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異世界転移の章
9.遠吠え
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その巨大な体躯からは考えられない靭やかな動きで、狼種モンスター、ワイルドウルフは未来達四人に向かって走り始めた。
すかさず魔道士のサフィーが魔法を撃ち放ち、それは突進するワイルドウルフの額を見事に捉えた。
「当たった!」
脚を止め、首をぶるんと振るワイルドウルフ。当たった筈のサフィーの魔法だが、どうやらダメージはほとんど無いようで、再びこちらを睨みつけると咆哮を上げた。
「ウォォォォーーーーーンッ!!」
それは未来や愛莉が先ほど倒したワイルドウルフが発した「ガアァァァーー!」という咆哮とは違い、何処か遠吠えにも似たような咆哮。身構える未来達四人だが、ワイルドウルフは咆哮を止めると再びこちらに向けて大地を蹴った。
「うっ……やっぱりわたしの魔法じゃほとんどノーダメージ……」
「未来!」
項垂れるサフィーの後ろでは、愛莉が錬金術で作った石刀を未来に渡す。未来は石刀をしっかりと受け取り、サフィーの前へと躍り出た。そしてピッチングフォームのように右手で石刀を持ち、膝を曲げた左足を上げる。
「少年野球時代は四番でピッチャーだったんだから!」
そのまま左足で地を蹴り、曲げていた右肘を伸ばしながら石刀を投擲する。ピッチャーがボールを投げるように、勢い良く。
「たあぁぁぁーーーーーーッ!!」
未来の手から放たれた石刀は、ヒュッという音をその場に残して消えた。そして次の瞬間には、ワイルドウルフの首に命中し、あっさりと貫通して首の後ろから再び飛び出した。
「ーーーーーッッ!!!!」
その衝撃に脚を止めて仰け反るワイルドウルフ。尚も苦しそうにのたうち回りながら、巨大な前脚で周囲を抉り回す。
「未来っ!!」
愛莉が二本目の石刀を未来に渡す。未来は再びピッチングフォームを取り、二投目を投じた。
「っつあぁぁぁぁぁーーーッ!!」
ヒュッと消える石刀。それはのたうち回るワイルドウルフの顔面に直撃し、頭蓋を粉砕しながら貫通した。ワイルドウルフの辺りに血の雨が降り注ぐ。
「ガァァァァァァーーーーーッッ!!!!」
耳をつんざくような断末魔を残し、ワイルドウルフは沈黙した。その瞬間、未来達四人の頭の中に無機質な声が響く。
ーー日下未来のレベルが上がりました。
ーー日下未来のレベルが上がりました。
ーー日下未来のレベルが上がりました。
ーー日下未来がパッシブスキル【気配察知】を会得しました。
ーー望月愛莉のレベルが上がりました。
ーー望月愛莉のレベルが上がりました。
ーー望月愛莉のレベルが上がりました。
ーーリーシャのレベルが上がりました。
ーーリーシャのレベルが上がりました。
ーーリーシャのレベルが上がりました。
ーーサフィのレベルが上がりました。
ーーサフィのレベルが上がりました。
ーーサフィのレベルが上がりました。
「た……倒した……の?」
「そう……みたいね………」
呆然と立ち尽くすリーシャとサフィー。倒した、倒してしまった。ランクアップモンスターを倒したのだ。しかもこんなにあっさりと。
「っしゃ!ってか投擲の威力がめっちゃエグッ!!」
「…………………」
拳を握り締める未来と、唖然とする愛莉。何という事だろう、あんなに死の瞬間を垣間見せられたモンスターを、今度は全く危なげなく倒せてしまった。本当に未来の言う通りだった。
「レ、レベルが一気に三つも上がった………」
「わ、わたしもよぉ……あはは……経験値凄いのね………」
冒険者になって二ヶ月、やっと四まで上がったレベルが、この一戦だけで三つ上がり七になった。その事実がすぐには受け入れられず、戸惑ってしまうリーシャとサフィー。だが、じわじわとその事実を実感し、嬉しさが込み上げて来る。
「や、やったわよリーシャ!レベル上がったしワイルドウルフ倒せたわ!」
「そ、そうね……こんなの信じられないわぁ………」
喜びを爆発させるサフィーと、尚も信じられないといった面持ちのリーシャ。そんな二人は未来と愛莉に向き合うと、二人の手をギュッと掴む。
「あ、ありがとうね!お陰でレベル上がったしワイルドウルフ倒せたわっ!」
「わたしからもお礼を言わせてね。本当にありがとう……正直、少し困ってたのよねわたし達」
二人から礼を述べられ、顔を見合わせる未来と愛莉。しかしその時、未来が突然険しい表情を浮かべた。それに気付いた愛莉が首を傾げる。
「未来?」
「まだ居る……油断しないで!」
未来の言葉を聞き、未来以外の三人に緊張が走る。そして各々が周りをキョロキョロと見回し、サフィーが何かに気が付いた。
「あ………もう一匹…………」
正面で絶命しているワイルドウルフの左側から、違うワイルドウルフが姿を現した。更にーーー
「こ、こっちにも………嘘だよね……?」
サフィーとは反対側に視線を送っていた愛莉が、もう一匹のワイルドウルフを確認する。どちらも、距離は三十メートルほどの距離。それが一気にこちらに向かって突進して来ていた。
「だぁぁぁぁぁーーーーーッ!!」
間髪入れずに未来が石刀を投擲する。自身のレベルが上がった事によって、未来の固有スキル【投擲】も既にレベルは九まで上がっている。狙いの正確さ、そしてレベルも今までよりも格段に上な投擲による石刀は、ワイルドウルフの頭蓋を難なく粉砕した。
「ギュワッッッッ!!!!」
その場に崩れ落ちるワイルドウルフ。脳髄を辺りにぶちまけながら、命の灯を消す。あとに残ったのは頭蓋を粉砕された死体のみ。
ーー日下未来のレベルが上がりました。
ーー望月愛莉のレベルが上がりました。
ーーリーシャのレベルが上がりました。
ーーリーシャのレベルが上がりました。
ーーサフィーのレベルが上がりました。
ーーサフィーのレベルが上がりました。
「愛莉!」
すかさず次の石刀を貰おうと、愛莉に手を伸ばす未来。しかし愛莉は青い顔をしながら首を横に振った。
「ご、ごめん………もう無い…………」
最初から一匹だけだと思っていた愛莉は、石刀を三本しか作っていなかった。一匹目に二本、そして今一本渡したので在庫はもう無い。
「え……嘘………」
呆然とする未来。もう一匹のワイルドウルフがこちらに迫っている。
「氷矢!」
サフィーが氷の魔法を撃ち放つ。しかし勢いはそれほど無く、ワイルドウルフは走りながらもその巨体を揺らして躱した。と同時に、今度は未来達四人も一目散に駆け出す。
「逃げろーーーーッ!!」
ワイルドウルフとは反対方向へ、未来は愛莉の手を握り、リーシャはサフィーと手を繋いで全速力で逃げ出した。
「な、何でこんな事にぃぃぃーーーーッ!!」
「はぁはぁはぁはぁッ!!」
逃げる未来達と追うワイルドウルフ。しかし、やはりワイルドウルフの脚は速く、あっという間に四人の背中が近づく。整地された地面ならともかく、木の根が辺りを這うこんな地形では、誰もが思うように走れない。
(さっきの……ショートワープをもう一回!)
愛莉の手を握りながら、遥か前方を見据える未来。先ほどと同じ状況になり、何となくあの時の感覚が蘇る。あの時は何が何でも愛莉を守りたいと強く願ったが、こう強く思ったのだ。あの場所まで行きたいと。
(あの木の所まで行きたい!あの木の所まで行きたい!)
その瞬間、未来の視界が揺らいだ。未来は隣を走るサフィーの手を掴む。
「はぁはぁ………え?」
「あの木の所まで行きたい!」
その瞬間、四人の身体が一瞬で消える。すぐ後ろまで迫っていたワイルドウルフは脚を止めて四人の匂いを探す。
「はぁはぁはぁ………や、やった……」
「嘘……ワイルドウルフがあんな後ろに………」
四人が転移したのは、ワイルドウルフから五十メートル以上離れた巨木の下。ワイルドウルフはまだこちらを発見出来ずに、地面に鼻を付けて匂いを探している。
「はぁはぁ……未……未来……?」
「あはは……ショートワープ……コツ掴んだかも」
昔から身体を使う事に関しては、何を覚えるのも人一倍早かった未来。どうやら二度目の短距離転移を成功させた事により、完全にコツを掴んだらしい。
「あ……こっちに気付いたみたい」
リーシャの言葉通り、ワイルドウルフはこちらに視線を送っている。そして一切の躊躇もなく再び大地を蹴って走り出した。
「愛莉、急いで錬金お願い!」
「うん」
手頃な石を拾い、錬金術で石刀を作る愛莉だが、作り終えた後でふと思った事があった。
「ねぇ未来、ちょっとこの普通の石をワイルドウルフに向かって投擲してみてくれる?」
そう言って、愛莉は未来に石刀ではなく野球のボールくらいの石の塊を渡した。
「え……これ投げるの?」
「うん。ちょっと思った事があって」
愛莉に頼まれて石の塊を握り締める未来。こうすると、本当に野球のピッチャーになったような気持ちになる。
「ピッチャー日下未来、第一球を………投げましたぁぁぁーーーーっ!!」
ーー腕力上昇のレベルが上がりました。
未来の手から投擲された石の塊が、いつの間にか二十メートルほどまで迫っていたワイルドウルフ目掛けて物凄い速さで飛んでゆく。そして石はワイルドウルフの額に命中。その瞬間ーーーー
「ギャワンッッッ!!!」
ワイルドウルフの頭蓋を粉砕し、その衝撃でワイルドウルフの巨体が後ろに吹っ飛ぶ。そのまま苦しそうに、地面にのたうち回るワイルドウルフ。
「へ?」
「やっぱり……今の未来の投擲レベルなら、もう普通の石だけでもダメージ与えられるんだ……」
顔を見合わせる未来と愛莉。そしてリーシャとサフィー。目が合うと全員、顔を引き攣らせる。
「何よ……さっき何のために全力で逃げたのよわたし達………」
「あはは……まあお陰でショートワープのコツ掴めたからさ!」
「はい未来」
改めて石刀を未来に渡す愛莉。未来は受け取った石刀をのたうち回るワイルドウルフに投擲し、四人のレベルがまた一つ上がったのだった。
すかさず魔道士のサフィーが魔法を撃ち放ち、それは突進するワイルドウルフの額を見事に捉えた。
「当たった!」
脚を止め、首をぶるんと振るワイルドウルフ。当たった筈のサフィーの魔法だが、どうやらダメージはほとんど無いようで、再びこちらを睨みつけると咆哮を上げた。
「ウォォォォーーーーーンッ!!」
それは未来や愛莉が先ほど倒したワイルドウルフが発した「ガアァァァーー!」という咆哮とは違い、何処か遠吠えにも似たような咆哮。身構える未来達四人だが、ワイルドウルフは咆哮を止めると再びこちらに向けて大地を蹴った。
「うっ……やっぱりわたしの魔法じゃほとんどノーダメージ……」
「未来!」
項垂れるサフィーの後ろでは、愛莉が錬金術で作った石刀を未来に渡す。未来は石刀をしっかりと受け取り、サフィーの前へと躍り出た。そしてピッチングフォームのように右手で石刀を持ち、膝を曲げた左足を上げる。
「少年野球時代は四番でピッチャーだったんだから!」
そのまま左足で地を蹴り、曲げていた右肘を伸ばしながら石刀を投擲する。ピッチャーがボールを投げるように、勢い良く。
「たあぁぁぁーーーーーーッ!!」
未来の手から放たれた石刀は、ヒュッという音をその場に残して消えた。そして次の瞬間には、ワイルドウルフの首に命中し、あっさりと貫通して首の後ろから再び飛び出した。
「ーーーーーッッ!!!!」
その衝撃に脚を止めて仰け反るワイルドウルフ。尚も苦しそうにのたうち回りながら、巨大な前脚で周囲を抉り回す。
「未来っ!!」
愛莉が二本目の石刀を未来に渡す。未来は再びピッチングフォームを取り、二投目を投じた。
「っつあぁぁぁぁぁーーーッ!!」
ヒュッと消える石刀。それはのたうち回るワイルドウルフの顔面に直撃し、頭蓋を粉砕しながら貫通した。ワイルドウルフの辺りに血の雨が降り注ぐ。
「ガァァァァァァーーーーーッッ!!!!」
耳をつんざくような断末魔を残し、ワイルドウルフは沈黙した。その瞬間、未来達四人の頭の中に無機質な声が響く。
ーー日下未来のレベルが上がりました。
ーー日下未来のレベルが上がりました。
ーー日下未来のレベルが上がりました。
ーー日下未来がパッシブスキル【気配察知】を会得しました。
ーー望月愛莉のレベルが上がりました。
ーー望月愛莉のレベルが上がりました。
ーー望月愛莉のレベルが上がりました。
ーーリーシャのレベルが上がりました。
ーーリーシャのレベルが上がりました。
ーーリーシャのレベルが上がりました。
ーーサフィのレベルが上がりました。
ーーサフィのレベルが上がりました。
ーーサフィのレベルが上がりました。
「た……倒した……の?」
「そう……みたいね………」
呆然と立ち尽くすリーシャとサフィー。倒した、倒してしまった。ランクアップモンスターを倒したのだ。しかもこんなにあっさりと。
「っしゃ!ってか投擲の威力がめっちゃエグッ!!」
「…………………」
拳を握り締める未来と、唖然とする愛莉。何という事だろう、あんなに死の瞬間を垣間見せられたモンスターを、今度は全く危なげなく倒せてしまった。本当に未来の言う通りだった。
「レ、レベルが一気に三つも上がった………」
「わ、わたしもよぉ……あはは……経験値凄いのね………」
冒険者になって二ヶ月、やっと四まで上がったレベルが、この一戦だけで三つ上がり七になった。その事実がすぐには受け入れられず、戸惑ってしまうリーシャとサフィー。だが、じわじわとその事実を実感し、嬉しさが込み上げて来る。
「や、やったわよリーシャ!レベル上がったしワイルドウルフ倒せたわ!」
「そ、そうね……こんなの信じられないわぁ………」
喜びを爆発させるサフィーと、尚も信じられないといった面持ちのリーシャ。そんな二人は未来と愛莉に向き合うと、二人の手をギュッと掴む。
「あ、ありがとうね!お陰でレベル上がったしワイルドウルフ倒せたわっ!」
「わたしからもお礼を言わせてね。本当にありがとう……正直、少し困ってたのよねわたし達」
二人から礼を述べられ、顔を見合わせる未来と愛莉。しかしその時、未来が突然険しい表情を浮かべた。それに気付いた愛莉が首を傾げる。
「未来?」
「まだ居る……油断しないで!」
未来の言葉を聞き、未来以外の三人に緊張が走る。そして各々が周りをキョロキョロと見回し、サフィーが何かに気が付いた。
「あ………もう一匹…………」
正面で絶命しているワイルドウルフの左側から、違うワイルドウルフが姿を現した。更にーーー
「こ、こっちにも………嘘だよね……?」
サフィーとは反対側に視線を送っていた愛莉が、もう一匹のワイルドウルフを確認する。どちらも、距離は三十メートルほどの距離。それが一気にこちらに向かって突進して来ていた。
「だぁぁぁぁぁーーーーーッ!!」
間髪入れずに未来が石刀を投擲する。自身のレベルが上がった事によって、未来の固有スキル【投擲】も既にレベルは九まで上がっている。狙いの正確さ、そしてレベルも今までよりも格段に上な投擲による石刀は、ワイルドウルフの頭蓋を難なく粉砕した。
「ギュワッッッッ!!!!」
その場に崩れ落ちるワイルドウルフ。脳髄を辺りにぶちまけながら、命の灯を消す。あとに残ったのは頭蓋を粉砕された死体のみ。
ーー日下未来のレベルが上がりました。
ーー望月愛莉のレベルが上がりました。
ーーリーシャのレベルが上がりました。
ーーリーシャのレベルが上がりました。
ーーサフィーのレベルが上がりました。
ーーサフィーのレベルが上がりました。
「愛莉!」
すかさず次の石刀を貰おうと、愛莉に手を伸ばす未来。しかし愛莉は青い顔をしながら首を横に振った。
「ご、ごめん………もう無い…………」
最初から一匹だけだと思っていた愛莉は、石刀を三本しか作っていなかった。一匹目に二本、そして今一本渡したので在庫はもう無い。
「え……嘘………」
呆然とする未来。もう一匹のワイルドウルフがこちらに迫っている。
「氷矢!」
サフィーが氷の魔法を撃ち放つ。しかし勢いはそれほど無く、ワイルドウルフは走りながらもその巨体を揺らして躱した。と同時に、今度は未来達四人も一目散に駆け出す。
「逃げろーーーーッ!!」
ワイルドウルフとは反対方向へ、未来は愛莉の手を握り、リーシャはサフィーと手を繋いで全速力で逃げ出した。
「な、何でこんな事にぃぃぃーーーーッ!!」
「はぁはぁはぁはぁッ!!」
逃げる未来達と追うワイルドウルフ。しかし、やはりワイルドウルフの脚は速く、あっという間に四人の背中が近づく。整地された地面ならともかく、木の根が辺りを這うこんな地形では、誰もが思うように走れない。
(さっきの……ショートワープをもう一回!)
愛莉の手を握りながら、遥か前方を見据える未来。先ほどと同じ状況になり、何となくあの時の感覚が蘇る。あの時は何が何でも愛莉を守りたいと強く願ったが、こう強く思ったのだ。あの場所まで行きたいと。
(あの木の所まで行きたい!あの木の所まで行きたい!)
その瞬間、未来の視界が揺らいだ。未来は隣を走るサフィーの手を掴む。
「はぁはぁ………え?」
「あの木の所まで行きたい!」
その瞬間、四人の身体が一瞬で消える。すぐ後ろまで迫っていたワイルドウルフは脚を止めて四人の匂いを探す。
「はぁはぁはぁ………や、やった……」
「嘘……ワイルドウルフがあんな後ろに………」
四人が転移したのは、ワイルドウルフから五十メートル以上離れた巨木の下。ワイルドウルフはまだこちらを発見出来ずに、地面に鼻を付けて匂いを探している。
「はぁはぁ……未……未来……?」
「あはは……ショートワープ……コツ掴んだかも」
昔から身体を使う事に関しては、何を覚えるのも人一倍早かった未来。どうやら二度目の短距離転移を成功させた事により、完全にコツを掴んだらしい。
「あ……こっちに気付いたみたい」
リーシャの言葉通り、ワイルドウルフはこちらに視線を送っている。そして一切の躊躇もなく再び大地を蹴って走り出した。
「愛莉、急いで錬金お願い!」
「うん」
手頃な石を拾い、錬金術で石刀を作る愛莉だが、作り終えた後でふと思った事があった。
「ねぇ未来、ちょっとこの普通の石をワイルドウルフに向かって投擲してみてくれる?」
そう言って、愛莉は未来に石刀ではなく野球のボールくらいの石の塊を渡した。
「え……これ投げるの?」
「うん。ちょっと思った事があって」
愛莉に頼まれて石の塊を握り締める未来。こうすると、本当に野球のピッチャーになったような気持ちになる。
「ピッチャー日下未来、第一球を………投げましたぁぁぁーーーーっ!!」
ーー腕力上昇のレベルが上がりました。
未来の手から投擲された石の塊が、いつの間にか二十メートルほどまで迫っていたワイルドウルフ目掛けて物凄い速さで飛んでゆく。そして石はワイルドウルフの額に命中。その瞬間ーーーー
「ギャワンッッッ!!!」
ワイルドウルフの頭蓋を粉砕し、その衝撃でワイルドウルフの巨体が後ろに吹っ飛ぶ。そのまま苦しそうに、地面にのたうち回るワイルドウルフ。
「へ?」
「やっぱり……今の未来の投擲レベルなら、もう普通の石だけでもダメージ与えられるんだ……」
顔を見合わせる未来と愛莉。そしてリーシャとサフィー。目が合うと全員、顔を引き攣らせる。
「何よ……さっき何のために全力で逃げたのよわたし達………」
「あはは……まあお陰でショートワープのコツ掴めたからさ!」
「はい未来」
改めて石刀を未来に渡す愛莉。未来は受け取った石刀をのたうち回るワイルドウルフに投擲し、四人のレベルがまた一つ上がったのだった。
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