリはあえて表情を正した。
「それで、社長。今回の件でかなり携帯食を消費したと思うが、作り足せばいいか?」
「……そうしてくれ。そうだな、ジークエンドにも教えてやってくれないか?」
「ジークエンドにか」
保存食の類を作るのは昔からコトリの仕事だった。子供の頃からみんなと一緒に作ってるからやり慣れている。一方、ジークはずっとうちのエースで、保存食制作なんて裏方仕事をしたことがない。
「今回、かなりの激務だったんだろう? 保存食制作には数日かかる。だから……」
「ああ、休暇代わりに」
そういうことなら……数日もジークと二人きりで調理場にこもるのかと思うと胸が躍る。
「ジーク、社長から命令だ。保存食を一緒に作れって」
「保存食?」
トレーニングルームで一汗かいたばかりのジークが目を丸くしてる。その汗をふいたタオルがほしい……
「作ったことがない。俺でも大丈夫だろうか」
「大丈夫だ。コトリが知ってる。ジークエンドはコトリのバディだから、一緒に作るんだぞ」
「そうか。楽しそうだなあ。そんな仕事を任されるのは初めてだ」
ジークエンドは強いから、いつでも最前線に飛ばされる。それ以外の仕事をさせてもらえないのだから、本当に戦うことしかしたことがないのだと、改めて実感した。
「使うのは干し肉、干し野菜、干し果物。それから香辛料。これらを少量の食獣植物の油と混ぜて型に入れて固めるだけ。簡単だろ」
「それなら俺にもできそうだ。これらをすりつぶすのか」
「そう。干し肉とかを潰すのは力仕事でけっこう大変だから任せていいか?」
「お安い御用だ」
オーバントはゲルを使うだけでなく、格闘もけっこう得意だ。トレーニングも欠かさず行っている。コトリは……未だに貧弱な身体だが。鍛えてるはずなのに。羽の力に頼りがちなバーレルセルが肉体的に貧弱な種族である可能性はなくもない。
「うー、ココの実は匂いを嗅いでるといつも頭がフワフワしてくる」
「そうか? よくわからんが」
「滋養強壮剤にも使われたりするんだって。元気が出るから携帯食にはうってつけだけど……うー」
いつもより大量に必要だからとゴリゴリすりつぶすが、どんどんふわふわしてきて、自分が何を考えて言ってるのか分からなくなってくる。
「そういえばボクネンジンってなんだ?」
「俺のような者のことだな。人の心の機微に疎くて鈍いとよく言われる」
なぜかしょげたようにジークエンドは俯く。ジークエンドはけっこう、落ち込みやすい。
「シグルドって、あいつ、なに?」
「よく懐いてくる後輩だ。懐かれすぎて困る。十数年経ってもまだ慕われていると思わなかった」
「それから、襲うってなに?」
「ぶっ……!?」
「シャークが、寝てるジークエンドを襲うなよって。襲うって、キスすること?」
「コトリになんということを」
「男が男を襲うって、キスをして、性器に触れること?」
「コトリ!? さっきから言動がおかしいぞ、どうした」
なんだかふわふわして覚束ない。
それにヘンな気分だ。ジークエンドにキスしたい。襲うってこういうことなのだろうか。
驚いてるジークの首に腕を回して、んーっと唇に唇を合わせた。
「襲うって、こういうのか?」
「な、な……」
「どうしたらいい。コトリ、ジークエンドを襲いたい。シグルドには襲われたことあるのか?」
「ここここ、こと、ことり………?」
「なあ」
腰を抜かしたジークの膝に跨り、自分のお尻をジークエンドの太ももに擦り付ける。
「シグルドとジークがくっついてるの見るの、すごくいやだ」
「こ、」
「発情するとここがすごく切なくなる」
下腹を見せてくるりと撫でて見せる。
「どうしたらいい? わからない……ジークエンドに舐められた時、すごく気持ちよかった」
「ことり、あまりオーバントを煽るものでは」
「ジーク……欲しい」
「………!」
ココの実の匂いが充満してる。ジークエンドもあてられたのだろう。それともオーバントの本能なのかもしれない。
黒い唇をちろりと舐めて笑みづくり、ジークはコトリを押し倒した。
「あっ……」
首筋をかぷりと噛まれて短く喘ぐ。じーくの歯だぁ……とよくわからない悦びを得てへらへらと笑う。
ゲルが、あっという間にコトリの服を器用に溶かしてしまった。ジークの舌がちろちろと乳首を舐める。ちりちりするヘンな感じ。たぶん、気持ちがいい。
小さなゲルが排出口の中に入って出入りしてる。ちょっと冷たい、でも気持ちよくてきゅうきゅう締め付けてしまう。片方の乳首にもゲルを出されてちゅうちゅう吸われた。
「あ、ん……あっああ」
ゲルが性器にも這った。おしっこの口に細い細いゲルが入ってきて、じんじんする痛気持ちよさに身を捩らせた。
そうしてる間もジークエンドは肌を舐めたり撫でたり、キスをしてくれた。口をあわせるだけではなく、舌を入れて、絡めて……キスってこんな仕方があるんだ、と緩んだ頭で感心した。生々しくて、気持ちいい。これ、すき。ジークエンドの味がする。
ジークエンドがコトリの足を持って大きく開かせた。その間に腰を入れて、何かが排出口に当てられる。
「うっん……うんん!!」
痛い!
大きくて太いものがにゅぐにゅぐ、入ってくる。すごく痛い。よく見るとジークエンドの性器だった。ゲルではない。ゲルのぬめりと一緒にずるずると性器を呑み込んでいく。
それが、奥まで届いたらとんでもない快感に変わり、コトリはすすり泣いた。ずっと欲しかった感覚だ……発情期のたびに、ジークエンドのことでおなかが疼くたびに。
「ジークエン……ジークッ!」
ナカをぐちゃぐちゃにかき回されながら出し入れされるともう、どうにかなってしまいそうで、本当に気持ちよくて訳がわからなくて……
「――――いかようにも処分いただきたく」
目がさめた。
コトリは社長室のソファに寝ていて、なぜか裸に毛布。
社長とジークが向かい合って難しい顔をしてる。
自分はどうしたのだったか。確か、ジークエンドと一緒に保存食を作っていたはずだが。
「パパ、どうしたのか。どうして俺は裸なんだ?」
「コトリ……覚えていないのか?」
「うん。ココの実を潰していたら頭がふわふわしはじめて……」
「コトリ」
ソファの側に膝をついて、サントネースが眉を寄せる。
「ココの実は幻覚作用があって、一度に沢山を扱ってはいけないんだ」
「そうなのか? でも大量に携帯食料が必要だから……」
「だから数日に分けて何度も作らなければならない。最初に全部やろうとしたんだな?」
「うん……あんなにたくさんやったの初めてだから知らなかった」
もう何年もやってる作業なのに。いい気になってジークエンドに教えてあげるつもりで、なんてことしたのだろう。
「俺はそれで倒れたのか? ジークエンドは大丈夫だったのか」
「ああ、まあ……」
ジークは気まずそうに目を背ける。どうしたのだろう。
「まさか、服を脱いで踊り狂うか何かしたのか!」
「そうじゃない、コトリ。そうじゃないが……ああ、もう。コトリが忘れているなら今回のことは無かったことだ!」
「社長、しかし!」
ジークエンドが叫ぶ。
「私はコトリを……」
「もともと、コトリの過失だ。それともコトリに本当のことを言うのかね」
「それは……」
「解散だ、解散。コトリ、風呂に入って寝なさい」
何が何やら……コトリは相当にまずいことをしてしまったらしい。そもそも脱いだにしても服をどこへやったのか。びりびりに破いてしまった? 自分で?
狐につままれた気分で、毛布を身体に巻いたまま社長室を後にした。
***
それからというもの、ジークエンドはコトリの顔をまともに見てくれなくなった。仕事中も視線はそらし、目が合った試しがない。
「コトリはそんなに酷いことをしたのか。ジークエンドは怒ってる?」
「怒っていない。そうじゃない。お前の顔を見ると罪悪感で押し潰されそうで……」
後で知ることになるが、このときジークエンドは辞表も出し、それを社長に破られるとバディ解消も申し出たらしい。とにかくひどい鬱状態で、見ていられない状態になってきた。そういえばオーバントは精神的に不安定な種族……
そこで、サツキとラズウェルに頼んで悩みを聞き出してもらうことにした。以下はコトリの知らない会話である。
「で、どーしたのさ。コトリには言わないし、ここだけの話にしてあげるからー」
「うう……うう」
「難儀じゃのー、戦闘中はあんなけ勇ましいちゅうに」
「俺は駄目な男だ……」
酒を呑み、鼻をすすりながらジークエンドはカウンターに突っ伏した。
「コトリを……っ、命を賭けて守ると決めた子に手を出してしまうなんて」
「なんだ。おめでとうじゃん」
「なにがめでたい! コトリは大人になって、可愛い女性とつがいになり、その希少な血を残さねばならないだろうが!」
「ああ、そのへん考えてないと思うよ、あのトリアタマちゃんは」
「コトリが覚えていないのだけが救いだが」
「覚えてないの!? 残念だなー、コトリ」
「言うなよ。言えば殺す」
酔ってはいるものの、かなり本気のオーバントの目で睨まれ、二人は口を噤んだ。親切心で話を聞いてやっているというのに、なんだこの待遇は。
「あのさあ。コトリだっていつまでも雛じゃないわけ。もう身体的には大人なのよ。発情期だってきてるだろうし」
「コトリはいつまでも俺の可愛い雛だー!!」
「で、コトリが覚えてもねえのに手篭めにしちまったことを気に病んで最近へこんでいたのか」
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「まあ分からねえでもねえよ」
「わかっちゃうの、ラズウェル」
残り少ない絶叫ベリー酒をグラスにちょんちょんと注ぎ、ラズウェルは「だってよお」と言う。
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「まあ、だからよ、コトリに手ぇ出すなんざ無理って話だ」
「そもそも、なんでそんなことになったのさ?」
「ココの実の幻覚作用とやらが……」
「あーね。あれ合法ドラッグとかに使われるやつじゃん。それで興奮したコトリに襲われちゃった? まさかジークエンドが下?」
「コトリを……犯してしまった………っ」
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「あれは孵化しねえらしいけどの……っと、あんまりこの話は外じゃできねえわな」
コトリがバーレルセルであることは社内だけの秘密だ。社内でも社長の信用に足る者しか知らない。
「まあ、なんにせよコトリから迫ってきたんでしょ。それで、なんとも思わないわけ?」
「なんとも、とは」
「どうしてコトリがあんたに迫ったかってこと。好きだからでしょ」
「大好きな俺に酷い目に遭わされた可哀想なコトリ……もう生きていく自信がない」
「どんだけ朴念仁で後ろ向きなんだよこいつ。めんどくさ」
とはいえ、エース様には立ち直って貰わねばならないのだ。サツキはジークエンドに指をつきつけた。
「いいか、ジークエンド! コトリはもう大人、自分で誤ってココの実を調合して自己責任。あんたに迫ったのも自己責任。なんにもあんたが自分を責める理由はないの!」
「だが……」
「ほーらジークエンド、だんだんあなたは気にならなくなーる、気にならなくなーる」
「………」
サツキのゆらゆら揺れる指をじっと見つめ、黙り込んだジークエンド。その後、ゴトっと頭から机に落ちた。
「うお。ジークエンドが潰れるのは珍しいの」
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翌日から、ジークエンドは普段どおりに戻ってくれたことで、コトリは二人に感謝した。
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