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異世界転移の章

13.選択肢

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 自分達の事を異世界から来たのではなく、異国から来た事にした愛莉。色々と都合の良い話の展開になった事も功を奏し、何とかリーシャとサフィーに信じて貰える事が出来た。


「って、何でそんなにヘラヘラしてるのよ!?大変じゃないのあんた達!」


 何故か緊張感の無い笑顔を浮かべる未来と愛莉に対して、思わず大声を上げるサフィー。未来達にしてみれば、今この場で異国から来た話を信じて貰えた事の方が重要で、自分達の故郷に帰れない事などすっかり忘れてしまっていたのだ。


「じゃあ、二人は帝国で暮らす事になるのかしら?」
「うん。とりあえずね」


 まだ漠然としているが、とりあえずはこの世界で暮らす事になる。その為にはまず人の大勢居る場所、つまり街に行かなくてはいけない。そこで住む場所を見つけ仕事を見つけ、未来と二人で何とか暮らしながら元の世界に帰る方法を見つける。
 どれもこれも言うほど簡単ではない。まずどんな仕事がいいのか、本当に仕事は見つかるのか。住む場所も容易では無い。まずは金を稼ぐ見通しがなければ、住む場所だって決められない。

 そして最大の難関は、もちろん元の世界に帰る方法。これに関しては全く見当も付かない。
 今も見えているあの転移してきた巨木の森に何かヒントがあるのだろうか?それともあの森に転移してきたのはたまたまで、帰る場所は別にあるのだろうか?それとも何か条件が必要なのだろうか、などなど考えていたらキリがない。
 どれもこれも、まずは街に行ってからだ。ワイルドウルフの素材があるので、おそらく数日分の宿泊料くらいにはなると思っている。その間に仕事を見つけ、安く住めるアパートのような場所を探さなくては。愛莉がそんな事を考えていると、サフィーが思いもよらない言葉を掛けて来た。


「よ、良かったらだけど……わたし達と一緒に冒険者……やらない?」
「…………え?」
「冒険者?あたしと愛莉が?」


 それは本当に思ってもいなかった言葉。愛莉の中では選択肢にすら含まれていなかった冒険者という職業。


「ここに住むって事は、仕事探さないといけないのよね?あんた達すっごく強いし、冒険者向きのスキルいっぱい持ってるし!」
「あはは……わたしは強く無いけど……」
「アイリが居るからミクの強さが引き出されてるのよ。きっとあんた達なら、下手に他の仕事するより稼げるわ!」
「うん、わたしもそう思う。二人ならすぐにランクも上がるんじゃないかしら?そうなると受けられる依頼も増えるから、他の職業の何倍も稼げるのよ」


 サフィーとリーシャ、二人にそう説明されて未来は愛莉の顔を見る。今まで二人で何かを始める時、いつも未来は愛莉の決断を尊重して来た。それで失敗した事は無いし、だからいつだって愛莉の決断を信じられた。
 だが珍しく、その愛莉が答えに困っている。きっと、色々な可能性を考えているのだろう事が分かるので、未来は余計な口を挟まずにじっと愛莉を待ち続ける。


「わたし達とって事は……この四人でパーティ組むって事?」
「そ、そうね!あんた達にしてみればわたしとリーシャなんて足手まといにしかならないかもしれないけど………」


 そんな風には全く思わない。リーシャの召喚獣のお陰で二匹目のワイルドウルフは簡単に倒せたし、今も精霊術で薪に火を点けて貰った。
 サフィーだって、残念ながら魔法はワイルドウルフには通用しなかったが、きっとこれからもっと強くなる。それに、何だかんだと言いつつも、嫌な顔一つしないでこの世界の事を色々と教えてくれた。右も左も分からない自分達にとって、それがどれほど有難かった事か。今だって全く選択肢に無かった冒険者としての選択肢を示してくれたではないか。


「未来は……どうすればいいと思う?」


 自分一人では決められず、未来の意見を求める愛莉。未来は優しく微笑みながら愛莉に問う。


「愛莉はどうしたいの?」
「わたしは………」


 正直、モンスターと戦う冒険者などとても怖い。街で安全な仕事を見つければ危険は無いし、貧乏でも未来と一緒ならきっと毎日が楽しいだろう。
 しかしこうも思う。この四人なら大丈夫じゃないかと。それは全く根拠など無い、ただの希望的観測に過ぎないのだが、何故かこの四人なら冒険者として成功するのではと思うのだ。
 それに、元の世界に帰る為にはとにかく情報を集め、色々な土地へ行ってみなければならない。そう考えると、冒険者という職業は元の世界へ帰る為には最も近道なような気がした。


「わたしは……冒険者も有りかなって」
「愛莉ならそう言うと思った!」


 何やら嬉しそうな表情を浮かべる未来。どうやら未来は冒険者という職業に興味があるらしい。いや、この表情は自信だ。いつもこの表情を浮かべる時の未来は、その事に対して自信を持っている時だ。
 そんな未来と愛莉を見つめるサフィーとリーシャ。サフィーは自分で言っておきながら、愛莉が出した決断が信じられないといった表情を浮かべていたが、だんだんと嬉しそうな表情に変わってゆく。


「ほ……本当に……!?」
「あ、うん。未来と一緒に冒険者やってみる。宜しくね二人共」
「ヨロシクね!」


 愛莉と未来の言葉を受けて、今度は一転して泣きそうな表情を浮かべるサフィー。そしてそのまま二人の手を取ると、二人の顔を交互に見つめながら礼を述べた。


「あ、ありがとう!宜しく……宜しくね!わたし頑張るから!二人に負けないくらい強くなるから!」
「いやぁ……だからわたしは強くないんだけどなぁ……」
「あっははは!じゃあ愛莉も一緒に強くなればいいんだよ!」


 そんな三人のやり取りを、微笑みながら見つめるリーシャ。そしてリーシャも、未来と愛莉に礼を述べる。


「ミク、アイリ、本当にありがとう。正直言うとね、わたしとサフィーだけでは行き詰まっていたの。レベルもなかなか上がらないし、ランクも最低だからいい依頼は受けられないし。だから、二人には本当に感謝しているの」
「ふーん、他の人とパーティ組むとかはしなかったの?」


 至極当然の事を訊ねる未来。こうして自分達に声を掛けるなら、もっと早く誰か別の冒険者とパーティを組んでいても良さそうなのにと思ったのだ。


「最初の頃は同じような駆け出しの人達に誘われたりしたのよ?でも……男が居たから」


 何やらバツの悪そうな表情でそう答えるサフィー。未来と愛莉は首を傾げた。


「男の子が居ると駄目なの?」
「だって……言い寄られても困るじゃない?わたしもリーシャも異性に興味無いし……やらしい目で見られるのも嫌だし」
「そうよねぇ……わたしはともかく、サフィーは可愛いから言い寄られてしまうものね」
「な……何言ってるのよ……リーシャの方が美人じゃない……」


 耳まで真っ赤にして俯くサフィー。この反応、これはもしかしてと思う未来と愛莉。いや、おそらく間違い無いだろう。自分達もそうだから、何となく分かる。


「あのー、つかぬ事をお聞きしますけど……二人って関係?」


 サフィーだけではなく、リーシャも顔を真っ赤に染める。誰かに面と向かって言われた事が無いので、とても恥ずかしい気持ちになった。


「えーと……一緒にパーティ組むのならいずれは気づかれてしまうわよね……」
「ちょっとリーシャ……嘘でしょ!?」
「二人が思っている通り、わたしとサフィーは恋人同士なの」


 バッと両手で顔を覆うサフィー。バレた、知られてしまった。今まで誰にも知られた事が無いのに。改めて誰かに知られるというのが、こんなにも恥ずかしい事なのだと初めて気づくサフィー。まともに未来と愛莉の顔が見られない。


「ごめんなさいね……女の子同士で変でしょう?」


 ぶんぶんと首を横に振る未来と愛莉。変じゃない。むしろ、異世界にも同じ人種が居てくれた事に対して嬉しさが込み上げて来る。そして二人に対して一気に親近感が湧き上がる。

 
「ふふ、優しいのね」
「恋愛は自由だよ!誰を好きになったっていいんだし、好きな人が居るって幸せな事だもん!」
「うん。同性とか異性とか関係ないよ。だって、誰かを好きになるってその人の内面まで好きになるって事だから。性別なんて些細な事だと思う」


 自分達もそうだからこそ、全く淀み無く言える。誰かを好きになるのに性別は関係ない。好きになった人がたまたま同性だっただけの話なのだ。
 しかし未来と愛莉の言葉に、リーシャは驚きの表情を浮かべる。少しぐらい意外そうな顔や、困った顔をされるものだと思っていたのに、この二人は最初から全肯定してくれた。それがとても嬉しくて、思わず二人の手をギュッと握りしめる。


「あり……がとう。今の二人の言葉……凄く嬉しかった……」


 いつの間にかサフィーも顔を覆っていた手を降ろし、その手をリーシャの手に重ねる。顔を真っ赤にして俯きなから。

 この件で更に四人の仲は良くなり、いよいよ街に向けて元気に出発するのだった。





 
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