百合JKの異世界転移〜女の子だけのパーティで最強目指します!〜

綾瀬 猫

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最終章

263.野望

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 魔車での旅は順調だった。初めのうちは魔車の速度に慣れずに、シフトを低速で走っていたクローバー以外の他のパーティの面々も、この数日で徐々に速度に慣れて中速、見通しの良い直線では高速で走る事にもそれほど恐怖を抱かなくなっていた。


「今日はあの街で一泊かな?ってかめっちゃデカくない?」


 二列目のシートに座り、フロントガラス越しに街を発見した未来が、目の前の助手席に座る愛莉に話し掛ける。


「時間的にそうだね。これ以上進むと野宿になっちゃうから」


 帝都を出発して四日目、幸いにも今の所は野宿は経験せずに街で宿を取れている。しかも初日は豪華な宿屋のある大きな街で、宿屋には風呂も完備されていた。
 やはり帝都の近郊は大きな街が多く、四日目の今日も街に辿り着いたのはこの街で二つ目だが、実は目の前に見えているのは、北地区の辺境伯ノーベリア家が治める巨大な街。


「あの街はバルトランド。北地区の辺境伯ノーベリア卿が治めている街なの」


 リズの説明を聞き、なるほどと頷く未来達。ちなみに現在運転しているのはエストである。


「今日もお風呂付きの豪華な宿屋に泊まれそうだよね」
「そうね~、見た感じ、黒き竜の被害もなさそうよね~」


 つい半月前まで帝国中を飛び回り、帝国中を恐怖のどん底に突き落とした黒き竜。中には黒き竜によって甚大な被害を受けた街もある筈だが、幸いな事に今日まで立ち寄った街は全て被害は無かった。


「たまたまこの辺は飛んでなかったのかしら?まあ、被害が無いに越した事は無いけど」


 サフィーの言葉に頷く面々。だが、この先も全く被害が無かったとは言い切れない。いずれ被害に遭った街に到着する事もあるかもしれないので、覚悟だけは誰もが済ませている。

 

 そうこうしているうちに、魔車はバルトランドの入口門近くまで進む。流石にこのまま入る訳にもいかないので、全員魔車から降り、愛莉の魔法鞄マジックバッグに六台の魔車を収納してから徒歩で移動する。


「今さらだけどよ、アイリのマジックバッグの収納力ってどうなってやがるんだ?どんだけ入るんだよ」


 ツヴァイフェッターの筋肉ムキムキ男(サフィー命名)ゼレットが愛莉の隣に来て話し掛ける。


「さあ。多分魔車だと百台くらいは」
「はぁ!?マジかよおい!?」


 実際はもっと入るかもしれないが、それは作った愛莉本人にも分からない。


「貴族門へ向かうぞ。我々なら並ばずに街へ入れる」


 アルベルトの指示で、全員通常の門ではなく貴族門へと向かう。貴族専用の並ばずに街へと入れる門で、大規模都市には必ずと言って良いほど存在する。
 だが通常は、馬車に乗ったまま通過する門であり、徒歩でこの門を訪れる貴族などまず存在しない。なので徒歩で向かうとーーーー


「あー、駄目駄目。この門は貴族専用の門だから、冒険者は向こうの大きな門で手続きして街に入って」


 と、このようにあっさりと受付の兵士達に止められてしまう。
 そこでアルベルトとリズがずいっと一歩前へと出る。そして兵士達に、自分の名を名乗った。


「アルベルト・フォン・アルフォリアだ」
「リズリット・フォン・アルフォリアです」


 名乗った後で、リズがエストの袖をクイッと掴む。エストが何事かとリズの顔を見ると、リズは何やら含みのある笑顔を浮かべていた。


「え……まさかわたしも……ですか……?」


 エストが小声でそう訊ねると、リズは笑顔のまま頷く。仕方ないので、エストも一歩前へと出て自分の名を名乗った。


「エ、エストリア・フォン・マクスウェルです……」


 アルベルトが名乗った辺りから、表情を固くしていた兵士達。まさか本物だろうかと誰もが困惑する中、不意に二人の黒髪少女が目に止まった。


「黒髪の少女……それに皇女殿下……まさか……貴女方はーーーー」
「じゃじゃーん!絶賛売り出し中のクローバーでぇーーす!!」


 未来が声高々に言うと、兵士達が慌てて地面に膝をつけて頭を下げる。
 帝都から離れた街の一介の兵士である自分達は、皇帝どころか皇女の顔すら見た事がない。しかし最近よく噂を耳にするクローバーというパーティの特徴は、黒髪の少女が二人、更に水色の髪の召喚士と紫色の髪の魔道士、白い髪の回復術士に、あの絶世の美少女と謳われる第一皇女の六人で構成されたパーティ。
 その特徴が目の前の少女達に全て当てはまる今、もはや偽物と疑う余地は無い。


「た、大変失礼致しました陛下!殿下!」
「この度の無礼、どうかお許しを!!」


 本物だと分かって態度が一変した兵士達に、アルベルトが声を掛ける。


「構わぬ。一応今は一介の冒険者でもあるのだ。本来ならば通常門に並ばなければならぬのは私達の方」
「と、とんでもごさいません!!どうぞ皆様お通りくださいませ!!」
「うむ、ではその言葉に甘えるとしよう。では行くぞ皆の者」


 地面に頭を擦りつけている兵士達の横を通り過ぎる面々。リズやエストが兵士達に頭を上げてくださいと何度も促したが、頑なに拒んだので仕方なく街へと入る。


「いやー、あれが大人のやり取りってやつ?下げてから上げるみたいな?」
「単純に兵士達の誤解が全てだったんだけどね」


 何はともあれ、北地区最大の街バルトランドへと到着した討伐隊一行。このあと大勢で、辺境伯であるノーベリア家を目指すのだった。




■■■



「それは本当なのか!!?」
「は、はい!陛下や殿下がこの街へ入ったと、火急の知らせが!!」
「今すぐにお出迎えの用意をせよ!!全部で何人だ!!?」
「さ、三十人以上との事です!!」
「三十人!!?えーいっ!それくらいなら何とかなるだろう!!今すぐに全ての部屋のベッドメイクをするのだ!!必ずこの屋敷でご一泊なされる!!絶対に粗相無きよう、全ての使用人達に伝えよ!!」
「はっ!!」


 いきなりの事で慌てふためくノーベリア家と、辺境伯のジルミン・フォン・ノーベリア。まさか皇帝陛下自らが、何の連絡も無くいきなりこの街に現れるなど、一体誰が想像出来ようか。


「殿下の成人の儀からまだ一ヶ月ばかり……一体何故に陛下がこのバルトランドに……?」


 疑問は尽きないが、そんな突発的な事だからこそ、今こそ辺境伯としての対応力が求められる。これはある意味、千載一遇の機会だと改めて捉えるジルミン。


「まさかこの屋敷に陛下をお迎えする事になるとは……だがここで気に入られれば、リズリット殿下と我が息子が婚約……という可能性も有り得るかもしれん」


 残念ながら皇太子ファレナスは、同じ辺境伯のマクスウェル家の長女メルティーナと婚約してしまった。
 貴族であれば誰もが、より良い家へと嫁いだり、力のある貴族の娘を嫁に迎えたりしたいもの。その相手が皇族ともなれば、全貴族が何としても果たしたい野望でもある。


「すでにマクスウェル家は皇族と親戚になる事が確約されている。ならば我がノーベリア家もこれに続き、辺境伯としての地位を末代まで確立させなければ………いや、更に上を目指すのも悪くはない」


 貴族社会とはある意味、毎日戦争をしているようなものだ。出る杭は打たれ、上へ上がる為に邪魔な貴族を蹴落とす。
 広大な領地を治める辺境伯だからと言って、いつまでも安全ではない。下の貴族が常に虎視眈々と、辺境伯の地位を狙っているのだ。


「もしもリズリット殿下と我が息子が婚約出来れば………ノーベリア家は安泰だ。ゆくゆくは帝国の中枢すら狙えるやもしれん」


 中枢とは、皇帝アルベルトを中心とした政治と軍務を司る機関。そこに所属する軍務卿や財務卿、法務卿、枢機卿などの肩書を持つ者達は、莫大な権限を皇帝から与えられている国の中心人物達だ。その座に座る事が出来れば、貴族としてはほぼ頂点に達した事になる。

 そんな野望を滲ませながら、アルベルト達を屋敷へと迎えたジルミンだったがーーーーー


「陛下、殿下、お二人には別室にて宴のご用意が出来ております!一先ず冒険者達とは別行動にて、どうぞこちらへ!」


 特別に宴の席を設け、息子をリズとアルベルトに売り込もうという魂胆のジルミン。


「ありがとうございますノーベリア卿。ですがわたしは仲間の皆さんと一緒に食事がしとうございますので、辞退させて頂きますね」
「そ、そんな……そんな事を言わずに少しだけでもーーーー」
「ノーベリア卿よ、我々はこれより強敵と相見える戦いに赴くのだ。今仲間達との結束に傷を付ける訳にはいかぬ。私も皆の所に戻るぞ」
「へ、陛下まで!」
「行くぞリズ」
「はいお父様。ではノーベリア卿、今宵はお世話になります」
「うむ、世話になるぞノーベリア卿」
「あ……は……はい」


 そのまま皆の待つホールへと去ってゆくリズとアルベルト。北地区の辺境伯、ノーベリアの野望はあっという間に崩れ去ったのだった。

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