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5話
しおりを挟むリサがいなくなってから、半年の時が流れた。
私の部屋へ訪れる足音は、ぱったりと消えてしまった。
「あの子の面倒見たら…」
「味方をすれば、公爵様の反感を買ってしまう」
「やはり、あの子は……」
―――〈悪魔の子〉。
そんな陰口を、私は聞き続けている。
そして、しまいにはこれを機にあからさまに私をいじめてくる侍女まで現れた。
「あなたの面倒見る人なんてもういないのよ」
「自分のことは自分でやりな」
「その服のほうががお似合いよ」
嘲笑いながら投げ捨てられたのは、少し汚れた侍女服だった。
部屋が埃臭くなっても、私の短い手で届く範囲で黙々と掃除をする。
食事は運ばれてくることもあったけど、腐っていることのほうが多かった。
だから私は、厨房に誰もいないことを確かめてから、残された料理ををいただくこともあった。
「…フゥ」
この生活も、慣れてしまえば何も思わなくなった。
それに、過干渉されることもない。
だから、空いた時間は書斎へ向かうことが増えた。
誰もいない空間。
…私だけの空間。
ここにいると、少しだけ落ち着くことができた。
目の前の一冊の本に、そっと手をかける。
この国は、王家を頂点とする階級社会。
王族、貴族、平民―――生まれで全てが決まってしまう。
表向きは平和で、豊かな国だと語られている。
けれど、その均衡はとても脆い。
星の巡りひとつで、未来が祝福にも、厄災にも変わる。
だからこの国では、星を語ること自体が、時に罪になる。
……それでも、この本はその事実に触れていた。
"正しい歴史"として認められた記録。
―――ルーシオン王国公式史。
さらにページをめくると、星に関する記述が続いていた。
占星術―――そう呼ばれていたものだ。
星を読み、国の行く末を占う者たちが存在した。
―――ルーシオン王国においても、それは例外ではない。
かつて王家には、天象を読み解く者たちが仕え、国の節目において星を仰いだと記されている。
しかし、星の解釈は人の心を惑わせ、時に争いと混乱を招いた。
そのため現在、占星術は学問としてのみ扱われ、
未来を断定的に語る行為は、王命により禁じられている。
目を引く内容だった。
…学問としてのみ。
それなのに私は、ずっと前から星と結びついているような―――
そんな、説明のつかない感覚を抱いていた。
次々とページをめくる。
この国は昔からずっと、星と共にあったことが分かった。
それなのに今では禁術のように扱われている。
どうしてなのだろう、と疑問が浮かんだ。
占星術をうまく扱えば、この国はもっと良くなるはずなのに…。
少なくとも、私はそう思った。
―――もっと調べなくては。
私は誰にも見つからないように、持てるだけの本を自室へと運んだ。
私は持ち込んだ本を次々と読み進める。
昔―――。
とある一人の占星術師が王宮にいた。
その者は未来を予言できると称えられ、皇帝の傍にいることが許されていた。
国が迷った時、戦うべきなのかそれとも、戦わずして守るべきなのか―――
皇帝は信頼している占星術師に、その答えを求めていた。
星を仰ぎ、言葉を紡ぐその者の判断は、幾度も国を救ったという。
ルーシオン王国は、長い間平和を保っていた。
だけど…星はいつまでも、人にとって都合のいい未来だけを語るわけではなかった。
ある夜、占星術師はこれまでとは違う星の並びを見た。
太陽と月が、同じ夜空に並ぶ日。
王家に、新しい命が産まれる夜。
占星術師は、星の光を見つめながら、こう告げたという。
「その夜、国の未来は二つに別れます。王家の光は強くなり、同時に深い影を落とすでしょう。
その影では―――名を持たぬ少女が、生まれます」
皇帝は、その言葉の意味を問いただした。
占星術師は、しばらく黙ったあと、静かに答えた。
「その子は、祝福にもなります。そして―――厄災にもなります。
それを決めるのは、星の運命ではなく、王…貴方自身の選択です」
このあとはどうなったのか、ここから先の記述は公式史には残ってなかった。
…きっと、都合が悪かったのね。
ページを次々と捲ると、見覚えのある紋章が目に入った。
「…これって……」
胸の奥がざわりと波打つ。
私は立ち上がり、引き出しに手をかけた。
―――ママの形見である箱。
その底面に刻まれている紋章は、先程見た本に描かれていたものと同じだった。
もう一度本を手に取る。
そこに記されているのは、王宮に仕えた占星術師の紋章。
―――どうして、ママが。
しかし続く頁には
王宮に仕えた占星術師の家系は断絶した―――と記載されていた。
……本当なのか。
私は手元の箱に目を送る。
もし、これがそうなのであれば…まだ開けるべきではない。
私は本を閉じ、箱を再び引き出しの奥へとしまった。
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