ルロビア魔界傭兵カンパニー

いみじき

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16.旅の一座

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「シーラちゃんと別れた?」

 最近コトリがコイバナコイバナと言わなくなったので、サツキが例の女の子はどうしたと聞いたところ、あっさり別れたと言われた。

「そういえばサツキに言ってなかったなー」

「そうだよ……」

「泣かせるなって言われたけど、けっきょく泣かせちゃった。コトリ、シーラちゃんに恋できなかったから」

 付き合ってみたら好きになるかもしれないと言われて、付き合ってみたが恋にはならなかった。

 それは相手の女の子もコトリも責められない。

「それに……コトリはジークのだからもう恋はしないんだ」

「へあ!?」

「ジークエンドがな、コトリに誰のものにもならないで、ずっとジークのコトリでいてくれって。酔ってたけど」

「そ……そんな話ってあるか」

 サツキは呆れた。そしていくら本人同士の話とはいえ、由々しき事態だと感じた。

「相手を束縛するだけして責任とらないってどーゆーことだ!」

 コトリのいない社の廊下で問い詰められたジークエンド、注目を浴びながら目を瞬いた。

「ああいや、あれはただの……その、願望で。そんなことがあるはずがないというのはよく理解している」

「でも、コトリはその気だし、ずっとお前のものでいる気だぞ。だったらいい加減責任とって異種同性結婚でもしちゃいなよ」

「け……っこん?」

 ジークエンドがいつになく間抜けな顔をした。美形の間抜けな顔というのは本当に間抜けだ。

「考えてみなよ。子供は親元から巣立つもの。コトリはたまたまサントネース社長の跡を継ぐつもりでいるけど、ジークエンドだって親元出てんじゃん」

「そうだな……?」

「でも! 結婚したらずっと家族だよ!」

「そうか? そうか……?」

 混乱の極みにあるらしく、ジークエンドが鈍く頭を傾げている。

 とはいえ、ジークエンドが本当にコトリを「雛」としか見られないのなら、無理にくっつけてもシーラとコトリの二の舞になるかもしれないと思った。

 ところが。

「ということは、コトリが俺の嫁に……」

 頬を赤らめた。なんだその気があるんじゃないか!

「えー、おほん。そろそろいいかね」

 出社時間に誰も来ないので社長のほうから廊下に出てきた。いいところだったのに。

 すると、シグルドがいた。あのコトリのライバルのオーバントだ。ただし、本日は妙に硬い表情をしている。

「実はな。背徳宮のほうで魔晶石の卵が多数出品された」

「えっ……」

 ベテラン及び、サツキなど事情を知る者たちがざわめく。コトリがバーレルセルであることを知らない社員は「だから?」という表情だが。

「そ、それってバーレルセルがいるってことですよね」

「そうです。それも急に流出したということは、最近やっと発情期を迎えたバーレルセルです」

 シグルドが答え、スと机に一枚の写真を載せた。

 そこには、コトリにそっくりな、しかしおとなしそうなバーレルセルの少年が写っていた。

「隣国に潜んでいるエージェントからの情報です。バーレルセルの希少性と年齢からいって、確実にコトリちゃんの弟でしょう」

「コトリの弟……?」

「そうです。更にまずいことに、この子が雛を産んだという情報も掴みました」

「………!」

 オスのバーレルセルが雛を産んだ。それは繁殖させて魔晶石を産む存在を増やせるという意味だ。

「……なんでも、好きなオスの子なら産めるそうですよ」

 シグルドはなんとも言えない、悲しそうな顔で微笑んだ。

「正確には産みたいと思った相手との子ですね。この子にもそういう相手がいるらしいです。

 で、コトリちゃんならびにそのお相手が狙われることにもなるのですがあ……困ったことにこちらに軍部から依頼です。

 このバーレルセルと雛を救出してください。できればお相手ごと」

「なぜ我々に?」

「バーレルセルは自然保護条約といって、見かけたら捕まえたりせず自然に見守りましょーって条約があるのですが、ダハーカはこれを無視しています。

 しかし、だからといって我が国の軍が動けば内政干渉になり、宣戦布告と取られてしまいます。

 そこで、民間企業である皆さんの出番というわけです。なんだかオーバントが増えているようですし?」

「どっかで見た顔だなあ」

「あなたもね」

 シザードは一体どこに所属していたオーバントなのだろうか。ジークエンドたちと違ってエリートではなさそうだが。

 コトリは顔を上げて凛々しく眉根を上げた。

「大人数で行くわけにはいかない。オーバントの二人はコトリがストッパーになる」

「行くつもりか、コトリちゃん!」

「現状、コトリほどオーバントをうまく扱える人材はいないから仕方ない。それに、コトリが兄弟を助けにきたという構図はわかりやすく大義名分になる」

(コトリ成長したなあ)

 サツキとしては少々置いていかれた気分に陥る。

「オーバント二名とコトリ、それとサツキとラズウェルとシャハク。それでいいな、社長」

「だめだよコトリちゃん! 捕まったら何されるかわかんないんだよ!?」

「これは決定事項である」

 社長の扱いもうまくいっている、というより力関係が逆転してしまっているような。

「兄弟の収容施設につくまで正体は隠さなければならない。何か良い案はないか」

「国に身分証を発行させればいい」

 と、ジークエンド。

 そうして数日後、再びやってきたシグルドに渡された身分証が、性別・女になっている。

「また女装じゃん!」

 今度はジークエンドもだ。顔を覆って自分の殻に閉じこもってしまっている。

「やー、出来るだけ確実に正体隠したいと言ったら先輩なら行けるだろうという話になりまして……コトリちゃんとサツキちゃんは素でいけると話しておきました」

 そんな軽い理由で性転換されたほうの立場はどうなる。

「まあ……この面子であれば、旅芸人でも化ければいけるだろう………」

「ジークの女装! コトリたのしみだ!」

 もともとオーバントは女もごつい。多少は衣装でごまかせるだろう。その衣装を調達するのもサツキの役目だったが。

 それにしても流石にジークエンドは背が高かったが。

「なに、俺のかみさんってことにでもしときゃいいだろう」

 シザードはジークエンドの父親と同じく大柄だ。シグルドやロカリオンのサイズからしても決してジークエンドの背がオーバントの中で低い訳ではなかろうが、大柄タイプとは違うらしい。並ぶと本当に夫婦にでも見えてくるから不思議だ。

「ジークはコトリのだぞ!」

「フリだろうがよ。お前さんと並ぶと駄目だ、こいつのデカさが目立っちまう」

「むう!」

 こればかりはサツキにもフォローしようがなかった。

 旅芸人の一座は、思ったよりうまくいった。

 ジークエンドはいいところの坊っちゃんらしく、竪琴などたしなんでいたようで、ロングスカートでぽろんぽろん弾いている。シザードは世にも珍しいオーバントのゲル芸で客を沸かせ、シャハクはリンゴを撃つ芸などをした。コトリは飛び回って羽を撃つだけで見る者を楽しませる。サツキは器用なのでナイフでジャグリングなど披露した。

「案外それっぽく見えるもんだね」

「殺しがしたい」

「暴れたい」

 オーバント二名が非常にストレスを溜めているようなので、やはりオーバントの一座というのは現実的な存在ではないようだ。

 と、そんな旅路のある夜、サツキはコトリとジークエンドが焚き火を囲んで寄り添っているところを目撃した。

「――――例えば。コトリは俺と家族になりたいと思うか?」

(例の話じゃん!)

 サツキは馬車の影に身を隠し、そっと様子を窺う。

「家族に? でもどうやって。コトリのパパはサントネースだし……養子縁組とか? ジークもサントネースの子になるか?」

「い、いや違う。たとえば……結婚だとかだ」

「けっこん!」

 コトリの羽がぴよと跳ねた。

「それって、パパとママがしてたやつ!」

「さすがに結婚の意味はわかってるよな……?」

「一緒に住んで、えと、一緒に住んで子供とか育てる!!」

「大体あっている」

「でも子供……あっ」

 そこで、ようやく自分がジークエンドの子供を産めるかもしれないことを思い出したらしい。そう、シグルドのもたらした兄弟の情報は、そういうことなのだ。

「ジ……ジークエンド、赤ちゃんってどうやって作るの」

「それは……おしべとめしべがだな」

「主にコトリはどうやって作ればいいのか?」

「そ……それは、それはだな」

(がんばれジークエンド!)

 なんてやりにくい相手だ、コトリ。これではジークエンドが今まで子供扱いしていたのも無理はない。

「作り方は……俺が知ってる」

「ほんとに? コトリ、ジークの子供産める?」

「そう、らしい」

「………!!」

 コトリは感極まったようにジークエンドに抱きつき、ジークエンドはそれを抱き返した。

(やれやれ。やっとあの二人も落ち着くとこに落ち着くんかね)

 見ていてもどかしい輩であったから、サツキも一息ついた。

 ただ翌朝、

「コトリ、帰ったらジークエンドと結婚する!」

 シャハクに死亡フラグを述べていたのには呆れた。



***



「通行証を」

 関門で提出を要求され、いかつい門兵にそれぞれ手渡した。

 シザードはジークエンドの背の高さをごまかすため、わざとらしく肩を抱いている。コトリは「ぐぬぬ」と呻いたが、逆にコトリとサツキは「姉妹ですよ」と言うように手を繋いでおいた。

「通ってよし」

 ごまかせたようだ。

 関門を通った後は、ジークエンドとシザードを剥がし、ジークエンドにひっついた。

「ジークはコトリんだからな!」

「誰もとったりゃしねえよ。おいさん、コトリちゃんのほうが好み」

「おいふざけるな」

「まあそりゃジークエンドが俺を好きってんなら悪い気しねえけど?」

「気色の悪いことを言うな」

 今現在の女装姿だと、それなりにお似合いのカップルに見えるのが腹立たしい。コトリのなのに。

 そう、いわゆるプロポーズをされた。

(コトリがジークエンドと結婚して、夫になる?)

 ジークエンドを嫁に迎える気でいるコトリ。まだその意味はよくわかっていない。ジークエンドの雛は可愛いだろう、くらいのふわふわした気持ちだった。

「―――相手ごと救い出せという話だが」

 あるとき、皆が集まっているときにジークエンドがぽつんと切り出した。

「俺はあまり賛成できない」

「どうして? コトリの兄弟が好きな相手だぞ」

「おそらく相手は研究員だ。研究の一環で発情期を迎えたバーレルセルをかわるがわる犯した中に、その研究員が混じっていたと考えるのが自然だろう」

「おかし……?」

 何のことだか分からず、コトリは首を傾げる。

「まあ事情があるかもしれないよね。その子が好きだって言うなら、泣く泣くってこともあるかもだし」

「そうであることを祈るが、本当に好きなら逃げることを考えるはずだ」

「それも出来ない状況ってのもあんだろうよ。まず見てみねえとな……面倒なら殺して最初からいなかったことにしちまおう」

 シザードの暴論にジークエンドまで頷いた。オーバントというやつはどうしてこう。

「さしあたって、どうやって潜入するか?」

「建物を見てみねえと分からねえてとこもあるが、魔動セキュリティがある場合は陽動と潜入で分けたほうがいいだろうな。まあ入る方はオーバントとコトリちゃんで、陽動はそれ以外だわな」

 潜入などは初めてだ。オーバントたちの足を自分が引っ張らねばいいが。

「場合によっちゃ殲滅もありと思うよ。ただし出国しにくくなる。最悪、バーレルセルたちには飛んで帰ってもらう」

「この数で殲滅できるか?」

「相手がたにオーバントがいなければな」

 この場でオーバント相手に戦えるのはジークエンド、シザード、コトリの三人。研究所という施設にそれほどオーバントが詰めているとは思えないが、最悪のケースを想定すると、弟と相手だけ救出して逃げておきたい。

「シグルドからの情報は?」

「内部の構造だけだな。魔動セキュリティなどは把握しきれていないらしい。あるかどうかも分からないケースもあるしな……オーバントの情報はなかったが」

「ないのかよ。だったら殲滅でいいじゃん」

「最悪を想定しろ。軍部に居た頃とは訳が違うんだぞ」

 こういうところが士官とそれ以外の差なのかもしれない。
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