あなたの時間を僕にください

sennya

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私の人生を肯定する者

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私は飛び降りるのをやめ、男に名前を聞いた。
「ねぇ…あなたの名前なに？」
「あぁ…そういえば言ってませんでしたね」
「僕の名前は鳴瀬星奏っていいます」
星奏（せな）と読むらしい。
「綺麗な名前ね」
「ありがとうございます」
「あなたの名前も知りたいです」
「私の名前？」
「はい」
一瞬、言おうか迷ったが１ヶ月すれば赤の他人に戻ることだし言うことにした。
「天野結花よ」
鳴瀬は黙っている。
「どうしたの？」
「あ…いえ、天野さんに合うとてもいい名前だと思ったので」
私に合ういい名前？自分の名前のことなんて考えたこともなかった。
鳴瀬はニコニコしながら
「ここにいるとまた天野さんが飛び降りようとするかもしれないので校舎に戻りませんか？」
「約束したんだから１ヶ月は飛び降りないわよ！」
私は頬を膨らませた。
鳴瀬はケタケタ笑っている。
私はイラっときたので鳴瀬を置いて校舎に戻った。
後ろから鳴瀬が追いかけてくる。
「ちょっとまってくださいよ！」
その声を聞き、私は早足で校舎に戻った。

階段を降りていると鳴瀬が
「天野さんにお願いがあるんですけど」
「なに？」
「僕のことはあまり詮索しないようにお願いします」
私は疑問しかなかったが短くすました。
「どうして？」
「それは言えません」
鳴瀬は言う気はさらさらないらしい。
これ以上聞いても意味が無いと思い諦めた。
「分かったわ。詮索はしないようにする」
「ありがとうございます」
カバンをとるために教室に戻った。
「天野さんって友達いますか？」
教室に戻ってきたと思ったら次は嫌味か…。
「なに？嫌味？」
首を振り
「いえ、違うんです。あなたのような人に友達が1人もいないってことがあまり想像出来なかったので」
「それは私が美人って理由で？」
「率直に言えばそうですね」
「なるほどね……」
同じような事を小さい時に言われたことがある。
時は遡って、それは小学生の頃だった。
クラスの子たちが私を見ていつも言っていたのを思い出す。
「天野ちゃんって可愛いのに友達と喋ってるとこ見たことない」
「そうだよねーずっと椅子に座ってるよね」
「不思議だよねー」
私に友達が居ないことが、相当不思議だったらしい。
家に帰るとお母さんにいつも聞かれた。
「お友達できたの？」
私はいつも首を横に振っていた。
どうして？と聞かれると
「いらないから」とだけ言い､部屋にすぐ戻っていた。
その時は、友達を作るメリットがどうしても分からなかったのだ。
いや、正確に言えば分かろうとしなかったの方が正しいかもしれない。
高校2年生になった今でもそれは変わらなかった。
友達がいなかったとしても別に死ぬわけじゃないし、いちいち友達に合わせる必要もない。
メリットはあってもデメリットがあるとは思えなかった。
「おーい」
鳴瀬が顔の前で手を振っていた。
「ごめんなさい…考え事していたの」
5分以上考え込んでいたらしい。
「結構な時間考え込んでましたけど、昔のことですか？」
「そうよ」
「内容を教えて貰えないでしょ…」
「無理」
「ですよね～」
私の過去を聞いて需要なんかあるだろうか。
話を変えることにした。
「で、具体的にどうやってたった１ヶ月で幸福な人生にするの？」
すると急に鳴瀬が
「多分あなたは人の温かさを知らないと思います」
「体温ってこと？」
「それボケてるんですか？」
「違うの？」
鳴瀬はため息をついた。
「人の心の温かさですよ」
私は分からなかった。人の心の温かさ？
考えようとしたが、パッと頭に浮かばなかった。
鳴瀬は私を見るなり
「人の心の温かさってなに？っていう顔してますね」
「………」
鳴瀬は私を見ていた。
可哀想な人を見るような目だった。
そんな目で見ないでよ。
惨めな気持ちになるじゃない。
私はどうしても聞きたかった。
「ひとつあなたに聞きたいんだけど」
「はい？」
「私がしてきた事って全部無駄なことだったのかな？」
鳴瀬は黙っている。
「ごめんなさい…こんなこと聞いても迷惑なだけよね…」
私が帰る準備をしようとすると、鳴瀬はため息をついて
「何言ってるんですか？やってきたことが全部無駄？そんな訳ないじゃないですか」
その言葉を聞いた時、私の過去の道に花が芽生えたような気がした。
「努力はどれだけしても無駄じゃないです」
「たとえそれで結果が残せなかったとしても…」
鳴瀬は大きく息を吸い
「努力をしたっていう結果は残る！それを馬鹿にするやつは誰であろうと許しません」
私は泣いていた。
「あれ？なんで泣いてるの？」
どうしても涙が止まらなかった。
「天野さんは自分を卑下しすぎなんですよ」
鳴瀬の声は柔らかくて安心するような声だった。
私は涙を抑えることができなくなっていた。
「無駄じゃっ…なかったっ…のね…」
私は泣き顔を鳴瀬に見られないようにするために顔を背けた。
嗚咽を抑えながら私は5分ぐらい泣いていた
これまでの人生で1番泣いたかもしれない。
でもこういう涙は案外悪くなかった。
私は「すぅ」っと大きく息を吸い
「鳴瀬ありがとう」
「いえ、僕は何もしてませんよ」
変な気を使われるよりかはそう答えてくれる方がありがたかった。
「そうね」と言い帰る支度を済ませ鳴瀬に「さようなら」といい先に家に帰った。
私は自分の家のベッドに飛び込みこう思った。
（もしかすると１ヶ月後には本当に幸福な人生…いやこの言い方は堅苦しい、楽しい人生に変わっているかもしれない）
だけど、私の１ヶ月はまだ始まったばかりだ、やらないといけない事は沢山ある。
「大変だなー」
今日は疲れた。
だけどこういう疲れは全然悪くなかった。

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