【R18】女騎士ゆきの憂鬱

牧村燈

文字の大きさ
36 / 39
第7章 女騎士の決意

7-3 白肌を晒して

しおりを挟む
 ようやく拷問部屋に辿り着いたトモだったが、既にジャッカルはゆきを引き摺り展望塔に向かってしまった後だった。拷問部屋は媚薬の異臭と様々な拷問具が散乱した目を覆いたくなるよな惨状を呈して、ゆきが受けた拷問の凄まじさだけを残して静まり返っていた。

「くっそう」

 トモはいき場のない口惜しさと怒りに任せて側にあった三角木馬を蹴り飛ばした。拷問具は一瞬で原型を留めないスクラップに変わった。

「おお、ものすごいな」

 背後から声がした。懐かしい声だった。

「テツ。来ていたのか」

 振り向くとそこには懐かしいテツが立っていた。別れてからほんの数日のはずだが、もう何年も会っていなかったかのような気持ちになった。

「トモ、お前、それだけ腕があってもゆきを守れなかったのか?ジャッカルという奴は一体どんな悪魔なんだ」

「いや違う。違うんだテツ。ゆきはナマの為に自らジャッカルの手に落ちたんだ」

 トモは悔しさを滲ませた顔で首を振った。

「ナマはどうした?」

「ナマは大丈夫だ。マラダイ王子が、いや王子の生まれ変わりが守ってくれている。それよりも早くゆきを見つけ出さなければ」

「ゆきはこの上だ」

 テツは天井を指差して言った。

「ジャッカルはゆきを展望塔に拘束して、アン王女が率いてきた山賊軍の進行を止めたんだ。王女は今一人でその展望塔に向かっている」

「一人で?そんなことをしたら、王女まで囚われの身になるだけじゃないか。それとも何か勝算があるのか?」

「いや、アン王女の頭の中は、ただゆきを助けたいという一心だ。勝算など何もあるまい」

「ジャッカルのクーデターはどう見ても失敗だ。もはやこの国には何の秩序も存在していない。もう一度国を再建するためには、国王とアン王女に再び玉座に座っていただく以外にはないというのに」

「その通りだトモ。ジャッカルは追い詰められている。だからこそゆきが危ない。アン王女もそれが分かっているから単身で展望塔に向かったんだと思う」

「テツ、二人を救い出すぞ。俺はマラダイ王子とも約束したんだ。必ずゆきを救い出して王子の元へ連れいくと」

「お前に言われるまでもない。俺はゆきと約束したんだ。この戦いを終えたら、もう一度告白することを」

 テツの言葉は、トモに対する宣戦布告でもあった。

「はっ、くらだねえ約束だな」

「ま、所詮俺には高嶺の花と思っているがな。取りに行かねえ奴にはチャンスすらねえからな」

「そりゃそうだ。だが、その花を摘むのは簡単じゃねえぞ」

「分かってる。まずはストーカー野郎のジャッカルを葬らねえとな」

「だな」

「俺たちの勝負はその後だ」

 ふ、と笑い合ったテツとトモは、踵を返して拷問部屋から展望塔へ走り出した。

★-☆-★-☆-★-☆-★-☆-★-☆

「よく来たなアン王女。一人で登って来た貴女の勇気に敬意を表する。おかげでゆきの命も少し延びたというわけだ。良かったなゆき。敬愛するアン王女がお前の為にここまでやって来てくれたのだ。そしてお前の為に、ここからここで王女は辱めを受けることになる」

 ジャッカルの言葉に磔にされたゆきが反応する。口が何か言おうとパクパクと動いたが、声にならない。媚薬という名の毒薬との闘いにゆきは全身の力を奪われていた。

「ジャッカル、もういいでしょう。今すぐゆきを解放しなさい」

「アン王女様。お言葉ですがあなたには、私に何かを命令する権限も力もありません。私に逆らえば今すぐゆきを処刑します。だからあなたは私の言いなりになるより道はないのです。わかりますか」

「私は貴殿の言いなりになりましょう。だからゆきを解放しなさいと言っているのです」

「分からない人ですね。お嬢様育ちはこれだから困る。いいですか、今のあなたには私に逆らう術も、力も、何もないのです」

「そんなことはどうでも良いのです。私はゆきを救うためにここに来たのです。私が来た以上、ゆきは解放されなければなりません。さあ、早くしなさい」

 アン王女は剣を振るって人払いをした。轟音が響く。あまりの迫力にジャッカルの兵たちは慌てふためいて壁に張り付くように逃れた。

「ええい、お前ら、たった一人の小娘に恐れをなしてどうするのだ。アン王女、あなたもおいたが過ぎるようだ。私はあなたがここに一人で来なければゆきをすぐに処刑すると言った。あなたが来たからまだ処刑はしていない。約束を守った。そして今、あなたに命令する。その剣を捨てなさい。そして、この衆人の注目の的である塔の上で、その衣を全て脱ぎなさい。さればゆきのこの戒めを解いてやろう」

 ジャッカルは自らの言葉に酔いしれながら、アン王女に命令をくだした。

「ジャッカル。その言葉に二言はないですね。分かりました剣は捨てましょう。元よりそのつもりです」

 アン王女は剣をジャッカルに向けて投げ捨てた。カランという金属音が展望塔に響く。城中の兵たちが、城下町の民が、固唾を飲んでその様子を見詰めていた。風の音しか聞こえない緊張感の中、ジャッカルが命令を繰り返す。

「さあ、衣を脱ぎなさい。あなたに憧れあなたを守ろうと戦って来た城の民に、あなたの全てを自ら晒すのです。さらばゆきは解放されるでしょう」

 預言者然としたジャッカルの言葉に、アン王女は見渡す限りにあるこの場を見詰める無数の瞳に向かって宣言した。

「私の身体は元々全てこの国の民のものだ。私の肌もこの身体も、全て皆のもの。さあ、存分に見るがいい」

 アン王女は自ら勢いよく衣剥ぎ取ると、そのまま高く空に投げた。ブルーの着物がヒラヒラと宙を舞う。アン王女は衣の下に下着を付けていなかった。眩いほどの白肌が、どす黒い絶望に汚れた塔の上に咲く。その一部始終を見詰めていた城の兵も街の民も、皆、何かこの世のものではないものを見ている、そんな心持ちであった。

(続く)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~

双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。 なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。 ※小説家になろうでも掲載中。 ※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです

沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

処理中です...