儚い命

不妊治療開始

　クロミッド１錠で始まった治療は身体の負担はなかった。
でも、一向に卵が大きくならない。

　通常排卵は、周期の14～16日だ。
その頃の排卵が最も妊娠しやすく、正常な妊娠が期待できる。
遅れた排卵は、何らかの異常や流産の確率が高いと言われていた。

　やっと大きくなった卵胞は周期の21日頃だった。
「うーん、大きくなってるけどちょっと遅いね。もちろん今回はちゃんと排卵はするだろうから、今日明日ごろに性交をもってくださいね。」
と言われた。
だけど、そう簡単に妊娠するわけがなかった。

　呆気なく1周期が終わり、生理が来た。
次はクロミッド2錠に変更。だけど、1錠の時と変わらない。
成長が遅く、周期の21日ごろに排卵。

「飲み薬じゃ無理みたいだね。ステップアップして注射に変更しようか？ただ、あなたの場合、多嚢胞だから多児の可能性も出てきちゃうけどどうしますか？無理には勧めませんよ。」
そう言われ悩んだけど、子供が欲しくて仕方なかった私は妊娠する可能性が少しでも高くなればと注射に変更した。

　注射には3種類あって、最も弱い注射から始まった。
排卵のズレもあまりなく、周期の14～17日目あたりに排卵するようになった。

　だけど、多嚢胞の為大きくなる卵胞がたくさん出来てしまう。
それによって、多児、卵巣が腫れるというリスクが伴っていた。

　タイミング法での治療…排卵の1週間後に、卵巣の腫れがどれくらいあるか、水が溜まっていないかをエコーで調べられる。
エコーで見ると、左右の卵巣は5㎝から7㎝まで腫れあがっていた。

「あまり激しい運動や重たい物を持ったりしないで安静にしててね。妊娠したらもっと卵巣は腫れるから。生理がきたら腫れもなくなるけど。」
先生に言われた言葉だ。
ちょうどゴールデンウイークにさしかかる日だった。
「遠出もしないでね。連休だけど痛みが出るかもしれないし。」

　その年のゴールデンウイークはただ家で過ごした。
卵巣の腫れがひどくなると入院とも言われていたから、ただ何も起こらないことを祈っていた。
ただ、妊娠だけを願って。
　だけどその願いも呆気なく散っていった。
生理が来たのだ。生理が来たら5日目に病院。

「とりあえず卵巣の腫れが残っていないか診てみましょう。」
そう言われてエコー見てみると腫れが残っていた。
「生理が来たから引いていくとは思うけど、この腫れで誘発剤を打つのはやめた方がいいね…。」

　その周期は治療中断。
まともに生理が来ない私に渡されたのは薬はピルだ。