あなたの時間を僕にください

無意味

私は学校の屋上にいた。
私の17年は正直に言ってすごく悲惨なものだった。
私は容姿もよく、運動神経もよく勉強もできた。
それ故に疎まれた。いじめにもあった。
初めから運動神経が良かったわけじゃない。
勉強もできたわけじゃない。
私は努力して運動神経も学力も手に入れたのだ。
だが、世界はそう甘くなかった。
頑張れば褒められるなんて嘘だ。
私がテストで高得点を取ればみんな揃って、
「空気読めよ」
「私たちのことも考えてよ」
男女揃って私に文句を投げつけてくる。
私は必死に無視を続けた
初めはみんなも私の事を無視してくれていた。
だが少しずつ、その無視はいじめに変わってきた。
靴を隠された時は、学校中を1時間以上探し回った。
机に誹謗中傷も書かれた。
私は毎日その誹謗中傷を必死に雑巾でとっていた。
周りから笑われながら。
「はぁ…つまんない人生だったな…」
神様は最低だ、世の中幸せになれる人とそうでない人をつくるんだから。
何故全員幸せになれるようにしてくれないのだろうか…
そんな事を考えながら屋上の端に向かった。
屋上の端に立ち、最低な神様に最後のお願いをした。
「どうか次生まれてくる時は幸せな人生をください」
そう神様にお願いを済ませ、飛び降りようとしたその時、後ろから男の声がした。
「まってください！」
その男は息が荒れていた。私を見つけて走ってきたのだろう。
「なに？邪魔しないで」
そういってもう一度飛び降りようとすると
「お願いです！話を聞いてください！」
心の底からのお願いだとだと分かった。
少し迷ったが話を聞くことにした。
「で？なに？」
少し安心したのか安堵の溜息を零した。
「率直にいいます。あなたの時間を僕にください」
私は驚いた。
「は？どうゆうことなの？」
「厳密に言えば１ヶ月だけでいいんです」
聞き間違いかと思った。
「もう1回言って」
「１ヶ月でいいので僕にあなたの時間をください」
聞き間違いではなかった。
「その１ヶ月でなにするつもりなの？」
聞くだけ聞いて、飛び降りるつもりだった。
どうせろくでもない理由だろうと思っていたが、男から返ってきた言葉が予想外だった。
「１ヶ月であなたの人生を幸福なものにしてみせます」
私の悲惨な17年間の人生をたった１ヶ月で幸福な人生にするって言ったのだ。
「無理に決まってるでしょ」と言い切った。
私の17年間を否定されたような気がして頭にきていたのだ。
確かに私の17年間は悲惨なものだったが、頑張ったことだってある。
それを否定されるのだけは嫌だった。
「確かにたった１ヶ月じゃ厳しいかもしれません」
「でも、無理って決まったわけじゃない」
男の目は本気だった。生半可な覚悟じゃないことだけは分かる。
でもここで、男の言葉に耳を貸したら私の覚悟が無駄になる。
「話はすんだよね？さようなら」
これ以上聞いたら覚悟が揺らぐと思い、飛び降りようとしたその時、男に手を引かれた。
「離しなさいよ」
「嫌です」
なんでこの男は他人の私にここまでできるの。
「他人の私になんでそこまでするの？」と聞いた。
「気まぐれですかね」
気まぐれで普通ここまでするだろうか。
拉致があかないと思い、少し考え条件を付けることにした。
「もし、あなたが１ヶ月で私の人生を幸福にすることが出来なかったら、私が死のうとしようが文句をつけないって言うなら、あなたに私の１ヶ月を託すわ」
私は、この男が私の人生を１ヶ月でどうこうできるとは、到底思えなかった。
もし、出来てしまった時どうしようかと考えたが、無理だと割り切った。
「本当ですか！？わかりました！」
「僕が１ヶ月でどうにも出来なかったらあなたがなにをしようが僕は何もいいません」
男の言葉を聞き流しながら空を見上げた。
１ヶ月でどうにか出来るわけがない。そうに決まってる。
17年という人生に１ヶ月が勝てるわけが無い。
そう信じるしかなかった。
振り向き、男の目を見て言った。
「私の１ヶ月をあなたに託します」
男は笑顔で答えた
「託されました」
あぁ…なんて眩しい笑顔なんだろう。
短いようで長い１ヶ月が幕を上げた。