ルロビア魔界傭兵カンパニー

いみじき

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9.女学院の怪事件

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女装回

「学校潜入?」

 また奇妙な依頼が舞い込んだ。都市部にある術技師アカデミーにおける怪事件の解決と生徒の護衛という任務。

「内密に済ませたいとのことで、警察には届け出ないそうだ。そこで、ジークエンドには体術の臨時教諭、コトリとサツキには聴講生として潜入してもらうことになった。ラズウェルが校外からの狙撃任務を命ずる」

「あれ、シャハクは?」

「シャハクには無理だ。術技師アカデミーはアカデミーでも、女学院のほうだからな」

「…………」

 コトリとサツキは黙り込んだ。いくらなんでもひどい、と。女学院の制服はミニワンピース風のローブだ。とてもかわいらしいことで有名な。

「まあいいよ。どうせ似合っちゃうだろうし?」

 言って着てみたサツキは本当に女学生にしか見えなくなった。コトリのほうは幼い頃から同じ、女の子よりの性別不詳。女の子としてはきりりとした表情なので、ボーイッシュに見られるだろうか。

「てーか女学院にジークエンドはテロじゃね!? こんなの女学院に入れていいの!?」

「コトリを行かせるのに俺だけ留守番はいかん」

 珍しくジークエンドのほうからねじ込んだ形らしい。コトリかわいさに自ら……

「きゃぁあああ!」

 地獄に赴くとは………

 とはいえ、ジークエンドはこの事態をまっっったく予期していなかったらしく、女生徒の黄色い声に目を白黒させている。

「えー、こちらオーバントのジークエンド教諭。体術を指導してくれることになった」

「よ……よろしく」

 かあと白い頬を赤くする様に、また黄色い声が上がる。

「ジークエンドって時々アホなのかーって思う」

「アホなんだと思うよ実際」

 体操着で膝を抱えるコトリとサツキ、ぼそぼそと目の前の惨状を眺める。

 今回の場合、コトリは嫉妬の類はしなかった。なぜなら転入初日からコトリ自身が女生徒にもててもてて仕方がなかったからだ。

「なんて可愛くてかっこいい小鳥ちゃんなのかしら! すてき!」

「ペットにしたぁい」

「あの……付き合ってください」

 生まれて初めて女の子に告白されたのが女装時というこの悲しさは、ジークエンドがもてるという事実よりもっと衝撃的で、当然予想されていた光景など吹き飛ばしてしまった。

 それでもコトリなどまだいいほうで、気風の良いサツキなどは、

「絶対わたしのこと好きにさせてみせますわよ!」

「負けませんわ!」

 このようなお嬢様たちの人気の的となっていた。

「やー、これ男だって言ったらどうなるんだろ」

「わかんない……」

 女だと思っているからいいのか、それとも男でもいいのか、あるいは男のほうがいいと思ってくれるのか。

「今度の演劇会で衣装作りますの! サツキさんには男装がきっとお似合いですわ!」

「だろうね……」

 むしろ女装が似合いすぎる男・サツキであることのほうが異常なのかもしれない。コトリもそうだが一切疑われることがないのはなんなのか。

 コトリとサツキは順調に馴染んだが、ジークエンドのほうはちょっと虐められてるらしい。

「でれでれして、と言われたのだが、でれでれとはなんぞや?」

 真顔で「でれでれ」についてハゲの教頭に問い詰めたもので、余計に心象が悪くなったようだ。女教諭からの熱い視線も独り占めしているので、男教諭からのやっかみが酷いらしい。

「真面目に聞くけどジークエンドさあ、女性経験は?」

「コトリを拾ってからはないな」

 その前はあるのか、とちょっとコトリの心がざわついた一件だった。

「恋人がいたこともなくはないが、貴方っていつもそう、と言われてフラれた」

「あーね」

 容易に想像出来るのがまたなんとも言えない。

「やっぱジークエンドのバディはコトリしかいないって」

「ああ。コトリがバディになってから絶好調だ。可愛いコトリがいるから張り合いも出る。それに、俺のバディができるくらいにコトリが成長したと思うと……あの小さかった雛が」

 こうなったら一生バディとしてつきまとってやる、と心に決めた瞬間であった。

「それで、本業のほうは?」

「いまのところ動きはない」

 今回の依頼、女生徒が一人になると悲鳴を上げて気絶し、そのまま目を覚まさないというもの。いまのところ女生徒たちに一人にならないよう心がけさせて難を逃れているようだ。

 今回ばかりは何が起こるかわからないため、コトリやサツキも囮捜査はしていない。気絶した女生徒はまだ誰も目覚めていないのだ。そこまで体を張る義理はない。

「女生徒の共通項は一人になったところを狙われたって点と、整った容貌をしていることか」

 コトリが調査書を眺めながらむう、と唇を尖らせる。

「女性のヒトガタ異形は整ってるの多いしねえ。特に女学院に通うような女の子はバンパイアとか淫魔が多いわけで」

「サンプルがちょっと少ないかー」

「あれから事件も起きていないしな」

 しかし、女教諭は無事で女生徒が狙われるのには理由がありそうだ。美人教諭も存在するのに、奇妙である。

「術技っぽいよね」

「術技のほうはからっきしだ」

「俺もだ」

 傭兵会社一同、学などない。一般教養はあるが、術技は専門学だ。

「―――あらっ、こんなところにいらっしゃいましたの!」

 薔薇姫、と呼び名高いバンパイアのお嬢様が階段下で相談している三人に声をかけた。彼女に熱烈アプローチされているサツキ、少し顔を引きつらせる。

「まあ、先生とコトリちゃんまで」

「彼女たちに一人にならないよう注意していたところです。例の事件ですが、生徒側から何か気づくようなことはありませんでしたか?」

「例の事件ですね。痛ましいですわ……私を慕ってくださっていた子たちですのに」

 意外なところから釣り糸が引かれた。

「全員、君を慕っていた子たちなのですか?」

「ええ。といっても、わたくしを慕ってくださる子は多くいまして。これでも去年はプリマドンナに選ばれましたのよ」

 確か、女生徒同士で花を贈るイベントで、一番多く贈られた女生徒がプリマドンナになる、というものだった。

「コトリちゃんたちは今年はきっとライバルですわね。人気ですもの」

「あ、ありがとう……といっていいのかー」

 花贈りは一週間後に迫っている。コトリもサツキもしょせんはオス、メスにもてるのは悪い気はしないのだが、いかんせん女装中だ。

「ふ……」

 サツキは意味深に笑った。

「こうなったら目立って目立って目立ちまくってプリマドンナとってやる!」

「が、がんばれー」

 それからなんのかんのと時間だけが過ぎ、あちこちで女生徒を口説きまくるサツキの姿が散見された。

「やー、かわいいもんだね。ちょっと口説いただけで真っ赤になっちゃうの」

「サツキ、女装がバレたら刺されるぞ」

 あくまで「かっこいい女生徒」だからもてていることを忘れてはならない。まあ、そうでなくともサツキほどの美形に口説かれて嫌になる女の子は少ないだろう。

「そういえばサツキはどうして傭兵に? というか快楽者の街なんかに」

「やー、俺は昔、街の悪たれだったのさー。運良くブドウを東方魔族に教わったけどね、街をおんだされて快楽者の街に行き着いて、社長に拾われたって感じ」

 サツキが会社にきたのはつい二年前。引き合わされた時はこんなに明るくもなく、荒んだ目をしていた。

「だからさ、最初コトリのこと苦手だったんだよね。可愛がられて育ちやがってー、くそーって」

「そうなのか」

「でも、会社のみんなが俺のことかわいがってくれるからさ。もういいやって思えるようになったの。ジークエンドだってバディだったとき、めちゃめちゃ俺に過保護でさ。それもあってバディ解消したんだけど」

 コトリと同年代のサツキにあのジークエンドがどう接したか、目に映るようだ。

「今はこーしてコトリと友達になれてよかったなって思ってる」

「コトリもだ」

 二人して顔を見合わせ、にっこり微笑んだ。

 さて、花贈りの日がやってきた。

「コトリちゃん、受け取って!」

「ありがとー」

 そろそろもてることにも慣れてきたコトリ、普通に花を受け取った。

 そしてサツキは。

「キャー!!」

 なんと男装で現れた。きらっきらの王子様服で、化粧をしている。完全に男装の麗人だ。男なのに。

「まあサツキ、私が見込んだ通りの子だわ」

 薔薇姫は満足そうにうっとりサツキを眺めていた。

 ところがだ。

「きゃあっ」

 明らかに黄色い悲鳴ではない悲鳴、本物の悲鳴が上がった。見ればサツキの姿がない。女生徒たちをかきわけて、さっきまでサツキがいたところへ出ると、彼の意識がなかった。

「サツキ!」

 揺すっても起きない。のぼせて失神という風でもなかった。

 一人になる女生徒が減り、犯人が大勢にまぎれて術を行使したのだろうか。

「誰か術を行使する人を見た人は!」

「いいえ……」

「わたしも……側におりましたのに」

「ラズウェル! 怪しい人影はないか! サツキがやられた!」

『確認する』

 騒ぎに教師やジークエンドもやってきた。ジークエンドはショックを受けた顔でサツキ、とつぶやいている。

(くそう。コトリは側にいたのに。何もできなかった。くそう!)

 運ばれていくサツキを見ながら、コトリは拳を握りしめる。

 しかし、これでまた薔薇姫関連の生徒が倒れたことになる。今度は薔薇姫を慕っていた者ではなく、薔薇姫が慕っていた相手になるが。

「薔薇姫。また君の周囲の人が倒れたぞ。何か思い当たる節はないのか」

「いいえ。いいえまったく」

 薔薇姫は真っ青になり、震えていた。今にも倒れそうだったので彼女を支え、ジークエンドと共に保健室へ向かう。

 保険医はサツキにつきそって病院へ向かったので、いない。彼女をベッドへ座らせる。

「大丈夫か?」

「ええ……なんとか。もし、もし犯人が私の周囲の大切な人を奪っているなら、許せませんわ」

 それはコトリとジークエンドも同じ。身内をやられたからには黙って帰る気はない。

『コトリ。怪しい人影はない。馬車がひとつ出てったが、ありゃサツキが運ばれてったんだろう?』

「ちょっとごめん。ジークエンド……先生、姫をよろしく」

「一人になる気か?」

「危ないですわ!」

「すぐそこの廊下だから」

 このままではラズウェルと連絡がとれない。

「いちおうサツキに付き添ってくれ。心配だから……」

『そっちの護衛は?』

「ジークエンドがいるから。だから……っ、?」

 きん、と身体の中を弾かれるような感覚があった。しかし、コトリの中の魔力素がそれを弾き返す。

(いま、術を使われたのか?)

 ぞっとした。しかし、コトリがバーレルセルであったから術が効かなかったらしい。自分にこんな特性があるとは知らなかった。

「ラズウェル、敵は内部にいる、はっきり分かった。だからサツキについてやってくれ」

『あいあい』

 今あったことをジークエンドに話さなければならない。

 薔薇姫はジークエンドに付き添われて眠っていた。正直、今の状況で誰かを疑うなら彼女しかいないのだが……

「ジークエンド。いま、何者かに術を使われた」

「なんだと。大丈夫だったのか」

「コトリは術を弾く体質らしい……初めて知った。もしかしたら何かの実験の名残なのかも。わからないけど、周辺に犯人が潜んでいたのは間違いない。

 さっき広場にいて、いま、この付近にいた。犯人は教師か生徒のどちらかだ。

 不思議なのは、どうしてコトリを狙ったのかってことだ。コトリは薔薇姫と親しくなかった。ただ、いまは彼女を支えてここまできた。だから嫉妬したんじゃないかって」

「嫉妬……?」

「本当は自分が薔薇姫に付き添いたかったのかも。そしたら、教師ならジークエンドに嫉妬するよな? でもコトリを狙ったってことは……」

「生徒か」

 そこまでは絞れた。

 そして、教師たちも馬鹿ではない。広場に、サツキの側にいた生徒たちは集められていた。

 しかし、今しがた術を使った形跡があるので、犯人はこの中にはいない。

「この中にいなくて、さっきまでいたのは誰か?」

「そういえば、ローズマリーさんがいらっしゃいません」

「いたわよねえ」

 コトリは飛び上がり、校舎を一望した。屋上に向かって走る人影を見る。

「ジーク、上だ!」

 告げるなり、彼は校舎に入っていった。コトリが屋上で待ち構えていると、女生徒は引き返した、が、その先にはジークエンドが待ち受けている。

「なによ!」

「貴様がサツキの意識を奪ったんだな?」

「そ……そんなことしてない」

「………」

 ジークエンドは彼女の喉首を掴み、ゲルを口に流し入れた。それから屋上に上がり、彼女を床に叩きつける。

「じ、じーく……」

 容疑者とはいえ、女の子にする対応ではない。ジークエンドのこめかみには青筋が立っており、かなり怒り狂っていることが分かる。最悪、とめなければ……

「貴様がやったんだな?」

「ひっうっ」

 ゲルをとられたローズマリーは、恐怖から頷いた。

「だっ……て、王子様の男装なんてバカみたい……私のほうが薔薇姫を愛していたのに」

「そんなくだらないことでサツキを害し、あまつさえコトリを……俺のコトリに………!!」

「ジークエンド、仕事に私情を挟むな!」

 これでコトリに術が効いていれば、ジークエンドは間違いなく彼女を溶かし殺したろう。術が効かなかったことは、彼女に幸いした。命拾いになった。

 ジークエンドは震える息をつきながらゆっくり離れ、ローズマリーはコトリが確保した。

「ルロビア傭兵カンパニーである。これ以上の抵抗をするなら容赦はしない。いいな?」

「………」

 恐怖に歪んだ顔で彼女はがくがく頷く。

「サツキたちにかけた術は解けるんだろうな?」

「魔神に……魔神と契約したの。だから契約を破棄すれば……」

「早くしろ」

「………」

 彼女は手を組んでぶつぶつと何か唱えた。

「こ、これでもう大丈夫……のはず」

「サツキに何かあれば、あらゆる手段をもって貴様を殺す。覚悟しておけ」

「ひっ」

 ジークエンドの脅しにローズマリーは震え上がった。コトリも、邪魔をする気にはなれない。サツキは初めて出来た親友なのだ。

「まあつまんない落ちだったよね。魔神契約で痴情のもつれ」

 病院で再会したサツキはすっかり元気になっており、コトリは安心した。

「魔神契約を簡単に出来る術技師の精神が幼稚すぎる。今後このようなことがないよう指導するべきだろう」

 ジークエンドはまだ硬い表情だ。オーバントの本能のやり場を失ったような状態に陥っている。

「ジーク、あのね」

「なんだ?」

「花……」

 花贈りの時の少し萎れてしまった花を、そっとジークエンドに差し出した。

「ジークエンドにあげようと思って、その、とっておいた」

「俺に? しかし、これはプリマンドンナの花では」

「コトリはジークにあげたかったんだ!」

「……そうか」

 ようやっとジークエンドが微笑み、気を緩ませた。

「ほんとお似合いだよ、あんたらさ」

 サツキの笑い声に少し赤くなりながら、コトリは俯いた。
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