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11.夢見屋
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「はーい、快楽者の街で一番の色男と有名なジークエンドさん! このたび新しく出来た夢見屋バクバクです!」
という、唐突な人物の登場にもジークエンドは驚かなかった。なぜなら彼は夢の中だったからだ。直前まで何の夢を見ていたかも記憶から消えた。
「夢見屋とは……夢魔のご招待する素敵なドリームランド! 毎晩の夢に彩りを! こんなふうに思ったことはありませんか? 疲れて心が死にそう……そんな時くらい、楽しい夢を見てリフレッシュしたい! なのになぜか追いかけられる夢を見たり、嫌な夢を見たり……台無しですよね。
夢見屋はそんな貴方の夢を文字通り叶えます! 今なら出血サービス、最初のドリームを無料プレゼント!」
ぼんやり夢見屋とやらの口上を聞いていたジークエンドの懐に、なにかが飛び込んできた。
「こ、これは……!」
衝撃。それは「コトリの可愛かったランキング」堂々二位の「パパの買ってきたぶかぶかパジャマ」のコトリだった。あのあと、皆に笑われて着なくなってしまったのだが……
「ジーク、一緒に寝よ!」
かわいい……袖からちょこっと出た手足。あっていない肩。大きな襟ぐりから見えてしまっている柔らかそうなクリーム色の鎖骨。ジークエンドが笑みこぼれてコトリを抱きしめようとすると、背中になにかが張り付いた。
「じーく、コトリ飛ぶぅ!」
衝撃。それは「コトリの可愛かったランキング」堂々一位の雛コトリ。やはりあの頃のコトリの可愛さは筆舌に尽くしがたい。
「こ……ことり。た、試しにパパって言ってみてくれ」
「ぱぁぱ」
ふっくらした頬をゆるませて笑うその顔。か、わ、い、い……死ぬ。死んでしまう。
「うう……そうだ、俺がパパになるはずだったんだ。でもなぜかなし崩しに……コトリにとっても根無し草のオーバントの子より社長の子のほうがいいに決まっている。だから……!」
「ぱぁぱぁ」
「ううっ、かわいい! コトリ、コトリ、俺の雛!」
「でも、雛とはイイコトできないでしょ?」
いつの間にか水着コトリがジークエンドにひっついて、胸元を円を描くようにひっかいてくる。
「見て! コトリ大きくなったんだぞ。発情期もきて卵だって生んじゃう」
「ああ、そうだ。コトリは大きくなった。あの小さな雛がこんなに……」
「だからジークエンドとえっちもできる!」
「ぶふっ」
唐突なフリにジークエンドはむせこんだ。
くるんと回った水着のコトリは、今度は女学院のワンピースローブ姿になり、するすると短い丈をたくしあげはじめた。
「コトリ、発情するとおなかがきゅうってなる。どうしたらいい?」
「う、う……」
「ジークがどうにもしてくれないなら、他の誰かに相談してみようかな……」
「それはいけない!」
発情期でおなかが疼くなんて、そんなことをこの快楽者の街で! いくら気の良い社員たちだって、コトリの可愛さに参ってしまうに違いないのだ。
「コ、コトリ……発情期でおなかが苦しい時は、こうして……」
「あ」
時には卵詰まりを起こすようなコトリのソコが、今はなぜかぬるぬるにぬめっていた。指もするりと入ってしまう。
「あ、あくまでこれは教えるだけであって……」
「何もしてくれないのか?」
うる、とパジャマコトリが見上げてくる。く、この目、この目は……勝てない。
「コトリはジークがほしいのに。なんにもしてくれないのか?」
「そ、そそ、それは……お前は俺の可愛い雛で」
「いつまでそういう言い訳をする? ほんとはコトリのこと、えっちな目で見てるだろ」
「そんなことは……そんなことは………!」
「ね、いいからお願い。キニシナーイ、キニシナーイ」
なぜか「キニシナーイ」のところだけがサツキの声だった。
サツキの「キニシナーイ」を聞いていると、どんどん思考力が奪われていく。夢の中でさえ禁忌としている無意識の枷が暴かれ、コトリにゆっくりと口づけた。
「あっ、ジーク、ジークいいよお!」
いつの間にか挿入まで済んでいる。コトリの肉は柔らかで、女とも違う快感を教えてくれる。バーレルセルのココがこれほど媚肉だと知っている者はどれほどいるだろうか?
かわいい、かわいいコトリ。声もかわいい。喘ぐ声も。しなる身体も。感じて泣く顔も。かわいい、かわいい……
「かわいい……」
と言って目が覚めた。
「………?」
夢の内容は覚えていないが、非常に、非常にいい夢だったことだけは覚えている。枕を抱えたままジークエンドは起き上がった。どうも枕をコトリだとでも思って、寝ながら一生懸命に撫でていたらしい。
はあっとため息つく。
「欲求不満かな……」
コトリは大きくなったし、ジークエンドの子でもない。本当はめちゃめちゃに可愛がりたいという欲求があるが、そうもできないのが現実だ。
顔貌は可愛らしいし、子供っぽい言動だが、あれでけっこう確りと仕事をする。判断力に優れ、社長令息としてもそつがない。大人の男だ。わかっている。わかっているのに……
「夢見屋、か……」
何処かで聞いたような。
ともあれ今日も仕事だ。オーバントには戦うしか能がないのだから。
***
最近、ジークエンドの様子が変だ。
いや悪い変化ではない。ただ、いつも以上に温和で優しく、幸福に満ちあふれてきらきらしている。道行く人が思わず振り返るくらいに。
ただしルロビアの破壊魔ジークエンドと知るとさっと目をそらすのだが。
ところがこの破壊魔王、このところ全く人体も器物も損壊していない。血に酔ってオーバントの本能に呑まれることもなく、常に慈愛の表情を絶やさないのだ。
「二度とするなよ」
などと犯人に声までかける。いつもは「どうしてもっと抵抗しないのか」と詰るのに。
「そーいえば最近、ジークエンド呑みの付き合いも悪いってさ。けっこーあれで誘いは断らないほうだったんだけどねえ」
「浮気じゃねえの」
「うわき!」
ぴん、とコトリの側頭部に生えた小さな羽が立った。
「うわきってコトリ知ってる、えっちだけどいけないやつだ!」
「そうね……」
「どうも夜中に出かけてるようだぜ。俺は夜番だからよぉ、見かけるわ。そりゃ毎晩ってくらいに出かけてる」
蝙蝠異形の狙撃手、ラズウェルが証言した。
「あー、そういやさ、呑みに誘ったとき金がないとか言ってたんだよ! エースで稼いでるはずなのにさ、大した趣味もないはずじゃんあの人。なのに金がないって、どっかにつぎこんでるんだよ」
「どっかとは何か?」
「フーゾクだよ、フーゾク。目当てのねーちゃんでも出来たんじゃねえの」
めあてのねーちゃん
めあてのねーちゃん
くわん、とコトリの小さな頭に衝撃。本当にかなだらいで殴られたような衝撃だった。
「ジ、ジ、ジークが、えっちなおねいさんに搾り取られている……!?」
「そうだよ!」
「性器に触られたりするのか!」
「性器どころか前立腺マッサージだってされてるかもしれない」
「ゼンリツセン!」
「よく快楽者の街で育ってここまで純粋になったもんじゃのう」
それはサントネース及びジークエンドの徹底した躾けと、15まで外に出ることがなかったためと、今も一人では街を歩かせていないためだ。コトリも一人で歩くと必ず不埒者に襲われるため、快楽者の街では誰かといたほうがいい、と考えている。コトリに悪いことを吹き込もうにも社長の監視があるため、社員が控える。
「ゆゆしき事態だ! ジークエンドをまっとうな道に引き戻さなくちゃ」
「そうね。フーゾクのねーちゃんに貢いで金がないなんてよくないよ」
「ジークエンドらしくないのう」
「コトリに似た子でも見つけちゃったんじゃない? そこでだコトリ! お前がジークを誘惑するんだよお!」
「ふえ? え? ゆーわく……」
「これが俺が何かの時のためにと買っておいた勝負服!」
「ひぇっ」
それは、乳首だけ隠す布に紐がついたものと、あちこちに穴の空いたスパッツ(悪魔の尻尾つき)だった。
「いつ使うつもりだったのか!?」
「だから何かの時だよ何かの時。面白いと思ってさー。だってこれ、絶対俺似合うじゃん」
似合うだろうけども。だろうけども!
「これ着てジークエンドの部屋に夜行ってみ。絶対なんらかの反応がある!」
「たぶん、はしたないって叱られると思うが」
なんにせよ、フーゾクのおねいさんの元へ行くのは止めたい。ジークエンドが出かける前に押しかけて、叱られるなり説教されるなりでいいから話をし、フーゾクのおねいさんについて聞き出すのだ。
恥ずかしい服を着て誰も居ない廊下をどきどきしながら渡る。
よく考えるとこの格好、サントネースに見られたら卒倒されるのでは……
と、誰かがやってくる。逃げる場所もないコトリはぴぎっと身をすくめたが、やってきたのはシャハクだった。
「「…………」」
両者に流れる沈黙。
「あの」
「全力で見なかったことにする」
やはりシャハクはいいやつだ。
階段を上がってジークエンドの部屋のある階へ。すると、ふらふらしたジークエンドが部屋から出てくるところだった。
「ジークエンド、どこ行くか!」
駆け寄って問い詰める。だが、目を見開いたジークエンドがブラ紐だけのコトリの肩を掴んだ。
「な、な、なん、ど、あ、」
言葉にならないほど驚かれた。わなわなしながら部屋の中にコトリを押し込む。コトリを強い力でベッドに座らせ、ふーふー息をし、額をおさえた。
「……夢か。なんだそうか夢か。ははは」
「ジーク?」
なんだかやはり、様子がおかしい。
「コトリ」
「う? ……え?」
コトリの手をすると取ったジークエンドが、腰を引き寄せて口と口をつける。キスだ。
「じ、じーく?」
「きにしない、きにしない……」
ぶつぶつ呟きながらジークエンドはコトリをベッドに押し倒す。小さすぎるブラジャーに指を差し込んで乳首を撫でられた。
「やっ、そこ……!」
ちりっと変な感覚が走る。ジークエンドの手は無遠慮にコトリのおなかを撫で回し、腰を撫で、首筋や胸元にキスを落とした。
コトリは何をされているのかもよくわからず、目を白黒させてジークエンドの暴挙をなすがまま受け入れた。
「ひんっ、そこおしっこするとこ……!」
性器だと分かってはいるし、以前ジークエンドに触られたこともある。だが、それでもコトリにとってソレはまだ「おしっこをするところ」だった。
スパッツの中に潜り込んだ手がコトリの性器を弄る。鋭いような快感に歯を食いしばった。コトリとて、自分で慰めることはある。だが、人に触られると違うのだ。
「はぁ、はぁ、はぁぁ」
息が上ずり、裏返った恥ずかしい声が出る。もう少しでイク、という時にジークエンドの手がするりと外れた。
「ジーク……?」
「パパ」
「え?」
「パパ、だろう? いけない子だな、コトリ」
「ふぇ……?」
コトリにとって「パパ」はどうしてもサントネースだった。サントネースより先にジークエンドに出会ったこともちゃんと覚えているし、サントネースと同じように可愛がられた記憶もあるのに、やはりジークエンドは「パパ」とは違う。彼が若々しく美しい容貌をしているせいもあるだろう。
「なに言って……はぅ!」
乾いた指が排出口に突き立った。
「あれ……濡れてないな。濡らすか」
「ジーク、ジーク、そこは……」
「きにしない、きにしない」
おまじないのように、ジークエンドは「きにしない」を繰り返す。とても正気には見えなかった。コトリは怖くなって震える。
何かで濡れた指が排出口に押し入ってきてつきんと痛む。前に入れられた舌よりずっと刺激が強かった。
「ジーク、ジーク痛いっ……あっ?」
ジークエンドの指が奥まで入ってある地点まで届くと、ふわりと快感が押し寄せてきた。
反応があると見るやジークエンドは指をくちゅくちゅ動かして「ソコ」、おそらくは卵巣のあたりを弄る。
「あっ……く、くくぅ、ふぐっ」
(だめ、隣の部屋に聞こえる)
枕を抱え、端を噛む。どうしてこんなことになったのだろう。
「ふくっ、んっんぅ……んぐ!?」
指がズっ、と引き抜かれた。
「ぬめりが足りないな……」
言いながら、ジークエンドはコトリの尻に何か液体を垂らす。それを伸ばして、何度も何度も排出口に指を差し入れた。最初は痛かったが、だんだんと痛みがなくなってスムーズに入るようになってくる。
すると、ジークエンドがコトリの腰を後ろから抱いた。
「んっ……!? ふぐん!」
ずる、と大きなものが入ってくる。ゲル? と一瞬思った。何をされているか分からない。ジークエンドの身体が密着している。ゆらめいて触れ合う。
「ふっん! ふぅう! ううう」
お腹のちくちくが快楽によって溶かされていく。とんでもなく気持ちがいい。何かが排出口を出入りして、揺らして、卵巣を突く。信じられないような出来事だった。
「はあっ、はあ」
ジークエンドの色っぽい吐息が耳元に届いて、その声にも背筋がぞくぞくした。
「くんっ……ふ、ぁ……ッ、んぐッ!!」
強い、強すぎる快感がぐぐんと襲ってきて、去る。
なんとか、なんとか声を殺しきった。ぜひぜひ呼吸をしていると、大きなものが出ていく。不思議と何も感じなかった。ジークエンドはゆっくりベッドに身を倒し、コトリを撫でて、微笑んだ。
「かわいい、かわいいコトリ」
そう言ってとろりと瞼を落とし、眠りに落ちる。
コトリは訳が分からぬままジークエンドの部屋を後にして、魔道式の風呂を浴び、部屋に戻って朝までまんじりともせず起きていたのだった。
***
翌日のジークエンドはいつもどおりだった……いつもといっても、最近変な優しいジークエンドのままだった。何事もなかったように。
コトリも、あれは夢だったのではないかと思う。
その後、公安が夢見屋という店を摘発した。
「ジークエンドが通ってた店らしいよ」
サツキがそっと教えてくれた。あそこにフーゾクのおねいさんがいたのだろうか。
以後、ジークエンドは時折つらそうにため息をつくようになる。
「そんなにフーゾクのおねいさんがよかったのか?」
ジークエンドは不思議そうに首を傾げた。
「いや、あそこは夢魔の店だった。小さい雛のコトリにパパと呼ばれる夢を見せてくれてな、それで通っていたんだ」
「ち、小さいコトリにパパって? それだけのために?」
「コトリは俺をパパとは呼んでくれないだろ」
「だって……コトリのパパはサントネースだから……」
「刷り込みもあるんだろうなあ。コトリは鳥だから。ああ、俺もさっさとコトリにパパだと言っておけばよかった。そうしたら今頃きっと……」
ぶつぶつ言っているが。
あの夜、ジークエンドは夢見屋の見せた夢だと思ってコトリの身体に触れたのではなかろうか。パパと呼べ、と言っていたことからも合点はいく。
しかし、雛にするようなことではなかった。性器を触ったし、あれはえっちな、いけないことだった。それだけは分かる。
けっきょく、コトリは誰にも相談もできず、悶々とこの件を抱えていく羽目になる。
という、唐突な人物の登場にもジークエンドは驚かなかった。なぜなら彼は夢の中だったからだ。直前まで何の夢を見ていたかも記憶から消えた。
「夢見屋とは……夢魔のご招待する素敵なドリームランド! 毎晩の夢に彩りを! こんなふうに思ったことはありませんか? 疲れて心が死にそう……そんな時くらい、楽しい夢を見てリフレッシュしたい! なのになぜか追いかけられる夢を見たり、嫌な夢を見たり……台無しですよね。
夢見屋はそんな貴方の夢を文字通り叶えます! 今なら出血サービス、最初のドリームを無料プレゼント!」
ぼんやり夢見屋とやらの口上を聞いていたジークエンドの懐に、なにかが飛び込んできた。
「こ、これは……!」
衝撃。それは「コトリの可愛かったランキング」堂々二位の「パパの買ってきたぶかぶかパジャマ」のコトリだった。あのあと、皆に笑われて着なくなってしまったのだが……
「ジーク、一緒に寝よ!」
かわいい……袖からちょこっと出た手足。あっていない肩。大きな襟ぐりから見えてしまっている柔らかそうなクリーム色の鎖骨。ジークエンドが笑みこぼれてコトリを抱きしめようとすると、背中になにかが張り付いた。
「じーく、コトリ飛ぶぅ!」
衝撃。それは「コトリの可愛かったランキング」堂々一位の雛コトリ。やはりあの頃のコトリの可愛さは筆舌に尽くしがたい。
「こ……ことり。た、試しにパパって言ってみてくれ」
「ぱぁぱ」
ふっくらした頬をゆるませて笑うその顔。か、わ、い、い……死ぬ。死んでしまう。
「うう……そうだ、俺がパパになるはずだったんだ。でもなぜかなし崩しに……コトリにとっても根無し草のオーバントの子より社長の子のほうがいいに決まっている。だから……!」
「ぱぁぱぁ」
「ううっ、かわいい! コトリ、コトリ、俺の雛!」
「でも、雛とはイイコトできないでしょ?」
いつの間にか水着コトリがジークエンドにひっついて、胸元を円を描くようにひっかいてくる。
「見て! コトリ大きくなったんだぞ。発情期もきて卵だって生んじゃう」
「ああ、そうだ。コトリは大きくなった。あの小さな雛がこんなに……」
「だからジークエンドとえっちもできる!」
「ぶふっ」
唐突なフリにジークエンドはむせこんだ。
くるんと回った水着のコトリは、今度は女学院のワンピースローブ姿になり、するすると短い丈をたくしあげはじめた。
「コトリ、発情するとおなかがきゅうってなる。どうしたらいい?」
「う、う……」
「ジークがどうにもしてくれないなら、他の誰かに相談してみようかな……」
「それはいけない!」
発情期でおなかが疼くなんて、そんなことをこの快楽者の街で! いくら気の良い社員たちだって、コトリの可愛さに参ってしまうに違いないのだ。
「コ、コトリ……発情期でおなかが苦しい時は、こうして……」
「あ」
時には卵詰まりを起こすようなコトリのソコが、今はなぜかぬるぬるにぬめっていた。指もするりと入ってしまう。
「あ、あくまでこれは教えるだけであって……」
「何もしてくれないのか?」
うる、とパジャマコトリが見上げてくる。く、この目、この目は……勝てない。
「コトリはジークがほしいのに。なんにもしてくれないのか?」
「そ、そそ、それは……お前は俺の可愛い雛で」
「いつまでそういう言い訳をする? ほんとはコトリのこと、えっちな目で見てるだろ」
「そんなことは……そんなことは………!」
「ね、いいからお願い。キニシナーイ、キニシナーイ」
なぜか「キニシナーイ」のところだけがサツキの声だった。
サツキの「キニシナーイ」を聞いていると、どんどん思考力が奪われていく。夢の中でさえ禁忌としている無意識の枷が暴かれ、コトリにゆっくりと口づけた。
「あっ、ジーク、ジークいいよお!」
いつの間にか挿入まで済んでいる。コトリの肉は柔らかで、女とも違う快感を教えてくれる。バーレルセルのココがこれほど媚肉だと知っている者はどれほどいるだろうか?
かわいい、かわいいコトリ。声もかわいい。喘ぐ声も。しなる身体も。感じて泣く顔も。かわいい、かわいい……
「かわいい……」
と言って目が覚めた。
「………?」
夢の内容は覚えていないが、非常に、非常にいい夢だったことだけは覚えている。枕を抱えたままジークエンドは起き上がった。どうも枕をコトリだとでも思って、寝ながら一生懸命に撫でていたらしい。
はあっとため息つく。
「欲求不満かな……」
コトリは大きくなったし、ジークエンドの子でもない。本当はめちゃめちゃに可愛がりたいという欲求があるが、そうもできないのが現実だ。
顔貌は可愛らしいし、子供っぽい言動だが、あれでけっこう確りと仕事をする。判断力に優れ、社長令息としてもそつがない。大人の男だ。わかっている。わかっているのに……
「夢見屋、か……」
何処かで聞いたような。
ともあれ今日も仕事だ。オーバントには戦うしか能がないのだから。
***
最近、ジークエンドの様子が変だ。
いや悪い変化ではない。ただ、いつも以上に温和で優しく、幸福に満ちあふれてきらきらしている。道行く人が思わず振り返るくらいに。
ただしルロビアの破壊魔ジークエンドと知るとさっと目をそらすのだが。
ところがこの破壊魔王、このところ全く人体も器物も損壊していない。血に酔ってオーバントの本能に呑まれることもなく、常に慈愛の表情を絶やさないのだ。
「二度とするなよ」
などと犯人に声までかける。いつもは「どうしてもっと抵抗しないのか」と詰るのに。
「そーいえば最近、ジークエンド呑みの付き合いも悪いってさ。けっこーあれで誘いは断らないほうだったんだけどねえ」
「浮気じゃねえの」
「うわき!」
ぴん、とコトリの側頭部に生えた小さな羽が立った。
「うわきってコトリ知ってる、えっちだけどいけないやつだ!」
「そうね……」
「どうも夜中に出かけてるようだぜ。俺は夜番だからよぉ、見かけるわ。そりゃ毎晩ってくらいに出かけてる」
蝙蝠異形の狙撃手、ラズウェルが証言した。
「あー、そういやさ、呑みに誘ったとき金がないとか言ってたんだよ! エースで稼いでるはずなのにさ、大した趣味もないはずじゃんあの人。なのに金がないって、どっかにつぎこんでるんだよ」
「どっかとは何か?」
「フーゾクだよ、フーゾク。目当てのねーちゃんでも出来たんじゃねえの」
めあてのねーちゃん
めあてのねーちゃん
くわん、とコトリの小さな頭に衝撃。本当にかなだらいで殴られたような衝撃だった。
「ジ、ジ、ジークが、えっちなおねいさんに搾り取られている……!?」
「そうだよ!」
「性器に触られたりするのか!」
「性器どころか前立腺マッサージだってされてるかもしれない」
「ゼンリツセン!」
「よく快楽者の街で育ってここまで純粋になったもんじゃのう」
それはサントネース及びジークエンドの徹底した躾けと、15まで外に出ることがなかったためと、今も一人では街を歩かせていないためだ。コトリも一人で歩くと必ず不埒者に襲われるため、快楽者の街では誰かといたほうがいい、と考えている。コトリに悪いことを吹き込もうにも社長の監視があるため、社員が控える。
「ゆゆしき事態だ! ジークエンドをまっとうな道に引き戻さなくちゃ」
「そうね。フーゾクのねーちゃんに貢いで金がないなんてよくないよ」
「ジークエンドらしくないのう」
「コトリに似た子でも見つけちゃったんじゃない? そこでだコトリ! お前がジークを誘惑するんだよお!」
「ふえ? え? ゆーわく……」
「これが俺が何かの時のためにと買っておいた勝負服!」
「ひぇっ」
それは、乳首だけ隠す布に紐がついたものと、あちこちに穴の空いたスパッツ(悪魔の尻尾つき)だった。
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似合うだろうけども。だろうけども!
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なんにせよ、フーゾクのおねいさんの元へ行くのは止めたい。ジークエンドが出かける前に押しかけて、叱られるなり説教されるなりでいいから話をし、フーゾクのおねいさんについて聞き出すのだ。
恥ずかしい服を着て誰も居ない廊下をどきどきしながら渡る。
よく考えるとこの格好、サントネースに見られたら卒倒されるのでは……
と、誰かがやってくる。逃げる場所もないコトリはぴぎっと身をすくめたが、やってきたのはシャハクだった。
「「…………」」
両者に流れる沈黙。
「あの」
「全力で見なかったことにする」
やはりシャハクはいいやつだ。
階段を上がってジークエンドの部屋のある階へ。すると、ふらふらしたジークエンドが部屋から出てくるところだった。
「ジークエンド、どこ行くか!」
駆け寄って問い詰める。だが、目を見開いたジークエンドがブラ紐だけのコトリの肩を掴んだ。
「な、な、なん、ど、あ、」
言葉にならないほど驚かれた。わなわなしながら部屋の中にコトリを押し込む。コトリを強い力でベッドに座らせ、ふーふー息をし、額をおさえた。
「……夢か。なんだそうか夢か。ははは」
「ジーク?」
なんだかやはり、様子がおかしい。
「コトリ」
「う? ……え?」
コトリの手をすると取ったジークエンドが、腰を引き寄せて口と口をつける。キスだ。
「じ、じーく?」
「きにしない、きにしない……」
ぶつぶつ呟きながらジークエンドはコトリをベッドに押し倒す。小さすぎるブラジャーに指を差し込んで乳首を撫でられた。
「やっ、そこ……!」
ちりっと変な感覚が走る。ジークエンドの手は無遠慮にコトリのおなかを撫で回し、腰を撫で、首筋や胸元にキスを落とした。
コトリは何をされているのかもよくわからず、目を白黒させてジークエンドの暴挙をなすがまま受け入れた。
「ひんっ、そこおしっこするとこ……!」
性器だと分かってはいるし、以前ジークエンドに触られたこともある。だが、それでもコトリにとってソレはまだ「おしっこをするところ」だった。
スパッツの中に潜り込んだ手がコトリの性器を弄る。鋭いような快感に歯を食いしばった。コトリとて、自分で慰めることはある。だが、人に触られると違うのだ。
「はぁ、はぁ、はぁぁ」
息が上ずり、裏返った恥ずかしい声が出る。もう少しでイク、という時にジークエンドの手がするりと外れた。
「ジーク……?」
「パパ」
「え?」
「パパ、だろう? いけない子だな、コトリ」
「ふぇ……?」
コトリにとって「パパ」はどうしてもサントネースだった。サントネースより先にジークエンドに出会ったこともちゃんと覚えているし、サントネースと同じように可愛がられた記憶もあるのに、やはりジークエンドは「パパ」とは違う。彼が若々しく美しい容貌をしているせいもあるだろう。
「なに言って……はぅ!」
乾いた指が排出口に突き立った。
「あれ……濡れてないな。濡らすか」
「ジーク、ジーク、そこは……」
「きにしない、きにしない」
おまじないのように、ジークエンドは「きにしない」を繰り返す。とても正気には見えなかった。コトリは怖くなって震える。
何かで濡れた指が排出口に押し入ってきてつきんと痛む。前に入れられた舌よりずっと刺激が強かった。
「ジーク、ジーク痛いっ……あっ?」
ジークエンドの指が奥まで入ってある地点まで届くと、ふわりと快感が押し寄せてきた。
反応があると見るやジークエンドは指をくちゅくちゅ動かして「ソコ」、おそらくは卵巣のあたりを弄る。
「あっ……く、くくぅ、ふぐっ」
(だめ、隣の部屋に聞こえる)
枕を抱え、端を噛む。どうしてこんなことになったのだろう。
「ふくっ、んっんぅ……んぐ!?」
指がズっ、と引き抜かれた。
「ぬめりが足りないな……」
言いながら、ジークエンドはコトリの尻に何か液体を垂らす。それを伸ばして、何度も何度も排出口に指を差し入れた。最初は痛かったが、だんだんと痛みがなくなってスムーズに入るようになってくる。
すると、ジークエンドがコトリの腰を後ろから抱いた。
「んっ……!? ふぐん!」
ずる、と大きなものが入ってくる。ゲル? と一瞬思った。何をされているか分からない。ジークエンドの身体が密着している。ゆらめいて触れ合う。
「ふっん! ふぅう! ううう」
お腹のちくちくが快楽によって溶かされていく。とんでもなく気持ちがいい。何かが排出口を出入りして、揺らして、卵巣を突く。信じられないような出来事だった。
「はあっ、はあ」
ジークエンドの色っぽい吐息が耳元に届いて、その声にも背筋がぞくぞくした。
「くんっ……ふ、ぁ……ッ、んぐッ!!」
強い、強すぎる快感がぐぐんと襲ってきて、去る。
なんとか、なんとか声を殺しきった。ぜひぜひ呼吸をしていると、大きなものが出ていく。不思議と何も感じなかった。ジークエンドはゆっくりベッドに身を倒し、コトリを撫でて、微笑んだ。
「かわいい、かわいいコトリ」
そう言ってとろりと瞼を落とし、眠りに落ちる。
コトリは訳が分からぬままジークエンドの部屋を後にして、魔道式の風呂を浴び、部屋に戻って朝までまんじりともせず起きていたのだった。
***
翌日のジークエンドはいつもどおりだった……いつもといっても、最近変な優しいジークエンドのままだった。何事もなかったように。
コトリも、あれは夢だったのではないかと思う。
その後、公安が夢見屋という店を摘発した。
「ジークエンドが通ってた店らしいよ」
サツキがそっと教えてくれた。あそこにフーゾクのおねいさんがいたのだろうか。
以後、ジークエンドは時折つらそうにため息をつくようになる。
「そんなにフーゾクのおねいさんがよかったのか?」
ジークエンドは不思議そうに首を傾げた。
「いや、あそこは夢魔の店だった。小さい雛のコトリにパパと呼ばれる夢を見せてくれてな、それで通っていたんだ」
「ち、小さいコトリにパパって? それだけのために?」
「コトリは俺をパパとは呼んでくれないだろ」
「だって……コトリのパパはサントネースだから……」
「刷り込みもあるんだろうなあ。コトリは鳥だから。ああ、俺もさっさとコトリにパパだと言っておけばよかった。そうしたら今頃きっと……」
ぶつぶつ言っているが。
あの夜、ジークエンドは夢見屋の見せた夢だと思ってコトリの身体に触れたのではなかろうか。パパと呼べ、と言っていたことからも合点はいく。
しかし、雛にするようなことではなかった。性器を触ったし、あれはえっちな、いけないことだった。それだけは分かる。
けっきょく、コトリは誰にも相談もできず、悶々とこの件を抱えていく羽目になる。
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