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第7章 女騎士の決意
7-3 白肌を晒して
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ようやく拷問部屋に辿り着いたトモだったが、既にジャッカルはゆきを引き摺り展望塔に向かってしまった後だった。拷問部屋は媚薬の異臭と様々な拷問具が散乱した目を覆いたくなるよな惨状を呈して、ゆきが受けた拷問の凄まじさだけを残して静まり返っていた。
「くっそう」
トモはいき場のない口惜しさと怒りに任せて側にあった三角木馬を蹴り飛ばした。拷問具は一瞬で原型を留めないスクラップに変わった。
「おお、ものすごいな」
背後から声がした。懐かしい声だった。
「テツ。来ていたのか」
振り向くとそこには懐かしいテツが立っていた。別れてからほんの数日のはずだが、もう何年も会っていなかったかのような気持ちになった。
「トモ、お前、それだけ腕があってもゆきを守れなかったのか?ジャッカルという奴は一体どんな悪魔なんだ」
「いや違う。違うんだテツ。ゆきはナマの為に自らジャッカルの手に落ちたんだ」
トモは悔しさを滲ませた顔で首を振った。
「ナマはどうした?」
「ナマは大丈夫だ。マラダイ王子が、いや王子の生まれ変わりが守ってくれている。それよりも早くゆきを見つけ出さなければ」
「ゆきはこの上だ」
テツは天井を指差して言った。
「ジャッカルはゆきを展望塔に拘束して、アン王女が率いてきた山賊軍の進行を止めたんだ。王女は今一人でその展望塔に向かっている」
「一人で?そんなことをしたら、王女まで囚われの身になるだけじゃないか。それとも何か勝算があるのか?」
「いや、アン王女の頭の中は、ただゆきを助けたいという一心だ。勝算など何もあるまい」
「ジャッカルのクーデターはどう見ても失敗だ。もはやこの国には何の秩序も存在していない。もう一度国を再建するためには、国王とアン王女に再び玉座に座っていただく以外にはないというのに」
「その通りだトモ。ジャッカルは追い詰められている。だからこそゆきが危ない。アン王女もそれが分かっているから単身で展望塔に向かったんだと思う」
「テツ、二人を救い出すぞ。俺はマラダイ王子とも約束したんだ。必ずゆきを救い出して王子の元へ連れいくと」
「お前に言われるまでもない。俺はゆきと約束したんだ。この戦いを終えたら、もう一度告白することを」
テツの言葉は、トモに対する宣戦布告でもあった。
「はっ、くらだねえ約束だな」
「ま、所詮俺には高嶺の花と思っているがな。取りに行かねえ奴にはチャンスすらねえからな」
「そりゃそうだ。だが、その花を摘むのは簡単じゃねえぞ」
「分かってる。まずはストーカー野郎のジャッカルを葬らねえとな」
「だな」
「俺たちの勝負はその後だ」
ふ、と笑い合ったテツとトモは、踵を返して拷問部屋から展望塔へ走り出した。
★-☆-★-☆-★-☆-★-☆-★-☆
「よく来たなアン王女。一人で登って来た貴女の勇気に敬意を表する。おかげでゆきの命も少し延びたというわけだ。良かったなゆき。敬愛するアン王女がお前の為にここまでやって来てくれたのだ。そしてお前の為に、ここからここで王女は辱めを受けることになる」
ジャッカルの言葉に磔にされたゆきが反応する。口が何か言おうとパクパクと動いたが、声にならない。媚薬という名の毒薬との闘いにゆきは全身の力を奪われていた。
「ジャッカル、もういいでしょう。今すぐゆきを解放しなさい」
「アン王女様。お言葉ですがあなたには、私に何かを命令する権限も力もありません。私に逆らえば今すぐゆきを処刑します。だからあなたは私の言いなりになるより道はないのです。わかりますか」
「私は貴殿の言いなりになりましょう。だからゆきを解放しなさいと言っているのです」
「分からない人ですね。お嬢様育ちはこれだから困る。いいですか、今のあなたには私に逆らう術も、力も、何もないのです」
「そんなことはどうでも良いのです。私はゆきを救うためにここに来たのです。私が来た以上、ゆきは解放されなければなりません。さあ、早くしなさい」
アン王女は剣を振るって人払いをした。轟音が響く。あまりの迫力にジャッカルの兵たちは慌てふためいて壁に張り付くように逃れた。
「ええい、お前ら、たった一人の小娘に恐れをなしてどうするのだ。アン王女、あなたもおいたが過ぎるようだ。私はあなたがここに一人で来なければゆきをすぐに処刑すると言った。あなたが来たからまだ処刑はしていない。約束を守った。そして今、あなたに命令する。その剣を捨てなさい。そして、この衆人の注目の的である塔の上で、その衣を全て脱ぎなさい。さればゆきのこの戒めを解いてやろう」
ジャッカルは自らの言葉に酔いしれながら、アン王女に命令をくだした。
「ジャッカル。その言葉に二言はないですね。分かりました剣は捨てましょう。元よりそのつもりです」
アン王女は剣をジャッカルに向けて投げ捨てた。カランという金属音が展望塔に響く。城中の兵たちが、城下町の民が、固唾を飲んでその様子を見詰めていた。風の音しか聞こえない緊張感の中、ジャッカルが命令を繰り返す。
「さあ、衣を脱ぎなさい。あなたに憧れあなたを守ろうと戦って来た城の民に、あなたの全てを自ら晒すのです。さらばゆきは解放されるでしょう」
預言者然としたジャッカルの言葉に、アン王女は見渡す限りにあるこの場を見詰める無数の瞳に向かって宣言した。
「私の身体は元々全てこの国の民のものだ。私の肌もこの身体も、全て皆のもの。さあ、存分に見るがいい」
アン王女は自ら勢いよく衣剥ぎ取ると、そのまま高く空に投げた。ブルーの着物がヒラヒラと宙を舞う。アン王女は衣の下に下着を付けていなかった。眩いほどの白肌が、どす黒い絶望に汚れた塔の上に咲く。その一部始終を見詰めていた城の兵も街の民も、皆、何かこの世のものではないものを見ている、そんな心持ちであった。
(続く)
「くっそう」
トモはいき場のない口惜しさと怒りに任せて側にあった三角木馬を蹴り飛ばした。拷問具は一瞬で原型を留めないスクラップに変わった。
「おお、ものすごいな」
背後から声がした。懐かしい声だった。
「テツ。来ていたのか」
振り向くとそこには懐かしいテツが立っていた。別れてからほんの数日のはずだが、もう何年も会っていなかったかのような気持ちになった。
「トモ、お前、それだけ腕があってもゆきを守れなかったのか?ジャッカルという奴は一体どんな悪魔なんだ」
「いや違う。違うんだテツ。ゆきはナマの為に自らジャッカルの手に落ちたんだ」
トモは悔しさを滲ませた顔で首を振った。
「ナマはどうした?」
「ナマは大丈夫だ。マラダイ王子が、いや王子の生まれ変わりが守ってくれている。それよりも早くゆきを見つけ出さなければ」
「ゆきはこの上だ」
テツは天井を指差して言った。
「ジャッカルはゆきを展望塔に拘束して、アン王女が率いてきた山賊軍の進行を止めたんだ。王女は今一人でその展望塔に向かっている」
「一人で?そんなことをしたら、王女まで囚われの身になるだけじゃないか。それとも何か勝算があるのか?」
「いや、アン王女の頭の中は、ただゆきを助けたいという一心だ。勝算など何もあるまい」
「ジャッカルのクーデターはどう見ても失敗だ。もはやこの国には何の秩序も存在していない。もう一度国を再建するためには、国王とアン王女に再び玉座に座っていただく以外にはないというのに」
「その通りだトモ。ジャッカルは追い詰められている。だからこそゆきが危ない。アン王女もそれが分かっているから単身で展望塔に向かったんだと思う」
「テツ、二人を救い出すぞ。俺はマラダイ王子とも約束したんだ。必ずゆきを救い出して王子の元へ連れいくと」
「お前に言われるまでもない。俺はゆきと約束したんだ。この戦いを終えたら、もう一度告白することを」
テツの言葉は、トモに対する宣戦布告でもあった。
「はっ、くらだねえ約束だな」
「ま、所詮俺には高嶺の花と思っているがな。取りに行かねえ奴にはチャンスすらねえからな」
「そりゃそうだ。だが、その花を摘むのは簡単じゃねえぞ」
「分かってる。まずはストーカー野郎のジャッカルを葬らねえとな」
「だな」
「俺たちの勝負はその後だ」
ふ、と笑い合ったテツとトモは、踵を返して拷問部屋から展望塔へ走り出した。
★-☆-★-☆-★-☆-★-☆-★-☆
「よく来たなアン王女。一人で登って来た貴女の勇気に敬意を表する。おかげでゆきの命も少し延びたというわけだ。良かったなゆき。敬愛するアン王女がお前の為にここまでやって来てくれたのだ。そしてお前の為に、ここからここで王女は辱めを受けることになる」
ジャッカルの言葉に磔にされたゆきが反応する。口が何か言おうとパクパクと動いたが、声にならない。媚薬という名の毒薬との闘いにゆきは全身の力を奪われていた。
「ジャッカル、もういいでしょう。今すぐゆきを解放しなさい」
「アン王女様。お言葉ですがあなたには、私に何かを命令する権限も力もありません。私に逆らえば今すぐゆきを処刑します。だからあなたは私の言いなりになるより道はないのです。わかりますか」
「私は貴殿の言いなりになりましょう。だからゆきを解放しなさいと言っているのです」
「分からない人ですね。お嬢様育ちはこれだから困る。いいですか、今のあなたには私に逆らう術も、力も、何もないのです」
「そんなことはどうでも良いのです。私はゆきを救うためにここに来たのです。私が来た以上、ゆきは解放されなければなりません。さあ、早くしなさい」
アン王女は剣を振るって人払いをした。轟音が響く。あまりの迫力にジャッカルの兵たちは慌てふためいて壁に張り付くように逃れた。
「ええい、お前ら、たった一人の小娘に恐れをなしてどうするのだ。アン王女、あなたもおいたが過ぎるようだ。私はあなたがここに一人で来なければゆきをすぐに処刑すると言った。あなたが来たからまだ処刑はしていない。約束を守った。そして今、あなたに命令する。その剣を捨てなさい。そして、この衆人の注目の的である塔の上で、その衣を全て脱ぎなさい。さればゆきのこの戒めを解いてやろう」
ジャッカルは自らの言葉に酔いしれながら、アン王女に命令をくだした。
「ジャッカル。その言葉に二言はないですね。分かりました剣は捨てましょう。元よりそのつもりです」
アン王女は剣をジャッカルに向けて投げ捨てた。カランという金属音が展望塔に響く。城中の兵たちが、城下町の民が、固唾を飲んでその様子を見詰めていた。風の音しか聞こえない緊張感の中、ジャッカルが命令を繰り返す。
「さあ、衣を脱ぎなさい。あなたに憧れあなたを守ろうと戦って来た城の民に、あなたの全てを自ら晒すのです。さらばゆきは解放されるでしょう」
預言者然としたジャッカルの言葉に、アン王女は見渡す限りにあるこの場を見詰める無数の瞳に向かって宣言した。
「私の身体は元々全てこの国の民のものだ。私の肌もこの身体も、全て皆のもの。さあ、存分に見るがいい」
アン王女は自ら勢いよく衣剥ぎ取ると、そのまま高く空に投げた。ブルーの着物がヒラヒラと宙を舞う。アン王女は衣の下に下着を付けていなかった。眩いほどの白肌が、どす黒い絶望に汚れた塔の上に咲く。その一部始終を見詰めていた城の兵も街の民も、皆、何かこの世のものではないものを見ている、そんな心持ちであった。
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