ルロビア魔界傭兵カンパニー

いみじき

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15.シザードの体験入社

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「背徳宮に蓄えられた宝物が減ってきた。者どもかき集めて来い」

 ボスの命令が下った。背徳宮の長の命令は絶対である。

(とはいってもねえ)

 シザードはエントランスの巨大支柱に凭れながら紫煙を揺らす。

 背徳宮には常にそこそこの宝物が蓄えられている。換金用でもあるが、取引にも使われ、オークションの目玉がいまいちだった時の穴埋めにも使われる。

 宝物というのも曖昧で、宝石なら間違いはないが、歴史的価値のある代物やら芸術家の作品となると……もう手に負えない。

 そもそもオーバントは富にあまり執着しない種族でもある。殺し、戦い、満たされる。それが出来る場所なら軍部だろうがマフィアだろうが構わない。

 シザードが軍部を出てきたのは、殺してはならないという命令が増えたからだ。シザードは、殺しを楽しみたい。だからこの街は心地いい。

(わざわざストッパーなんぞつけて自分を抑制するやつの気がしれねえよ。……待てよ、ストッパーか)

 あの可愛い雛鳥ちゃんの顔を思い浮かべる。シザードの考えが確かなら、あれは伝説の鳥、バーレルセルだ。もう百年以上、姿を消した魔晶石を生む鳥の末裔。あれはお宝だ。

 ただし、あれを攫った途端、トライストの傑作と呼ばれたオーバントが死に物狂いで取り返しに来るだろう。

(オーバントがにおいをたどるってことは……そういうことだ)

 最も大切な者の匂いを辿る。それもオーバントなら誰しもあるわけではない、一生「大切なもの」に出会わず終わる者が大半だ。

 オーバントがそれほど執着しているものに手出しするのは、得策ではない。お宝を手に入れるはずが、背徳宮に甚大な被害が出る。本末転倒なのだ。

(あー、やっぱ殺し以外の任務は向いてねえ!)

 マフィアもそろそろ潮時だろうか。しかし、軍部を出た以上、ここ以外に相応の生きる道があるとも思えなかった。統制された街で本能むきだしに生きれば、すぐさま殺処分対象になってしまう。

「というわけでよ。ちょっとお宅の小鳥ちゃんの卵くれねえかなあ」

「よくものこのこ顔を出せたな!」

「ジークエンド、その言い方パパ上そっくりだー」

 ルロビア傭兵会社の応接室で例のコンビと向き合い、単刀直入に切り出した。

「悪い話じゃないと思うよ? 俺は小鳥ちゃんのことバラさねえし、まあ口止め料だとでも思ってさ」

「正直、処分に困ってるからあげてもいいと思う」

「コトリ! 流出経路が漏れれば狙われるのはお前だぞ」

「あーあー大丈夫大丈夫、他のモンに紛れさしておくからよ。確かに幻の一品かもしれねえが、どんなに純度高くても魔晶石は消耗品だろ? 価値はあるかもしれねえが、躍起になって探すやつはいねえって」

「コトリの生んだものを人手に渡すのが問題なんだ!」

「相変わらず煮えてるねえ、おたくの相棒」

「なんか、ごめん」

 オーバントの本能が芽を出しかけている相棒をどうどうと宥める。うまいものだ、とシザードは舌を巻いた。オーバントを鎮めるのは難しい。

「口止め料の件、了解した。今後も取引に応じていい」

「おう、ありがとうよ」

「でも、それにしてもタダでっていうのはムシがよすぎると思わないか?」

 この雛、子供っぽいと思いきや、相棒よりよほどしっかりしている。さすが社長の息子。

「しかし、困ったことに金はねえのよ。宵越しの銭を持たねえ性質でなあ」

「金がないなら身体で払ってもらう」

「こ、コトリ……?」

 なぜかジークエンドが震撼していたが、要はルロビア傭兵会社で働け、ということらしい。

「今日の任務はVIPバーの警備だ。知ってるかもしれないが、後ろ暗い政治家が後ろ暗い政治をしにここへやってくる。そのぶん、暗殺者の類もよく紛れ込む。コトリたちはボーイに化ける手はずになっている」

「なるほどねえ」

「心配だが、オーバントに給仕はできるのか」

「バカにしてんのかい。なあ」

「出来ると思われる」

「不安だ……」

 しかし、コトリの衣装が短パンに網タイツというものだった。サイズの問題で、少年給仕の衣装しかなかったらしい。

「パ……パパは許しませんよ!」

「ジークエンドはパパじゃない。パパに言われても決定は覆らない。これは社長令息命令である。理解したか?」

「くっ……俺のコトリがどんどん逞しく育っていく」

 案外やり手の経営者に育ちそうだ、この雛。

 コトリも問題だったが、美しすぎるオーバントのボーイ姿もなかなか目の毒だった。ある意味で溶け込んでいるかもしれない。他にも美青年の給仕はいたので。

「おい。この店、男しかいねーぞ」

「女性だけの給仕の日と、男性だけの給仕の日がある。なんでかは知らない」

 つまり……そういうことだってばよ。

 尻を狙うのはとにかく、尻を狙われるのは趣味ではない。こういう業界、シザードのようなのが好みというやつもいるわけで。

「いいね君、いいカラダしてるねー」

 インプの爺に尻を撫でられてぞわっときた。

 ちなみに尻を撫でられたジークエンドは乙女のように恥じらっておおいにそそられており、コトリは、

「たのしいか?」

 真顔で聞いていた。雛つよい。

『シザード。二番の札下げた男、武器を所持している。引きずり出して殺していい』

 冷徹な社長令息様の命令に、シザードは舌なめずりした。いい上司じゃねえの。オーバントの使い方をよくわかっている。

『シザードがいるとやりやすいな。ジークエンドは殺しをいやがる』

『殺しをいやがるう? オーバントがか』

『殺しが嫌、というよりコトリに見られるのがイヤなんだ。未だに怖がられると思ってる』

 コトリは給仕しながら的確に指示をだし、ジークエンドとシザードを使い分けていた。ジークエンドには怪しい者の確認をさせ、確定黒の者はシザードに処分させた。そして、殺しに酔ったシザードの元へやってきて、ぽんぽんと胸元を叩く。

 シザードはあまりストッパーと仕事をしたことのない類のオーバントだったが、悪くない、と思った。殺しに酔うのは気持ちいいが、酔いすぎると悪酔いにもなる。そうなる前にコトリがタイミングよくほろ酔い程度に鎮めてくれるのだ。

 ちなみにジークエンドは、しょっちゅう客に粗相をしてはセクハラされ、コトリに「うちの者が申し訳ありません」と始末されていた。どちらが保護者かわからない……立場的にはコトリが上だから、あれでいいのか。

 正直、給仕に関してはシザードもジークエンドのことを言えず、細いグラスをトレーに乗せてぷるぷるしながら運んでいた。

「しゃらくせええぇ!」

 とぶん投げたくなるのを我慢して。

『シザード、我慢しろ。大人だろう。オーバントだって殺しだけして生きてくわけにはいかないんだ』

 それは、痛いほど分かっている。いっそ野に出て狩り生活も悪くないと思うが、文化の中で育つと、文化から離れがたくなる。

 それに、獣を殺すより、駆け引きの末に知的異形を殺すほうが楽しいのだ。

 それにしても、雛鳥ちゃんにはすっかり感服してしまった。理想の上司だ。ルロビアに転職も悪くないな、などと思うほどに。

 ―――と、シザードの耳が殺気を捉えた。オーバントは五感の一つが優れている場合がある。シザードの場合は聴覚、ジークエンドの場合は嗅覚だろう。

『かわいこちゃん、一悶着あるかもしれねえ。客を退避させろ』

「お客様! 伏せてください!!」

 客のほうも慣れているのか、それぞれボックス席のソファの影にばっと隠れた。

 途端、厨房のほうから一斉射撃。オーバントたちはゲルで溶かし、コトリは羽で迎撃した。無関係のボーイたちの悲鳴があがり、逃げ惑う。

 敵は最初の掃射に失敗すると見るや、引いていった。

「追うかい?」

「いや、客の安全優先だ。ジークエンド、死体を見てくれ」

「了解」

 まだ敵が潜んでいる可能性も考慮して、警戒しながらジークエンドが近づいていく。死体を蹴って仰向けにし、ふむと頷いた。

「これは背徳宮の輩だな」

「げっ、同僚か!」

 ということは、ボスの命令での襲撃だった可能性もあるわけで。

「これじゃ帰るに帰れねえかもなあ」

「うちで雇うぞ?」

「もうほんとそうしたい……でも足抜けはしがらみ多いのよ。それもオーバントの引き抜きったらお宅と背徳宮で確執ってレベルじゃなくなるよ?」

「あとは社長がうまくやってくれる。背徳宮との確執は今に始まったことじゃない。社長はコトリとジークエンドが背徳宮に囚えられたこと、まだ許してない。そのことで手打ちにして貰えばいい」

「じゃあお言葉に甘えちまおうかなあ」

「お前のバディを誰にするかが問題だが……しばらく三人だな」

「ぐ……」

 ジークエンドがあからさまに嫌そうな顔をする。シザードとしては、綺麗どころとかわいこちゃんと仕事が出来て、しかもオーバントの扱いが上手い上司ということで上機嫌だった。まあ、今後背徳宮とは色々あるだろうが……それはそれで面白いとも思う。



***



 ただし、ひとつ問題があった。

 シザードがオーバント特有の方向音痴で、ジークエンドと違ってにおいでコトリを追跡できないことだった。

「あれ、ここどこだ」

「もー、どうしてもーオーバントはもー!」

 とコトリに呆れられながら回収されること数度。

「こんなに方向音痴で、オーバントはどうやって任務をこなすのか!」

「部隊単位でストッパー兼道案内がいるんだよ」

「確かにパパ上が駆けつけてきたときも、それらしい案内役、いた! パパ上も方向音痴か!」

「こればかりはオーバントの特性というかなんというか……」

「よく背徳宮で迷子にならなかったな!」

「しょっちゅう迷子だったぜ! お前らをオークションで見たときも、あれ迷子中だったからな」

「もー! ジークエンドはコトリについてくるけど、シザードはあっちこっち行くから面倒くさい! サツキがバディ解消したのわかる!!」

「面目ねえな」

「やっぱり目付役が必要だー」

 そこで白羽の矢が立ったのが、シャハクである。

「他に回してくれ……!」

「うるさい、社長令息めーれーである! 四の五の言うな!」

 仕事モードのコトリちゃんは、それは強い。おそらく社内で一番強い。

「ま、よろしくな。狼の兄ちゃん」

「……」

 ぎろりと睨まれる。冷静なガンナーであるから、オーバントとの相性も悪くないだろう。

 と思っていたら、シザードが迷いそうになるたび、あるいは悪酔いしそうになるたびに足元に銃弾を打ち込まれる羽目になった。相性は……悪くないかもしれない。

 こうしてシザードはルロビア傭兵会社の一員になった。
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